ILOアジア太平洋地域総局の安全衛生に関する地域プログラムでは「Asian-pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」を発行していますが、これに掲載された「有害廃棄物の海外からの持込と港湾での取扱い-安全に関する要求事項-」と題する記事をご紹介いたします。
はじめに
今日インドは、世界の先進工業国として上位10ヵ国に入っている。政府の自由化政策、国際化政策に沿って、インドは非常に急速な産業発展を遂げつつある。その結果、年間の貨物取扱量(輸入と輸出)は1億トンに達し、その内14%から15%が港を通過する危険な物品である。現在インドには主要な港が11、中級クラスの港が22、小規模港が108ある。港の貨物取扱量は年率7%で伸びている。
港と埠頭での作業は典型的な危険作業である。というのは、さまざまな性質の物品を取り扱うため、この作業は危険な物品や有害化学物質の船から船への積み替えや同一船内での移動が関わってくる。このような作業に関しては、危険な物品と有害化学物質は同一視され、「危険な物品または危険物質」と呼ばれる。
「リサイクル」を装った有毒廃棄物の持ち込みは、インドに深刻な問題をもたらしている。このような積荷に、「有害」というラベルは貼られていない。国連が定めた警告用シンボルが使われていない。取引全体が有毒物質を隠すように仕組まれている。危険な積荷と有毒廃棄物は区別する必要がある。「スクラップ」とか「リサイクル用」と記載された積荷は、反証がない限りすべて危険と見なすべきである。さもないと、港湾労働者は自分たちが危険にさらされていることにまったく気づかない可能性がある。環境保護キャンペーンを展開している国際NGO組織のグリーンピースは、この問題を提起したレポートを発表している。(1)
港湾当局のほかにも多くの政府機関が、港湾と埠頭での作業のさまざまな局面に関わっている。船会社、荷役会社、通関・発送業者、輸送業者、税関当局などである。港湾の作業に関係しているすべての機関は、労働者の安全と健康に等しく責任を有する。有害貨物を取り扱うインドの港湾は、有毒廃棄物の取扱いと搬送中にもたらされる危険に関して、作業環境の安全を守り、絶えず向上をはかるための安全ガイドラインを必要としている。
有害廃棄物の外国からの持ち込み
有害廃棄物の多くが、「リサイクル用」資材、または「スクラップ」としてインドに持ち込まれている。このような汚染物質のインドへの持込が規制されていないことから、インドは海外49ヵ国が好ましからざる廃棄物質を投棄する格好の場所となっている。これらの国にはオーストラリア、ドイツ、カナダ、米国、英国、クウェート、日本などが含まれる。(1) 港を経由して入ってくる有害廃棄物のタイプと量に関する情報は入手不可能である。なぜなら現在のところ、港における有害廃棄物と有害化学物質の取扱いが区分されていないからである。しかしながらこのような情報が入手できなくても、有害廃棄物の量は表1に示す程度であろうと推定することができる。インド労働省の工場指導労働研究所総局長は、有害廃棄物取扱い対策に関して、主要な港湾から情報を最近収集した。通常の場合、有害廃棄物は港を経由して入ってくるが、港湾当局はその認識を欠いていることは言をまたない。(5)
表1. 有害廃棄物の推定持込量
有害廃棄物 |
数量
(トン) |
出荷国 |
期間 |
参照
資料 |
亜鉛燃焼灰 |
1,100 |
米国・オーストラリアからインドへ |
1977年3月までの6ヵ月間 |
(2) |
鉛バッテリー |
549 |
金属くず |
2,303,182 |
ドイツからインドへ |
1989年 |
(3) |
プラスチックくず |
544,773 |
米国からインドへ |
1993年1月 |
(3,4) |
亜鉛と鉛の燃焼灰 |
66,000以上 |
米国、英国、カナダ、
オーストラリア、日本
からインドへ |
996年7月まで |
(1) |
