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ピーター・バックル、ジェフ・デイビッド

欧州機構「優良規範」トピック・センター(MSD)、主導機関、
サリー大学ローベンス・センター・フォー・ヘルスエルゴノミクス(イギリス)


優良規範

知識をノウハウに転ずる

資料出所:European Agency for safety and Health at Work
(欧州安全衛生機構)発行
「Magazine」2001年3号

(訳 国際安全衛生センター)


研究成果を優良規範に

作業関連性筋骨格系障害の原因については、ここ何十年かできわめて多くの研究が行われ、この問題に関する国際的文献もいまでは大量に存在している。筋骨格系障害の生物学的メカニズムに関するわれわれの知識は完璧とはいえないが、その発生と職場のリスク要因との間に強力な正の関係があることが証明されている。

一貫して報告されているリスク要因は、疲労する姿勢、過酷な力仕事、身体組織への直接の機械的圧力、振動への暴露、低温の労働環境、作業組織とこれを労働者がどう認識しているか(心理社会的要因)である。しかし、これらの要因間の相互作用に関する認識には限界があり、また職場のリスク要因への暴露の程度と、リスクの水準を規定する関係(暴露量−反応関係など)は、いまも推定が困難である。それでも、既存の知識を利用して高リスクの労働者を把握することは可能である。

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既存の知識を利用して高リスクの労働者を把握することは可能である。
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予防の枠組み

既存の科学的研究を基礎に、多数の当局が筋骨格系障害の評価と予防の枠組みを提案してきた。これらの枠組みには、職場の問題解決へのエルゴノミクス的原則の適用が組み込まれている。具体的には以下の内容である。

  • 職場の潜在的な作業関連性筋骨格系障害を除去するための、事業者と労働者の責任、経営者の義務を明確にする。
  • 特定の業務グループから痛みの報告が多発するなどの、潜在的な問題箇所を把握するための初期的な調査。
  • 組織内の主要幹部の、作業関連性筋骨格系障害の評価と予防能力を向上させるための研修。
  • 関連する国内およびEU法の要件に基づいたリスクアセスメントの実施。
  • リスクの排除または低減のための適切な対策の明確化と、組織内の労働者などの関係者との協力による職場の変更を通じた対策の実施。
  • 「衛生管理調査」の実施による筋骨格系障害の早期把握と治療。
  • 被害労働者の復職と労働生活への積極的参加を促すための「衛生管理」プログラムの確立。
  • 作業関連性筋骨格系障害の有病率と、その予防のために導入された対策の効果測定。
  • 潜在的問題を把握し、新しい作業方式と装置が職場に導入される前にそれを排除するための業務立案方式を考案する。

リスクアセスメント

上述の枠組みにおける重要な一歩は、リスクアセスメントに対する体系的なアプローチである。リスクアセスメントはエルゴノミクス原則の適用に基づくべきであり、このアプローチは既存の多数のEU安全衛生指令(「手作業による荷物の取り扱い」「VDT装置」など)に盛り込まれている。それは作業システムを一組の相互作用要素として考える必要性を認識し、作業の遂行によって要望されることとの関連で、労働者(または装置の使用者)のニーズと能力に強く焦点を当てている。

筋骨格系障害のリスク要因への労働者の暴露を評価する多種多様な方式が開発され、なかには専門家が職場で使用することを目的としたものもある(Li and Buckleによる"Quick Exposure Check(「クイック・エクスポージャー・チェック」)"1998年など)。業務を構成する具体的な活動と作業に伴なうリスク要因を把握しなければならず、リスク要因への暴露の高さに基づいて、活動の優先課題を明確にすることができる。潜在的なリスク要因同士の相互作用を検討する必要性はあるが、別個に職場評価を行うことによっても、リスクを排除または低減できる潜在的分野を示す重要な指標が得られる。極端に暴露の高い労働者グループは、リスク排除・低減に向けた取り組みで最初に対象にすべきである。作業関連性筋骨格系障害の発生を減少させるためのエルゴノミクス的介入は、業務上のリスクへの暴露水準が高い職業でとくに効果が高まる可能性のあることが証明されている(Hagberg and Wegman、1987年)。

