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労働における健康、安全、衛生
欧州委員会雇用総局

共同体の行動

資料出所:European Agency for safety and Health at Work
(欧州安全衛生機構)発行
「Magazine」2001年3号

(訳 国際安全衛生センター)


欧州連合は、労働者を保護し、労働安全衛生を向上させるための指令を採択してきた。ここでは、筋骨格系障害の予防についての過去の経過と、今後の計画について検討する。

欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)条約は、当初よりエルゴノミクスの分野における行動促進を追及し、労働者の安全衛生の改善を目的とした研究プログラムを擁していた。6件の5年間プログラムにより、487件のプロジェクトに対して9,600万ユーロの資金を提供した。

枠組み指令は1989年に採択され(89/391/EEC)、事業者に対し、労働者の安全衛生を業務のあらゆる側面について確保することを義務づけた。このため事業者は、とくに労働安全衛生へのリスクの評価を義務づけられた。枠組み指令は経済のあらゆる部門(数件の適用除外がある)に適用される、この分野でもっとも重要な指令である。その後、個別産業ごとの指令が採択され、1990年には、とくに労働者の腰部負傷リスクが存在する場所での手作業の荷扱いに関し、安全衛生上の最低要件についての指令(90/269/EEC)が採択された。その目的は、統計的にもっとも多発している職業性のリスクを減少させることにあった。

重要な点は、労働者による手作業の荷扱いの必要性を回避するため、事業者は可能なあらゆる手段を講じなければならないということである。したがって事業者は適切な組織的対策を講じ、または機械的装置などを使用しなければならない。手作業の荷扱いの必要性が回避できない場合、事業者はこれによるリスクを最低限に抑えなければならない。

1990年には、職業性疾病の欧州一覧表の決定に関する欧州委員会勧告(90/326/EEC)も採択された。とくに、加盟国はできるだけ速やかに、予防対策、すなわち勧告付属文書1に掲載された欧州一覧表の対象となる科学的に認定された職業性疾病に関して、規則または行政規定を国内法に導入するよう勧告した。この職業性疾病には、物理的因子による疾病として、機械の振動による手と手首の骨関節の疾病、圧力を原因とする関節周囲嚢の疾病、腱鞘と腱周膜の過緊張による疾病など、8つのグループの筋骨格系障害が含まれている。ただし、この勧告は強制ではないことに注意すべきである。

この勧告をふまえ、欧州委員会が召集した専門家グループが重要な文書を作成した。文書は"Information notice on the diagnosis of occupational diseases(「職業性疾病の診断に関する情報通知」)"と題され、疾病と、その職場での発生との因果関係に関する情報を提供している。

欧州委員会は、業務上の筋骨格系障害についての知識と理解を深めることをきわめて重視しており、そのために、ダブリンの生活労働条件改善欧州財団が定期的に発表する"Working conditions in the European Union(「欧州連合内の労働条件」)"調査や、欧州共同体統計事務局が収集したデータなど、多種多様な情報源を利用している。

労働安全衛生に関するプログラム(1996年−2000年)の一環として、欧州委員会は「高リスクの活動または特定分類の労働者のための新提案」(アクション8)を作成した。ダブリン財団や欧州労働安全衛生機構との協力、また加盟国や社会的パートナー、科学関係者との継続的対話に基づき、欧州委員会は既存の法的枠組みでは労働者が十分に保護されていない分野を突き止めることができるであろう。具体的には、新しい高リスクな業務、リスクがきわめて高い特定産業の労働者、さらに既存の法律の対象外になっている種類の労働者などが考えられる。こうした高リスクの業務が明らかにされたなら、欧州委員会はこれに対処するためのもっとも適切な方法と手段を検討する。その際、立法が必要な場合と不必要な場合があるだろう。

こうした背景のもとで、欧州労働安全衛生機構は1999年に、欧州委員会の要請に応えて"work-related neck and upper limb musculoskeletal disorders(「作業関連性の首および上肢の筋骨格系障害」)"に関する調査を実施した(前論文を参照)。この疾病は、統計的には腰痛を別として作業関連性筋骨格系障害の大半を占めており、上述のとおり「指令 90/269/EEC」が、その予防について定めた。この調査は、欧州連合加盟国がすでに実施した調査に基づく情報と結果を明らかにし、具体的なリスク要因を分析し、作業関連性筋骨格系障害の予防のためのきわめて有効な情報を提供している。

現在、欧州委員会は、「労働における安全、衛生および健康に関する諮問委員会」の協力を得て、作業関連性筋骨格系障害の効果的予防の観点から、欧州委員会がとるべき行動方針を検討しているところである。