環境保護法では、持ち込み前に国家汚染防止委員会(State Pollution Control Board)の承認を受けるべき、18種類の廃棄物(付録)をリストに記載している(6,7)。収集した情報によると、環境保護法の有害廃棄物(管理・取扱い)規則1989年の規則11(6)は、遵守されていないことがわかる。環境森林省は、アスベストくずや繊維、ベリリウム、タリウム、農薬(除草剤、殺虫剤)その他の残留物質をはじめとする、きわめて危険度の高い化学廃棄物(2)の持ち込み禁止を提案した。六価クローム、廃油、ならびに塩化テルフェニル、ポリ臭化フェニール、シアン化物、水銀、砒素の持ち込み禁止も実施されることになっている。国連環境保護プログラム主催の、有害廃棄物の国際間移動とその処理に関するバーゼル会議の決議が、1992年5月5日に発効した。この決議に基づいて、署名した国々は1994年3月に、1998年1月1日をもって発効する有毒廃棄物質の発展途上国への輸出禁止協定を締結した。有毒物質の取引を禁ずるバーゼル条約は、全OECD加盟国と発展途上国が、有毒廃棄物の取引は事前に防止し回避すべきであることを認識していることを示すものである。この規制は、いわゆる「リサイクル事業」にも適用される。なぜならリサイクリングも、環境悪化と労働者の健康問題を引き起こすからである。有毒物質取引禁止に関するバーゼル条約は、G7諸国の協力と、デンマークとノルウエーを中心とした北欧諸国が環境保全原則に基づく立場をとったおかげで実現した。インドもバーゼル条約に加盟している(8)。インドにおける現在の法的立場は、有害廃棄物の国内への持込を認めるが、搬入者が免許を持ち、環境保護法に基づく1989年有害廃棄物(管理と取扱い)規則を遵守する場合に限るとしている。インド環境森林省は中央汚染管理委員会を通じて、次のワークショップと訓練プログラムを組織した。
- 1997年3月18日にニューデリーで開催された、有害物質取扱いと検査に関するワークショップ。
- ムンバイのインド工科大学で1998年8月28日に開催された、有害物質の取扱いと検査に関する教育プログラム。
この他にも、港湾当局者、税関職員その他の関係者の有毒物質の取扱いと検査に関する意識を高めるため、またこのような有害物質の港湾での取扱いと輸送について環境の安全を保障するため、カルカッタ地域でワークショップを開催する提案もある(9,10)。
港における危険貨物の取扱い − 関連する法体系と組織
憲法の付属文書Iは、主要な港湾に関する管理は中央政府が分担し、その他の港湾の管理は関連する州政府が分担すると規定している。
1986年港湾労働者(安全・衛生・福祉)法ならびに1990年規則
インド政府労働省の工場指導労働研究所総局長(DGFASLI)は、港湾安全検査の検査長官としての権限を付与されているが、それぞれの港に配置した検査官を通じて主要な港湾のすべてにこの法令を徹底している(11)。港湾規則76から82は危険貨物に関する規定である。
- 規則76は、貨物に関する情報を港湾労働者の雇用主に提供すべきことを定めている。
この規則の別表は、広範な危険貨物のリストを掲載している。
- 規則77は、貨物の積み込みと積み下ろしは、貨物の危険性に詳しい有資格者の監督の下に行うべきことを述べている。
- 規則78は、火災と爆発の危険に関する規定で、防止対策を列挙している。
- 規則79は、燻蒸貨物、腐食性の物質、ならびに炭疽菌などの病気をもっている可能性のある動物の運搬に関する規定である。
- 規則80は、特に四エチル鉛について規定している。
- 規則81は、破損あるいは漏出しているコンテナーの危険から港湾労働者を避難させねばならないこと、また処理に先立って防毒マスクのような装置を支給すべきことを述べている。
- 規則82は、溶剤を使用する前に、その毒性を確認し、港湾労働者の保護対策を講ずべきことを規定している。
1989年有害廃棄物(管理と取扱い)規則
(Hazardous Wastes(Management and Handling)Rules,1989)
1986年環境保護法に基づくこの規則は、下記のような「有害廃棄物の持ち込み」のための条件を指定する。
- いかなる国からのインドへの、投棄ならびに処理目的での有害廃棄物の持ち込みも認められない。しかしながら、それぞれのケースを国家汚染管理委員会、または権限を付与された係官が検査した後、これら廃棄物が処理され原材料として再利用される目的であれば、この持ち込みは認められる。
- 有害廃棄物の積み出し国または輸出業者は、有害物質の移動予定に関する報告を規定の書式を使って中央政府(環境森林省)に提出する必要がある。
- 中央政府は当該事案を検討の後、それぞれのケースのメリットにしたがって、当該事案を許可もしくは却下することができる。
- 中央政府、または場合によっては州政府の汚染管理委員会は、関連する港湾管理当局に対して、有害廃棄物の積み下ろしに際しての安全な取扱いに関して、適切な対策をとるよう指示するものとする。
- 有害廃棄物を持ち込もうとする者は、特別の書式により当該廃棄物の記録を保持すべきものとし、その保持された記録は州の汚染管理委員会、または環境森林省、またはこれら当局の指名する係官による検査に供すべきものとする。
国際海事危険物法
