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ベトナム南部における全国労働安全衛生情報サブネットワーク

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2000年第3号(第7巻「Service sector」)
(訳 国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます
http://www.occuphealth.fi/e/info/asian/asindex.htm


労働安全衛生情報普及の必要性

ベトナムは、急速に経済を拡大している開発途上国である。工業化が進むベトナムのような国では、重大な労働災害と疾病が年々増加し、大きな経済的および人的損失をもたらしている。ベトナム労働傷病兵社会省 (MOLISA)の統計によると、1998年には3,000件の労働災害が発生し、362人の死亡が報告されているが、1999年は災害件数、死亡者数ともさらに増えているのは明らかである。もっとも危険な産業は建設と鉱山である。電気と電気設備の使用が原因の死亡も多い。

ベトナムの労働災害の主たる原因は、事業者と労働者の双方に労働保護規則に関する情報と認識が欠如していることとされている。理想としては、労働安全衛生に関する情報がすべての事業者と労働者にいきわたり、労働災害の予防方法、その責任と義務を理解できるようにしておくべきである。災害予防と労働条件の改善は、事業にとってのコストとみられる場合が多い。しかし災害を予防できなかった場合のコストや、又災害を減らすことによる生産性と競争力向上による利益については、あまり知られていない。情報伝達と分析手法が改善されれば、予防への投資意欲拡大につながる。ベトナムにおける労働安全衛生情報の普及拡大が、現時点の重要課題になっている。

ベトナムで労働安全衛生を取り扱う3つの主要機関である労働傷病兵社会省 (MOLISA)、ベトナム労働総連合(VGCL)の機関である国立労働保護研究所(NILP)、保健省(MOH)は、1996年に全国的な労働安全衛生情報ネットワークを創設することで合意した。その後、このネットワークは拡大され、ベトナム商工会議所などの事業者団体、非国営の経済開発センターも加わった。1999年には、MOLISA産業安全登録センター(Center of Industrial Safety Registration)が国内の主要研究機関と密接に協力し、ホーチミン市に全国労働安全衛生サブネットワークを設置した。


ベトナム南部における全国労働安全衛生情報サブネットワーク

1998年12月の全国労働安全衛生情報ネットワークの第2回年次総会では、労働安全衛生情報のより効率的な普及を実現するための方法と手段は何かということに議論が集中した。総会参加者は、ネットワーク活動をいかに各省に拡大するかについて討議した。コンピューター・ネットワーク、情報技術、インターネットはすでに利用されており、これらの分野への投資も始まっていた。総会後、参加者は、ホーチミン市に管理拠点を置いた労働安全衛生サブネットワークの立ち上げに合意した。

1999年、ホーチミン市のMOLISA産業安全登録センターの強力な管理のもと、ベトナム南部における全国労働安全衛生情報サブネットワークが順調にスタートした。同センターは情報ネットワーク設立に投資し、6カ月で情報貯蔵所を整え、現在では包括的な情報データベースに発展している。主な内容は、ベトナムの労働安全衛生関係の規則と基準の2カ国語データベース、各団体向けの情報、各種の労働衛生関連文書である。現在、このサブネットワークは主にインターネットを通じて利用できる。

1999年11月から2000年9月までのサブネットワークのホームページへのアクセス件数は、ほぼ3万件で、1日約97件になる。運用開始から1年を越えた現在、全面的に無料のユーザーサービスと情報提供を行っている。サブネットワークの目的は、より多くの労働安全衛生情報を収集、作成し、主にインターネットを通じて地方の行政機関や製造企業向けに提供することである。また、主要な労働安全衛生団体による質問受け付けサービスも行っている。将来は、労働安全衛生情報のCD−ROMによる配布や、他の都市からのサーバーへの直接のアクセス、コピーも考えられる。

