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サービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準案

資料出所:ILO発行「Code of practice on workplace violence in services sectors and measures to combat this phenomenon」)

(仮訳 国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/gb/docs/gb288/pdf/mevsws-11.pdf



目次

序文(略)
前文
1. 一般規定
1.1 目的及び用途
1.1.1 目的
1.1.2 用途
1.2 範囲
1.3 定義
1.3.1 職場暴力
1.3.2 サービス業
1.3.3 その他の関連用語
1.4 原則
2. 職場暴力に対する方針
2.1 方針
2.2 方針の重要性
2.3 中心課題
2.4 方針における責任の所在
2.5 労使対話
3. 関係者
3.1 役割及び責任
3.1.1 政府
3.1.2 使用者
3.1.3 労働者
3.1.4 一般公衆、顧客及び取引先
3.2 実施、周知及び訓練
3.2.1 労働者の訓練
3.2.2 監督者及び管理者の訓練
3.2.3 周知
3.3 職場における記録及び対策
3.4 職場における協議
4. 計画及び実施
4.1 現状把握
4.1.1 現状
4.1.2 リスクアセスメント
4.1.3 職場レベルでの記録活動
4.1.4 業種、国家及び国際レベルでの記録
4.2 実施
4.3 管理方法:職場暴力の防止、低減、管理、対抗措置についての戦略
4.3.1 職場暴力に対する戦略の開発
4.3.2 職場暴力の克服についての意識啓発及び協力
4.4 職場における防止方法
4.4.1 意思疎通
4.4.2 職場における対策
4.5 作業環境の改善
4.5.1 物理的環境
4.5.2 職場の保安
4.6 事例発生に対する準備と対応
4.6.1 対応計画
4.6.2 管理面からの支援
4.7 個人に着目した治療及びその他の対応
4.7.1 医学的治療
4.7.2 支援
4.7.3 面談
4.7.4 緩和対策
4.8 苦情及び懲戒手続き
4.9 プライバシー及び守秘
5. 現状把握及び見直し
5.1 職場暴力防止の方針の現状把握及び評価
5.2 職場暴力に関する事項についての職場における教訓


サービス業の職場における暴力とストレス(生産性とディーセントワークに対する脅威)についての実施基準作成の専門家会合(2003年10月8-15日)

前文

 この実施基準は、職場暴力とその直接的な悪影響を防止することに焦点を置いたものである。

 職場暴力の影響としてストレスが含まれるが、会合参加者の一部の意見によれば、ストレスは明確に定義できない概念である。職場暴力の防止とその悪影響を考慮することは労務問題であり、労働安全衛生問題でもある。この会合ではこの問題の複雑さを考慮してサービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準の採択を勧告する。

 政労使の代表がこの意欲的取組に際して第一に強調すべきことは、労働安全衛生マネージメントシステムを考慮に入れたアプローチ手法を取り入れたことである。このマネージメントシステムは、作業環境の改善と効率的な組織運営を目的として、方針、組織化、計画、実行、現状把握及び改善活動を通して労働安全衛生の問題を解決する手法である。

1 一般規定

1.1 目的及び用途

1.1.1 目的

 この実施基準(以下「基準」という。)の目的は、サービス業における職場暴力の問題に対処するための一般的な手引きを提供するものである。この基準は、特に異なる文化、状況及び必要性にそれぞれ適合するように、国際的地域、国家、業種、企業、団体、職場のそれぞれのレベルで同様の手引きを作成する際の参考資料として利用されることを意図したものである。

