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リスク調査報告書:ハナム州における岩石破砕作業
Risk survey report: Rock crushing operation in Hanam Province

Le Van Trung、Doan Ngoc Hai(ベトナム)
スコット・バーンハート(アメリカ)

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所(FIOH)発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2001年第1号(第8巻「Risk Surveys」)
(仮訳 国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます


協力:フォーガティー国際センター(労働および環境衛生の国際的専門組織)

労働安全衛生の危険有害要因を把握・削減する戦略としてのリスク調査

この3年間、国立労働・環境衛生研究所は、ワシントン大学労働・環境医学プログラムと協力し、労働関連の医師を対象にリスク調査の実施方法に関する一連の研修を設定してきた。こうしたリスク調査は、ベトナムにおける公衆衛生モデル確立のための重要な一部とみられてきた。体系的な手法を使用して危険有害要因を把握できる体制を確立すれば、危険有害要因とリスクの比較に役立つ。また非体系的な手法に頼るよりも、労働衛生の専門家グループを対象にリスク調査実施の研修を行う方がはるかに効率的である。以下では、このリスク調査研修コースの受講者が実施した、あるリスク調査の結果について説明する。

ベトナムでは急速に工業化が進行している。その結果、建設用の破砕岩石などの原材料への需要が相当に高まった。岩石破砕作業は国内各地で行われている。岩石破砕作業の潜在的労働リスクとしては、(1)粉じんの吸入、(2)機械および飛来・落下などの要因にかかわる安全性、(3)振動と高温によるストレスなどがある。岩石破砕作業に関する別の調査で、吸入性粉じん、吸入性遊離けい酸など、重大なリスクが確認されている。

粉じんをはじめとしたこれらのリスクを評価するため、小規模の岩石破砕作業場で詳細な調査を行った。調査の主目的は吸入性粉じんの評価においた。


方式

調査は、国立労働・環境研究所、Nha Trangのパスツール研究所、ベトナム、ビンディン州公衆保健省によるチームが実施した。これらの専門家はリスク調査のコースに参加した。調査には1日を当てた。調査の方法は横断調査を用いた。調査チームは採石場の経営者に会い、現場調査の許可を得るとともに、作業行程の一般的説明を受けた。次いで、一般的な危険有害要因と重大な労働安全衛生上の危険有害要因を把握するため、現場を実地検分してまわった。実地検分に基づき、粉じんへの暴露を測定するため、個人と一定区域対象とした標本採取用の業務と職場を特定した。

暴露調査

粉じんへの暴露は2、3の方式で計測した。まず、カセットとフィルターに接続したSKCポンプセットを毎分2.5リットルに設定し、吸入性粉じんの標本を採取した。サイクロン式の粉じん用サンプラー(SKC)を使用して分粒し、中心粒径が4ミクロンの粉じんを採取できるようにした。すべてのポンプは、ロータメーターまたはSKC電子流量調整器(SKC Inc.)を使用し、流量を2.5/min4%(毎分0.1リットル)に調整した。ポンプは標本採取の終了時にも点検したが、流量はプラスマイナス4%の範囲内にあった。標本の採取時間は各現場の粉じんの概算に基づいて決定した。

総粉じんと吸入性粉じんを、MIE社製のDATARAMによってリアルタイムに計測した。DATARAMは標本採取の開始前に調整した。総粉じんはDATARAMによって採取した。吸入性粉じんは、流量を2.5/min調整したサイクロン式の粉粒装置(SKC)を取り付けたDATARAMと、cycloneにより計測した。標本採取は、6つの現場で最低10分以上かけて実施した。標本採取時間(10分以上)の時間荷重平均(TWA)と、最大暴露量を確認した。現時点では、DATARAMを使用した測定結果のみが得られている。

健康への影響

今回の調査期間中、職業上の健康履歴、呼吸器に関する質問表、肺機能の測定、胸部X線検査の結果は入手できなかった。


調査の結果

作業行程の説明

岩石は大型トラックで採石場から破砕作業場に運ばれる。岩石は多量のカルシウムを含み、採石場周辺の遊離けい酸含有率は2.4%であった。岩石は、トラック(標本場所3)からホッパーと短いコンベアベルト上に降ろされる。これらの岩石は大型の岩石破砕機(標本場所4)に送られ、破砕される。次に2種類のコンベアと岩石破砕機に送られ、より細かく破砕される。破砕され、適正なサイズに分類された岩石は、コンベアで運ばれて山積みされ、バケット・ローダー・トラクターでダンプカーに積み込まれ、輸送される。2次破砕機のひとつを標本場所1(女性たちが清掃作業をしている付近の基底部で採取)、運転操作員のブースを標本場所2、コンベアの下部エリアを標本場所7、破砕済み岩石の山積み付近を標本場所5および6とした。