優良規範

このアプローチを、具体的な作業状況での筋骨格系障害リスクの評価または低減に適用した実例を、以下のページの一連の事例調査で示している。そこでは各種の職場で使用された方式と解決策のヒントが示されており、予防プログラムの開始を計画している人への励ましになる。ただし重要なことは、提唱された解決策が、労働条件、作業、環境、装置の異なる他の状況(別の作業システムをとっている場合など)でも効果的とは限らないことを認識することである。あくまで当の職場での体系的なリスクアセスメントをふまえて、行動を起こすべきである。

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体系的なリスクアセスメントをふまえて、行動を起こすべきである。
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エルゴノミクス的介入の効果に関する多数の調査を、WestgaardとWinkel(1997年)が検証した。その結果、「以下の介入戦略がもっとも成功の確率が高い」と結論づけた。

  • 組織文化への介入。関係者が強力に関与し、明らかにされたリスク要因の低減のために多様な介入を活用すること。
  • 修正介入。リスクのある労働者に的を絞り、労働者を積極的に関与させた対策を活用すること。

両戦略とも、暴露した個人のための当該リスクの把握、および除去・低減を組み込んでいる。「したがってリスクのある個人と、組織内の関係者による積極的な支援と関与を確保すべきである」

労働者の障害の程度を低下させるために実施された対策の効果については、さらに情報が必要である。予防プログラムを実施する組織は、変更を実施する前後における、障害の有病率と生産性の変動を記録する体制をとるべきである。ただし、組織内のスタッフは、さまざまな現実的理由から、そうしたデータの収集と分析が困難な場合が多いことを認識すべきである。

欧州機構は、作業関連性筋骨格系障害の予防に取り組みたいと考えている、とくに中小企業の専門家向けに情報源を確立した。それが「優良規範」トピック・センター(MSD)であり、リスクアセスメントと新たな事例調査の詳しい情報を提供している。欧州機構のウェブサイト(http://osha.europa.eu/good_practice/risks/msd/)から入手できるものもある。

参考文献

1 Li, G and Buckle, P(1998)
A practical method for the assessment of work-related musculoskeletal risks-Quick Exposure Check(QEC)
(作業関連性筋骨格系障害のリスクアセスメントのための実践方法−迅速な暴露チェック)
Proceedings of the Human Factors and Ergonomics Society 42nd Annual Meeting 5-9 October, Chicago, Illinois, v2, 1351-1355
(人的要因およびエルゴノミクス社会に関する学会報 第42回年次総会、10月5日〜9日、イリノイ州シカゴ 第2巻、1351-1355)

2 Hagberg M and Wegman, DH(1987)
Prevalence rates and odds ratios of shoulder-neck disorders in different occupational groups.
(異なる職業グループにおける肩・首部障害の有病率と端数率)
British journal of Industrial Medicine, v44,602-610
(英国産業医学ジャーナル 第44巻、602-610)

3 Westgaard, RH and Winkel, J(1997)
Ergonomic intervention research for improved musculoskeletal health: a critical review
(筋骨格系の健康改善のためのエルゴノミクス的介入:重点レビュー)
International journal of Industrial Ergonomics,v20,463-500
(産業エルゴノミクス国際ジャーナル 第20巻、463-500)


自動車工場の予防に向けたロードマップ

「欧州週間」が共同資金提供したプロジェクトは、自動車産業での筋骨格系障害の抑制に役立っている。

ポルトガルにあるフォルクスワーゲンの工場、Autoeuropa(Automoveis Lda.)は、自社労働者に影響を与える筋骨格系障害の問題を予防するために、エルゴノミクスの専門技術を必要としていた。

同社は、生産ラインのあらゆるリスク要因を監視するとともに、製造企画部門による業務計画立案の最初の段階で、作業関連性筋骨格系障害発生の可能性を防止したいと考えた。

同社は、過酷な力の行使、反復や不自然な姿勢、または振動への暴露が避けられない一部の業務が、他の業務よりも筋骨格系障害に寄与し、またはその原因となる可能性が高いことを認識していた。

Autoeuropaのエルゴノミクス専門家、Carlos Fujao氏によると、同社は予防的アプローチをとり、「エルゴノミクス的危険有害要因を把握するだけでなく、それらを低減させて衛生的な職場をつくるための強力なツール」を求めていた。

1998年、Autoeuropaは、その活動のリスクアセスメントを実施し、これにリスボン大学人間運動機能学部のエルゴノミクス科が参加した。上級エルゴノミクス専門家2人、初級エルゴノミクス専門家1人、それに学生1人がプロジェクトに従事した。