(IMDGコード,International Maritime Dangerous Goods Code)
この法律は国際海事組織(International Maritime Organization IMO)が定めたもので、船に積載された物品の取扱いと貯蔵のために採用されている。これに加えて、1962年主要港湾信託法(Major Port Trust Act,1962)とこれに関連して定められた危険物規則は、IMDGコードならびに港湾における有害物質取扱いと運搬に関するIMOの勧告に準拠している(12,13,14)。
国際運輸業労働者連合
(International Transport Workers' Federation ITF)
ITFは、危険物とその運搬に関連する負傷に特に関心を寄せている。危険物の運搬に関する方針を策定している。「有毒廃棄物と危険な貨物」と題するガイドラインの作成をこの組織は計画しているが、これは特にインドに関するこの問題を取り上げる(1)。
危険物質の輸送に関する専門家勧告国連委員会
危険物質の輸送については、国際的な標準がある。「勧告」と呼ばれるこの標準は、2年おきに改定されている。国家間をまたいで移動する物資について、このような標準の存在が必要なことは明白である(15)。港湾労働者は、危険にさらされるので、この勧告はインドに適用されるべきである。
安全に関するガイドライン
定められた仕様に準拠しているか否かの検証方法
亜鉛燃焼灰と混合した鉛燃焼灰が、リサイクル用亜鉛燃焼灰の名目で、過去にインドに持ち込まれたことが知られている(9)。下記の手続きは、各種の関連法規に定められた仕様に準拠しているかどうか確認するのに役立つであろう。
1) 仕様に準拠していることの自己申告
2) 関連文書の検討
3) 持ち込まれた有害廃棄物の現場での評価
4) なお次の事項を確認するために、文書化された基準に照らして有害廃棄物を検査する。
- 予防策や是正措置が取れるように文書化システムが確立され、維持されていること。
- 現場で規定違反のケースが発見されるごとに、対応策がとられること。
- 規定違反の影響を軽減し、問題の根本原因を調査し、再発を防止する措置がとられること。
チェックリスト
有害廃棄物:そのライフサイクルの評価
どのような場所から持ち込まれたものにせよ有害廃棄物は、取扱い、保管、輸送、リサイクルや再利用の間に環境に影響をおよぼす。これは処理と最終処分の両方について言える。蓄積量の把握と影響の評価のためには、ライフサイクルの評価が不可欠である。有害廃棄物の持込を許可するにあたっては、事前に次のような点を考慮する必要がある。
1) |
港を経由して持ち込まれる廃棄物の性質とタイプ、発生源、成分と分量。
|
2) |
有害危険物取扱いのために港で利用可能な設備や段取り。 |
3) |
現行の有害廃棄物 - 港で利用される貨物取扱いシステム。
- 現在の安全対策に対する批判的な分析と必要とされる改善。
|
4) |
有害廃棄物の取扱いと利用の間に発生した報告を要する災害、負傷、または健康や環境に対する危険。 |
5) |
有害廃棄物の取扱いに関わる安全、衛生、環境対策などについての港湾管理当局、港湾利用者、ならびに港湾労働者の意識。 |
6) |
港内の船舶が引き起こす可能性のある汚染。 |
7) |
このように持ち込まれた廃棄物に関して発生する用件。
- 保管設備(港湾、利用者、産業界)
- 輸送システム(港湾、利用者、産業界)
- リサイクルと処理の方法(利用者と産業界)
- 処理または処分の方法(利用者と産業界)
- 採用した安全、衛生、環境対策
|
8) |
港湾における、または最終利用者における有害廃棄物の貨物取扱いに必要な、安全対策、環境の安全(より広範囲な労働安全) |
9) |
有害廃棄物持ち込みの、コストメリットの可能性評価 |
10) |
(処理、処分の後も)環境に残留する有害廃棄物 |
11) |
有害廃棄物の取扱いに関する必要性、政策、計画、プログラム、ならびにその実施、チェック及び是正の措置、システムの見直し(港湾、利用者、産業界) |
12) |
開発途上国が、いわゆる「先進工業国」から持ち込まれる有害廃棄物の投棄場所にならないよう保証すること |
参照:
- 国際輸送産業労働者連合「インド港湾における健康と安全」 − 労働者訓練マニュアル、1996年
International Transport Workers' Federation, Health and Safety in Indian Ports and Docks-A workers' Education Manual,1998.