 この基準は、以下のような基本的分野及び活動を包含している。

  • 方針

  • 危険性の特定

  • リスクアセスメント

  • 防止及び管理

  • 訓練

  • 発生事例に対する対処及び影響の緩和

  • 影響を受けた労働者の治療及び支援

  • 現状把握及び評価

1.1.2 用途

 この基準は以下の用途に用いられる。

  • 職場、企業、団体、業種、国家、国際的地域、国際社会のそれぞれのレベルで具体的な対応を策定すること。

  • 政府、使用者、労働者及びそれらの代表、適当な場合にはその他の関係者との間での対話のプロセス、協議、交渉及びすべての形態での協力を促進すること。

  • 国内法、方針及び活動計画の開発、職場、企業、団体、業種での合意、職場方針、行動計画の手引きとなること。

1.2 範囲

 この基準は、民間及び公的なサービス業における経済活動のすべての分野に適用される。
1.3 定義

 この基準のために用いられる用語の定義は次のとおりである。
1.3.1 職場暴力

 妥当な対応を行っている者が業務の遂行及び直接的な結果1)に伴って攻撃され、嚇かされ、危害を加えられ、傷害を受けるすべての行動、出来事、行為

1)注)直接的な結果とは、業務との明確な関連があって、かつ、妥当な期間の範囲で発生した行動、出来事、行為と解されるものである。

  • 部内職場暴力とは、管理者、監督者を含めた労働者間で発生したものを言う。

  • 部外職場暴力とは、管理者、監督者を含めた労働者と職場に存在するその他の者との間で発生したものを言う。

1.3.2 サービス業

 この基準において、サービス業は、商業、教育業、金融金融関連業、医療業、ホテル業、飲食旅行業、放送娯楽業、郵便通信業、公的サービス業、運輸交通業を含み、第1次産業及び第2次産業を含まない。

1.3.3 その他の関連用語

顧客/取引先
 この基準において、顧客及び取引先とは、一般公衆と異なり個人的なサービスを受けるもの2)

2)注)例えば、患者、乗客、利用者、観衆である。

当局
法的強制力を有する規制、規則、告示等を定めることができる大臣、政府部局、公的機関
使用者
1人以上の労働者を雇用する自然人又は法人
加害者
職場暴力を行う者
労使対話
経済社会政策に関して共通の利益に関する政府、使用者及び労働者の代表の間でのすべての形態の交渉、協議及び情報の交換
被害者
職場暴力の対象となる労働者又は使用者
労働者
常時又は一時に関わらず使用者のために業務を行う者
労働者代表
1971年(第135号)労働者の代表条約に基づき国内法又は慣行により認められた者
職場
使用者の直接的又は間接的管理のもとで業務のために労働者が勤務している場所又は出張している場所

1.4 原則

  • 1981年(155号)労働安全衛生条約の規定に基づき健康的で安全な職場環境が、業務の遂行に際して最適な肉体的及び精神的健康を保てるようにすること、また、職場暴力を未然に防止し得ること。

  • 使用者、労働者及びそれらの代表、適当な場合には政府3)との間での労使対話が、職場暴力防止の方針及び計画の実施の成功に際して基本的なカギとなる。そのような労使対話は、労働における基本的な原則と権利についてのILO宣言とその関連文書に記載されているものである。

    3)注)この文章において、政府には、この基準で定義されている当局を含むものである。

  • 職場暴力防止のための方針及び行動は、ディーセントワークと相互尊重と1958年(第111号)差別(雇用及び職業)条約に基づく職場における差別の防止を促進することに結びつかなければならない。

  • 性の平等の促進は、職場暴力の減少に貢献し得るものである。

2 職場暴力に対する方針

2.1 方針

 政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の撲滅に寄与する職場慣行を合理的に実行可能な範囲で促進すべきである。この目的を達成するため、政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の危険性を最小限にするため適切な方針及び手続きを開発し実施することが肝要である。
2.2 方針の重要性

 ディーセントワーク、労働倫理、安全、相互尊重、寛容、機会均等、協力、サービスの質に基づいた建設的な職場文化が構築されることを優先しなければならない。これは次のものを含む。