サブネットワークはベトナム語と英語のウェブサイトを提供している(http://www.oshvn.net/)。

全国労働安全衛生情報サブネットワークは、以下の情報リソースとサービスを提供している。

データベース

情報貯蔵所は多数の労働安全衛生データベースで構成され、英語版もある。主な内容は以下のとおりである。

  • 電気安全、機械、環境、建設現場、化学物質、防火に関するベトナムの規則。
  • ベトナムの職業性疾病の補償実績、および疾病原因、症状、影響、治療、予防策。
  • 労働安全衛生に関する科学的研究課題。
  • 労働安全衛生に関するワークショップと研修用教材。
  • 労働安全衛生に関するベトナム語の雑誌とニューズレター。

サービス

ベトナム法データベースは、1945年から1999年までのベトナムの法律で構成され、ユーザーのニーズを基準にカテゴリー別に分類してある。「Forum Interactive」と「Webmail」の二つのサービスは、サブネットワークを補完して労働安全衛生に関する無料の助言サービスを提供している。「Webmail」を使えば無料で電子メールが利用できる。「Forum Interactive」を使うと、ニュースグループを通じた情報交換サービスが簡単に利用できる。サブネットワークは、電磁波の影響、職業性の皮膚病、職場の騒音レベル、有毒廃棄物の処理などに関する質問を受け付けている。質問には各種の労働安全衛生団体の専門家が回答をする。

また企業は、新しい電子商取引用ソフトウェアを利用し、ボイラー、圧力容器、昇降機など、規制対象の設備の定期安全検査のコストを簡単に計算できる。これを利用するには、設備に関する基本的情報を電子書式に記入し、MOLISAに送付するだけでよい。ソフトウェアが技術的評価を行い、費用総額を計算して質問者に返送する。これで大幅に時間を節約し、事務作業を減らし、点検コストを調整できる。

その他の労働安全衛生インターネット・リソースへのアクセス

情報貯蔵所には、ベトナムのすべての労働安全衛生関連ウェブサイトへのリンクがある。具体的には、MOLISAとVGCLが管理する全国労働安全衛生情報ネットワークなどの電子リポジトリーである。また国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)、各国の労働安全衛生機関など、多数の国際的な労働安全衛生関連サイトへのリンクもある。


発展計画

ベトナムの情報ネットワーク発展計画の内容には、以下のようなものがある。

  • リポジトリーの内容拡大に向けたデータベースの収集と開発の強化。たとえばILOの労働安全衛生エンサイクロペディアや国際的な産業基準の翻訳。
  • 労働安全衛生機関、研究所、すべての業種の企業の需要に応えるための情報ネットワークの拡大。ただし、多くの省にある多くの団体は、コストが高すぎてインターネットを利用できないことも忘れてはならない。このためサブネットワークは、MOLISAにあるILOの労働安全衛生国際情報センター(CIS)の国内事務所とともに、CD−ROMの制作を計画している。
  • 新しい情報資材(ブックレット、リーフレット、ポスター、小冊子、ニューズレター、データベース、ソフトウェア・パッケージ、CD−ROMなど)を作成し、地方機関に労働安全衛生情報を提供するとともに、国内外の団体と情報交換する。
  • ILOとフィンランド開発庁(FINNIDA)による「労働安全衛生に関するアジア太平洋地域プログラム(ASIA−OSH)」との協力で、労働安全衛生に関する研修講座を開設する。
  • ベトナム政府、保健省、VGCLなどの主要機関と協力し、全国的労働安全衛生サブネットワークの数を将来的に増やすことを目指す。

ベトナムの各市をつなぐ理想的なコンピューター・ネットワークを構築するためには、投資と国際協力の拡大が必要である。方法はいくつかあるが、現時点でおそらくもっとも適切なのは、各市に1カ所のメイン・サーバーを設置し、ベトナム南部における労働安全衛生全国サブネットワークからデータベースを更新する方式だろう。2000年〜2001年には、中部地域に2番目のサブネットワークが構築され、MOLISAの担当者がダナン市で管理する予定である。そして2001年〜2005年には、上述の諸目標を達成する計画である。これらの活動が、今後のベトナムにおける労働安全衛生情報の提供に大いに貢献するものと確信している。

労働安全センター
Phan Hao Hiep(ベトナム)