このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

SWEMOPによる事業場の熱環境改善
Improving the thermal environment of the workplace by means of SWEMOP

Suebsak Nanthavanji, Chiradhir Tejasen, Kanyaporn Skutalakul,
and Nowshaba Ahmed(タイ)

資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
2001年第2号(第8巻「Safety at work(事業場での安全)」)
(訳 国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます



はじめに

タイは東南アジアに位置しており、国土の総面積はおよそ50万平方キロメートル、人口は約6000万人である。その赤道気候から、夏季の最高気温は通常、摂氏32度から38度の範囲にあり、一部地域では摂氏40度に達することもある。高温の環境は、長年にわたりタイの労働者に対する重大な健康上の問題を発生させてきた。長時間にわたる熱に対する暴露によって、建設労働者や農業従事者のような屋外労働者および工業労働者は、熱ストレスによる高い羅病の危険にさらされている。多湿環境、貧弱な換気、肉体的にストレスの多い仕事、そして長時間の連続した労働時間等の要素も、問題の悪化につながる要因である。エルゴノミクス、労働安全、および労働衛生に専門家として通じている医師の数が限られているため、多くの事業場に、労働条件を監視し、これを正す資格を有する人員が存在しない。結果として、事業者は通常、熱ストレスの問題を認識していない。

労働社会福祉省の管轄機関である労働安全衛生センター(NICE)は、しばしば事業場の検査を実施し、エルゴノミクス、労働安全および産業衛生に関する諸点について安全衛生監督官の教育を行うための、研修プログラムを主催している。監督官の数を増加させるために、科学または工学の背景を持つ技術系職員に上記のトピックに関する研修を受けさせることは可能である。しかしながら、このような人々は深い知識に欠け、どのように問題を見つけだし、是正することができるのかについて完全に理解することができない場合がある。産業界における熱環境を改善する方法について、監督官が適切かつ実際的な提案を事業場に提供する上でこのような制限が改善を遅らせかねない。従って、産業界が、事業場における熱の危険有害要因を把握すべきであり、また労働条件の監視、および、このような条件改善のための実行可能な行動方針の策定が可能な能力を有することがきわめて重要である。

必要発汗率(SWreq)

体内の産熱、および身体とその環境間の熱交換を考慮した場合、熱平衡式は以下のように示すことができる。

S = M - W - Cres - Eres + C + R - E

ただし
M = 代謝力
W = 有効動力
Cres = 呼吸器系における対流(無視しうる)
Eres = 呼吸器系における蒸発率(無視しうる)
C = 対流
R = 放射
E = 蒸発
S = 蓄熱

C、R、Eは、皮膚と環境の間の熱交換である点に注意が必要である。蓄熱Sをゼロに減らすためには、身体は暑熱環境から受けた熱を発散するために、汗を蒸発させる必要がある。ISO7933(1989)の"Hot environments -- Analytical determination and interpretation of thermal stress using calculation of required sweat rate(「暑熱環境−必要発汗率の計算による熱ストレス解析」)"では、ヒトが熱収支を安定に保つために必要とされる熱収支と発汗率を計算する解析方法について述べられている。上記の熱平衡式でSをゼロにすることにより、Ereqが身体の熱均衡を保つために求められる必要蒸発量であることは明らかである。次に、必要発汗率SWreqは、以下の式より求めることができる。

SWreq=Ereq/rreq

但し

rreq=(必要皮膚表面ぬれ面積率Wreqに対応する)発汗の蒸発効率

下記に留意しておく必要がある。

(1)SWreqは、ヒトが達成できる最大発汗率SWmaxを超えることはできない。
(2)Wreqは、ヒトが達成できる最大の皮膚表面ぬれ面積率Wmaxを超えることはできない。
(3)Sは、最大蓄熱値(Qmax)を超えないこと。
(4)水分損失は、最大水分損失(Dmax)を超えないこと。Ereqが達成できない(核心温が高くなる結果となる)場合、または予測発汗率に加えて水分損失の進行が関わる場合、許容暴露時間(DLE)を計算しなければならない。

この方法の詳細については、ISO7933(1989)を参照のこと。

発汗率評価および変更プログラム(SWEMOP)