  • 質の高いサービスを実現する人材が重要な役割を担う旨の明確な目的

  • 共通の目的を分かち合う組織及び構成員についての強調

  • 職場暴力防止の宣言

 職場暴力の撲滅への努力の重要性を認識した上で、経営トップによる明確な経営戦略の表明及び周知を行わなければならない。

2.3 中心課題

 方針には少なくとも次の事項を含むべきである。

  • 職場暴力の定義

  • 部内又は顧客取引先からの職場暴力いずれであっても職場暴力が容認され得ないことの表明

  • 職場暴力とその直接的な結果が発生しない環境の形成に主眼を置いた活動の支援への取組

  • 報復と批難から保護された適正な苦情システムの提供

  • 情報提供、教育、訓練及びその他関係したプログラム

  • 職場暴力の防止、管理、可能な場合には撲滅対策

  • 暴力事例の処理、管理対策

  • 方針についての効果的な意思疎通の表明

  • 守秘

2.4 方針における責任の所在

 方針は、特に次のことを含むべきである。

  • 監督者及び管理者は方針の実施とリーダシップ発揮の義務があることの表明、例えば、

  • 組織内のすべてのレベルで方針を実行する権限と必要な方策を管理者に与えること。

  • 方針の実行に必要な適切な訓練と技能修得を個人又はチームにほどこし権限を付与すること。

  • 職場におけるすべての者に対して職場暴力をふるわないよう取り組むこと。

  • 使用者が行う職場暴力をなくすための人事方針及びその実施を労働者が支持し貢献することへの表明。

 方針は、関係者すべてにより検討され、使用者、労働者、一般公衆、顧客及び取引先に率先して周知されるべきである。

2.5 労使対話

 国内のニーズ及び労使関係システムに基づき、関係者により、サービス業における様々なレベル(国家、業種、企業、職場)、様々な形態(交渉、協議、情報交換)、形式(公式、非公式)で労使対話が行われるべきである。

 職場暴力についての労使対話は、職場における安全衛生の確保とサービスの改善を目的として同時進行的に行われるべきである。関係者は、サービス業における労使対話の範囲内でカバーされる社会労働問題に職場暴力とそのマイナス面の結果を含めて議論するべきである。関係者は、職場暴力について現状把握と評価を行なうべきである。

3 関係者

3.1 役割及び責任

3.1.1 政府

 政府は、以下のことを含む防止措置の策定と適用についてリーダシップをとるべきである。

  • 調査 国家間のバランスを保ち、関係者の意識を高め、防止措置を講ずるため、当局は、事実に基づいた方針の策定に取り組むべきである。政府は、好事例を調査し公表することも含めた調査研究に予算をつけて実施すべきである。調査データは、特定の業種又は労働者グループに着目して職場暴力の傾向が判別できるように分類して収集されるべきである。

  • ガイドライン 政府は、国家及び業種レベルで使用者及び労働者が防止措置を実施できるようガイドラインを提示すべきである。また、政府は、サービス業におけるすべての労働者に適用できるように防止戦略とプログラムを確保すべきである。さらに、政府は、職場暴力の低減を達成するため一般社会における対策の促進と実施を図るべきである。

  • 法令 政府は、防止対策を推進するため、関係者と協議の上、可能な場合には安全衛生又は労働関係法令を見直して差し支えない。

  • 財源 政府は、可能な場合には、また関係者と協議の上、効果的な防止措置の実行に必要な予算を確保するため財政当局に働きかけなければならない。

  • 国際地域間及び国際間の協力 政府は、可能な場合には国家レベルの防止プログラムを支援するために、国際機関を通じて国際協力に参加すし、国際地域間及び国際間の協力を促進、支援すべきである。

 政府は、職場暴力の被害を特に受けやすい労働者グループを特定して対策を講ずるべきであり、労働者が被害を受けやすくなる要因を排除する戦略を立て、被害を受けやすくなる業種別要因を調査すべきである。

