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Fabrice Bourgeois

OMNIA(フランス・アミアン州)エルゴノミクス・コンサルタント

組織の問題

資料出所:European Agency for safety and Health at Work
(欧州安全衛生機構)発行
「Magazine」2001年3号

(訳 国際安全衛生センター)


職場の筋骨格系障害に対処するための戦略によって、組織内で十分に機能していない領域が明らかになる場合が多い。とはいえ、こうしたアプローチは企業にとってはまったく脅威ではなく、実際には柔軟性を高めるために必要なリソースを明確にする好機になる。

予防活動では、筋骨格系障害と組織的要因との関連を正しく把握することが必要になる。そのためには、こうした障害がどのように発生するかを、さらに詳しく知る必要がでてくる。

組織における障害

こうした障害の因子の説明では、力、関節の角度、反復動作の果たす役割がきわめて重要な位置を占める。しかし作業場に機械的な補助具を導入したり、動作を生体力学的な許容範囲に抑制するだけでは不十分な場合が多いことが明らかになった。筋骨格系障害は、ひとつの場所からは消えるかもしれないが、結局は他の場所で再発する。こうした結果では安心できないため、これら作業関連性の障害の発生の仕組みの解明に取り組まざるをえなくなる。

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筋骨格系障害は、ひとつの場所からは消えるかもしれないが、結局は他の場所で再発する。
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たとえば予防戦略のなかで、作業環境における時間的因子が十分に考慮されてこなかった点が認識されるようになった。目標を定めても、コスト削減による生産性向上をはじめとする企業の他の目標によって無視される場合が多い。しかし対象区域を近接させることで個々の動作に必要な時間を短縮すると、作業者にとっては新たな制約となる。動作密度が高まり、時間的なやりくりの余地が少なくなる。

実は、動作による高ストレスの分析を、個々の身体部分の生体力学的な要素へと還元することは不可能である。ひとつの動作は、筋肉の単純な事象とはまったく異なる。作業者がある動作を行うとき、その動作は常に、終了までに至るひとつの行動に統合される。それは個人によって自覚された行動戦略のベクトルであり、効率性の改善が意図されている。

したがって筋骨格系障害は、作業者がそうした効率性の改善に寄与できていないことを示す症候なのである。その原因を探るためには、装置の設計ももちろんだが、作業者が利用できる組織的な資源をも検証すべきである。

組織の変更に伴なうリスク要因

約10年前、フランスの産業医が、労働者による関節周囲傷の症状の自覚と、労働活動の質的および/または量的変化の開始との間に相関関係があることを発見しはじめた。これらの変化の一部(lean production(無駄のない生産)の採用、柔軟性の拡大など)は、休憩をとる時間の選択の自由、作業速度や作業量の変更の自由、機械の速度または他の複数の同僚の作業率に依存しない立場で作業する自由などを労働者から徐々に奪い、いわゆる「組織依存性」をもたらした。

フランスの疫学的調査によると、自分の組織依存性は高いと考える人々は、低いと考える人々に比べ、手根管症候群を発症する確立が高かった(1.43倍)。その差は、組織依存性が低く、ジャスト・イン・タイム方式またはリーン生産に従事していない人々と比べるとさらに広がった(3.56倍)。

こうしてlean production(無駄のない生産)などへの組織的変更と、筋骨格系障害の発生との間に関連性のあることが証明された。実際には、その原因はlean production(無駄のない生産)自体にではなく、それを導入する際の企業の組織面における選択にある。

たとえば、生産ラインでの作業から独立したチームに変更する場合、経営者は単調さを減らし、柔軟性を高めたいと望んでいる。しかし、そうした変更で筋骨格系障害がなくなる保証はなく、実際には発生の兆候が現れる場合があることがわかってくる。なぜそうなるのか。