プロジェクトに参加したFujao氏は、自動車産業におけるもっとも危険な要因は、作業の場所と動作頻度であるという。「特定の作業中の不自然な姿勢、また同一作業を完了するための過酷な力の行使を通じて、労働者は筋骨格系障害を発症しやすくなる。上肢への懸念が、間違いなくもっとも大きい」と、同氏はいう。

工場内で考案され、すでに実行に移された解決策として、作業の持ち回り制などの組織的対策がある。操作器具も、生産ライン上での装置の扱いがユーザーに親切になるような設計にした。疲労防止マット、衝撃保護手袋も採用した。

施設での筋骨格系障害予防に向けた現行の予防的管理は継続しており、最近、同社は動力手工具を改良するエルゴノミクス的取り組みに着手した。欧州安全衛生機構は、「欧州週間」の活動の一環として、Autoeuropaの経験を基にした予防指針の作成に共同で資金提供している。

詳しい情報は以下まで:Carlos Fujao、Eメール:carlos.fujao@autoeuropa.pt

最先端の解決策

欧州機構が共同資金提供したプロジェクトが、食肉産業の筋骨格系障害に取り組んでいる。

食肉産業の災害発生率はきわめて高く、毎年、多数の労働者が、作業関連災害に対して訴訟を起こしている。実際、この産業では、筋骨格系障害をはじめとする職業性疾病が異常なペースで増加している。

フランスの国民健康保険公庫(CNAM)が実施する取り組みでは、農業共済組合(Mutualite sociale agricole:MSA)が重要な役割を果たしている。この取り組みは食肉産業の各部門を対象にしていて、筋骨格系障害に対して参加型で予防的なアプローチをとり、事業者団体、労働組合団体、社会事業団体がかかわっている。

「切れるナイフ」と題されたこの取り組みは、食肉産業でもっとも多く使用される器具がナイフであり、低温と湿気と騒音という環境下で、反復的に、そして周期的に使用される場合が多いと認識している。そうした環境は筋骨格系障害の発生率を高め、またナイフの切れ味が悪い場合はそのリスクが一層高まる。

ナイフを研ぐ時間は作業工程の一部と考えられず、また労働時間の一部とさえ考えられない場合も多い。またナイフの正しい研ぎ方を知らない労働者もいて、労働者に対し過度のストレスと疲労をもたらしている場合もある。ナイフの切れ味が落ちるほど、労働者が作業の完了に要する時間は長くなり、その結果、ますますナイフを研ぐ時間が短くなる。この悪循環が筋骨格系障害の原因となりうる。

筋骨格系障害防止のための新しい取り組みでは、予防の専門家と研修指導員の支援を得ている。企業内にプロジェクト・チームを設置し、工場内、とくにナイフ保守のための場所と、衛生、貯蔵、運搬、作業条件を調査する。この調査をふまえて計画が立案される。

実行される計画には、ナイフの研ぎ方に関する研修コースも含まれる。企業内の特別に選別された労働者が3日間の研修コースを受け、修了した労働者が同僚を研修する。研修では、ナイフの使用によって発生する可能性のある各種の負傷(通常は目に見えない)を電子顕微鏡で撮影したものを労働者に見せる。保守状態の悪いナイフが、いかに身体に悪影響を及ぼすかを明らかにする。

またこの取り組みでは、作業組織、経営、生産、製品品質、労働条件に関連したさまざまな分野について解明する。計画によって作業グループの枠組みのなかでの討議を可能にし、筋骨格系障害を発生させる労働条件の排除に向けた実用的アイデアの開発を企業に促す。

詳しい情報は以下まで:Daniel Lavallee、Caisse Centrale de Mutualite Sociale Agricole、Eメール:lavallee.daniel@ccmsa.msa.fr

小売り部門の対策

食品小売り産業では、倉庫内、製品の運搬中、または店舗内を問わず、筋骨格系障害が発生しやすい。

たとえば箱の重さや寸法、使用するパッケージの種類、倉庫内や配送時のパレットの高さが原因となって筋骨格系障害が発生する場合があり、またレジの設計がエルゴノミクス的に劣悪な店舗で、筋骨格系障害が発生するおそれがある。

