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国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > ベトナム 国立労働保護研究所(NILP)
NILPに関する事項
(資料出所:国際安全衛生センター海外調査)


NILPの沿革とその位置づけ

NILP (国立労働保護研究所) は労働安全衛生分野の研究と安全衛生対策の推進を図るための施設として1971年に旧ソ連の支援によって設置されました。ベトナムでは労働者の保護は労働組合の重要な任務であり、このため、VGCL (ベトナム労働総連合)は労働者の安全と衛生の確保を図り、それを推進するために研究所を設置することを決め、関係の深かったソ連に協力を依頼しました。当時、ソ連には労働安全衛生関係の研究施設が6つありましたが、ソ連のアドバイスもあり、これらの研究所の機能を全て併せ持つ施設としてNILPが設置されました。このような経緯を持つ研究所であるため、NILPの図書館の蔵書にはロシア語の専門書が多く、機器もロシア製のものが使われています。また、研究所の幹部も旧ソ連に留学した者が多くいます。

ベトナムの統一後、1977年にホーチミン市に副研究所が設けられ、1979年にはダナン市にも副研究所が設置されました。こちらの施設は1988年にセンターに変更され、現在の体制になっています。

ベトナムには公的な研究機関が300以上ありますが、このうち重要なものを1996年の首相のDecreeにより、国立研究機関 (National Institute) として政府が指定することとなりました。1998年末現在、42の研究所が指定されており、NILPは1998年8月にリストに加えられました。これにより、NILPの人事についてはVGCLが握っているものの、研究に関してはMOSTE (科学技術環境省) の管理下に置かれ、人件費、運営費は大蔵省によって国の予算で賄われています。したがって、NILPは労働組合の研究所ではあるものの、その位置づけは国立の研究機関とみてよいでしょう。

(参考)
MOH(保健省)の研究所(NIOEH)の場合は、National Institute という名称を用いているものの、そのステイタスはNILPと異なり、MOHが独自に設置している省レベルの研究所であり、首相の決定に基づく42の国立研究所には含まれていません。

組織

ハノイの研究所本体の外、ダナンにセンターを、ホーチミンに副研究所を置き、全国をカバーする体制を取っています。職員は約200名で、うち、phD取得者26名、大卒者130名余を有しており、大卒者の中にはかなりの院卒者が含まれています。所長ルオン氏はVGCLの副会長を兼務しており、各省庁の副大臣と同格です。各施設の職員数は、ハノイに約130名、ダナンに約20名、ホーチミンに約50名ずつとなっています。 ハノイの研究所には、次に示すように、8つの技術部門と1つのセンターが置かれています。また、ホーチミンの副研究所には、4つの技術部門と1つの工作作業場があります。ダナンのセンターは技術サービスは行うものの技術部門は置かれていませんが、ここにも製作を行う工作作業場があります。

  • ハノイの研究所
    • 労働衛生・エルゴノミクス部 (Occupational Hygiene & Ergonomics Dept.)
    • 粉じん・有害ガス部 (Dust & Toxic Gas Dept.)
    • 物理障害部 (Physical Hazards Dept.)
    • 産業換気部 (Industrial Ventilation Dept.)
    • 照明工学部 (Lighting Engineering Dept.)
    • 安全工学部 (Safety Engineering Dept.)
    • 個人用保護具部 (Personal Protective Equipment Dept.)
    • 科学情報部 (Scientific Information Dept.)
    • 安全衛生応用センター (Center for Applied Labour Protection)

  • ホーチミンの副研究所
    • 労働衛生・環境監視課 (Occupational Hygiene and Environmental Monitoring Div.)
    • 安全工学課 (Safety Engineering Div.)
    • 環境処理技術課 (Environment Treating Technology Div.)
    • 啓発・情報・訓練課 (Promotion, Information & Training Div.)
    • 試作品製作場 (Experimental Manufacturing Workshop)

  • ダナンのセンター (工学的対策機器の試作品製作場を付設)


施設

ハノイに研究所本体があり、ホーチミンンに副研究所、ダナンにセンターがあります。いずれも単独の施設であり、ホーチミンの施設は上階が職員用住宅となっています。各施設とも、換気システムや換気扇などを製作する工場を持ち、これをワークショップ (workshop) と呼んでいますが、これらは研究施設と離れた場所に置かれています。ハノイの研究所では研究施設の他に、展示館が付設されています。ここに災害統計、安全装置、災害の発生原因とその対策、保護具、工学的対策機器等が展示されており、訪問者が安全衛生について学べるようになっています。展示館には講義室も設けられており、ここで安全衛生教育が行われています。

ハノイ、ホーチミンの建物は老朽化が進んでいる印象を受けましたが、ハノイの本研究所については老朽化した建物の建替え工事が行われ、訪問時には新施設が完成していました。新しい施設は現在の施設から数キロ離れた場所に設けられており、近々、展示館の部分を残して移る計画であるとのことでした。



設備・機器

機器に関しては全体的に旧式のものが多く、質、量とも貧弱でした。小額で購入できる測定器類には比較的新しいものが見られましたが、機器に関する印象としては、技術部門全般にわたり、20年以上経ったような機器が使われている、故障して使用不可能なものが散見される、揃えている機器の種類がかなり限定されている、調査や研究の目的に照らして、現有の機器では十分対応できないものがある、との印象を受けました。このように問題は見られましたが、乏しい機器を活用して調査、研究等を進めていることも事実であり、例えば、UNDPから供与された作業環境測定用の分析機器 (ガスクロ及び原子吸光)については、良く維持管理され、活用されているとの印象を受けました。