3.1.2 使用者

3.1.2.1 方針及び手続き

 使用者及びそれらの代表は、合理的に実行可能な場合に限り、職場暴力の撲滅に貢献できる職場慣行を促進しなければならない

 この目的を達成するため、使用者は、職場暴力の危険性を撲滅し最小限にするための適切な方針と手続きを策定し実行するため労働者及びそれらの代表と協議すべきである。

  • 危険性の低減及び管理 使用者は、その職場における適切なリスクアセスメントを実施するようにしなければならない。使用者、労働者及びそれらの代表は、危険性を評価する適切な戦略を策定するため労働者とともに協力しなければならない。使用者は、労働者及びそれらの代表と協議の上、危険性の高い業務で、特定の環境下、あるいは、日中又は夜間の特定の時間において危険性が更に高まる場合には、適切な防止措置によりその危険性を緩和軽減するように努めなければならない。

  • 国家、業種及び企業職場での合意 使用者は、国家、業種及び企業職場で職場暴力防止対策を含めた合意を形成するように努めなければならない。

  • 人事方針 使用者は、職場における相互尊重及び尊厳を促進する方針及び措置を講じなければならない。

  •   苦情及び懲戒手続き 使用者は、労働者及びそれらの代表が職場暴力についての苦情を申し立てられるような手続きを定めなければならない。職場暴力の申し立ては可能な限り調査が完了するような時まで内密に保たなければならない。

3.1.2.2 情報提供及び訓練

 使用者は、労働者及びそれらの代表との協議において、職場暴力の防止、企業の方針及び戦略並びに職場暴力が発生した場合の労働者の支援について、職場において労働者に情報提供し教育し訓練を行うプログラムを策定し支援しなければならない。
3.1.3 労働者

 労働者及びそれらの代表は、職場暴力に関する危険性を防止し、軽減し、撲滅するように可能な限り努めなければならない。この目的を達成するため労働者及びそれらの代表は次のことを行わなければならない。

  • 1981年(164号)労働安全衛生勧告に定める労働安全衛生委員会において使用者に協力すること。

  • 適切なリスクアセスメント戦略と防止の方針を策定することについて使用者に協力すること。これらの方針や戦略は職場暴力が発生した場合には苦情手続きを開始するための労働者又はその代表の権利を認めなければならない。

  • 使用者とともに職場暴力防止の方針を策定及び実施すること。

  • 国家、業種及び企業職場で職場暴力の防止及び管理対策を含めて合意を形成するように努めなければならない。

  • 適切な組織を通じて定期的に更新された労働者の権利についての情報を含んだ職場暴力の防止についての情報を提供すること。

  • 職場暴力の防止についてすべての労働者のための訓練コースの策定に使用者とともに協力すること。

  • 特定の職場又は使用者との協議に基づいて、労働者及びその安全衛生代表は、特定の活動における職場暴力の危険性が高まる要因を確定すること。

  • 職場暴力の記録活動を行うこと。
3.1.4 一般公衆、顧客及び取引先

 顧客、取引先及び一般公衆は、サービス業における職場暴力の防止についての主要な関係者である。一般公衆、顧客及び取引先の代表は、可能な場合には、職場暴力の防止についての公的な方針及び戦略の策定に参加させるようにしなければならない。

3.2 実施、周知及び訓練

3.2.1 労働者の訓練

 サービス業における職場暴力の防止に対する訓練は、特定の必要性に応じて、一連の方針に基づいて継続的かつ定期的に実施されなければならない。訓練は、使用者のみにより又は労働者とそれらの代表の協力を得た使用者により、可能な場合には、すべての労働者、それらの代表、監督者及び管理者に対して行われなければならない。使用者は、職場暴力の防止について、職場における企業方針と戦略について、また、職場暴力が発生した際の支援について労働者に周知、教育及び訓練する職場におけるプログラムを開始しまた支援しなければならない。