Joachim Larisch(BIPS)氏は、ドイツの連邦労働安全衛生研究所とREWEなどが資金提供し、科学的側面から協力した食品産業における労働安全衛生の研究調査に参加したひとりだが、同氏によると、組織的および技術的変更によって筋骨格系障害のリスクを低減させることは可能である。

Larisch氏によると、REWEグループは「世界でもっとも重要な小売り企業のひとつ」であり、世界各地に約23万人の従業員を雇用し、このうち約18万人がドイツで働いている。ドイツでは、30箇所の中央倉庫から9,500店舗に製品を配送している。

またREWEは、1990年はじめに職場の健康増進プランを策定した。グループの健康保険会社と協力し、筋骨格系障害を減少させるための健康サークルと、職場志向の介入プログラムを確立した。

「健康サークルに参加する労働者は、職場の安全と労働条件向上に向けた470件を超える提案を作成し、その50%近くが採用されました。100件を超える提案が、いまも手作業が支配的な倉庫内での労働条件に集中しました」

健康保険会社のデータは、介入プログラムが筋骨格系障害関連の欠勤数の減少に貢献したことを示している。

「手による商品の取り扱いを改善するための職場志向のプログラムは、1995年から1999年まで実施されました。この取り組みにより、倉庫内の組織的、技術的変革が実現しました」と同氏はいう。

「またREWEグループは、倉庫内で品物の収集を容易にするため、新しい技術的装置を発注しました」

ドイツでは、約6,000もの職場の2万箇所を超えるレジに、筋骨格系障害を減少させるための新しい座席が設置されている。またレジは、より健康的な作業環境を確保するために再設計された。

この過程では、労働者代表、ドイツ強制災害保険機関(German statutory accident insurance institutions)、さらに政府機関が協力した。REWEグループの病欠による欠勤率は、1994年から1997年の間に4.9%から3.7%に減少し、また保険会社のデータによると、職場への介入を実施した後で筋骨格系障害は減少している。職場での健康促進が、欠勤と労働者の疾病の減少に大きく寄与したと考えるのが妥当と思われる。

参考文献

Larisch, J./Bieber, D./Hien, W.:Qualitaetsmanagement und integrierter Arbeits-und Gesundheitsschutz im Lebensmittelhandel. Workshops und Zwischenberichte.(Schriftenreihe der Bundesanstalt fuer Arbeitsschutz und Arbeitsmedizin-Fa.47-). Dortmund/Berlin, 1999(English Summary)
Bieber, D./Larisch, J./Moldaschl, M.:Ganzheitliche Problemanalyse und-loesung fuer den betrieblichen Arbeits-und Gesundheitsschutz in einem Lager des Lebensmittelhandels. (Schriftenreihe der Bundesanstalt fuer Arbeitsschutz-Fa.33-).

2. Aufl., Dortmund, 1996(English Summary)


解決策はどこに

「欧州週間」が共同で資金提供したプロジェクトは、スーパーマーケットの労働者のリスク低減に焦点をあてている。

ビルバオのエロスキ・スーパーマーケットで発生した作業関連災害の分析から、災害の主な種類は筋骨格系障害であることが判明した。

同スーパーのInaki Gallastegui Zuazua氏によると、社内の予防担当部の安全専門家がリスクアセスメントを実施した結果、筋骨格系障害発生のリスクがもっとも高いのは、魚肉と果物部門であることが明らかになった。

「リスクアセスメントを通じて、両部門での重量物の取り扱い、無理な姿勢と環境が筋骨格系障害のリスクの誘因となっていることが分かりました」と同氏はいう。

同スーパーでは腰部の傷害がもっとも多いが、手根管症候群などの上肢障害も報告されている。

Gallastegui Zuazua氏によると、同社は、筋骨格系障害リスクの大半が、重量超過、重量物の手による取り扱い、背骨のねじれなどの不自然な姿勢での作業、低温または湿った環境での作業による問題を伴なう活動から発生していると見ている。

この他、作業場の設計と労働者の身体の大きさとの不一致、不適切な機械の位置、低温と高湿度の労働環境で荷を取り扱っているうちに濡れによる労働者の不快感などの問題も発見された。

これらの解決に乗り出したエロスキは、第1に、筋骨格系障害の予防は新センターの設計の際の明確な中核的価値であると決定した。第2に、すでに運用を開始しているセンターは、筋骨格系障害の原則に沿って改良する必要があると決定した。作業計画からカウンター、ショーケース、機械に至るすべてのものを、労働者の体形に合わせる必要があるとされた。

