事業者にとって、余分な騒音を除いたり、低減したりすることは、単なる法的責務を果たすだけのものではなく、企業経営上の利益にもなる。労働環境が安全で健康的なものになればなるほど、高価なものにつく高欠勤率、災害の発生、企業業績の不振などが生ずる可能性は低くなる。このfactsheetでは、職場での騒音を低減、抑制するために取り得る主な手段について概説する。
成功へのステップ
騒音は建設現場、工場に限らず、事業所から酒場まで、学校からコンサートホールまで、あらゆる職場で問題となる可能性がある。どのような職場においても、労働者への害を防止するためには、3つの重要なステップがある:
- リスクアセスメントを実施すること;
- リスクアセスメントに基づき、リスクを防止あるいは抑制するための手段を講じること;
- 実施した対策の効果について、定期的にモニターし、見直しを行うこと。
リスクアセスメントの実施
アセスメントの頻度及び種類は、職場に存在する問題の範囲と程度にかかっているが、騒音による全てのリスクを考慮しなければならない。例えば、どんな騒音が工場での災害リスクを増加される恐れがあるかということを、騒音による聴力損失(NIHL)のリスクと同時に検討されなければならない。
リスクアセスメントにおける重要点
- 企業内におけるさまざまな騒音によるリスクを特定すること。例えば
- 騒音による聴力損失を生ずるリスクとなる大きな騒音にばく露されている労働者がいるか?
- 聴力損失のリスクを増大する有害な化学物質が存在しているか?
- 作業遂行上の情報伝達を妨害して、災害のリスクを増大する騒音が存在しているか?
- 企業内に職業性ストレスを誘発するような騒音源があるか?
- 臨時及びパートタイムスタッフを初めとし、妊娠している労働者のような特別なリスク集団に属する労働者について、被害を受ける恐れがあるか及びその対策について検討すること。
- 騒音レベル抑制について、既に実施している対策を評価すること。そして、追加的対策を取る必要があるかどうかを決定すること。
- 全ての調査項目を記録し、労働者とその代表者でその項目を共有すること。
リスクを防止あるいは抑制する手段の実施
労働者の安全衛生確保につながる抑制対策には、次のような優先順位がある:
- 騒音源を除くこと;
- 騒音を抑制すること;
- 作業組織及び作業場のレイアウト等による総体的抑制対策;
- 個人用保護具
騒音源を除くこと
労働者のリスク防止において、最も効果的な方法は騒音源を除くことである。新しい作業機器あるいは作業方法が計画された場合は、常にこの除去方法を考慮しなければならない。騒音の無い設備、あるいは低音設備を購入することは、常に騒音を防止、抑制する上での最も費用対効果の優れた方法である。いくつかのEU加盟国では、作業機器の選択について企業に役立つデータベースを有している。
騒音の抑制
騒音低減は、音源であれ、その通り路であれ、機器設計・職場の設計及びメンテナンスの両方を考慮した騒音管理プログラムの主な部分である。幅広い工学的対策により、以下のことを初めとする抑制方法の実施が可能となる:
- 音源を隔離したり、音源から距離を取ったり、音源を囲ったり、あるいは振動を金属ばねや空気ばねで緩和したり、エラストマーで支持したりすること。
- 音源あるいは音の通り道での低減を行うこと−囲い・障壁、排気の時にマフラーやサイレンサーを使用すること、あるいは切断を少なくしたり、ファンを小さくしたり、衝撃スピードを減少させたりすること。
- 機器の配置換えや変更−騒々しい歯車をベルト駆動にしたり、空気動力工具を電気式に変更したりすること。;
- より静かな材質の利用−ビン、コンベヤー及びバイブレーターにゴムライナー等を利用すること。
- 特定の状況下では、アクティブ騒音対策(アンチノイズ)
- 予防的なメンテナンスの実施:部品が摩耗すると騒音レベルが変わる可能性がある。
総体的な抑制対策
騒音がその音源で適切に抑制できない場合、労働者の騒音に対するばく露を低減させるためには追加的対策が取られなければならない。これらには以下の事項の変更が含まれる:
