このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

第93回ILO総会
労働安全衛生委員会の結論(全文の仮訳)

資料出所:厚生労働省労働基準局 安全衛生部計画課国際室

原文はこちら



第93回ILO総会 労働安全衛生委員会の結論


 ILOでは、従前から、全ての職場における労働者の生命と健康について十分な保護を達成するための種々の検討が行われてきた。2003年に開催された労働安全衛生委員会では、今後どのように労働安全衛生を推進していくべきかとの観点で「労働安全衛生の統合的アプローチ」を討議し、労働安全衛生についての促進的枠組みを構築するILO文書を策定すべきとの結論を得た。これは、労働安全衛生を積極的に促進するために各国がそれぞれ国のプログラム(災害防止計画)を策定するための文書の策定を目的としたものである。
 2003年の結論を受けて、2005年5月31日から6月13日まで開催された第93回ILO総会労働安全衛生委員会では、促進的文書の形式を条約とするか宣言とするか、内容はどのようなものにするか等について討議が行われ、報告書案がまとめられ、6月15日のILO総会全体会合にて報告書案が承認された。以下は、「労働安全衛生についての促進的枠組み」について討議された労働安全衛生委員会の結論の全文訳である。
 来年開催されるILO総会労働安全衛生委員会では、今回作成された原案に基づいて審議が行われる予定であり、「労働安全衛生についての促進的枠組み」についてのILO条約としての文書が確定されることとなる。


A.. 文書の形式
1. 国際労働総会は労働安全衛生についての促進的枠組みを確立する文書を採択すべきである。 
2. 文書は勧告で補完された条約の形式を取るべきである。

B. 条約を想定した結論
T. 前文.

3. 条約は次に言及した前文を含むべきである。
(a) 国際労働機関憲章。
(b) 国際労働機関が、すべての職業における労働者の生命及び健康の充分な保護を達成するための計画を世界の諸国間において促進する厳粛なる義務を有すると規定するフィラデルフィア宣言第V(g)条の規定。
(c) 1981年職業上の安全及び健康に関する条約(第155号)及び1981年職業上の安全及び健康に関する勧告(第164号)。
(d) すべての人々に対するディーセントワークという国際労働機関の主要目的の一部分としての労働安全衛生の促進。
(e) 第91回国際労働総会(2003年)で採択された特に国の基本方針の中で労働安全衛生を優先させるべきことについての労働安全衛生についての結論。
(f) 国の予防的安全衛生文化の継続的促進の重要性。

U. 定義

4. 本条約において、
(a) 「国の政策」とは、1981年職業上の安全及び健康に関する条約(第155号)の第4条の原則に従った労働安全、労働衛生、作業環境改善についての国の政策を言う。
(b) 「労働安全衛生のための国の制度」とは、労働安全衛生に関する国のプログラムの実施のために主要な枠組みを提供する基盤となる制度を言う。
(c) 「労働安全衛生に関する国のプログラム」とは、所定の期間内で達成すべき労働安全衛生の改善活動の目的、優先順位及び対策を言う。
(d) 「国の予防的な安全衛生文化」とは、所定の権利、責任及び義務の制度に基づき政労使が安全で健康な作業環境の確保に積極的に参画し、予防の原則が最優先され、安全で健康な作業環境を求める権利がすべてのレベルにおいて尊重される文化を言う。

V. 目的
5.  本条約を批准する各加盟国は、労働安全衛生に関する国際労働条約、国際労働勧告の原則を考慮に入れて労働安全衛生に関する国のプログラムを通して安全で健康な作業環境に向けて積極的に対応しなければならない。

W. 国の政策
6. 各加盟国は、国の政策を策定することにより安全で健康な作業環境を促進しなければならない。
7. 各加盟国は、政労使三者の参画により、国の政策、国の制度、国のプログラムの開発により労働安全衛生の継続的な改善を促進しなければならない。
8.  各加盟国は、安全で健康な作業環境に向けての労働者の権利をあらゆる段階で促進し推進しなければならない。