またエロスキは、労働者の健康診断を実施するとともに、腰部のケアのための革新的な研修とフィットネス・コースを開設し、参加した労働者は作業でもっともリスクが高まる筋肉群の強化に取り組んだ。このコースでは、筋肉と骨の生理学に関する理論的研修を行い、作業でもっとも酷使するこれらの筋肉群を強化するための特別の運動を用意した。希望する労働者には、特定の筋肉群を強化する方法を教えた。最後にエロスキは、筋骨格系障害に対する同社の取り組みを補完する印刷物と視聴覚資料を提供した。

詳しい情報は以下まで:Inaki Gallastegui Zuazua、Eメール:s2754@eroski.es

室内清掃からリスクを排除する

スウェーデンのある労働組合は、ホテルの客室清掃における筋骨格系障害のリスクに焦点をあててきた。

ホテルの客室清掃は、労働者に特別な困難を押しつける。きびしい時間的制約下の作業に加え、あらゆる家具調度品が備えられた客室は、清掃作業のための空間がきわめて限られている。その結果、清掃担当者は不自然で不健康な姿勢をとらなければならず、作業用の補助器具も、空間が狭くて繊細な家具があるために使用が制限されたり不可能となることもある。

狭い室内で、重い家具や調度品を不自然に持ち上げることが多いため、作業関連傷害と反復的負荷傷害が増加している。

1999年、スウェーデン・ホテル・レストラン労働組合(HRF)が、20人を超えるホテルの清掃担当者で構成する作業チームを設置し、問題の解決策の可能性を調査した。その報告書は、筋骨格系障害の解決策交渉で行う討議の基礎資料にするため、すでに発表されて職場に配布されている。

作業チームの具体的目的は、そもそもこうした問題が存在するという事実を明らかにすることにあった。たいていの場合、業界の管理体制は階層的であり、清掃担当者の雇用条件を決定しているそうした管理体制モデル自体を変革の焦点にすべきだと作業チームは主張した。

作業チームは筋骨格系障害の認定に力を注いだ。そして以下の提案を行った。

  • 単独での清掃は最低限に抑えることで、重量物の持ち上げを少なくするとともに、暴行や暴行の恐れを減らすべきである。
  • 清掃業務は、受付、会議と朝食、購買、作業日程の立案など、他の業務とまとめるべきである。
  • 継続的な教育と研修を実施し、労働者の福利を増進する必要がある。提案された研修分野としては、清掃方式、清掃業務の質、言語、エルゴノミクス、作業環境、会計、ITなどがある。
  • すべてのホテルで、1人の労働者が清掃すべき最大客室数に関する労働協約を、現場での協議によって締結すべきである。協議は、各ホテルの実状と労働者に求める非清掃業務を基礎に行うべきである。作業が満足できる程度に完了した時点で、その勤務は終了したとみなされるべきである。時間外労働または臨時労働は、割増賃金ではなく代休で補償すべきである。
  • 非常に汚染された、または非衛生的な客室を清掃する場合は、衛生専門の業者を採用すべきである。

作業チームは、HRFと事業者による2001年の年次労働協約交渉にみずからも参加し、その交渉期間中に変更を実現するという目標を立てている。

詳しい情報は以下まで:Gerry Andersson(ホテル・レストラン労働組合)
Eメール:gerry.andersson@hrf.se

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「Back in Work」(労働における腰部)

1999年3月に開始された「健康な職場イニシアチブ」は、イギリスの安全衛生庁(HSE)とイングランド・ウェールズ保健省の合同の取り組みである。両省庁の共通の目的を達成するための適切な方法として、この取り組みでは安全衛生を含めた健康問題を、企業と組織の中心課題にすることを目指している。そして労働者の健康は経営における中核的課題であると認識し、「健康改善はすべての人の問題」であるというメッセージの普及を目的としている。

何千もの職場と連絡をとり、プログラムのなかにその関心事項を登録し、生産性の向上、疾病休業率の低下、災害の防止、疾病の減少を実現するよう呼びかけた。回答をよせた約35,000の企業に定期的なニューズレターを送付し、健康な職場をつくるための最新の取り組みを伝えた。

その取り組みのひとつが「労働における腰部」イニチアチブであり、1999年3月に「健康な職場イニチアチブ」の一環としてHSEと保健省が共同で開始した。「労働における腰部」イニチアチブは、職場での腰の健康改善に関する多数のパイロット・プロジェクトを支援している。

