欧州安全衛生機構は、 EU加盟国の今後の研究ニーズについての情報を取りまとめた。これは新しいレポート「EU加盟国における労働安全衛生研究の今後のニーズと優先課題」の基礎となっている。.
その目的は、欧州委員会の研究プログラムの活性化をはかるために、こうした研究のニーズと優先課題に関する最新情報を収集すること、EUの組織体と加盟国との共同研究を向上させること、そして今後10年間の労働安全衛生研究の指針とすることである。
加盟各国には、明らかになりつつあるリスクと今後の労働安全衛生研究のニーズおよび優先課題について報告を求めた。各加盟国にはそれぞれの活動に応じて、ソーシャル・パートナーならびに全関係研究機関の見解を報告に含めるよう依頼した。最終的に刊行されたレポートの要約はこのような加盟各国からの報告に基づいている。
レポートには今後の労働安全衛生研究のニーズと優先事項に関する総合的な結論が記載されており、その要旨は下記のとおりである。
このレポートは、EU加盟国内での今後のヨーロッパの労働安全衛生研究のニーズと優先課題についての議論を支援することを目指している。そこで欧州安全衛生機構はレポートの結論に関してフィードバックを得るため、2000年にフォローアップ・プロジェクトを実施する。そこで得られたコメントに基づき、EUにおける今後の研究プログラムの優先課題をまとめる際に利用する文書として、整理統合するのが目的である。
10項目の全般的優先課題が明らかになった。加盟国の少なくとも3分の2が今後の労働安全衛生研究の優先課題として指摘した項目である。(表 1参照)
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心理社会的リスクファクター | |
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エルゴノミクス的リスクファクター | |
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化学的リスクファクター | |
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安全性のリスク | |
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中小企業におけるリスクマネジメント | |
職業病その他の職業性疾病 | ||
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特定作業におけるリスク | |
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リスクアセスメント | |
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危険物質の代替 | |
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物理的リスクファクター |
優先課題として言及された頻度が次に高かったのは安全性のリスクであり(特にヒューマン・ファクター)、その次が中小企業におけるリスクマネジメントであった。中小企業は、特定の集団および就労体制問題における優先課題に関するカテゴリーでも上位を占めた。
加盟国の3分の2が言及したのは、職業病その他の職業性疾病、特定作業におけるリスク、リスクアセスメント、化学物質の代替、物理的リスクファクターであった。
職業病その他の職業性疾病の分野でも、加盟各国は、心理社会的及びエルゴノミクス的要因によって引き起こされる問題、新しい技術の導入による複雑な複合要因により起こされる問題の研究を強化する必要性を指摘した。物理的リスクファクターとしては、騒音、電磁場を特に重要視しているようであった。
リスクマネジメントとリスクアセスメントに関連する研究の優先度が目立った。上述のとおり、危険な化学物質や発癌物質に関するリスクアセスメントについては、より害の少ない物質での代替による化学的リスクの管理と同様、特に関心が高い。中小企業におけるリスクマネジメントにも言及があった。リスクマネジメントに関しては他に、労働安全衛生マネジメントシステム(OHS-MS)、認証・適性問題が重視された。
中小企業は特別のニーズを持つものと認識され特筆された(表 2 参照)。高年労働者や労働能力が低下した労働者などにも、加盟諸国は特段の関心を示した。変化する労働パターンに関しては、テレワーキング(情報通信技術による在宅勤務)と下請けが今後の研究の重要分野であることが明らかになった。専門家セミナーでは、これに加えて自営業が注目を浴びた。
リスクアセスメントは依然として「管理と技術」分野で最優先の重要課題であると考えられている。労働安全衛生マネジメントシステム(OHS-MS)を他の管理システム(品質管理、環境問題など)に統合することも、重要な課題であることが明らかになった。外的な援助、例えば他からの学習(最善の慣行、ベンチマーク・テスト)や知識・適性の開発などが重視された。
技術開発に関しては、リスクを除去あるいは低減するための新しい製品、新しい生産方法、工程、設備の開発と使用に関わる研究の必要性を加盟各国は強調した。化学物質の代替にも関心を示した。
「労働環境」分野のリスクが最も注目を集め、リスクのコントロールの仕方についての知識に依然として隔たりがあることを示した。
この分野が相対的に高い関心を集めたのは、職業上のリスクの予防には健康と安全の両面を重視することが大切であるとの認識の高まりを表すものである。
特定作業におけるリスクに言及したのは数カ国だけであった。農業、製造業、建設、運輸、保健・社会福祉事業が特に関心を集めた。特別の職業グループに対する関心を示した国もある。
表 2. 主要な労働安全衛生研究分野の優先課題社会および就労体制
管理と技術
労働環境におけるリスク
保健効果
特定のトピック
キー: あるカテゴリーに関し一つまたは複数のリスクを特筆した加盟国の数 ![]() ![]() ![]() ![]() |
加盟各国は、欧州レベルでの協力の必要性が高いのは共同研究プロジェクトやプログラムの計画・実施であると結論を下した。
欧州安全衛生機構の「研究に関するテーマ別ネットワーク・グループ (労働と健康担当)」が調査の実施と監視を支援した。同グループはEU加盟国の労働安全衛生専門家、ソーシャル・パートナー、欧州委員会から構成されている。加盟各国の国内報告書の分析と、このレポートの要約の作成には、イギリスの労働安全衛生研究所(HSL)が助力した。作業は「研究主題センター − 労働と健康」(1) の枠組みの中で進められた。
欧州安全衛生機構はこのプロジェクトの予備的結果について討議するために1999年6月、ビルバオで専門家セミナーを開催した。セミナー参加者は、加盟各国の労働安全衛生研究に関する意思決定者及び専門家、欧州委員会、欧州と米国の研究機関とソーシャル・パートナーである。
レポートの要約は、欧州安全衛生機構のWebサイトから入手できます。 http://osha.europa.eu/publications/reports/resprior/
欧州安全衛生機構が発行する印刷版 Future Occupational Safety and Health Research Needs and Priorities in the Member States of the European Union(EU加盟国における労働安全衛生研究の今後のニーズと優先課題), 2000, ISBN 92-828-9254-9 は、ルクセンブルクのEC出版局、EUR-OP (http://eur-op.eu.int/)から直接入手できます。販売代理店を通して注文することも可能です。本体価格は7ユーロです(VATが別途、かかります)。
本ファクトシートはすべてのEU言語で下記サイトから入手可能です。http://osha.europa.eu/publications/factsheets/
1 研究主題センター − 労働と健康 (Topic Centre on Research - Work and Health) はEU内10カ所の主要労働安全衛生研究所のコンソーシアムである。