このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ海外安全衛生情報:安全衛生情報誌雑誌 Fact Sheet > EU加盟国における作業関連性筋骨格系障害に関わる社会経済的情報目録

EU加盟国における作業関連性筋骨格系障害に関わる
Inventory of socio-economic information about work-related musculoskeletal disorders in the Member States of the European Union

資料出所:欧州安全衛生機構ファクトシート:FACTS 9
原文はこちらからご覧いただけます(別窓)
(仮訳 国際安全衛生センター)

目次:

  1. 筋骨格系障害の発症率
  2. 筋骨格系障害の職業との関連性
  3. 職業病
  4. 筋骨格系障害による短期欠勤
  5. 筋骨格系障害による長期欠勤
  6. 筋骨格系障害による転職
  7. 職場復帰/筋骨格系障害の回復
  8. 筋骨格系障害に関わる医療費とリハビリ費用
  9. 職場でのリハビリ
  10. リハビリ後の勤続年数の延長期間
  11. 作業関連性筋骨格系障害による所得の損失
  12. 作業関連性筋骨格系障害による所得移転
  13. 企業が負担する費用
  14. 作業関連性筋骨格系障害の本人の損失
  15. 作業関連性筋骨格系障害に要する費用の対GNP比率

作業関連性筋骨格系障害 (MSD) に関わる社会経済的情報目録は、これら職業性疾患に関わる具体的なコスト要素についてEU加盟国の既存情報をまとめたものである。筋骨格系障害の予防あるいはこうした健康問題を抱えている人達の再雇用に関心を持つすべての人が利用できる、基本的な社会経済的情報を提供することを目的としている。

この文書のねらいは作業関連性筋骨格系障害に起因する総コストのモデルあるいは定義を示すことではない。MSDに関わる特定の社会経済的要因について加盟国内で利用可能な関連情報を系統的に整理することをねらったに過ぎない。 このように本文書は欧州委員会の労働安全衛生諮問委員会 (ルクセンブルグ)の要請により背景情報を提供する。

ここに提供するすべての情報は、加盟国内の既存の文献、あるいは当方の加盟国内ネットワーク・パートナー (国内フォーカル・ポイントと "テーマ別ネットワーク・グループ システムとプログラム"の会員)から寄せられた参考文献に基づいていることに留意してほしい。 それぞれの統計あるいはデータには出典が示してある。この目録の内容は国内フォーカル・ポイント (フォーカル・ポイント・グループのソーシャル・パートナー代表を含む)との協議の対象となっている。

計算法や定義が異なることが多く、データ間の直接的な比較には疑問が生じ得ることを留意すべきである。しかしながら、利用可能なデータの範囲を考えると、ここに載せた情報は現状についての有用な概観を示しているものと確信している。

I. 筋骨格系障害の発症率

[1]. 欧州基金(Dublin)の「労働環境に関する第二次欧州調査(1996年)」(The second European Survey on Working Conditions (1996) from the European Foundation)はMSDに関連する特定の疾患の発症率について以下のデータを提供している。

オーストリア ベルギー ドイツ デンマーク スペイン ギリシャ フランス フィンランド イタリア アイルランド ルクセンブルグ オランダ ポルトガル スウェーデン イギリス E
U
腰痛 (%) 31 21 34 30 35 44 29 33 32 13 32 17 39 31 23 30
腕、脚の筋肉痛 (%) 14 9 13 24 24 37 19 29 19 6 13 10 31 24 11 17

[2]. ドイツでは、全従業員の約37%が就業中あるいは就業後の腰痛を訴えた。29%が頸部・肩痛、13% が腕と手の痛みである。 腰痛を訴えたのが一番高かったのは建設部門 (55%)および鉱業・採石部門(55%)である。

[3]. スペインでは、職業性腰痛が32.9%と報告され、頸部痛29.6%、上背部痛19.7%、脚11.7%、足・くるぶし8%、肩7.2%、臀部6.9%、膝6.7%、腕6.2%、手5.4%となっている。あわせて約 69.2%の労働者が何らかの筋骨格系障害を訴えた。

[4]. イギリスの1995/6年の調査 (1995年のデータ、1995/6年の価格、1999年に計算結果を更新) は、過去12カ月間就労していた約75万人が、作業関連性筋骨格系障害の発症を報告したことを示している。これに関わっているのは、背中を患っているケースが423,000件、腕と頸部が314,000件、下肢が104,000件である。