腰痛によるイギリス国民健康保健のコストは、年間4億8,100万ポンドと推計され、このうち1,200万ポンドが一般医療での診断、700万ポンドが理学療法、80万ポンドが入院治療費である。腰痛は疾病休業の最大の原因であり、1995年には腰痛を含む筋骨格系障害によって1,100万日の労働損失日数が発生している。

「労働における腰部」イニチアチブに基づき、約19件のパイロット・プロジェクトが承認され、資金提供された。パイロット・プロジェクトは、優良規範を把握、促進し、予防、評価、治療、リハビリテーションを一体化する。また検証手順、持続可能性、遵法状況を明らかにする。パイロット・プロジェクトは優良規範の例を示し、腰痛関連の問題への創造的な対策を提示し、パートナーシップと現場での解決策を奨励し、模範例を提供するとともに腰痛の原因についての認識を向上させる。

たとえば、あるプロジェクトでは、 セントへレンズ首都区の腰痛のスタッフに対し、教育、疼痛管理、それにリラックス方法の指導、姿勢と運動テクニックなどの運動パッケージを組み合わせて提供した。

ふたつ目のプロジェクトでは、中小の組織や企業で使用できる包括的な腰痛管理プログラムを開発し、また別のプロジェクトでは衣料産業の腰痛問題に対処するため、認識を向上させるとともに、研修とリスクアセスメントプログラムの開発を目指している。

詳しい情報はHSEのウェブサイト(http://www.hse.gov.uk/)を参照。

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リスクアセスメントのための4段階のアプローチ

ドイツは、労働者と事業者が作業関連性筋骨格系障害のリスクを判定する際に役立つ、簡単でユーザーに親切な指針とチェックリストを作成した。

連邦労働安全衛生研究所の科学部長、Joerg Windberg博士(BAuA)は、1997年に出版された手作業に関する安全衛生指針である「Leitfaden Sicherheit und Gesundheitsschutz bei der manuellen Handhabung von Lasten」について、「ほとんどすべての人が、自分の会社ですぐに利用できると思います」と述べる。

46ページの指針には、4ページにわたる4段階のチェックリストが記載されている。

4段階の第1段階では、持ち上げの回数と荷物の持ち上げに要する時間を調査する。1勤務当たりの荷物の持ち上げ回数を、10回未満、10回以上40回未満、40回以上200回未満、200回以上500回未満、500回以上のうちから選択するよう求め、それぞれにポイントを付ける。また労働者が重量物を持ち上げていなければならない時間を、30分未満、30分以上1時間未満、1時間以上3時間未満、3時間以上5時間未満、5時間以上のなかから選択させる。

第2段階では、持ち上げる重量を調査する。男性の場合、10キロ未満、10キロ以上20キロ未満、20キロ以上30キロ未満、30キロ以上40キロ未満、40キロ以上のなかから選択させる。女性の場合、5キロ未満、5キロ以上10キロ未満、10キロ以上15キロ未満、15キロ以上25キロ未満、25キロ以上のなかから選択させる。重量によってポイントを付ける。

第3段階は、体勢を明らかにする。労働者は自分の作業にもっとも合致した列を選択する。第1の列は、重量物を身体の近くにおいて直立しての作業、または少しだけ歩く。第2の列は、上体を若干曲げるか、または荷物を長い距離、持ち運ぶ作業。第3の列は、身体を深く曲げ、重量物を身体からさらに離し、または肩の高さに持ち上げる作業。第4の列は、身体をきわめて深く曲げ、身体の向きを変え、重量物を身体からきわめて遠くに離して持ち、またはひざまずいての作業である。ポイントは、作業にもっとも合致する体勢に応じて付けられる。

第4の段階では、職場のエルゴノミクス的条件を調査する。床の状態、取り扱い手順、握りが適切か否か、また作業空間が制限されているか、床の状態が悪くないかといった点である。

合計ポイントによって、作業による労働者の筋骨格系障害発生リスクが高いか低いか、それによって職場の再設計の必要があるかどうかが明らかになる。

指針のコピーはBauA(連邦労働安全衛生研究所)で入手できる(Friedrich Henkel Weg 1-25, D-44149, Dortmund、価格は6マルク/3.07ユーロ)。