 サービス業における職場暴力の防止のために行われる訓練は、次のようなものが含まれる。

  • 潜在的な暴力の危険性を感知する能力を向上させること。

  • 事態の評価、協力体制及び問題解決の対応能力を向上させること。

  • 潜在的な暴力の危険性を回避し軽減できる会話コミュニケーション技能を教えること。

  • 協力体制を形成できるような積極的な姿勢を育成すること。

  • リスクアセスメントに従い必要に応じて積極的に主張する訓練。

  • リスクアセスメントに従い必要に応じて自己防衛する訓練。

 特定の環境下における職場暴力を防止し対処するために必要な特定の訓練と技能を明確化した特定の業種及び職業におけるガイドラインを新たに開発するべきである。

3.2.2 監督者及び管理者の訓練

 すべての労働者、監督者及び管理者は、情報提供及び訓練プログラムに参加するに際して、次のような適切な訓練を受けるべきである。

  • 職場暴力に対する組織的な方針についての質問について説明し答えること。

  • 職場暴力を引き起こすかもしれない職員の行動及び態度の変化を特定すること。

  • 作業環境を評価し、職場暴力を防止、低減、撲滅する作業方法及び作業条件を特定すること。

  • 職員管理的な観点から労働者の回復を支援、助言及び援助すること。

  • 職場暴力にさらされ、被害を受けた労働者のいかなる情報も、国内法令に従って守秘されること。

  • 職員及びチームを管理し、相互尊重に基づいた作業環境を形成すること。

3.2.3 周知

 当局及び使用者は、労働者の代表と協力して、可能な場合には、すべての労働者、監督者及び管理者が職場暴力の情報を利用できるようにすべきである。それは次のものを含む。

  • サービス業における職場暴力の特徴と原因についての情報

  • サービス業における職場暴力の多発分野と場所についての情報

  • 職場暴力の発生に伴って生じる問題の防止方法と職場暴力の減少と撲滅のための好事例の提供

  • 可能な場合には、性、文化の多様性、差別のような微妙な問題に対処する情報

  • 職場あるいはサービスに関わる暴力と同様に、一般の暴力に適用される法令についての情報

  • 可能な場合には評価並びに委託、相談、治療及びリハビリテーションプログラムを含めた職場暴力の被害者を支援するサービスについての情報

3.3 職場における記録及び対策

 組織の規模及び活動の特徴に応じて、使用者は、次のことを含む職場暴力マネージメントシステム文書を策定し、見直し、協議しなければならない。

  • 職場暴力についての安全衛生方針

  • 的確で時宜を得た職場暴力の各分類に応じた記録システム。職場暴力の全ての活動の適切な文書はそれらの経験から組織が学ぶために重要である。

  • 利用者に理解できるよう明確に記載し提供された職場暴力に関する対処、手続き及び指示並びにその他の内部文書

  • 守秘に配慮した職場暴力に関する記録の閲覧

  • 労働者が受けた職場暴力の分類を含めた職場暴力の現状把握及び活動の結果の記録

3.4 職場における協議

 次のような場合は、管理者と労働者間並びに労働者間の協議の実施が促進され得る。

  • サービスの提供に伴う問題の解決の促進と情報の共有を図るための協議の場の提供

  • 組織の変更改編期間中の特別の協議の場の提供

  • フィードバック手続きを盛り込むこと

  • 対話、情報共有及び問題解決について時間の割り当て

4 計画及び実施

4.1 現状把握

 可能な場合には組織に現存する職場暴力マネージメントシステム及び関連手続きを見直すこと。この見直しは、職場暴力に対処する観点からの現状把握を含むものとする。
4.1.1 現状

 使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の影響を共同して評価しなければならない。次のような指標は、職場における問題の特徴及び影響を特定し評価するための情報として有効に活用されるべきである。

  • サービスが提供される地域における暴力の特徴についての国内及び地域調査

  • 同様のサービスを提供する職場における調査結果

  • 欠勤率

  • 病欠

  • 事故発生率

  • 職員定着率

  • 監督者、管理者、労働者及びそれらの代表、安全担当者、労働衛生担当者、社会福祉担当者の意見

4.1.2 リスクアセスメント

 リスクアセスメントは、使用者及び労働者の参加と支援のもとに実施されなければならない。特定の場所における危険性の範囲、職場暴力が発生する環境並びに被害を受けやすい労働者群に関する危険性を特定しなければならない。職場暴力のリスクアセスメントに関する場所または状況についてのチェックリストは、有用な道具であり、共同して作成されるべきである。

