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筋骨格系障害−欧州全体の状況

資料出所:European Agency for safety and Health at Work
(欧州安全衛生機構)発行
「Magazine」2001年3号

(訳 国際安全衛生センター)


このほど欧州労働安全生成機構が発表した欧州連合の労働安全衛生の状況に関するパイロット調査報告書は、欧州の筋骨格系障害の問題の深刻さを、改めて浮き彫りにした。

このパイロット調査は、欧州連合における現在の労働安全衛生の概況をまとめている。調査は、EUの15加盟国のフォーカル・ポイント(各国の安全衛生当局または研究所)の国別報告に基づき、これを業務上災害と労働条件に関する既存の欧州の調査統計データで補強した。労働安全衛生に関する統計的証拠と、各国の当局、労働組合および事業者代表、労働安全衛生の専門家など、すべての主要関係者の質的な経験と知識とを、適切に一体化している。調査はリスクが最大の職種を示すだけでなく、欧州段階でははじめて、リスクが最大の産業と、予防活動の強化が必要だと加盟国が考えている分野の情報も提示している。

労働安全衛生面での影響としての筋骨格系障害に関連して、姿勢と動作の暴露、重量物の持ち上げ/移動、反復動作、緊張を強いる作業姿勢など、幅広い個別の暴露指標が示されている。

以下の4つの表は、筋骨格系障害に関連した問題に関するパイロット調査の主な結果を示している。

欧州における筋骨格系障害の社会的、経済的コスト

機構の新しい概況報告書(*)は、筋骨格系障害によるEU加盟国の社会的、経済的コストに光をあてた。ここでは内容の一部を抜粋し、筋骨格系障害がもたらす負担の深刻さを明らかにする。 ドイツでは、筋骨格系障害は疾病による全労働損失日数のほぼ30%(28.7%、1億3,500万日)を占める。作業関連性筋骨格系障害による疾病休業は、240億マルクもの損失をもたらしていると推計されている。

オランダでは、筋骨格系障害は作業関連疾病休業全体の約46%を占め、作業関連性筋骨格系障害による疾病休業(1年未満)は、1995年で合計20億1,900万ギルダーの損失をもたらしていると推計されている。 イギリスでは、作業関連性筋骨格系障害により、毎年ほぼ1,000万日(9,862,000日)の労働損失日数が発生している。このうち、約500万日(482万日)は腰の障害、400万日強(4,162,000日)は首と腕、200万日強(2,204,000日)が足の障害によるものである。

イギリスにおける作業関連筋骨格系障害の医療コストは、8,400万ポンドから2億5,400万ポンドと推計されている。作業関連の腰部障害は4,300万ポンドから1億2,700万ポンド、腕と首の障害は3,200万ポンドから1億400万ポンド、作業関連の下肢の障害は1,700万ポンドから5,500万ポンドの医療コストを強いていると推計されている。

また作業関連の上肢障害は、傷害を負った労働者1人当たり5,251ポンドのコストを、直接的、間接的に企業に強いており、また作業関連疾病によって就労停止を余儀なくされた労働者は、退職年齢に達するまでに1人当たり平均51,000ポンドの損失をこうむっている。

フィンランドでは、作業関連性筋骨格系障害による1996年の医療コストは、歯科医療、移送、投資を除く公的医療費支出の約2%を占めると推計されている。 腰痛によって3ヵ月を超える休業を余儀なくされた労働者の「復職」に関するスウェーデン、ドイツ、デンマーク、オランダでの調査の結果、37%(デンマーク)から73%(オランダ)の労働者が、12ヵ月後に復職していることが明らかになった。12ヵ月後に復職した労働者の大半は、従来と同じ事業者に雇用されている。

2年間の休業後に復職した労働者の19%(ドイツ)から38%(デンマーク)が、従来の、または新しい雇用主から、作業場の転換を提案されている。

12ヵ月後に復職した労働者の過半数は、2年後も就労を続けている。2年間の休職後に復職した労働者の大半は、疾病休業を開始した時と同じか、またはそれより高い所得を得ている。

* 欧州連合加盟国の作業関連筋骨格系障害に関する社会経済的情報一覧に基づく(欧州安全衛生機構2000年10月)。


アメリカの場合

アメリカでの上肢末端の筋骨格系障害による労働者への労災補償費用は、毎年21億ドルを超えており、腰部障害はさらに110億ドルの労災補償費用を強いている。

アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、これに対処するため、筋骨格系障害に関する2つの重要な文書を作成してきた。作業関連性筋骨格系障害予防のために提案された職場プログラムの内容に関する入門書と、作業関連性筋骨格系障害の疫学的証明についての包括的分析である。

"Elements of Ergonomics Programs: A Primer Based on Workplace Evaluations of Musuloskeletal Disorders(「エルゴノミクス・プログラムの基本的内容:筋骨格系障害の職場での評価に基づく入門書」)"は、作業関連性筋骨格系障害の把握、是正、予防に対して一般的に使用されるアプローチを概説している。

この入門書は、様々な職場に具体的技術を適用する方法を示している。内容は、現実的でコスト効果の高い予防戦略を提示するものである。 入門書は、作業関連性筋骨格系障害を抑制するための以下の7つの基本的ステップを説明している。

  1. 職場に筋骨格系障害が発生しているか判定する。
  2. エルゴノミクス・プログラムのなかでの経営者と労働者の役割を検討する。
  3. 研修の必要性を認識し、これを実現する。
  4. .データを収集、分析し、エルゴノミクス的問題点の深刻さと特徴を明確にする。
  5. 抑制のための解決策を考案する。
  6. 医療マネジメントを確立する。
  7. 予防的なエルゴノミクス・プログラムを策定する。 入門書は、このステップを各種の職場で実践するための方法を示すとともに、チェックリスト、調査、図表、規則集などを含めた「ツールボックス」を記載している。

"Musculoskeletal Disorders and Workplace Factors(「筋骨格系障害と職場の要因」)"は、筋骨格系障害に関する科学的文献を批判的に検証した包括的報告書である。そして筋骨格系障害と作業関連の特定の身体的要因、とくに暴露水準の高いものとの明確な関連を示す多数の信頼できる疫学的研究があることを明らかにしている。

この報告書の編集過程で、NIOSHは2,000件を上回る研究を検証し、600件を超える筋骨格系障害と職場要因に関する研究を詳細に分析した。この報告書は、NIOSH内外で詳しく検討された。

報告書では、筋骨格系障害が広がっており、コストを高める要因になり、発生は多数の職種と業種に及んでいることが明らかされている。最大のリスクが見られるのは、筋骨格系障害への強度の暴露が一般的になっている少数の産業である。また筋骨格系障害は、職場で発生し、また職場によって悪化することが認められている。

報告書は、職場の主要な筋骨格系障害リスク要因の分析をふまえ、そうした要因と、手根管症候群、腰部負傷などの個別の疾病との関連を示す証拠について、その性質などを説明している。そして、筋骨格系障害と作業関連の特定の疾病との関連性を証明する有力な証拠が存在すると結論づけている。

詳しい情報については、EUとアメリカの合同ウェブサイト(http://osha.europa.eu/eu-us)を参照のこと。