労働災害の防止は、依然として重要な問題であり、それは欧州労働安全衛生週間2001のテーマであることにも反映されている。この労働災害防止の取り組みを支援するために、欧州連合加盟国における災害防止プログラムに関する調査が実施された。報告書では、22件の国家および地域レベル、ならびに部門および企業レベルの介入事例の分析が行なわれた。
報告書は、災害防止プログラムが、労働災害の発生頻度や強度率の減少、費用便益率の改善などの利点を通じて、著しい好影響をもたらすことができることを示している。調査の対象となった事例によって介入の種類や程度は大きく異なるものの、対象グループとの直接的な接触が、災害とその影響の減少に重要な役割を果たすことが、重要な洞察の一つとして挙げられる。このほか報告書は、システムを監視する重要性、発生源での危険防止のほか、社会的対話、パートナーシップ、労働者参画の利点も強調している。
以下、これらの結論を支持する量的証拠を、調査より一部簡単に紹介する。
災害発生率の減少
意識向上キャンペーンの重要性:広告やPRを利用して実施された、オーストリアの職場における墜落・転落防止の全国意識向上キャンペーンは、墜落・転落事故を10%近く削減した。また、一般的な安全意識の増大を目指して、英国安全衛生庁が食品および飲料業界において実施した、「安全のためのレシピ」キャンペーンなどの国家当局による介入も、約13%の減少を達成した。一方、アルザス−モーゼル地方における足場の安全キャンペーンも、災害発生率を10%近く削減した。
企業との直接的な接触を含む、国家または地域レベルの介入は、とりわけ効果的である。プログラマ・アラゴン(Programa Aragon)の例は、地域監査団を利用した処置が、「高リスク」企業における災害発生率を25%以上削減する可能性を示している。スペインの他の地方監査団も、同様のを経験した。焦点を絞ることが重要な要因といえよう。英国安全衛生庁が実施した「安全のためのレシピ」キャンペーンでは、災害発生率が食品・飲料業界平均の3倍を超えていた「多発地点」の19企業に的を絞った結果、33%の削減が達成された。
産業団体によるプログラムも、一般的に非常に好ましい影響をもたらす。全利害関係者を対象とし、新しい災害防止法の支援を受けた、ドイツの建設業界における高所からの墜落・転落事故に関する集中キャンペーンの結果、転落事故は約30%減少した。また、警備業界が組織したドイツの別のキャンペーンでは、関連企業における災害が37%減少した。デンマークでは、農業部門のイニシアチブを通じて、対象グループにおける災害発生率が40%減少した。このグループは、農場や行動訓練において安全検査を「受けさせ」られた。
企業主導の取り組みも、同様にめざましい結果を生む可能性がある。作業環境に存在する特定のリスクに体系的に取り組むならば、50%を上回る削減も可能と思われる。一方、職場の整理整頓に焦点をあてる、Tuttavaのようなより一般的な手段でも、災害を20−40%削減できるようである。さらに、架橋工事や高速鉄道用のトンネル建設をはじめとした大規模インフラプロジェクトにおける安全も、特別安全対策やキャンペーンを通じて、著しく向上させることが可能である。
ケーススタディ国家または地域レベルの措置
部門レベルの措置
企業レベルの措置
標準的な手段を使った措置
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災害強度率の低下
休職期間で測定される災害強度率は、災害頻度の減少と一致することが多い。しかし、中には例外もあるようである。
死亡災害は大幅に減少
中には、死亡災害件数に関する情報が含まれているものもあった。この指標は、災害発生率の動向に従うものの、死亡災害の減少のほうが著しいようである。この指標は、デンマークとスウェーデン間のエーレスンド橋やイタリアのフィレンツェとボローニャ間の高速鉄道といった複雑なインフラ工事でも使用されている。両プロジェクトの死亡災害発生率は、以前の同様のインフラプロジェクトに比べると、相当低かったようである。
好ましい費用便益率
調査されたプログラムの中には、費用便益率を計算できたものもあった。職場における墜落・転落防止に関するオーストリアの事例の費用便益率は、1:6だった。これは1ユーロを投資する毎に、6倍となって戻ってくることを意味する。また、食品および飲料業界における安全を目指す、「安全のためのレシピ」の場合は、1:4−1:5.5だった。ドイツの警備業界の事例では、安全対策導入後3年以内に費用が回復されたことが指摘された。