職場暴力のリスクアセスメントを行うに際して、次のような職場における緊張状態の兆候を考慮に入れるべきである。

  • 実際の被害につながるような関係者に対する身体的傷害又は暴行

  • 次のような激しい暴力的嫌がらせ

    • 悪態を含む言葉による嫌がらせ、侮辱、人を見下すような会話

    • 脅し、軽蔑、侮蔑を意味する攻撃的な身振り

    • 詰寄り、いじめ、人種差別、セクシャルハラスメントを含むハラスメント

  • 脅迫行為、言葉や文書による脅しを含んだ傷害を引き起こそうとする表現

4.1.3 職場レベルでの記録活動

 職場等での経験から学ぶことは重要であるため、職場暴力行為は記録されることが重要である。使用者は、次のようなことを含むパターン及び傾向について経験を踏まえて分析しなければならない。

  • 可能な場合には内部職場暴力及び外部職場暴力双方の職場暴力の記録の分類

  • 重症度別分類

  • 特定の場所や業務分類における職場暴力事例

  • 加害者及び被害者の性格

  • 暴力の形態

  • 職場復帰への期間等の関連情報

  • 発生状況(例えば、家を訪問して、カウンターでの対応、店外での状況等々)

  • 日中又は夜間の時間等のその他の危険要因

4.1.4 業種、国家及び国際レベルでの記録

 業種、国家、国際レベルにおける政府、使用者、労働者及びそれらの代表を含む包括的なアプローチについては、国内法令に基づき国家レベルでの守秘及びプライバシー保護の問題に配慮しつつ、サービス業における職場暴力に関するデータを照合、参照できるようにすることが望まれる。

  • サービス業における業種小分類や職業での主要な職場暴力の危険性を特定すること。

  • 嫌がらせ、脅し、暴行のように記録分類の標準化と分類の詳細化を行うこと。

  • 犯罪裁判により収集された職場暴力に関する統計データは、安全衛生当局により収集されたデータ及び安全衛生に関するそれぞれの団体から集められたデータとともに統合すること。

  • 十分な国内データが利用可能な場合には、政府当局は傾向をグラフ化するとともに種々の防止手法の有効性を評価すること。

4.2 実施

 職場暴力を取り扱うことが可能な場合には職場暴力に対処するマネージメントシステムを策定し適切に実施しなければならない。

4.3 管理方法:職場暴力の防止、低減、管理、対抗措置についての戦略

4.3.1 職場暴力に対する戦略の開発

 職場暴力についての方針及び戦略を策定するに際して、次の事項を考慮しなければならない。

  • 職場暴力は職場とサービスの質の効率化にとって有害であり、職場暴力への対処活動は、ディーセントワークの開発促進や組織的発展と切り離せないものである。

  • 職場暴力を生み出す原因の幅広い分析は、より有効な防止対策を策定することに有用である。

  • 特に効果的であると認められた防止対策は可能な限り優先的に実施されること。

  • 合意されたタイムテーブルに従い現実的で実行可能な到達目標に向けて活動を組織するため、短中長期の目標と戦略を初期の段階で策定しなければならない。

  • 職場暴力についての事実確認、リスクアセスメント、対応、現状分析及び評価を含めた一連の基本的な段階において活動を明示しなければならない。

4.3.2 職場暴力の克服についての意識啓発及び協力

 政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、次のことを目的として、適切な優先順位に基づきサービス業における職場暴力の減少に向けて積極的に参画しなければならない。

  • 職場暴力が安全衛生、サービス効率、生産性、機会均等及びディーセントワークの重大な脅威となることの認識の強化。

  • サービス業における職場暴力についての情報普及。

  • サービス業における職場暴力についての現状把握及び調査並びに政府、立法機関及び地域社会に対する意見、提案及び配慮の提示

 政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、地域、国際地域及び国際社会において職場暴力の低減に向けて努力し協力しなければならない。