実地検分による危険な作業の分析

実地検分により、危険性のあるあらゆる作業を確認した。具体的には以下のとおりである。

  1. 穿孔機担当者(現場にはいないが発破前の穿孔作業に従事する)
  2. 運搬労働者。岩石を積んだトラックを運転する。
  3. 破砕機の操作担当者。岩石の破砕を監督する。破砕機の外側上部または制御室内部にいる場合がある。
  4. 積みこみ機運転者。破砕した岩石を積みこむトラクターを運転する。
  5. 清掃担当者。破砕機とコンベアベルトの下で落ちた岩石を清掃する女性たち。

表1は、各作業に就く労働者の数を記載している。岩石破砕作業は、1日8時間の2交替勤務で行われる。
表2は、各作業の暴露、危険有害要因、危険対策を列記している。

粉じんの測定

粉じんの測定は複数箇所で実施した。表3は、粉じんを測定した結果を標本場所ごとに示している。サンプリングは、微風で降雨はなく、測定は破砕作業中に行った。


解説

岩石破砕業はベトナムで広く行われている。今回の調査では、高レベルの粉じん暴露、さらに騒音、熱、墜落・転落、エルゴノミクス的危険有害要因など、多数の危険有害要因が発見された。危険有害要因とこれに対する抑制戦略は、質的または準質的方法で特定できる。危険有害要因の把握とその削減のための手段が限られている場合、これらの危険有害要因をより正確かつ精密に把握するために資金を投入するのは非合理的である。リスク・レベルの確認には、きわめて短期の(1日から1週間)リスク調査が多くの利点をもっている。


結論

リスク調査は、急速な工業化のすすむ国で危険有害要因を把握するための重要な道具である。国立労働・環境衛生研究所は、医師などの専門家を対象に、リスク調査に関する効率的な研修を行うための優れたプログラムを開発した。リスク調査の標準的プロセスの開発を検討すべきである。具体的には(A)研修教材とコース、(B)調査マニュアル、(C)標準的データを受け付けるウェブ・ベースの一覧表などである。こうした仕組みにより、すべての政策決定者や実務家が労働安全衛生改善のための重要な道具を利用できる。長期的には、急速に工業化が進行する国での予防戦略に、定期的なリスク調査、珪肺症患者の認定、高リスク現場の認定、粉じん抑制対策を含めるべきである。

Dr. Le Van Trung
Dr. Doan Ngoc Hai
National Institute of Occupational and Environmental Health
1 b Yersin
Hanoi, Vietnam

Dr. Scott Barnhart
University of Washington
Seattle, WA 98195, USA
E-mail: sbht@u.washington.edu

作業場平面図

縮尺:図の横辺が約100メートル

コンベアベルト
岩石破砕機
操作員用キャビン
測定場所:
  1. 岩石破砕機付近のエリアサンプリング
  2. 制御操作員ブース
    2A.ブース外側−エリアサンプリング
    2B.ブース内側−パーソナルサンプリング
  3. トラックからの岩石を収納するホッパー
  4. 岩石破砕機の最上部でのパーソナルサンプリング
  5. トラックに積み込まれる山積みの破砕済み岩石付近
  6. トラックに積み込まれる山積みの破砕済み岩石付近
  7. コンベアベルトの下側
表1.労働者と作業内容
職種 1勤務当たり労働者数 女性の数 男性の数 暴露平均年数
輸送労働者 4   4 不明
破砕機操作員 10   10 不明
積み込み機操作員       不明
清掃員 4 4   不明
表2.暴露、危険有害要因、危険有害要因抑制策
  輸送労働者 破砕機操作員 清掃員 積み込み機操作員
一般的危険有害要因        
粉じん−けい酸 ある ある ある ある
粉じん−不快感 ある ある ある ある
騒音 ある ある ある ある
振動 ある ある ない ある
熱によるストレス ある ある ある ある
安全への危険有害要因        
墜落・転落 ない ある ない ない
飛来・落下 ある ある ある ある
機械 ある ある ある ある
車両 ある ある ある ある
手工具 ない ない ある ある
反復によるストレス ない ない ある ない
姿勢 ない ない ある ない
予防対策        
管理 ない ない ない ない
工学的対策 ない ない* ない ない
代替策 ない ない ない ない
個人用保護具        
手袋 ない ない ない ない
マスク ない ない ない ない
作業靴 ない ない ない ない
作業服 ある ある ある ある
聴力保護具 ない ない ない ない
安全ヘルメット ない ない ない ない
(*4人のうち1人は操作ブース内)
表3.標本場所ごとの吸入性粉じん(mg/m3)
標本場所 DATARAMの合計
10分間TWA
1 57.22
2 15.00
3 4.63
4 3.08
5 20.44
6 105.3

1.岩石破砕機付近のエリアサンプリング(制御ブースの後ろから道路まで)
2.制御操作員ブース−ブース外側のエリアサンプリング
3.ブース内部−パーソナルサンプリング
4.トラックから岩石を収納するホッパー
5.コンベアベルトの下側
6.岩石破砕機最上部のエリアサンプリング(操作の中心部)