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ストレスに病むヨーロッパ社会
Europe under stress

欧州安全衛生機構発行「Magazine」5号
(仮訳:国際安全衛生センター)

この記事のオリジナルは下記のサイトでご覧いただけます。
http://osha.europa.eu/publications/magazine/5/en/index_2.htm



Anna Diamantopoulou
(欧州委員会 雇用・社会問題担当委員)
ストレスに病むヨーロッパ社会

ヨーロッパで行われた調査によると、ヨーロッパの労働者の約三人に一人は職業性ストレスを抱えているという。

 EU加盟国の安全衛生当局は、マニュアル・ハンドリング、職場の組織変更、危険度の高い若年労働者層の問題とともに、増大する「ストレス」を取り組むべき最重要課題ととらえ、危機感を募らせている。1

 昨年(2001年)開催されたあるセミナーの席上でも、職業性ストレスは、職場の安全衛生に関する共同体の新戦略に盛り込まなければならない危険要因のひとつとして何度も話題にのぼった。2001年4月、欧州委員会、スウェーデン議長、そして欧州安全衛生機構の共催で「仕事の質(Quality of Work)」をテーマにしたセミナーがビルバオで開かれた。

 また、欧州議会とヨーロッパ経済社会評議会の数多くの報告書や決議にも、注意深く見守っていくべき重要テーマとして職業性ストレスがとりあげられている。

 職業性ストレスとは厳密に言うとどのようなものであろうか。自分にとって不利益で有害な仕事内容や組織、労働環境で働くうちに出現する、感情的、認知的、行動的、そして生理的反応といえよう。つまり、極度の心的動揺や苦悩、不適応に代表されるような状態である。

 欧州委員会は、増大する職業性ストレス問題に立ち向かおうとうする欧州連合の姿勢、国家の優先事項、欧州連合の機関の意向を前々から十分に理解してきた。それゆえ欧州委員会はこの問題にさまざまな角度から取り組んできたのである。

 2000年12月、ニースで開催された欧州理事会の席上承認された欧州社会アジェンダ(European Social Agenda)は、最近発表になった声明をもとに職場の健康と安全の実現をめざす共同体戦略を立案するように欧州委員会に命じている。このアジェンダの最大の目標は、職業性ストレスのような心理社会的性質のものを含む新しい危険要因に、新しい基準を設定し、優良事例(good practice)を紹介し合うことによって対処していくことである。欧州委員会が目指すのは、単に職業上の傷害や疾病の予防ではなく、不安なく穏やかな気持ちで働ける状態をつくりあげることだ。ストレスが労働者の安寧を脅かす最も重大な危険要因の一つであることに間違いない。

 欧州委員会は職業性ストレスを包括的に分析した『職業性ストレスに関する手引き(Guidance on Work-related Stress )』を2000年に発行し、この問題への取り組みで一定の成果を上げてきた。この手引きには、職業性ストレスの原因、症状、影響など全般的な情報が、労働者と労働組織むけに書かれている。そして、職業性ストレスとその原因の特定について一般的なアドバイスも掲載されている。また、この手引きは国レベルあるいは企業レベルの社会的パートナーが、それぞれの状況に応じてとり入れることのできる、実際的で柔軟性のある行動のための枠組みを提案している。職業性ストレスの治療よりも予防に焦点を絞っているのがこの手引きの特徴である。2

 職場の安全衛生の向上を求める欧州安全衛生機構の報告書、『職業性ストレスに関する調査(Research on Work-related Stress)』3とこの手引きを読めば、欧州連合の担当者たちも問題に取り組んでいくために必要な基礎知識を得ることができるであろう。

 加えて、欧州委員会は「ストレス問題」を他の新しい開発課題に組みこんで取り組み始めている。質の高い仕事と生活水準のための長期的投資をうたって2001年6月に採択された欧州連合の戦略のなかで、欧州委員会は労働安全衛生部門の質をはかる10の鍵となる指標のひとつとして「ストレスレベル」を加えている。

 2002年、欧州委員会は欧州安全衛生機構にヨーロッパ週間の計画準備を行うように要請した。ヨーロッパ週間の今年のテーマは「職業性ストレス」で、欧州全域のキャンペーンであり、私自身も参画する予定である。

  職業性ストレスは予防できるし、またそうすべきだと欧州委員会は確信している。職業性ストレスの予防は重要な責務であり、労働界に属する世界中の人びとが真剣に取り組むべき課題である。職場の安全衛生に関する同体の新戦略は、こうした目標を実現するための大きな道筋を示してくれるだろう。


参考

1. 欧州安全衛生機構発行の「State of Occupational Safety and Health in the European Union(欧州連合の労働安全衛生の実態)」を参照のこと。
http://osha.europa.eu/publications/reports/stateofoshにアクセスすれば入手可能。

2. 「Guidance on Work-related Stress ‐ spice of life or kiss of death?(職業性ストレスに関する手引き-人生のスパイスか、死の接吻か?)」は
http://www.europa.eu.int/comm/employment_social/h&s/publicat/pubintro_en.htm にアクセスするか、欧州連合出版局にて入手可能。ISBN 92-828-9806-7

3. 「Research on Work-related Stress(職業性ストレスに関する調査)」は
http://osha.europa.eu/publications/reports/stress/にアクセスすれば入手可能。