上述の諸事例には、その処置の成功の一因となったいくつかの特徴が含まれている。これらの特徴は、災害発生率の削減を目指すよい慣行に欠かせない要素としてみなすことができる。
システム監視の重要性
すべての事例が、部門レベルと個々の職場の両方において、効果的なリスクアセスメントを実施する必要性を浮き彫りにした。同時に、プログラム導入後の災害発生とその強度率を追跡するための、強力な統計に基づく監視システムも重要な要素であるようである。こうしたタイプのシステムから得られたデータにより、より詳細な分析や、将来取り組まなければならない潜在的な弱点の特定が可能になる。
リスクを発生源で防止
「アルザス−モーゼル地方の建設部門における足場の処置」や「針刺し事故の防止−ウィリアム・ベアード」など、調査の対象となった取り組みの中には、技術的処置によってリスクをその発生源で制御したり、時には除去さえできるものがある。安全に設置・利用可能な足場や、新旧のミシンに装備できる指の保護具などがその実例である。しかし、こうした種類の装置は、自社以外の企業でも促進する必要がある。さらに、新技術には、訓練、アドバイス、新しい作業方法、財源などが必要となることが多いので、こうした道具は労働安全の向上に向けた最初のステップにすぎない。
社会的対話、パートナーシップ、労働者の参画
企業レベルにおける事業者と従業員またはその代表者間の社会的対話、および部門、地域または国家レベルにおける労働組合と経営者団体間の社会的対話は、成功への重要な条件である。
アイルランドでは、それまでの劣悪な労働災害の記録に応えて、政府、事業者、従業員、労働リスク防止担当機関の間で、パートナーシップ協定を締結した。本パートナーシップ活動の目的は、建設部門において安全の文化を促進することだった。パートナーシップの参加者は、それぞれが果たすべき役割をもっている。同様に、食品および飲料業界の「安全のためのレシピ」においても、同業種の事業者と従業員組合が「共通戦略」文書の合意に達した。この合意には、各参加者の義務が含まれているほか、労働リスク防止担当機関をはじめ、各当事者がキャンペーンの全段階にわたり取るべき行動が規定されている。「針刺し事故の防止−ウィリアム・ベアード」も、企業の取り組みによる処置から発展した、協力の事例である。この処置の目的は、自社で使用する安全装置を開発することだった。一度装置の有効性が示され、会社の了承を得ると、労働リスク防止担当機関の支援を受けた組合が、業界内で装置を推進した。同装置は広く受け入れられ、その概念はCEN規格にも組み入れられた。
対策を各産業または企業の環境に合わせる必要性
災害防止対策には、資源をはじめ、その組織特有の状況を考慮に入れなければならない。より具体的に言えば、いずれの取り組みも実用的であるとともに、複雑すぎたり費用がかかりすぎたりしてはならない。このことは、技術的アドバイスまたは訓練といった形での援助が可能であるとしても、場合によっては、外部からの財政支援または補助金が必要となる可能性があることを示している。
調査から得た教訓の一般的な応用性
報告書に掲載されたすべての災害防止プログラムは、もともと国家、地域、部門または企業レベルのどの問題に適用されたかにかかわらず、他の情況にもおおむね使用することができる。さらに、Tuttava などの一部のプログラムは、異なる企業や職場、部門、さらには国々における使用をはっきりと目指して作成されている。
英語版レポートの全文は、欧州安全衛生機構のウェブサイトhttp://osha.europa.eu/publications/reports/workaccidents/から無料でダウンロードすることができる。また、印刷版 "How to reduce workplace accidents(職場の事故を減らすには)", 欧州安全衛生機構、2001, ISBN 92-95007-42-5 は、ルクセンブルクのEC出版局EUR-OP(http://eur-op.eu.int/)、またはその販売代理店から注文できる。ルクセンブルクでは本体価格は、13ユーロとなっている(別途VATがかかる)。
本ファクトシートはすべてのEU言語で下記サイトから入手可能である。http://osha.europa.eu/publications/factsheets/
「労働災害の防止」は、欧州労働安全衛生週間2001のテーマである。より詳しい情報は、http://osha.europa.eu/ew2001/にて閲覧できる。