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テクニカルブリーフ:絶縁ウール

>資料出所:ILO発行「World of Work The Magazine of The ILO」
2001年第38号 p.26-28
(仮訳 国際安全衛生センター)

『World of Work』の「テクニカルブリーフ(技術的要約)」の第1回である。「テクニカルブリーフ」では、ILOと構成メンバーにとって関心のある事柄の技術的背景を詳細に検討し、必要な場合は出版する。第1回目は「絶縁ウールに関するILO実施基準」を検証し、その意義を解説する。

1997年のILO第270回理事会決定を受け、2000年1月にジュネーブで絶縁ウール使用に際しての安全性について専門家会合が開催された。会合には20人を超える専門家が参加した。これらの専門家は、理事会の政府、使用者、労働者グループによる協議をふまえて任命された。会合の結論として「合成ガラス繊維絶縁ウール Synthetic Vitreous Fibre insulation Wool (グラスウール、ロックウール、スラグウール)使用の安全性に関する実施基準」が採択された。理事会は、第277回会合(2000年3月)で同基準の発表を承認した。基準は、綿密な調査活動、ILO構成メンバーとの技術的協議を通じて作成された。その過程では、一部の加盟国が作成した絶縁ウールに関する優良労働規範が、確固たる基礎になった。今回の基準は、労働条件と労働環境改善に向けたILOの取り組みの一環として発表され、世界各国、とくに絶縁ウール使用に関する安全労働規範がないか、または策定中の諸国で適用されることを意図している。

この基準は合成ガラス繊維絶縁ウール(グラスウール、ロックウール、スラグウール)に的を絞っているが、耐熱セラミック繊維(RCF)、RCF以外の耐熱繊維、特殊用途のガラス繊維などの他の合成ガラス繊維も、場合によっては一層危険性が高いことを認識している。この基準は絶縁ウール用に策定されているが、その規定の多くは労働衛生上の危険性に対する一般的な優良行動規範を提示したものであり、RCFやRCF以外の耐熱繊維、また特殊用途のガラス繊維にも適用できる。この意味ではILOの他の実施基準も参考になる。たとえば、「健康に有害な浮遊物質への職業性暴露」(1980年)、「アスベスト使用における安全性」(1984年)に関するILO実施基準には多くの関連規定があり、労働環境の汚染防止の原則を示し、全体的な予防方式を明示している。これらの原則には、危険有害要因もしくはリスクの排除と、無害または危険性の少ない物質への転換(これには特定の労働慣行の禁止を伴なう場合がある)が含まれている。また工学的制御と効果的なプログラムの実行も強調されている。

また専門家は、耐熱セラミック繊維、セルロースおよび炭化ケイ素など、既存の基準等の対象になっていない他の合成および有機繊維も取り上げた新しい基準を作成すべきだと提案した。会合では、実施基準を広範囲に配布するとともに、地域会合や会議などでフォローアップを行って効果を確認すること、科学技術の発展をふまえて将来的に基準を見直すことを勧告した。

「合成ガラス繊維絶縁ウール(グラスウール、ロックウール、スラグウール)使用の安全性に関する実施基準」の内容

基準では、合成ガラス繊維絶縁ウールは純粋な化学的形態としてではなく、むしろ諸成分が混在した1製品として職場に存在していることを念頭に、統合的なアプローチをとるよう奨励している。そして、その製品(絶縁繊維、結合剤などの物質)から発生するあらゆる危険有害要因を取り上げ、実際の労働環境を考慮している。基準の規定は、絶縁ウールから発生する繊維と粉じんへの職業上の暴露を最小化するための実務的な制御対策を提示し、刺激と不快感の防止と、それらの製品を扱う作業による長期的な健康へのリスク回避を目的としている。基準は、絶縁ウール使用の際の安全要件と注意事項について、重要な原則とアプローチを定めている。そして製造者、供給者、管理者、使用者、労働者、管轄当局の一般的責務を明記している。これらすべての人が、製造から廃棄物処理に至る絶縁ウール使用の全過程で重要な役割を果たす。このことで事実上、基準の視野が広げられている。その目的は、あらゆる関係者を対象に適切な責任体系を確立し、国によって異なるさまざまな状況をカバーすることにある。

基準が定める一般的な予防および保護対策、また補足に記載された絶縁ウールの製造および使用に関連した分類体系と暴露データ、リスクアセスメントなどの関連情報は、とくに発展途上国と旧社会主義国にとって有益だろう。基準は、予防および保護対策が絶縁ウールの分類とその潜在的な健康への悪影響に応じたものにすべきであること、管轄当局はどの対策を適用する必要があるのかを確認すべきであることを強調している。この指針は、とくに小規模の業界が労働者のための適切な水準の保護対策を確立する際に役立つだろう。

