腰痛と腰部傷害を含む作業関連性腰部障害はヨーロッパにおける重大かつ増加しつつある問題である。本ファクトシートは、腰部障害の発症率・原因・作業に関連した危険要因・効果的な予防対策に関する欧州安全衛生機構レポートの主要な調査結果に焦点をあてている。ここでわかったことは、他の作業関連性背部疾患にも言えるかもしれない。このレポートは腰部障害に限定している。
調査は、60%から90%の人々は人生のどこかの時点で腰部障害を患い、ある一つの時点でとらえれば15%から42%の人々が腰部障害を患っていることを示唆している(調査人口と使用されている腰痛の定義による)。労働環境に関する欧州調査のデータは (1)ヨーロッパの労働者の30%は腰痛を患っており、腰痛は報告されているあらゆる作業関連性障害を含むリストのトップに位置していることを示している。 別の最近の欧州安全衛生機構レポートは(2)、いくつかのEU加盟国が手作業による傷害と腰部損傷の増加を報告したことを示している。
ほとんどの場合、患者は腰痛の発症から完全に回復する (60〜70 %は6週間以内、70〜90 %は12週間以内に回復) が、これを合算すると、大量の時間が労働から失われることになる(3) (4)。さらに腰部障害の再発率は非常に高い。1年以内の再発率は20%から44%で、生涯の再発率は85%に上ると報告されている。一度損傷を受けると腰部は傷つきやすくなり、職場改善されないと再発の可能性はさらに高まるということに留意しなければならない。
腰部障害はあらゆる種類の産業や職業を通じて非常に一般的であるが, いくつかの調査は発症率がある種の産業や特定の職業で特に高いことを示している。特に高い発症率がみられるのは、例えば、農業労働者、建設労働者、大工、トラックやトラクター運転手、看護師、看護助手、清掃員、用務員、家政婦である。EU内での腰部障害の発症率は男女間ではあまり変わらないようである(1)。.
正確な数字はないが、あらゆる職業性疾病の経済的コストに関する加盟国の推定は、国民総生産の2.6から3.8%の範囲である(5)。しかしながら、実際の社会的コストを見積もるのは困難なので、この数値はもっと高いかもしれない。オランダのある調査は(6)、社会にとっての背痛のコスト総額を国民総生産(1991年)の1.7%と推定した。
腰部障害にはヘルニア、脊椎辷り症などの脊椎円板疾患、筋肉および軟部組織損傷が含まれる。正常な退行性老化プロセスに加え、疫学調査は職場における劣悪なエルゴノミクス的要因が健康な腰部に疾患をおこしたり、すでに傷害を受けている腰部のすでに起こっている変化を加速させることを示している。劣悪な人間工学的労働要因は背中に対する負担や緊張を増加させる。これは、持ち上げる、ひねる、曲げる、ぎこちない動作、伸ばす、静止した姿勢など、多くの状況から生じる。作業には肉体労働、手作業、車両の運転 (体全体の振動が、あらたな促進要因となることが知られている)などが含まれる。
脊椎円板に関連した疾患はエックス線や骨スキャンニングで検出できるかもしれないが、筋肉その他の軟部組織損傷などの他の異常は、この方法では検出できないことが多い。実際、腰部障害の95%は"非特異性"と呼ばれている。あらゆる種類の作業関連性腰部障害の予防と削減に、以下に示した共通のアプローチをとることが可能であることを証拠が示している。
多くの調査記事が、たくさんの肉体的、心理的あるいは個人的要因など、腰部障害の発生確率を調査して発表された。就労中の心理的要因に取り組んだ疫学調査の数は、肉体的負担に的を絞った研究よりもかなり少ない。さらに、関連性は一般に生物力学的要因のほうが高い。しかしながら、心理社会的要因と腰部障害を結びつける証拠は増えている。それが肉体的要因と同時に発生した場合は特に顕著である。腰部障害の発症はまた、無駄の多い作業方式、腰痛配慮のない仕事のやり方と強く結びついている。 作業に関連した危険要因を表 1に示す。
表 I: 腰部障害の要因となる作業肉体的要因
心理的要因
作業方式に関わる要因