理由は、労働者が生産ラインに従事していたときでさえ保有していた作業のやりくりの余地をなくしてしまうからである。ある組立ラインを例に、この点を説明できる。

進歩の代償

技術者は、厳しさを増す市場要求に応え、新しい製品群を発売し、生産性向上を達成するよう求められている。こうした問題を解決する組織技術のひとつが「U−ライン」であり、労働者の人数を需要水準に合わせることが可能になる。一方、求人数が変わらない場合、労働者の人数は発注量によって調整される。したがって各作業者は、複数の業務間を移動するよう求められる場合がある。この方策では、作業者は多様な技能をもち、立ったままで作業するよう要求される。また部材の搬送先を近づけ、作業場を近接させることで空間を節約できる。その結果、2つの作業場間に緩衝在庫をもつことは不可能になる。

経営者の立場からは、これは作業効率を高め、目的達成に向けた柔軟性を高めることになる。作業場の中間に仕掛品が存在することは咎められるべきミスであり、コスト増につながるからである。こうした状況が一定期間続くと、だれもが知っているように、座席が復活する可能性が高い。これは経営者の禁止事項に反するので、対立が生まれるが、だいたいは強制的に中止される。労使関係が悪化し、仕事への満足度が低下し、転職や欠勤などにつながる。しかも筋骨格系障害の発生と報告回数は以前より減ることはない。生産ラインの効率性は失われてしまう。

立ったままの作業では改善につながらないことが、全体の認識として徐々に広がっている。そこで、生産ラインのなかで許容できる座席数で妥協点をさぐる試みがなされている。しかし、この他にも組織再編の目的の障害となる事象がある。作業場の中間にいくつかの部材が存在することは、ますます普通のことになっている。話し合いは難航している。これは柔軟性達成に向けた基本原則だからである。

しかし、これはどのような種類の柔軟性なのか。作業の分析を通して、これらいくつかの部材は、ある意味でリズムを整え、作業の単調さを緩和していることが明らかになった。いくつかのユニットを前倒しで組み立てることで、作業者は作業速度を変え、つかの間の休憩をとることができる。これは緩衝在庫として、たとえば同僚の手助けをし、情報を交換し合うなど、グループ内での活動に参加する余地を生み出す。

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筋骨格系障害が発生するのは、組織依存性が存在する場所である。
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筋骨格系障害が発生するのは、上記に述べたような種類の組織依存性が存在する場所である。作業者がその動作を決定する際に、自分自身のリソース(技能、ノウハウ、創造性など)を利用する余地がますます小さくなっている。個人が組織的制約への依存性を高める要因を把握することが、予防へのひとつのアプローチになる。正確にいうと、組織的なリスク要因は、生産概念自体(lean production(無駄のない生産))にではなく、その適用基準(緩衝在庫の排除など)のなかにある。こうしてわれわれは、活動が必要な分野(座席作業の可能性、ミニ在庫の確立など)と、関与すべき人(設計者、指導員、作業者など)を明らかにできる。

筋骨格系障害の予防と組織の効率性

経営者には、筋骨格系障害予防の試みが業績低下につながりはしないかとのおそれもある。まるで筋骨格系障害が、ある意味で、そして結局のところ、競争の激化する市場で「地歩を固める」ために支払うべき対価であるかのようにとらえている。事実はまったく逆である。

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筋骨格系障害は、企業が把握できない非生産性の源を明らかにする。
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筋骨格系障害は、企業が把握できない、または作業の実施条件に関連づけることができない非生産性の源を明らかにする。予防アプローチの重要な焦点は、こうした関連性の把握にある。たとえば、ある食肉の骨抜き作業班の責任者は、ラインの速度と筋骨格系障害の発生にはなんの関連もないという。作業の分析を通して明らかになったのは、動作密度がきわめて高まっている結果、作業者は時間節約のためにナイフを研ぐ回数を減らさざるをえないということだった。しかし、ナイフの切れ味が鈍って切断により大きな力が必要になり、作業精度が低下した。ここではじめて、ラインの責任者は作業動作の条件と効率性の関連を理解し、廃棄物の量が増えたことを思い出した。この時点まで、非生産性を示す結果は隠されていた。

こうした例は、予防を生産目標達成と分離することによるリスクを明確に示している。つまり、予防のための解決策には、労働者の技能、ノウハウ、動作戦略から得られる経済的価値を最大化するような組織的代替策の推進が必要なのである。