X. 国の制度
9 (1) 各加盟国は、使用者及び労働者を代表する団体と協議して、労働安全衛生に関する国の制度を確立し、維持し、漸進的に発展させ、定期的に見直さなければならない。
(2) 労働安全衛生に関する国の制度は、特に次のものを含めなければならない。
(a) 労働安全衛生に関する法律、規則、労働協約及びその他の関係文書。
(b) 当局又は組織、あるいは国の法律及び慣行に基づいて労働安全衛生の担当を任命された当局又は組織。
(c) 労働監督制度を含む国の法律及び規則を遵守させる機構。
(d) 職場に関連した防止対策の基本的要素として企業レベルでの労使及びその代表の協力を促進するための調整機能。
(3) 労働安全衛生に関する国の制度には、適当な場合には、次のものを含めなければならない。
(a) 労働安全衛生に関する情報及び助言サービス。
(b) 労働安全衛生の教育訓練の導入。
(c) 国の法律や慣行に応じた労働衛生サービス。
(d) 労働安全衛生に関する研究。
(e) 国際労働機関の関係文書を考慮に入れた労働災害及び職業性疾病に関するデータの収集及び分析のための機構。
(f) 労働災害及び職業性疾病を補償する適切な保険制度との連携の提供。
(g) 中小零細企業における労働安全衛生の状況を漸進的に改善する支援機構。

Y. 国のプログラム
10. (1) 各加盟国は、労働安全衛生に関する国のプログラムを使用者及び労働者を代表する団体と協議して策定し、実施し、評価し、定期的に見直さなければならない。
(2) 国のプログラムにおいては次のことを行わなければならない。
(a) 死亡災害、労働災害及び職業性疾病を減少させるために国の法律及び慣行に基づき職業上の危険とリスクを最小限にして労働者の保護に寄与すること。
(b) 労働安全衛生に関する国の制度を含む労働安全衛生に関する国の状況分析に基づく策定及び見直し。
(c) 国の予防的安全衛生文化の普及促進。
(d) 達成目標及び指標の導入。
(e) 可能な場合には、より安全で健康な作業環境の目的の達成を支援するその他の補完的な国のプログラム及び計画による支援。
(3) 国のプログラムは、広く公表され、可能な範囲で、最高の国家当局により承認され、推進されなければならない。

C. 勧告を想定した結論
T. 国の制度
11. 加盟国は、上記4(b)で言及された労働安全衛生に関する国の制度を確立し、維持し、漸進的に発展させ、定期的に見直すに当たって、上記9(1)に定める協議をその他の関係者に拡大することができる。
12. 労働災害、職業性疾病、死亡災害を減少させる観点から、国の制度は、特に危険性の高い業種におけるすべての労働者や非正規経済における外国人、若年のような脆弱な労働者の保護のために適切な対策を提供しなければならない。
13. 加盟国は、国の予防的安全衛生文化を促進するに当たって、次のことに取組まなければならない。
(a) 適当な場合には、国際的な行事と連携した国のキャンペーンを通して労働安全衛生に関する職場における意識と国民の意識を向上させること。
(b) 特に安全衛生について責任を有する管理者、監督者、労働者及びその代表及び公務員に対して労働安全衛生の教育・訓練を提供する機構を促進すること。
(c) 教育及び職業訓練プログラムにおいて労働安全衛生の考え方を導入すること。
(d) 関係当局、使用者、労働者及びそれらの代表の間で労働安全衛生の統計及びデータの交換を促進すること。
(e) 危険性を絶滅または減少させる観点から使用者と労働者に情報と助言を提供し、労使間または労使団体間の協力を援助し促進すること。
(f) 国内慣行に従って安全衛生政策の確立と共同安全衛生委員会と職場レベルの安全担当労働者代表の確立を促進すること。
(g) 国内法及び慣行に従って中小零細企業及び請負業者に対して労働安全衛生政策及び規制の実施を働きかけること。
14.  加盟国は、例えば、労働安全衛生マネージメントシステムに関するガイドライン(ILO-OSH 2001)に示されている労働安全衛生に関するマネージメントシステムについての取組を促進しなければならない。