- 職場−室内で音を吸収することにより、労働者の騒音ばく露低減に大きな効果をもたらすことができる。(例えば音を吸収する天井);
- 作業体制(例えば騒音ばく露を少なくする作業方法を採用する)
騒音抑制としてエルゴノミックス対策が考慮されなければならない。騒音抑制策が、労働者が仕事を行う上で障害になる場合、労働者が抑制策を効果の無いように変更、除去する恐れがある。
個人用保護具
耳栓、イヤーマフのような個人用保護具は、騒音源を取り除いたり、低減したりする全ての努力が実施された後に最終的手段として利用されるべきものである。個人用保護具使用にあたって考慮すべき事項としては、以下のような点が挙げられる。
- 選択された個人用保護具が騒音の種類及び期間から見て適切であることを確認する−他の保護具と同時に使用できなければならない;
- 労働者が自身に対して最適な聴力保護具を選択することにより、最適な方法の選択が可能となり得る;
- ドライバー、警察官、パイロット、カメラオペレーター等の多くの労働者は、良好な情報伝達と災害リスクを最小限、且つ確実にするような積極的な騒音遮断(ANC)のできる、情報伝達可能なイヤーマフ、ヘッドセットが必要となる。
- 個人用保護具は正しく保管され、且つメンテナンスされなければならない;そして
- 個人用保護具の必要性、使用方法及び保管・メンテナンス方法について教育訓練を実施しなければならない。
情報と教育訓練
労働者は情報と教育訓練を受けてリスクへの理解を進め、騒音関連リスクに対処しなければならない。これには次のことが含まれていなければならない:
- 存在しているリスクとそのリスクを除いたり、低減するための対策;
- リスクアセスメント及び騒音測定の結果とその意義の説明
- 騒音抑制策と聴力保護対策、個人用保護具も含め;
- 聴力損失の徴候を見つけて報告する理由と方法;
- 労働者が健康診断を受ける権利とその目的。
リスクと抑制策の定期的なモニター
事業者は、実施中の騒音防止対策あるいは騒音抑制策が効果的に実施されていることを定期的にチェックしなければならない。騒音ばく露に関連して、労働者は、適切な健康診断を受ける権利を有している。健康診断を実施した場合、個々人の健康記録は保管され、従業員にその情報提供が成されなければならない。健康診断により得られた情報は、リスク及び抑制策を見直すために活用されなければならない。
労働者参加
労働者と相談することは法的要件となっていて、労働者が確実に安全衛生手順と改善に責任を持つことに役立つ。労働者の知識を活用することは、ハザードが正しく指摘され、有効な解決方法が実施されるのに必ず役立つ。労働者代表は、このプロセスにおいて、重要な役割を担っている。従業員は新しい技術や新製品が導入される前に安全衛生対策について協議されなければならない。
法規制
機械および機器のメーカーもまた、騒音レベルを抑制する責任がある。理事会指令98/37/ECによると、機械は「空中への騒音の放出によるリスクが最も小さいレベルに引き下げられるよう、設計し組み立てる。」ことが必要である。
物理的要因(騒音)によるリスクを生ずる労働者のばく露に関する、欧州議会と理事会の安全衛生最小要件指令2003/10/ECが2003年に、採択された。この指令は、指令86/188/EECと置き換えられるもので、2006年2月15日までに全加盟国における法律に取り込まれる。
この指令の第5(1)条においては、技術の進歩と発散源におけるリスク抑制手段の利用を考慮に入れ、「騒音へのばく露によるリスクは、その発散源で除去するか、最小限度まで抑制する。」ことを求めている。また、この指令における一日平均の新しいばく露限界は、87dB(A)である。
詳細情報の所在
このFACTSHEETは欧州職場安全衛生週間2005キャンペーンの一部分である。
騒音に関する情報:
http://ew2005.osha.europa.eu
EU安全衛生法令:
http://europa.eu.int/eur-lex/