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職場における暴力との戦い

資料出所:「Safety Focus」2000年11・12月号
(訳 国際安全衛生センター)


職場における暴力は労働安全衛生に関わる課題である。労働統計局は、職場での死亡原因の第2位に殺人を挙げている。

ほとんどの人は、メディアがセンセーショナルに取り上げる職場の暴力事件のことは知っている。しかし、こうした異常な暴力行為は問題の一部にすぎない。最近の調査によると、職場の暴力事件のうち、銃やナイフを使ったものはわずか2%である。むしろ、言葉による脅し(41%)、押したり突いたりする行為(19%)といった暴力行為のほうが多い。アメリカだけでも、毎週、20人の労働者が勤務中に殺害され、18,000人が被害に遭っている。船上の労働環境も、決して職場の暴力のリスクと無縁ではない。

職場における暴力とは、勤務中の労働者に対する肉体的攻撃、および暴行を含む暴力行為と定義できる。

職場における暴力には、肉体的な接触や負傷だけでなく、以下のような虚偽の発言や宣伝、暗黙の脅しや嫌がらせもある。

■ 心理的、精神的侮辱
■ 脅迫や威嚇
■ 性的攻撃や強要

職場の暴力行為は、直接または間接に、すべての人に影響する。最近の調査では、人事担当者の57%が、1996年1月から1999年7月までの間に、職場で1回は暴力事件が発生したと回答した。信頼できる推計によると、勤務中に暴力の被害にあう人は、年間約100万人にのぼる。司法省の推計では、職場の暴力事件の75%は、単純な暴行であるとされている。つまり3分の2は、凶器を使用したものではない。

図1「暴力発生の原因」

ChartObject 暴力の原因としてもっとも多いもの

職場の暴力によって、事業者は毎年200万日近くの労働損失日数を余儀なくされている。その他、勤務中の暴力には次のようなマイナスの影響がある。

■ 生産性の低下
■ 訴訟
■ 法的費用
■ 資産への損害
■ 社会的イメージの低下
■ 労働者が受ける精神的衝撃

職場の暴力による損失額は、全米で何十億ドル単位になるとする説もある。


リスク要因

暴力を振るう可能性があるのは、どんな人か? 実は、ほとんどの人は暴力的行動に走る可能性がある。とはいえ、次のような特質のいくつかをもつ人は、暴力的になりやすいとよくいわれる。

■ 暴力的行動をとった経歴がある
■ 麻薬やアルコール依存症の経歴がある
■ 批判を受け入れようとしない
■ 問題の責任を他人に転嫁する
■ 性格的な障害がある

ここに列挙した特質は、陸上と船上の双方の労働環境で共通の要因を強調するためのものである。こうした性格の人がすべて暴力的になるわけではない。それでも、事業者と労働者は、危険な兆候を知っておく必要がある。

特定の行動が、暴力の前兆になる場合もある。以下の行動をとる人には警戒すべきである。

■ 明らかな「不正」の被害者であると苦情をいう
■ 「覚えていろ」と直接または間接に仕返しをほのめかす
■ 他人を威嚇する
■ 環境に対する欲求不満の様子をあらわす
■ 職場または家庭で強いストレスを感じる


職場管理による抑制

すべての職場に当てはまる戦略はなく、船上においてはなおさらである。しかし、いつの場合でも職場のリスクを把握し、これを減らすための適切な対策をとる必要はある。

職場の暴力防止のための包括的アプローチには、次のようなものがある。

■  脅迫行為を調査し、報告するための方針と手続きを策定する。これにより、事業者は職場の脅迫と暴力事件を追跡、調査できる。
職場の暴力行為を記録する体制を確立する。
監督者に、暴力の可能性を認識するために役立つ指針を提供する。
労働者に、非暴力的な対応と問題解決のための研修を行う。
労働者の審査の過程で暴力的性向を把握する。
労働者の負傷のリスクを低めるための措置をとる。
労働者がリスクに対処するための研修プログラムを実施する。

職場では、暴力を一切認めないという方針を確立すべきである。この方針を文書で明確にし、原因が職場内であろうと職場外であろうと、職場の暴力は一切認めないことを明記する。暴力防止方針には、職場で脅迫を行い、または暴力行為に及んだ場合にどうなるかを明確に記載する。


危機管理チーム

また危機管理チームも創設すべきである。セクシャルハラスメントに対する報告と対処の仕組みを確立したのと同じように、事業者は、脅迫アセスメントチームを創設し、これに脅迫と暴力行為を報告するようにしなければならない。

暴力行為が発生した場合の責任を明示した手続きがなければならない。誰かが他人にリスクを及ぼそうとした場合、適切な行動をとり、当局に通報すべきである。

暴力防止には全員が参加する必要がある。労働者に、職場のあらゆる暴力行為を報告するよう促すべきである。その職業を選択したために死亡したり負傷するようなことがあってはならないし、ましてや職場の暴力をビジネスの一部として許容するようなことがあってはならない。

ラリー・ラッセル
マリーン・トランスポート・ラインズ社
安全管理ディレクター