発汗率評価および変更プログラム(SWEMOP)は、ISO7933(1989)に記載されるアルゴリズムに基づく必要発汗率を産業医が容易かつ便利に計算するのに役立つ、使いやすいコンピュータ・プログラムである。SWEMOPにより、単一の暴露条件、または複数の暴露条件に関する予測発汗率およびDLEの計算を行うことができる。使いやすいデータ入力画面から、医師は、測定により得ることができる気温、黒球温度、湿球温度、および風速を入力することを求められる。これ以外の2つの入力データ、すなわち代謝率および部分暴露体面積を、表示されるオプションから選択することができる。着衣の断熱性Iclは、タイの産業労働者が一般的に着用する衣類に基づいて0.49に等しいものとする。この入力データを使い、SWEMOPは、SWreqおよびDLEを計算する。

さらにSWEMOPには、必要なSWreqを得るための環境および仕事パラメータを変更できるという便利な機能がある。ユーザーは、単独のパラメータでも、複数のパラメータでも選択することができる。複数のパラメータの場合、SWEMOPは、可能ならば同じ必要SWreq'を得ることができる複数のパラメータ・セットを表示する。



図1 SWEMOPから得られたSWreqおよびDLE



表1 必要SWreq(200W/m2)を得るための実行可能な変更

代案 温度(摂氏) 風速(m/s) SWreq(W/m2
気温 黒球温度 湿球温度
1 37.50 38.75 30.00 0.5 199.86
2 31.99 40.69 27.73 0.5 199.80

代謝率の低い30分間の作業を行う労働者を考えてみよう。この労働者は着席しており、気温、黒球温度および湿球温度がそれぞれ摂氏37.5度、摂氏45.0度、摂氏30度の平均値を持つ環境で勤務している。平均風速は、0.5m/sである。図1に示す結果は、必要発汗率が300.88W/m2であることを示している。発汗による過度の体温上昇または過度の水分損失前の許容暴露時間も、SWEMOPにより示されている。

SWreqを200W/m2まで下げることが望ましく、気温、黒球温度および湿球温度をそれぞれ摂氏32.0度、摂氏38.0度、摂氏20度まで下げることができる場合を考えてみよう(図2参照)。表1に示すように、SWEMOPは、同じSWreq'を得ることができる2つの代案があることを示唆している。変更したパラメータのいずれも、その最低値よりも低くなるように減じられている点に注意が必要である。医師は次に、その労働条件改善のために最も実際的、または経済的な代案を選択することができる。

結論

SWreq'を計算する解析手順の複雑さにより、その事業場を評価するためにISO7933(1989)の使用を試みるタイの医師は非常に少ないと予測される。医師が、熱ストレスをもっと容易かつ便利に評価する上でSWEMOPが役立つことは明らかである。SWEMOPは、ISO7933(1989)に示されるアルゴリズムに基づいて書かれているが、これは必要なSWreqを達成するために環境および業務パラメータをどのように変更することができるか、実行可能な示唆を与えるという点において、数歩進んだものとなっている。SWEMOPは、産業医と安全監督官の双方にとって役立つものであるように思われる。このプログラムは、暑熱環境において労働者が体験する熱ストレスに関する環境および業務上の要因の影響について、医師を訓練するツールとして使用することができる。



図2 複数パラメータ変更画面およびそのオプション画面

追加参考文献:
  • ISO7933,1989. Hot environments -- Analytical determination and interpretation of thermal stress using calculation of required sweat rate. ISO, Geneva.
  • ISO8996,1990. Ergonomics -- Determination of metabolic heat productions. ISO, Geneva.
  • Olesen BW. Heat Stress. Technical Review No.2, 1985. Bruel & Kjaer Publication 2:3-37

Suebsak Nanthavanji,
Chiradhip Tejasen,
Kanyaporn Skutalakul, and
Nowshaba Ahmed
Sirindhorn International Instituete of Technology
Thammasat University
Pathumthani12121
THAILAND
E-mail: suebsak@siit.tu.ac.th



この記事の出典(英語)は国際安全衛生センターの図書館で
ご覧いただけます。