EU指令の概要

職場の筋骨格系障害予防のための欧州指令はいくつかある。以下、その目的と内容を簡単にまとめた。

  • 「指令89/391」は、労働者の安全衛生改善の促進を目的とし、職場での危険有害要因の把握とリスク防止に関する一般的枠組みを提示している。具体的には事業者に対し、とくに職場の設計、装置の選択、作業と生産方式の選択の面で、作業を個人に合わせるよう訴えている。
  • 「指令90/269」は、労働者を腰部傷害から保護することを主な目的とし、手作業によるリスクの把握と予防を定めている。
  • 「指令90/270」は、VDT機器によるリスクの把握と予防を目的としている。そして事業者の義務を詳細に規定している。たとえば作業場について、「とくに視力へのリスク、身体的問題、精神的ストレスの問題」など、安全衛生面から分析するよう義務づけている。またVDT機器(ちらつきと反射光の防止、傾斜型のキーボードなど)、作業環境(空間、照明、騒音、湿度など)、コンピューターとオペレータのインターフェース(ソフトウェアの適格性など)についての最低要件を定めている。
  • 「指令89/654」は、安全衛生の最低要件の導入を通じた作業環境の改善を目的とし、作業場のレイアウト、座席配置、温度、照明に関する最低限の措置を規定している。
  • 「指令89/655」は、労働者による作業装置の使用に関する安全衛生上の最低要件を定めている。
  • 「指令89/656」は、個人用保護具の評価、選択、適切な使用に関する最低要件を定めている。
  • 「指令98/37」は、機械の設計と製造を、それを職場で使用する労働者の安全の促進に調和するものとすることを目的としている。この指令は「指令89/392」「指令93/44」に代わるものである。
  • 「指令93/104」は、過重労働による安全衛生への悪影響から労働者を保護することを目的とし、労働時間の編成について定めている。その規定は、労働者の安全または衛生を損ねるおそれのある過度の長時間労働、不十分な休憩時間または勤務体系を回避することを目指している。

詳しくは[http://osha.europa.eu/topics/#msd]の「リソース」のセクションを参照。



標準の設定

CEN(European Committee for Standardisation:欧州標準化委員会)/TC 122生体力学の作業グループの召集責任者であるJ.A. Ringelberg博士によると、各種標準は、職場の筋骨格系障害の予防でカギとなる役割を果たす可能性がある。

博士は、各種標準は作業関連性筋骨格系障害の防止に一定の役割を果たすと考えている。「各種標準は、当然ながら職場で使用する機械などの製品の設計との関連で、予防プロセスに重要な役割を果たします。また職場自体の開発と設計、業務内容の設計の面でも同様です」

この分野の標準の目的は、業務上の筋骨格系障害予防のためのリスクアセスメントの方法を提起することにある。したがって標準は、事業者ではなく機械の設計者を主たる対象にしている。しかし筋骨格系障害のリスクアセスメントの標準が成立すれば、筋骨格系障害による傷害をめぐる裁判で活用できる。

標準についての合意を求める声はきわめて大きい。「いままさに、多くの人々がこうした標準が必要だと言っています」と博士は述べる。

しかし筋骨格系障害とエルゴノミクスについては、毒物学など、労働安全衛生の他の分野ほど進歩していない。実のところ、私たちは筋骨格系障害予防の出発点に立っているにすぎないと博士はいう。

それでも現在、欧州では筋骨格系障害に関する標準の検討が進んでいる。以下に、進行状況とともに、その主要な点をまとめた。

「prEN1005−1」は、機械の安全性と人による身体的作業を対象にし、手作業と姿勢などの問題に関する条件と定義を示すとともに、標準案で使用される用語の定義を定めている。作業は進行中だが、まだ採択には至っていない。

「prEN1005−2」は、機械と機械部品の手動操作に関するリスクアセスメントの方法を提示している。まだ採択されておらず、現在、標準案の改善と追加作業が行われている。第2部の採決は2000年末までに行われる見込みである。

「prEN1005−3」は、機械操作のための力の限度について勧告している。設計者に対し、操作者がペダルを踏むのに要する力などの問題を考慮するよう求めている。標準原案を調和のとれた内容にし、承認を得る作業が進行中である。

「prEN1005−4」は、機械に関連した作業姿勢の評価を取り扱っている。設計者に対し、主として体幹と上肢に関して、労働者が機械の操作中に健康に害を及ぼさない姿勢をとれるよう助言している。たとえばボタンを引いたり押したりする際に、長時間、身体を曲げたり伸ばしたりする必要がないようにし、また不自然な姿勢をとらなくてもよいようにすべきである。標準の新原案は2000年末までに用意される見込みである。

「prEN1005−5」は、反復操作を頻繁に要求されるような機械の設計に対するリスクアセスメントの手順を示している。具体的には3キログラム未満の小型の機械の反復操作について定めている。作業グループの初案が策定中であり、2000年10月に技術委員会に提出される予定である。

* CENは、「European Committee for Standardisation:欧州標準化委員会」の略である。