ILO実施基準の実務的な勧告は、政府と公的機関、使用者と労働者およびその団体、また企業内で具体的な職業上の危険有害要因(騒音、振動、放射線、この場合は絶縁ウール)や業種特有の活動(建設、鉱山など)または設備(トラクター、チェーンソーなど)に関する安全衛生管理責任を負っている管理者、安全衛生委員会など、官民のすべてのセクターで利用されることを意図している。この基準は国内法や規則、普及している基準にとって代わるものではない。この種の規定の枠組み策定にかかわっている関係者に指針を提供し、また国や企業レベルで予防および保護対策を具体化するために策定されるものである。

今回のものを含め、実施基準は主として予防と保護対策の基礎として考案され、労働安全衛生に関するILOの技術的基準とみなされる。具体的には労働環境と労働者の健康の調査、教育と研修、記録保管、重要な関係者の役割と責務、協議と協力などに関し、一般的原則と個別の指針が記載されている。ILO基準は、各国の条件、該当する企業の規模、技術的可能性をふまえて解釈されるべきである。

合成ガラス繊維絶縁ウールに関する背景情報

合成ガラス繊維絶縁ウールは、人工鉱物繊維(MMMF)ではもっとも一般的なものである。MMMFには、この他に耐熱(セラミックを含む)繊維、連続フィラメント、特殊用途繊維などの種類もある。MMMFは、ガラス、岩石などの鉱物から製造される非晶質ケイ酸塩である。家庭、オフィス、工場において、耐熱、省エネ、防音、耐火および防火、家電製品の絶縁、大気圏での隔離、またプラスチック、プラスター、セメント、布地強化などの目的で幅広く使用されている。グラスウール、ロックウール、スラグウールなどの合成ガラス繊維絶縁ウールは、ガラス、岩石、またはスラグから製造される繊維性物質で、公称直径は2ミクロンから9ミクロン、主にシリコン、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、ホウ素、バリウム、カリウムの酸化物で構成される変異性非晶質ケイ酸塩の混合物質である。

ある種のMMMFの使用には長い歴史がある。ガラス繊維の装飾的、芸術的使用は数百年前にさかのぼることができる。しかし広範囲に使用されるのは20世紀になってからである。I.M.Lee博士などによると、これらの繊維は欧州では1840年から製造されはじめ、1897年には鉱物繊維を製造する最初の民間工場が米国で操業を開始した。1985年には世界の生産量は600万トンに達している。米国で製造される全鉱物繊維のうち、グラスウールは約80%を占め、主に防音または断熱材として使用される。欧州では、ガラス繊維とロックウールがほぼ同じくらい製造され、やはり断熱、防音材としての使用が主である(WHO『Environmental Health Criteria 77 Manmade Mineral Fibres』)。これを製造、使用する産業の被雇用者数は20万人を超えると推計されている。職場および家庭で、絶縁ウールに偶然に暴露する人の数は、これを何百万人も上回る可能性がある。

職業上のリスク

労働者や一般市民が絶縁ウールの繊維と粉じんに暴露すると、皮膚、目、呼吸器系への刺激と不快感を生じるおそれがある。一部の絶縁ウールは、ガンなど、健康への長期的な影響を生じさせる可能性があるとの懸念が依然消えない。国際がん研究機構は、1998年に絶縁ウールの評価を行い、2Bグループに分類した。一般に2Bグループは、ヒトに関して限定的な証拠があり、実験動物では十分な証拠が得られない物質に適用される。またヒトに対する発がん性の十分な証拠がない場合、またはヒトのデータは存在しないが実験動物に対する発がん性には十分な証拠がある物質にも適用される場合がある。ときには、ヒトに対しては証拠が不十分であるかデータが存在しないが、実験動物に対しては発がん性を示す限定的な証拠があり、同時に他の関連データからもこれを支持する証拠がある物質が、このグループに入れられることもある。

その評価以降、世界各地で絶縁ウールの健康への影響に関して多くの研究が行われ、産業界でも製品改善に向けた多大な取り組みが行われた。絶縁ウール繊維の化学的成分と物理化学的特性に関しては、とくに生物分解性の面で重要な技術的進展があった。各種の繊維の生物学的非分解性と有害性に関する現在の科学的知識を評価するために、大掛かりなプログラムが遂行された。これに基づき、欧州連合は1997年、特定の条件のもとでは一部の人工ガラス(ケイ酸塩)繊維を発がん性物質の分類から除外することは正当であると考えられる、との判断を下した(欧州委員会指令97/69/EC)。