4.4 職場における防止方法

 意思疎通と職場に関して次のようなことを考慮するものとする。
4.4.1 意思疎通

 意思疎通を図ることにより職場暴力の危険性を低減させることができる場合がある。これは次のような形態をとるべきである。

  • 公衆及び顧客への時宜を得た適切な情報

  • 顧客にサービスの質について意見を言う機会を与えること及びこのような意見を考慮に入れること

  • 苦情処理方法

4.4.2 職場における対策

 職場暴力の防止対策について次のことを考慮すべきである。

  • 職員レベル

  • サービスの限度量及び対応能力

  • 仕事量

  • スケジュール

  • 職場の立地

  • 取扱い貴重品の保安状況

  • 単独所在労働者の地理的近接と連絡の可否

  • サービスにおける特定のニーズと一般公衆の期待

4.5 作業環境の改善

4.5.1 物理的環境

 職場の物理的環境は、職場暴力を緩和する要因になり得る場合もある。騒音、照明、温度等についても配慮しなければならない。
4.5.2 職場の保安

 サービス業における職場暴力の危険性を最小限にするため、次のことを考慮に入れなければならない。

  • 場所に基づく特定の危険性及び危険性のレベルの特定

  • 駐車場及び移動手段を含めた職場への往復

  • セキュリティーサービスの利用

  • 職場を見渡せるように遮蔽物の除去

  • 立入り禁止区域の特定

  • 労働者及びそれらの代表との協議後、危険区域におけるセキュリティーシステムの設置

  • 業務上やむを得ない職務以外での武器の所持の禁止

  • 職場でのアルコールと薬物の禁止1)

    1)注)ILO実施基準、職場におけるアルコール及び薬物関連事項のマネージメント(1996年、ILO、ジュネーブ)の第5章を参照のこと。

  • 可能な場合には労働者及び来訪者に対する入場チェックシステム(身分証明書の提示、受付、守衛等)

  • 可能な場合には労働者の身分証明書

  • 可能な場合には来訪者の身元確認

  • 集団セキュリティーについての企業間の協力

4.6 事例発生に対する準備と対応

 暴力の防止、準備及び対応措置は、すべての組織で確立され維持されなければならない。これらの措置は、暴力行為と職場の状況における潜在的危険性を特定し、それらを防止するものでなければならない(4.1−4.5参照)。

 暴力事例に対する組織の対応は、合理的に実行可能な範囲で、肉体的影響及び精神的影響に関して、事例発生のあとに組織の様々な方針表明に対応した計画を含まなければならない。

4.6.1 対応計画

 職場暴力の状況と関連した問題を取り扱うため、暴力行為による心身両面にわたる影響に対処するため、また、職場暴力の影響を受けた者を支援するために、対応計画を策定することは有用である。これらは、将来、有用であることを検証されなければならない。これらの計画は、合理的に実行可能な範囲で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のレベルでの心身の深刻な問題を防止する対策を含まなければならない。
4.6.2 管理面からの支援

 マネージメントは、職場暴力の影響を受けたすべての労働者に対する支援を提供すべきである。特に、マネージメントには次のことを含まなければならない。

  • 暴力と関連した問題の直接的影響を取り扱うこと。

  • 可能な場合には、休暇を取らせることにより職場暴力の影響を最小限に留めること。

  • 被害を受けた労働者の直接の家族に直ちに連絡すること。

  • 必要な場合には迅速に内部調査を開始すること。

4.7 個人に着目した治療及びその他の対応

 訓練と意思疎通の強化に加えて、職場暴力の防止を図り、個人の回復を図るため次のような対応を行わなければならない。
4.7.1 医学的治療

 必要な場合には、職場暴力の影響を受けた労働者が適切な医学的治療を受けられるようにしなければならない。

 医療サービスを有する企業の場合で、そのような診察が可能で、適切な場合には、使用者は、職場暴力に関連する問題があると思われる者を受診させなければならない。

 社内にそのような医療サービスを有さないか、取扱い件数が社内での対応能力を超えている場合には、使用者は、労働者を社外の適当な医療機関を受診させなければならない。

4.7.2 支援

 可能な場合には、労働者代表との協議の上で、不安を話しあう機会あるいはその他の支援、例えばカウンセリングや心理学的治療による支援は、直接的又は間接的に職場暴力の影響を受けたすべての者に有益である。
4.7.3 面談

