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第87回ILO総会 働く価値のある仕事の確保
21世紀のILOの中心的な目標
ILO事務局長報告

資料出所:ILOジャーナル
1999年5月号 No.475

ILOでは1999年3月に事務局長が交替し、ファン・ソマビア氏が就任しました。同氏は第87回ILO総会にこれからのILOの取り組むべき目標を示した「ディーセントワーク」と題する事務局長報告を提出しました。ここにその概要を紹介いたします。
なお、「ディーセントワーク」の全文はILO東京支局で入手可能です。

全世界的に激動する時代におけるILOの中心的な目標は、「人々に働く価値のある仕事(decent work)を確保すること」と、今総会に提出される事務局長報告は提言する。2000/2001年度の事業計画・予算案を補足する同報告書は要旨以下の通りで、この現代の大きな課題にILOが立ち向かっていく方法を提案する。

次事業計画・予算案は、(1)労働の基本的原則と権利(2)雇用(3)社会的保護(4)社会対話の4つを戦略標に掲げる。事務局長報告はこの目標に沿って、ILOが21世紀に取るべき活動の方向を提言する。

中心的な目標

ILOは、規範活動、制度構築、公共政策を組み合わせ、労働者の生活と労働の世界において社会正義を伴う繁栄を導く経済プロセスが可能になるような平和と安定の社会的枠組みの構築を目指しできた。しかし、20年ほど前から、グローバル経済の影響によりILOの伝統的な活動の礎が劇的に変化してきた。経済自由化政策は国、労働、企業の関係を変え、雇用形態、労働市場、労使関係の変化は政労使に大きく影響し、グローバル化がもたらした繁栄と不平等は集団的社会責任の限界を露呈した。技術と生産システムの変化は社会意識を変化させ、政治を監視する市場と世論の目が厳しくなり、人の安全保障と失業問題が政治課題のトップに復帰し、人の顔をした世界経済を求める声が方々から聞こえてくるようになった。

このような変化は、雇用と労働問題に関する国際的な知識の集積拠点、労働の世界に関する規範活動の中心、社会政策に関する国際的な議論と交渉の場、権利擁護・情報・政策策定のサービス提供といった、政労使三者構成のILOが国際社会に提供する手段に新たな光を当てるものである。ILOは今こそ、適応、再生、変化の能力を再び示さなくてはならない。

そのためにはまず、2つの問題を解決する必要がある。1つは、活動を統合・組織化する明確な運営上の優先項目を設定せずに拡散的な計画を立案する組織的傾向である。これはILOの影響力を弱め、イメージを曖昧にし、効率性を減じるので、計画の焦点を定期的に再設定し、時代のニーズにあった言葉でメッセージを言い換える必要がある。もう一つは、冷戦の終結とグローバル化の影響による政労使の共通目的意識の希薄化であり、内部的合意を欠いたILOは外部的影響力を失うこととなる。二つの問題は相互に関連し、ILOが主張する利益と目的が明確に認識されれば、固く幅広い合意が得られる。そこでまず、明確な共通目的を定義する必要がある。

ILOの伝統的な使命は労働の世界における人々の状況改善である。それは今日、働く価値のある仕事(権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会的保護が供与された生産的な仕事)に対する持続的な機会の獲得という、広く人々が抱える関心事と共鳴する。そこで、今日のILOの中心的な目標は「人間としての尊厳、自由、均等安全の条件で、男女が生産的な働く価値のある仕事を得る機会を推進すること」といえる。この目標を前記の4戦略目標の総合的な焦点とし、近い将来におけるILOの政策を導き、国際的な役割を確定するものとしなくてはならない。

これは、ILOの使命に含まれる次のような政策を明確にし、追求する必要を生じさせる。(1)ILOは正規雇用の労働者のみならず、インフォーマル・セクター労働者、自営業者等すべての労働者を関心の対象とすること(2)すべての働く人々は労働に関わる権利を有すること(3)ILOの中心目標は雇用促進であること(4)ILOは単なる雇用創出ではなく、働く価値のある仕事(良質の雇用)の創出をめざすこと(5)ILOは脆弱性と偶発事件から働く人々を保護する責任があることE社会対話を手段及び目的として推進すること。

世界的な調整

現在は石油危機から開始したグローバル経済に向けた長い調整期間にある。今後10年間の主要課題は、地球規模の変化に対する国内経済と国内機構の適応、並びに人間のニーズに合わせた世界的な変化であるといえる。この環境のもとで、ILOは調整と開発から生じる危機への対処を求められると予想されるため、それに備える必要がある。

ILOは4つの戦略分野の専門技能を組み合わせ、統合した多角的な計画を実行し、経済安定と均衡発展のための統治体制の確立に関する国際的な議論に参画していかなくてはならない。国際金融システム強化措置の一部としての、安定化、調整、開発政策の社会的枠組みを求める議論への参加等が考えられる。