- 環境グリーン・ニュース&ビューズ 化学産業ダイジェスト発行 第1四半期号 1997年3月
Green News and Views on Environment published by Chemical Industry Digest,1st quarter,March 1997.
- ウルグアイのピリポリスで1992年11月に開催された、バーゼル会議第1回ミーティング
The first meeting of the Basel Convention held at Piripolis,Uruguay in November 1992.
- ジュネーブ、1994年3月21日から25日まで開催された、有害廃棄物の国際間移動ならびにその処分に関する、バーゼル会議参加国による第2回会議
The second meeting of the Conference of the Parties to the Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and Their Disposal.Geneva,21-25 March 1994.
- 港湾における有害廃棄物取扱いにおける安全性: 有害廃棄物の取扱いとテストに関するオリエンテーション・ワークショップ(環境森林省中央汚染管理委員会主催)での発表論文 − M H Fulekar とS L Pal、ニューデリー、1997年3月16日
Fulekar MH,Pal SL. Safety in handling of hazardous wastes in ports A paper presented at hazardous wastes in ports A paper presented at the Orientation Workshop on Handling ant Testing of Hazardous Waste-organized by the Central Pollution Control Board(Ministry of Environment and Forests),New Delhi,18 March 1997.
- 1986年環境保護法
The Environmental Protection act 1986
- 1989年有害廃棄物(管理と取扱い)規則
Hazardous Wastes(Management and Handling)Rules, 1989
- 有害廃棄物の国際間移動に関するバーゼル会議、1992年5月5日
Basel Convention on the Transboudary Movement of Hazardous wastes, 5 May 1992.
- 有害廃棄物の取扱いとテストに関するオリエンテーション・ワークショップ(環境森林省中央汚染管理委員会主催)、ニューデリー、1997年3月18日
Orientation Workshop on Handling and Testing Hazardous Waste-organized by the Central Pollution Control Board(Ministry of Environment and Forests),New Delhi,18 March 1997
- 有害廃棄物のテストと取扱いに関する、港湾と税関職員のための1日訓練コース: 中央汚染管理委員会後援により1998年8月28日にムンバイ市ポワルで開催
One-day Training Course on Testing and Handling of Hazardous wastes' for Port and Customs officials-sponsored by the Central Pollution Control Boards and organized at the Indian Institute of Technology,Powai,Mumbai on 28 August 1998
- 1986年港湾労働者(安全)衛生・福祉に関する法律、ならびにこれに基づいて策定された1990年の規則
Dock Workers(Safety) Health and Warfare Act,1986 and Regulations and Rules 1990 framed thereunder.
- 国際海事危険物法
International Maritime Dangerous Goods Code.
- 国際海事組織
International Maritime Organization
- 1963年主要港湾信託法、ならびにこれに基づいて策定された規則
Major Port Trust Act,1963 and Regulation framed thereunder.
- 危険物に関する国連専門家委員
The United Nations Committee of Experts of Dangerous Goods.
M.H. Fulekar博士
中央労働研究所
産業衛生担当副所長
DGFASLI
Sion, Mumbai 400 022, India