[5]. イタリアでは、北部および中部の様々な地域の54の病院の調査が、労働者(平均年齢36歳) の8.4%が 過去12カ月間に少なくとも1回は急性の腰痛を経験したことを示している。これは平均発症率の4倍である。

[6]. イギリスでは、MSDを患っている労働者の職業別疾病率は、技能職やその関連の職業で最も高く (5.1%) 、専門的職業 (1.5%)で最も低い。 部門別疾病率では建設部門 (4.7%)が最も高く、保健・社会福祉関係 (4.3%)がこれに続く。労働人口全体の平均は2.7%である。

[7]. ドイツでは、全従業員の8.8%が背・腰部、2.7%が頸部・肩、3.1%が腕・手に関わる職業性疾患を患っている。

[8]. フィンランドでは、頸部痛の発症率は人口の26%と推定されている。秘書その他の事務職, 工場労働者、建設現場労働者などの職業グループで、特に発症率が高いことが判明した。

II. 筋骨格系障害の職業との関連性

[9]. オランダでは、MSDに起因する病欠(1年未満)の職業との関連性は、すべての病欠の約13%と推定されている。作業関連性筋骨格系障害による就労不能(1年以上)の職業との関連性は同様におよそ40%と推定されている。本人の自己申告のみに基づいて計算すれば、後者の数字は67%に上昇し、医師の判断に基づいて計算するとおよそ38%になる。

[10]. デンマークでは、MSDのおよそ33%は職業と関連していると推定されている。

[11]. フィンランドでは、1992年と1996年にMSDのおよそ33%は職業と関連していると推定されている。

[12]. 1996年にイギリスで行われた背・腰部痛の調査では、痛みの発症の最も一般的な理由は職業に関連するものであった。約25%が痛みは従事している仕事の種類に関連していると考え、12%は業務上の事故やけがを理由としてあげた。

[13]. あるオーストリアの調査によると、脊髄に疾患を発症する確率は職場で多重の可能性要因にさらされることによって著しく増加することが明らかになった。何の要因もない場合はその確立は1.7%であるのに対し、一つの要因で10.1%、二つの要因で13.8%、三つの要因で18.6%、四つから五つ要因で26.2%、六つ以上の要因で38.2%である。

III. 職業病

[14]. スペインでは、労働環境に関する第三次国民調査(1998)の対象として抽出された労働者の3.2%が、認定職業病あるいは職業病として認定されようとしている病気を患っていると述べた。その病気の約半数はMSDにかかわるものである。

[15]. イタリアでは、労働医学研究所(Institutes of Occupational Medicine)のデータが、急性腰痛症の60%から70%のケースに労働災害に起因する挫傷がみられることを示している。この発生率および発症率は一貫して変わらない。この数字は申告されていないため、公式データでは過小に見積もられている。

[16]. フィンランドで筋骨格系の職業病として新たに認定されたのは1,279件 (1998年) で、職業病全体の認定数 (計4,816 件)の約25%である。

[17]. フランスで筋骨格系の職業病として認定されたケースは、1992年の2602件から1996年の6183件に急速に増加している。

IV. 作業関連性筋骨格系障害による短期欠勤 (1年未満)

[18]. イギリスでは、過去12カ月間に就労していた75万人が作業関連性筋骨格系障害を患っていると報告した。このうち約33万5千人が職業性疾患の結果として仕事を休まざるを得なかった。 推定損失労働日数は約986万2千日である (背・腰部482万日、腕部および頸部416万2千日、脚部220万4千日)

[19]. ドイツでは、疾病のために喪失した全労働日の28.7% (1億3500万日) がMSDを原因としている。作業関連性筋骨格系障害による病欠ののための損失は240億ドイツマルクと推定されている。

[20]. フィンランドでは、9日をこえる病欠全体の約11 % が作業関連性筋骨格系障害に起因している。

[21]. オランダでは、作業関連性筋骨格系障害による病欠(1年未満) の損失額は20億1900万ギルダーと推定されている (1995年) 。これは職業に関連する病欠全体の約46%である。

V. 作業関連性筋骨格系障害による長期欠勤

[22]. オランダでは、作業関連性筋骨格系障害に起因する就労不能(1年以上)の損失額は23億6300万 ギルダーと推定されている (1995年)。

[23]. フィンランドでは、新規の身体障害年金受給者 (早期退職)の31 %はMSDが原因である。MSDの職業との関連性は3分の1と推定されている。その結果、1996年には約6,600労働年が作業関連性筋骨格系障害によって失われた。