活動

NILPの活動は、以下のとおりです。
  1. 労働安全衛生に関する研究と調査
  2. 安全衛生の技術的基準の制定のための支援
  3. 安全衛生面の工学的対策の推進
  4. 労働安全衛生教育・啓発活動の推進

各活動の概要は次のとおりです。
  • 研究・調査活動

    NILPの役割としては、安全衛生に関し、国の打ち出す政策や事業に科学的根拠を与えることが期待されています。研究・調査活動はこのような要請に応えるための基本的な活動であるといえます。研究課題は、国家 (State) レベル、省 (Ministry) レベル、研究所 (Institute) レベルの3つに区分されています。NILPは、これまでに国レベルで50課題、省レベルと研究所レベルを併せて200課題に取り組んできました。研究課題は、基礎的研究に関するもの、人体測定に関するもの (ベトナム人のボディサイズを測るもの)、技術的研究に関するものの3つからなり、それぞれに重要性があります。現行のNILPの5ヶ年計画(1996−2000)では、次の2つの国レベルの課題に取り組むこととされています。1つは、「工業地帯、新技術に対する労働条件と環境」、もう一つは、「女性労働者に対する保護」です。

  • 技術基準の制定への技術的支援

    技術基準を定める権限はMOSTEにありますが、実際の作業は関係省庁・機関の協力を得て専門家からなる委員会を組織し、技術的検討を加えるという形を取っており、専門家として、NILPの研究者がこれに参加しています。これまでに約90の安全衛生に関連する国家の基準作りにNILPは関与してきました。

  • 安全衛生面の工学的対策の推進

    労働者の安全衛生の確保のための具体的措置として、個人用保護具の開発や作業場の換気システムの開発を行っています。ベトナムの場合、企業での安全衛生対策が十分でなく、安全衛生の向上、推進には作業管理、作業環境管理のための工学的対策が欠かせません。個人用保護具の関連では、これまでに数種類の保護具の開発を行い、工業用換気扇、除じん装置、換気システムの設計・開発を手がけています。これらの工学的機器は付属のworkshop (生産工場) で生産されています。年間の生産量は、正確な資料はありませんが、NILP全体で工業用換気扇 2000〜2500セット、換気システム数十セット、です。

  • 労働安全衛生教育・啓発活動の推進

    啓発活動の主体はVGCLですが、安全衛生教育の実施はNILPの活動の主要な柱になっています。安全衛生教育はトレーナー養成のものと、一般労働者を対象とするものとの2つがあり、前者はNILPが主体的に実施していますが、後者は企業からの依頼によるものが主であり、この場合は当該企業に講師を派遣することで対処しています。講師は、大学の修士、技術者(エンジニア)以上が担当しており、実施に当たっては教育訓練省と連携の下に行っています。
    NILPのハノイの研究所での実施規模は年間25コース、1500人ですが、この他に、講師として企業に出かけて行う安全衛生教育があります。ホーチミンの副研究所での実施規模は統計資料がないために正確な把握はできませんが、管理者向けのコースに限っても、少なく見積もって年間3000人、おそらく1万人規模で実施していると思われます。ダナンの場合は年間500人規模です。
    VGCLは労働大学 (Trade Union University) をハノイに持っており、1993年に安全衛生に関する学部コースが設置されました。定員は50人とのことでした。NILPは所長ほか数人が講義を受け持っています。ホーチミンの副研究所でも講師として市内の大学で教鞭を取っています。
以上の活動について、ハノイの研究所はこれらの全てを行っていますが、ホーチミンの副研究所及びダナンのセンターは地域のニーズを踏まえ、定められた地域内のサービスに力点を置いており、上記の研究・調査活動、安全衛生面の工学的対策の推進および労働安全衛生教育・啓発活動の推進を中心に活動しています。ただし、活動研究・調査活動はハノイの研究所の指示によるものと、それぞれの地域の行政機関等からの要望に基づくものとの二通りがあります。ホーチミンの副研究所は人員も比較的揃っており、この面でも実績を上げています。これに比べると、ダナンのセンターは人員も少なく、活動も小さいです。

海外からの支援

国際機関関係では、10年ほど前にUNDPの資金協力でILOがガスクロマトグラフィーと原子吸光分析器を供与したことがありました。これ以外では、オランダの資金協力でILOが現在協力中の建設分野のプロジェクトがあります。これは建設省との協力の下にNILPが中心となって取り組んでいるものですが、1,2ヶ月以内に終了することとなっています。 諸外国からの協力としては、日本の産業医科大学等との共同研究があります。工場労働者の労働環境の実態調査とその分析がテーマで、1994年頃から少しずつ手がけられ、これまでに6編ほどの研究レポートが出されています。

ベトナム NILP(国立労働保護研究所) の組織図

資料出所:NILP提供資料



NILPを詳細に紹介した本 「NILPの30年(30 Years of National Institute of Labour Protection、NILP)」 が国際安全衛生センターの図書館が閉鎖となりましたのでご覧いただけません。


NILPを詳細に紹介した本 「NILPの30年(30 Years of National Institute of Labour Protection、NILP)」 が国際安全衛生センターの図書館が閉鎖となりましたのでご覧いただけません。