つまり、ILOは地域の多様な状況に適した一連の政策(雇用、社会的保護、機構開発に関する)を立案し、提供していくよう求められるが、この政策は全世界的に認知されている国際的な規範枠組みで支援される必要がある。任意義務を原則とし、国際的な合意と国内的な対話を基礎に、強制・刑 罰措置よりも世論と制度化を通じて機能するILOの憲章規定は、地球規模の移行に伴う社会的緊張を管理する適切な手段である。人々の十分な信頼を得るためにも、基準設定システムの可視性、効果、妥当性の改善を政治的な優先事項とする必要がある。昨年採択された労働の基本的原則・権利宣言は、加盟国の要請があれば、基本的原則の奨励のみならず実現に向けてILOが支援するよう規定しているため、開発に向けた明確な枠組みを提供する。

政策の新たな重点

将来の活動の方向が相互に依存する世界における調整ニーズによって決定されるとすれば、ILOのあらゆる活動において開発とジェンダーを主流に組み入れること、企業を関心の中心とすることが特に重要になる。

経済発展と社会開発が同一過程の2つの側面であることは社会開発サミットで再確認された。今こそILOはこの理論を前進させ、研究政策を策定し、経済と金融に関する分析力を高め、両者の補完
性を裏付ける正当な根拠と証拠を提示する必要がある。また、貧困労働者の問題に特に焦点を当て、社会対話と社会的保護の制度化を中心課題とすることも求められる。

女性の職場進出は労働市場を変化させたが、依然女性の立場は弱く、社会保障制度等労働機構自体に男女格差が組み込まれている場合がある。ILOは、男女平等推進活動を基礎に、男女の社会的経済的役割を吟味し、格差を導く要因の確定をめざしたジエンダー政策を策定する必要がある。政策の主眼は、男女平等の法的整備を越え、経済政策、法的措置、労働市場における男女別の成果といった現実の結果にまで拡張される。最も重要な手段の一つがジエンダーの主流化で、政治レベル、技術計画内、機構レベルの3段階で活動が実施される。

開放経済における成長と雇用のカギは企業にあり、企業活動はILOのあらゆる関心分野に影響し、労使関係、技能開発、雇用に関する将来パターンの形成に重要な意味をもつ。ILOにはすでに広範な企業関連計画があるが、この分野における使用者団体の役割と提供できるサービスを考慮に入れ、さらなる開発が望まれる。多国籍企業のニーズへの対応、実業界との距離の縮小、企業の関心を引くデータと専門知識を擁する国際センターとしての地位の構築も必要である。

計画の優先事項

4つの戦略目標に関連し、次事業計画・予算案のもとでは全体で8つの国際重点計画が設定され、既存の部局の壁を越え、調査研究、技術協力が実施される。

人権と労働の戦略目標のもとでは、人間の尊厳と社会正義を伴う開発の推進を目指し、(1)労働の基本的原則・権利宣言とそのフォローアップの推進(2)児童労働の漸進的な廃絶に向けた活動の強化(3)労働基準活動の刷新が行われる。

雇用と収入の戦略目標のもとでは、ILOの使命の中核である雇用問題に関し、新しい国際環境の中で、(1)マクロ経済政策(2)生産システムの変化と企業戦略(3)雇用と労働市場への平等なアクセスといった3つの新しい優先事項に焦点を絞った政策が展開される。

社会的保護と社会保障の強化の戦略目標のもとでは、より効果的な社会的保護の確立に向け、(1)社会変化への適応(2)社会的保護の拡大(3)社会的保護の統治の向上(4)労働市場政策及び雇用政策と社会的保護の連携(5)社会的保護の主要問題への取り組み(6)動的な社会的保護制度の確立(7)職場における保護の改善(8)国際労働力移動への対応といった分野での取り組みが予定される。

社会対話の強化の戦略目標のもとでは、(1)市民社会(2)使用者団体(3)労働者団体(4)政府(5)調和の取れた社会対話に向けた支援(6)社会対話の地域的側面といったテーマのもと、数々の活動が実施される。

地域別展望

グローバル化が労働の世界に与える影響は地域によって異なる。
ILOはこの最適化を支援し、地域機関との関係強化を図りながら、地域の動勢をフォローし、政策を策定し、調整と開発における地域的課題に迅速に応える能力を強化する必要がある。この際留意すべき点は、ジェンダーを地域横断的な問題とし、先進国を含む全ての加盟国に関連する活動を行うよう努めることである。

アフリカでは雇用と所得の増大が重視され、米州では質の高い雇用の創出と保護水準の向上に向けた活動、中近東では社会的パートナーの強化等が行われ、欧州諸国に対しては欧州連合加盟基準達成への支援等が提供される。

膨大な貧困人口を抱え、雇用創出と貧困緩和における成功も最近の金融危機で消滅してしまったアジア太平洋地域における最重点課題は、生産的な雇用の創出と貧困緩和であり、これに加えて労働者保護の強化、社会的団結の機構、労使団体の強化、弱者集団に対する保護の提供といった分野での活動が予定される。

機構能力

実施面では、(1)事務局マネジメントの改善(2)知的能力及び実施能力の強化(3)国連諸機関、ブレトンウッズ機関等外部との関係の刷新と拡大の3つの分野において直ちに措置が講じられる。

国際労働問題研究所については事務局全体の研究方針の立案支援といった新たな可能性を模索し、ILO国際研修センターとは関係のさらなる緊密化が図られる。