[24]. ドイツでは (1997年) 、およそ7万人の労働者が(作業関連性) 筋骨格系障害が原因で早期退職した。これらは職業病として認定されていない。 早期退職全体の約25.9%がMSDによるものである。

VI. 作業関連性筋骨格系障害による転職

[25]. イギリスでは前年に(何らかの期間)就労した人のうち約58,000人が作業関連性筋骨格系障害が原因で転職を余儀なくされたものと推定される。

VII. 職場復帰/筋骨格系障害の回復

[26]. 腰痛で3カ月間欠勤した労働者の「職場復帰」に関する調査は、当該加盟国(スウェーデン、ドイツ、デンマーク、オランダ)間でかなりの違いがあることを示している。とりわけ医療および医療外の措置に関連して、また労働再開のパターンにおいてである。

[27]. 「職場復帰」に関する調査は、3カ月間欠勤した労働者のうち、12カ月後に労働を再開した割合は、スウェーデン約56%、ドイツ53%、デンマーク37%、オランダ73%。 2年後にこの数字はデンマーク (43%)、スウェーデン (66%)で増加した。オランダ (72%)はほぼ横ばい、ドイツ (43%)では減少した。この相違の中で人口統計学上の要因に帰せられるのは一部のみである。社会給付とリハビリプログラムがどのように機能しているか、雇用の保護(の欠如)が職場復帰率に大きく影響していると思われる。

[28]. 「職場復帰」に関する調査は、12カ月後に労働を再開した労働者のうち、ほとんどは元の事業者 (スウェーデン 97%、ドイツ 96%、デンマーク 59%、オランダ 89%)に雇用されたことを示している。デンマークでのみ、かなりの人が新しい事業者のもとで、仕事を再開した。(12カ月後の41%が24カ月後には51%に増加している)

[29]. 何らかの労働災害あるいは職業病の後の永続的な職場復帰は、オーストリアでは58%、ベルギーでは55%、フランスでは57%〜60%と推定されている。

VIII. 筋骨格系障害に関わる医療費とリハビリ費用

[30]. イギリスでは、作業関連性筋骨格系障害のための医療費は8400万ポンドから2億5400万ポンドの間と推定されている。背・腰部筋骨格系障害には4300万〜1億2700万ポンド、腕部および頸部筋骨格系障害が、3200万〜1億400万ポンド、脚部筋骨格系障害には1700万〜5500万ポンドの費用がかかっている。変動の幅は、医療費の範囲と、職業性疾病患者が過去1年間にとった一般診療、入院、外来診療の様々なパターンを反映している。

[31]. スペインでは、毎年、全労働者の約10%が仕事に起因するなんらかの症状のために診察を受けていると推定されている。受診率の最も高いのは社会福祉事業、化学産業、管理・銀行業務である。最も低いのは貿易・ホテル・レストランおよび建設部門である。最も一般的な受診理由は背および腰痛、目の疾患、ストレス、頸部痛である。

[32]. オランダでの作業関連性筋骨格系障害のための医療費の総計は、4億4100万ギルダーと推定されている(1995年) 。これは職業関連の医療費全体のおよそ30%である。この内訳は、病院の費用2億4900万、家庭医が1900万、地域医療介護が200万、診療補助者が1億2800万、移動介助に1300万、薬に3000万ギルダーである。

[33]. フィンランドの作業関連性筋骨格系障害に関わる医療費は1996年現在、公共保健医療サービスへの支出 (歯科治療、交通費、投資をのぞく) の2%前後、およそ6億7000万マルカと推定されている。

[34]. オランダでの調査は、仕事に起因した身体的症状を訴える人のうち約40%が家庭医の診察を受け、22%が専門医、1 %が病院で診療を受けたことを示している。

[35]. 作業関連性筋骨格系障害が労働時間の損失につながる確率は、人間工学的な対策が施されていない場合は、対策がとられている場合に比べ3倍高い。投資効果で見るとオフィス環境の改善措置に使った費用の17.8%が帰ってきた。

[36]. ベルギーでは疾病一件あたりの医療費平均は1,754 ベルギーフランであるのに対し、腰痛では2,488ベルギーフランである。この相違は主に以下の点でより多くの費用がかかるためである。理学療法 (451 対 115)、放射線治療 (370 対 67)、専門家による診察 (243 対 112)。

[37]. スペインでは、労働環境に関する第三次国民調査の回答者の約12%が、職業性の疾患に関し医師の診察を受けたと述べた。このうち約30%が背および腰痛に関連していると推定される。

