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禁煙のための5つのステップ

資料出所:「Family Safety & Health」2000年/2001年冬号 p.6
(訳 国際安全衛生センター)

ダグ・トフト


ミネアポリスのウィル・シャピラは、多いときには1日3箱のタバコを吸っていた。ラジオとテレビのライターをしているシャピラは、いつも2箱から3箱のタバコをニュースルームの別々の灰皿のところに置いていた。同僚の多くもそうしていた。

それが変わったのは、1964年にアメリカ公衆衛生局長(surgeon general)が喫煙の危険性に関する報告書を発表してからだった。「報告書についてのニュース原稿を書かなければならなかったんだ」。シャピラは回想する。「衝撃的な内容だった」。放送日から数日後、シャピラは禁断症状に陥った。あれからタバコは1本も吸っていなかった。

シャピラはいま、ツインシティズにある米国ガン学会(American Cancer Society)本部でマーケティングとコミュニケーション担当をしている。「36年前に公衆衛生局長の報告書を読んでから、いろいろあったけど、いまは人々が禁煙するのを助けるために働いているというわけだ」

アメリカでは、タバコに関連した病気で年間43万人以上が死亡している。しかし明るい話題もある。シャピラのように、タバコから解放されるアメリカ人も年間120万人近くいる。これら元喫煙者は、どんなに中毒が激しくても、これに打ち勝つことは可能だという生きた手本である。


悪習を断つ

タバコが中毒を引き起こすのは疑いない。ニコチンは、快感を生み出す化学物質であるドーパミンと同じ脳内の場所に作用する。ドーパミンは、コカインとヘロインの中毒に関係する神経伝達物質である。

疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)の報告によると、アメリカにはいまなお約4,800万人の喫煙者がいる。成人4人に1人近くの計算である。タバコに対する社会的警戒が強まったにもかかわらず、1990年代のほとんどを通じて、この数は変化していない。

喫煙者の比率は人種ごとに異なっている。先住アメリカ人は喫煙率が高く、成人の約40%がタバコを吸っている。アフリカ系アメリカ人と白人系の喫煙率も、平均以上である。すべての人種で、喫煙は疾病と死亡の大きな原因になっている。

その悪影響はタバコを吸わない人にも及ぶ。研究によると、間接喫煙は、子供の場合は呼吸疾患、成人の場合はガンと心臓病の原因になりうる。

だが悪い話はこれくらいにして、これからの可能性の方に目を向けよう。今日では禁煙に活用できる道具や技術がおどろくほどたくさんある。まずは次の5点からはじめよう。


1.中毒であることを認めること

ミネアポリスにあるパーク・ニコレット・クリニックの肺医学専門家、スチュアート・ハンソン博士は、なによりもまず事実を認めるという単純なことからはじめるよう薦める。

同博士は「生涯にわたる禁煙を目標として定めるとともに、いまは中毒状態にあることを認める必要があります」という。「これを認めないかぎり、人々は“いつでもやめられるのだ”と自分をごまかし続けます」

45年間も吸いつづけたタバコを見事に絶ったジェームズ・フラーも、これに同調する。「喫煙したいという自分の意思をきちんと自覚する必要があります。ごまかしたら失敗します」

禁煙者協会(Nicotine Anonymous)の場合、中毒であることを認めることが出発点になる。協会のプログラムのステップ1は、次のように簡潔にまとめている。「われわれは、われわれがニコチンに対して無力であり、人生をコントロールできなくなったことを認めた」


2.期日を定める

禁煙開始の具体的期日を定めるべきである。上述のフラーは、重要な出来事に合わせて禁煙を開始するよう提案する。彼の場合、妻とのイタリア旅行に合わせた。フラーは、飛行機での全行程が禁煙であることを知っており、飛行機に搭乗する前に禁煙できるようになりたいと考えた。


3.周囲の人々に宣言する

「家族や同僚、友人など、いつも顔を合わせる最低10人以上に、禁煙を目指していることを知らせよう」とハンソン博士はいう。「みんなに禁煙開始日を知らせ、支援グループになってくれるよう頼もう」


4.治療について考えよう

一番有名なのはニコチン代替療法だろう。理屈は簡単である。摂取するニコチンの量を綿密に管理しながら、徐々にゼロに近づけていけば喫煙の習慣を打破できる。摂取するのは最低限の欲求を満足させるニコチンだけで、火の付いたタバコのタールと毒性ガスをすべて除去する。ニコチン代替物はいろいろある。

● ニコチンパッチは、皮膚を通して一定量のニコチンを摂取する。
● ニコチンガムは、ほおの裏側からニコチンを摂取する。
● ニコチン吸入器は、タバコに似たプラスチック製の筒で、これを吹かしてニコチンを摂取する。
● ニコチン鼻腔スプレーは、噴射式ボトルに詰め込まれていて、鼻腔粘膜から直接にニコチンを摂取する。

これらの療法には副作用があることを忘れてはならない。上記のいずれを試す際も、事前に医者に相談すること。

この他、塩酸ビュープロピオン(ザイバン)(bupropion hydrochloride (Zyban))も有効な場合がある。これは抗鬱剤で脳内のドーパミンの放出を促す。

また、講習会に参加して、グループによる支援と行動変革のためのテクニックを得る方法もある。米国ガン学会と米国肺胸部学会(American Lung Association)がそうした講習会を行っており、多くの公衆衛生機関も行っている。

以上の他にも、各種の代替アプローチがある。催眠術、鍼治療、薬物療法などである。これらの戦略について、支持者はニコチンへの欲求を和らげると言う。懐疑的な人々は、その効果には検証の余地があると言う。

いずれも効果がでる可能性はあるが、上述の3つのステップを完了した人には、いっそう効き目があると思われる。この3点を実行すれば、その他の治療法は必要ないかもしれないというのが、ハンソン博士の意見である。


5.自分のやり方を貫くこと

禁煙に関しては、万人に当てはまる方法はない。人それぞれで違った経験をする。シャピラの場合、禁断症状の後ではニコチンへの欲求がまったくなくなったといい、フラーは、ニコチンパッチを使用している場合でさえ、欲求を感じたという。いずれにせよ、両人とも禁煙に成功した。

成功するまでに何度も失敗を重ねるかもしれないが、それが普通である。禁煙を試みるたびに、自分にとって何が有効で、何が有効でないかを学ぶだろう。

なお、太るからという理由で禁煙への挑戦をやめるべきではない。ニコチンが新陳代謝、つまり身体内でのカロリー燃焼速度を速める場合があるのは事実である。しかし、同じ効果は各種の健康促進活動で得られる。とくに定期的な有酸素運動は有効である。また、すべての人が禁煙後に体重が増えるわけではない。体重増があったとしても、人間の体にとってはタバコの有害な化学物質よりも、いくぶん増えた体重の方がはるかに対処しやすいものである。