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腰部障害を予防する対策には職場ベースの対策と保健医療ベースの対策の両方が含まれる。本当の効果的な問題の取り組みには、両方の対策を含む総合的なアプローチが必要であるとの認識がますます高まっている。職場においては、エルゴノミクス的対策の効果に対する支持の高まりがある。エルゴノミクス的対策は、労働者と同様に、設備、労働環境、就労体制の影響を考慮する"全体論的"あるいはシステム・アプローチに基づいている。エルゴノミクス的アプローチには労働者が全面的に参加することが、その効果を発揮するために重要である。
主要な予防対策の概要を表 2に示す。これらは一次予防 (原因の除去)および二次予防 (治療とリハビリ)のための対策である。再び専門家の意見は、一次的予防に重点を置くべきではあるが、これらすべての要因を一緒に検討する必要があるということである。たとえば、訓練作業におけるエルゴノミクス的要素が貧弱なまま効果を上げにくいこと、基本的な訓練には、たとえば、安全な身体的取扱い技術と同時に、潜在的な危険要因の見つけ方、もし見つけたらどう対処するかをとり入れることが必要である。
表2:腰部障害を予防する対策
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ヨーロッパの事業者は"手作業に関する指針" (欧州評議会指針 90/269/EEC) (7)の中で、手作業による腰部傷害から労働者を保護するための重要な情報を既に手にしている。この指針は荷物を手作業で扱う際の腰部傷害のリスクを予防することを特段の目標として策定された。指針の別表に掲載されたリ危険要因のリストとともに、現在の知識に基づいて、エルゴノミクス的アプローチに従った最低限の安全衛生要件を含んでいる。雇用者は、評価を行い予防対策を選択する際には、以下に示す危険要因に注意を払うべきである。
腰部障害と他の筋骨格系障害との間には厳密な区分はないので、腰部障害を他の作業関連性背部疾患と分けるのはいくぶん不自然に思われる。職場におけるあらゆる筋骨格系障害に対して共通のアプローチが必要である。(たとえば欧州安全衛生機構レポートおよび筋骨格系障害に関するWebサイトの情報 (8) (9) (10)を参照)
"手作業に関する指針"に含まれるエルゴノミクス的アプローチのための文献は、事業者がとるべき措置の基本として支持されている。その適用を支援するために、今後の調査研究の重点は、どうすればエルゴノミクス的アプローチを実行上、最も効果的に利用できるかに置かれるべきであると、レポートは提案している。このような調査研究には以下のものが含まれる。
今後の研究の重点は、職場での障害を予防するための対策に置かれるべきであると提案されている一方で、この問題の研究室での分析に関わる数々の領域が提示されている(起こり得る障害の測定技法、関節運動測定法、脊椎・脊椎円板・靭帯の生化学的、生物力学的特性をさらに理解するための研究) 。
筋骨格系障害の予防に関するより詳細な情報は欧州安全衛生機構のWebサイトから入手できます。このサイトで同機構出版物の全文を無料でダウンロードすることができます。http://osha.europa.eu 情報には短いファクトシートや様々なレポートが含まれます。 MSDリスクの解決法の事例は、次のサイトで見ることができます。 http://osha.europa.eu/good_practice/
英語版レポートの全文は、欧州安全衛生機構のWebサイトから無料でダウンロードすることができます。 http://osha.europa.eu/publications/reports/lowback/ 欧州安全衛生機構が発行する印刷版 Work-related Low Back Disorders (作業関連性腰部障害), Op De Beeck, R. and Hermans, V., 2000, ISBN 92-95007-02-6 は、ルクセンブルクのEC出版局、EUR-OP(http://eur-op.eu.int/)から直接入手できます。販売代理店を通して注文することも可能です。本体価格は7ユーロです(VATが別途、かかります)。
本ファクトシートはすべてのEU言語で下記サイトから入手可能です。http://osha.europa.eu/publications/factsheets/
欧州安全衛生機構は作業関連性腰部障害に関する調査情報レポートを発行した。レポートはこの問題に関する現在の知識を概観している。作業はベルギーの労働安全衛生研究所 (Prevent)が実施した。