IX. 職場におけるリハビリ

[38]. 「職場復帰」に関する調査は、12カ月間の欠勤後、元の雇用者のところで仕事を再開した労働者のうち、多くは以前とは異なる仕事を行っていた (スウェーデン 16%、ドイツ 12%、デンマークおよびオランダ 26%)ことを示している。24カ月後、この割合はデンマークでは32%、スウェーデンでは23%に増加した。一方ドイツでは1 %に減少した。

[39]. 「職場復帰」に関する調査は、24カ月間の欠勤後に仕事に復帰した労働者のうちどのくらいが自分に合った仕事に就くことができたかを示している。同じ勤務先の場合、スウェーデンでは20%、ドイツでは19%、デンマークでは 38%、オランダでは27%であった。また勤務先を変えた場合は、スウェーデンで13%、デンマークで19%、オランダで15%である。

X. リハビリ後の勤続年数の延長期間

[40]. 「職場復帰」に関する調査はまた、12カ月後に仕事を再開した労働者のうちのどの程度が、24カ月後にも仕事を続けていたかを示している。スウェーデン82%、ドイツ68%、デンマーク81%、オランダ86%。

Xl. 所得の損失

[41]. イギリスでは、職業性疾病が原因で終身、就労をあきらめざるを得ない個人の、退職年齢までの所得の損失は平均51,000ポンドであると推定されている。

[42]. 「職場復帰」に関する調査はまた、24カ月後に仕事に復帰した労働者はほとんど(スウェーデン、ドイツ、デンマーク、オランダにおいて) 病欠期間の開始時と比べて同様またはより高額の給与を得ていたことを示している。

XII. 所得移転

[43]. オランダでは、作業関連性筋骨格系障害に起因する就労不能 (1年以上の期間)に対する補償制度関連支出総額は、23億6300万ギルダーと推定されている (1995年) 。これは同制度に関連する支出全体の約37%である。

[44]. フィンランドでは (1996年)、約2億5600万マルカの国民医療手当てが作業関連性筋骨格系障害のために費やされたと推定される。−手当全体の33%になる。

XIII. 企業の負担する費用

[45]. 英国では、個々の企業にとって1件当たりの作業関連性上肢障害の総費用は5,251 ポンドと推定された。 これには従業員が喪失した時間、調査時間、業務の非効率、治療費、労働衛生のための医師および看護師、衛生安全委員会事務局との連絡、費用の請求および和解などのコストが含まれる。腕部振動症候群は1件あたり平均11 ,498 ポンドと推定された。

[46]. ドイツでは、疾病によって失われた労働日全体の28.7% (1億3500万日)がMSDに起因している。結果として生産の損失は約240億ドイツマルクに達している。

XIV. 本人の損失

[47]. イギリスでは、作業関連性筋骨格系障害の個人的なコストは約22億ポンドと推定された。 個人的なコストは生活の質(QOL)あるいは一般的な福祉の喪失を表す。すなわち疾病にともなう痛みや苦しみ、家族や友人の心配や悲しみ、永続的な障害の結果生じる快適さの消失などである。

XV. 国民総生産 (GNP)に占めるMSDの総費用

[48]. イギリスでは、1995/1996年度の作業関連性筋骨格系障害 (患者個人の損失) の1年当たりの総コストは56〜58億ポンドと推定されている。これはイギリスの1995/1996年度のGNPの0.79-0.82%に相当する。

[49]. オランダでの頸部痛にかかわる総費用は約6億8700万米ドルに達すると推定されている。内訳は直接費1億6000万米ドル、間接費5億2700万米ドルで、これはGNPの約0.1%に相当する。

[50]. オランダでは、 作業関連性筋骨格系障害による就労不能の総費用(医療費に短期および長期欠勤の損失を加えたもの) は48億2300万ギルダーと推定されている(1995年)。これは就労不能による損失全体の約37%である。

[51]. ドイツでは、作業関連性筋骨格系障害による損失総額はGNPの約0.61% (職業性疾病による損失総額の約29%に等しい)に相当すると推定されている。これには労働日の喪失と約230億ドイツマルクの生産量の低下分が含まれる。

[52]. フィンランドでは、作業関連性筋骨格系障害の社会経済的コストの総額は約57億マルカと推定された。これは1996年のGNPの約1 %であった。

[53]. デンマークでは、作業関連性筋骨格系障害の社会経済的コストは11億5000万 ECUと推定された(1992年)。これはデンマークの職業に関連した社会経済的コスト全体の約31%であった。

このページの先頭へページの先頭へ