ヨーロッパの優先事項
- ヨーロッパ全体で手作業や反復動作は優先的な対応が求められるリスクとなっている。(3)(4)(5)(6).
- そこで「作業関連性筋骨格系障害を追放しよう(Turn Your Back on Work Related Musculoskeletal Disorders)」が加盟各国が2000年10月に実施する欧州労働安全衛生週間のテーマに選ばれた。
- 優先事項であるのは、ヨーロッパにおいて作業関連性筋骨格系障害が広がり損失をもたらしているためである。
- 優先事項であるのは、問題のほとんどは既存の安全衛生法を遵守し、良き慣行に関する指導に従うことによって防止または削減しうるからである(4)。
- ヨーロッパ全体のリポートは、加盟諸国が緊急にこの問題に取り組むべきことを示している(3)(5)。
ヨーロッパにおけるMSDの程度
- 筋骨格系障害 (MSD) は広範囲の健康問題を含んでいる。 主なものは腰部の痛み/損傷および、一般に「反復的負荷傷害」として知られる作業関連性上肢障害である。下肢を患うこともある。
- 持ち上げる動作、悪い姿勢、反復動作が原因として挙げられる。疾患の中には特定の作業や職業に関連しているものもある。
- 毎年、あらゆる種類の仕事や雇用部門で働く何百万人ものヨーロッパの労働者が仕事を通してMSDを患っている。ヨーロッパでの調査は、背部、頸部、上肢疾患などのMSDは重大な健康障害と経済的負担をもたらす問題であり、増加しつつあるという十分な証拠を示している(3)(4)(7)。
- MSDは一般に、ヨーロッパの労働者には職業性の健康問題として報告される。30%が腰痛、17%が腕や足の筋肉痛を訴えている。45%は苦痛や疲労を伴う姿勢での作業を報告しており、33%が仕事の中で重量物を取り扱うことを求められている(7)。これらの数値の一部についてEU内の国別内訳を表2に示す。
- 各年に腰痛を訴える上記の30%という数字は4400万人のヨーロッパの労働者に相当する (7)。
- 健康問題は、不快やちょっとした痛みや苦痛から、休業、医療、入院治療を要するより重大な健康状態まで広範囲にわたる。
- 原因が慢性的であるほど治療や回復が不十分であることが多い。従って永久障害が残り、職を失う結果になることさえある。
MSDリスクを認識する
MSDは仕事と深く関係していることを示す明白な証拠がある (4)。原因は作業システムの設計と関係していることが分かっている(4) (7)。主なリスクファクターを表1に示す。
表 1 MSDリスクの増大要因
作業の身体的側面
荷
悪い姿勢
非常に反復的な動作
激しい手の使用
身体の組織への直接的な機械的圧力
体の振動
労働環境と作業体制
仕事のペース
反復作業
労働時間のパターン
給与システム
単調な作業
疲労
低温の労働環境
労働者が作業体制をどのようにとらえているか
心理社会的労働要因 |
こうしたリスクファクターは非常に多くのヨーロッパの職場でみられる。例えば、EUの労働者の7%は、自分たちの仕事は簡単な反復作業であるといい、57%は反復的な手と腕の動作であるという。56% は厳しい期限に追われており、54%は高速の仕事についていかなくてはならない。42%はいつ休憩をとるか自分で決める自由はなく、31% は自分たちの仕事のペースについて選択の余地はない(7)。
リスクグループ
- 手作業の労働者は熟練、非熟練を問わず、最もリスクが高い。
- 従事する業務の種類が主たる原因で、男性よりも女性労働者のほうが上肢疾患を患うことが多い(4)(7)。例えば、EUの女性労働者の35%が恒常的な反復作業を行っているのに対し、EUの男性労働者では31%である(7)。
- ヨーロッパの中高年労働者は、より多くのMSD問題を訴えている。例えば、腰痛を訴える人のEU平均は30%であるが、15-24歳で25%、55歳以上で35%である(7)。多くの中高年労働者が、より多くの時間をMSDリスクの高い労働状況で過ごしているだろう。さらに、仕事は一般的に若く健康な男性労働者を想定して考えられている(7)。
- 期間雇用や職業紹介所との契約などによる不安定な雇用の労働者は、特に反復作業や苦痛や疲労を伴う姿勢での仕事をさせられている(7)。
経済的負担を減らす
- 作業関連性筋骨格系障害は職場においても家庭生活においてもこれに冒された人々に痛みと苦しみをもたらす。
- 正確なデータは無いが、加盟諸国の推定によれば、あらゆる職業性疾病による経済的損失は国民総生産の2.6%から3.8%である(8)。
- 損失の大きな部分−おそらく40%から50%−は筋骨格系障害によるものであろう(7)。 手元にある推定によれば、MSDによる損失はGNPの0.5%から2%である(4)。
- ヨーロッパでは毎年職業性疾病のために6億日以上の労働日数が失われている(7)。
- ヨーロッパにおけるビジネスの損失には次のものが含まれる。生産のロス、スタッフの病気・補償および保険の費用、熟練スタッフの喪失と新規採用・訓練の費用、不快感や疾病が従業員の労働の質に与える影響。