U. 国のプログラム
15. 加盟国は、上記4(c)で言及された労働安全衛生に関する国のプログラムの策定及び見直しに当たって、上記10(1)に定める協議をその他の関係者に拡大することができる。
16. 労働安全衛生に関する国のプログラムは、適当な場合には、公衆衛生や経済開発計画のような他の国のプログラム及び計画と調整されなければならない。
17.  加盟国は、自らが批准した条約上の義務を侵すことなく、労働安全衛生に関する国のプログラムの策定及び見直しに当たって、別表に掲載した国際労働条約及び国際労働勧告を考慮に入れなければならない。
V. 国の概要
18. (1) 加盟国は、労働安全衛生の現状を要約した国の概要を作成し、定期的に更新すべきである。この概要は、国のプログラムの策定及び見直しの根拠として使用されなければならない。
(2) 上記9(2)及び(3)の要素に加えて、労働安全衛生に関する概要は、適当な場合には、次の要素を含めなければならない。
(a) 国のプログラムの見直し方法を含む国及び企業レベルでの調整及び協力。
(b) 労働安全衛生についての技術基準、実施基準及びガイドライン。
(c) 促進的な行事を含めた教育及び意識向上のための仕組み。
(d) 労働安全衛生に関する研究機関及び実験施設を含む労働安全衛生に様々な面で関係している専門技術、医療及び科学的機関。
(e) 監督官、公務員、産業医及び衛生管理者のような労働安全衛生分野で活動する人的資源。
(f) 労働災害及び職業性疾病の統計。
(g) 使用者及び労働者団体の労働安全衛生に関する政策及びプログラム。
(h) 国際協力を含む労働安全衛生に関連した定期的又は継続的な活動。
(i) 入手可能であれば、例えば、人口統計学、識字率、経済及び雇用を取り上げたデータ並びにその他の関連する情報。
(j) 労働安全衛生に関連した財政的・予算的資源

W. 国際的な情報交換
19. 国際労働機関は、次のことを行わなければならない。
(1) 好事例及び先進的な取組並びに職場における新たに出現した危険性とリスクの特定を含む労働安全衛生に関する国の政策、制度及びプログラムについての情報交換を促進すること。
(2) より安全で健康な作業環境を達成してきた成果を情報提供すること。

X. 別表の更新
20. 本勧告の別表リストは、国際労働機関の理事会により見直され、更新されなければならない。新規リストは、理事会により採択され、採択に伴って以前のリストと置き替わり、国際労働機関の加盟国に周知されるものとする。


別表

T. 条約
労働監督条約(1947年、第81号)
放射線からの保護に関する条約(1960年、第115号)
衛生(商業及び事務所)条約(1964年、第120号)
労働監督(農業)条約(1969年、第129号)
職業がん条約(1974年、第139号)
作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約(1977年、第148号)
職業上の安全及び衛生(港湾労働)に関する条約(1979年、第152号)
職業上の安全及び健康に関する条約(1981年、第155号)
職業衛生機関条約(1985年、第161号)
石綿条約(1986年、第162号)
建設業における安全健康条約(1988年、第167号)
化学物質条約(1990年、第170号)
大規模産業災害防止条約(1993年、第174号)
鉱山における安全及び健康条約(1995年、第176号)
労働監督条約(1947年、第81号)への議定書(1995年)
農業における安全及び健康条約(2001年、第184号)
職業上の安全及び健康に関する条約(1981年、第155号)への議定書(2002年)

U. 勧告
労働監督勧告(1947年、第81号)
労働監督(鉱業及び運送業)勧告(1947年、第82号)
労働者健康保護勧告(1953年、第97号)
福祉施設勧告(1956年、第102号)
放射線からの保護に関する勧告(1960年、第114号)
労働者住宅勧告(1961年、第115号)
衛生(商業及び事務所)勧告(1964年、第120号)
労働監督(農業)勧告(1969年、第133号)
職業がん勧告(1974年、第147号)
作業環境(空気汚染騒音及び振動)勧告(1977年、第156号)
職業上の安全及び衛生(港湾労働)に関する勧告(1979年、第160号)
職業上の安全及び健康に関する勧告(1981年、第164号)
職業衛生機関勧告(1985年、第171号)
石綿勧告(1986年、第172号)
建設業における安全健康勧告(1988年、第175号)
化学物質勧告(1990年、第177号)
大規模産業災害防止勧告(1993年、第181号)
鉱山における安全及び健康勧告(1995年、第183号)
農業における安全健康勧告(2001年、第192号)
職業病一覧表勧告(2002年、第194号)