 可能な場合には、使用者は、労働者代表との協議の上で、職場暴力を受けた労働者に面談を行わなければならない。その内容には以下のことを含む。

  • 暴力の影響を軽減するために個人の体験を話させること。

  • 何が起こったのか理解し整理し、職場暴力を受けた者を支援すること。

  • 落ち着かせることと支援の申し出

  • 事実の解明と情報提供

  • 利用可能な支援の説明

4.7.4 緩和対策

 政府は、公衆医療プログラム、適当な場合には治療機会、社会保障制度、労働安全衛生システムその他政府の主導により、職場暴力の被害者を助成し支援しなければならない。リハビリテーションを利用できるようにしなければならず、また、職場暴力を受けたすべての者に対してその存在を周知しなければならない。

 使用者は、労働者とそれらの代表と協力して、合理的な範囲で、職場暴力の影響を受けた労働者をすべての期間で支援し、回復するために必要な時間を与えなければならない。

 可能な場合には、最初は過度な重圧を避け、職場復帰に必要であるならば特別の労働条件を設け、労働者が職場に復帰できるようにしなければならない。

4.8 苦情及び懲戒手続き

 政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力についての苦情を処理するため苦情処理及び懲戒手続きを策定するために協力して行動しなければならない。これらの手続きは、苦情の調査及び解決のため公正で公平なものとしなければならない。このプロセスは、苦情の内容について暴行の詳細と誰が暴行を行ったか知っている労働者が証言する機会を持つようにしなければならず、また、その事案に対して先入観を持たない審判者により公平で片寄らない公正な聴取が行われるようにしなければならない。迫害を防ぎ、守秘と期限が配慮されること。被害者及び証言者に対する報復は許されてはならない。
4.9 プライバシー及び守秘

 政府及び使用者は、国内法令に従い、苦情及び懲戒手続き、医学的治療、面談、カウンセリング及びリハビリテーションに関するいかなる情報も守秘しなければならない。
5 現状把握及び見直し

 職場暴力の管理と防止に関する職場暴力マネージメントシステムの有効性が確認できるよう定期的な見直しが行わなければならない。この見直しは、当局関係者と関係する労使との連携による見直し結果に基づいて行わなければならない。
5.1 職場暴力防止の方針の現状把握及び評価

 使用者は、労働者及びそれらの代表と協力して、職場暴力防止の方針の有効性を評価しなければならない。これは次のことを含まなければならない。

  • 導入された対策の結果の定期的把握

  • 評価分類を策定することとともに方針と対策が十分に機能しているかどうかのチェック及び必要な場合には対策の強化について定期的なフィードバックを行うこと。

  • 導入された対策について管理側と労働者とで協議する定期的な合同会議を組織すること。

  • 方針実施の評価を含んだ所定のルールに基づいてマネージメント方針を見直すこと。

5.2 職場暴力に関する事項についての職場における教訓

 使用者は、労働者及びそれらの代表と協力して、次の事項を含む職場暴力に関する事項についての戦略的学習プロセスを策定しなければならない。

  • 職場での計画、実施及び評価から得られた教訓を学ぶこと。

  • 職場暴力に効果的に対応するための職場文化、職場組織及び職場環境の質を見直すこと。

  • 職場暴力を撲滅でき、作業環境を改善できる職場で実施されているリスクマネージメントサイクルを活性化すること。

 このような活動は、サービスの質、生産性及びディーセントワークを向上させることにも寄与できるものである。