- これらの職業性疾患の予防は大切な事業である。
MSDの予防
多くのMSDは、リスクファクターの評価に基づいて作業や職場に修正を加えるなど、エルゴノミクス的措置を講じることにより予防しうる(4)。この原則は現行の欧州指令や加盟国の法律にすでに正式に盛り込まれている(10)。実施のためのガイドラインや予防ツールも利用可能である。さらに詳細な情報についてはファクトシート「筋骨格系障害の予防」を参照のこと。
詳細情報の入手
欧州労働安全衛生週間と筋骨格系障害の予防に関するより詳細な情報は欧州安全衛生機構のWebサイトから入手できます。このサイトで出版物の全文を無料でダウンロードすることができます。http://osha.europa.eu リンクhttp://osha.europa.eu/ew2000/では欧州労働安全衛生週間の見所を知ることが出来ます。
参考文献
- "Turn your back on work related musculoskeletal disorders"(作業関連性筋骨格系障害を追放しよう) 欧州労働安全衛生週間 2000のための欧州安全衛生機構広報リーフレット
- 欧州安全衛生機構ファクトシート "Preventing work related musculoskeletal disorders"(作業関連性筋骨格系障害の予防)
- "The State of Occupational Health in the member Sates of the EU"(EU加盟国における労働衛生の状況)欧州安全衛生機構レポート, 2000
- "Work-related neck and upper limb musculoskeletal disorders"(作業関連性頸及び上肢筋骨格系障害)欧州安全衛生機構レポートおよびファクトシート "WRULD: summary of Agency report"(WRULD : 欧州安全衛生機構レポートの要約), 2000
- "Repetitive Strain Injuries"(反復的負荷傷害)欧州安全衛生機構レポート, 2000
- "Priorities and strategies in Occupational safety and health Policy in the Member States of the European Union"(EU加盟国における労働安全衛生政策の優先事項と戦略)欧州安全衛生機構レポート, 1997
- P. Paoli, Data from the European survey on working conditions(労働環境に関する欧州調査からのデータ) European Foundation for the Improvement in Living and Working Conditions, 未公表記事, 1999年6月
- "Economic impact of occupational safety and health in the Member States of the European Union"(EU加盟国における労働安全衛生の経済的影響)欧州安全衛生機構レポート, 1998
- Working conditions in the European Union (EUにおける労働環境:1996年調査の要約) European Foundation for the Improvement in Living and Working Conditions
- 欧州安全衛生機構のWebサイトはEUの法律及び加盟国のサイトにリンクしており、各国の法律やガイドラインを見ることができる。
表 2
|
オーストリア |
ベルギー |
デンマーク |
フィンランド |
フランス |
ギリシャ |
ドイツ |
アイルランド |
イタリア |
ルクセンブルグ |
ポルトガル |
スペイン |
スウェーデン |
オランダ |
イギリス |
E
U |
職業上のリスクと健康問題 |
腰痛 |
31 |
21 |
30 |
33 |
29 |
34 |
44 |
13 |
32 |
32 |
39 |
35 |
31 |
17 |
23 |
30 |
腕や脚の筋肉痛 |
14 |
9 |
24 |
29 |
19 |
13 |
37 |
6 |
19 |
13 |
31 |
24 |
24 |
10 |
11 |
17 |
職業に起因する欠勤 |
過去12ヶ月間の職業に起因する病欠の割合(%) |
36 |
26 |
15 |
30 |
21 |
34 |
18 |
16 |
17 |
29 |
22 |
19 |
13 |
27 |
16 |
23 |
出典: Second European survey on Working Conditions (1996). European Foundation for the Improvement of Living and Working Conditions.