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欧州建設業における行動調整(上級労働監督官委員会(SLIC))
Coordinated action in the European construction industry

欧州安全衛生機構発行「Magazine」7号 p.5
(仮訳 国際安全衛生センター)

この記事のオリジナルは下記のサイトでご覧いただけます。
http://osha.europa.eu/publications/magazine/7/en/index_3.htm


上級労働監督官委員会(SLIC)
 SLIC(The Senior Labour Inspectors' Committee)は95/319ECの決議によって公式に設立された機関である。

 SLICは、委員会の指導の下、または自ら意見を出して、委員会を補佐する。SLICの意見は、委員会が出した業務上の安全衛生問題関連の法律に対する加盟国の姿勢を考慮していて、EU全土で法律が効率よく一貫して守られているかを調べることを目的としている。また、SLICは労働安全衛生に影響を与える欧州各国の法律適用の際にも意見を述べている。

 SLICには様々な種類の仕事と目的があり、それについては委員会決議の第3条項で定められている。その中味は以下の通りである。
  • 労働監督に含まれる一般的な原則を定義し、それらを実践するため国内監督方法の評価方法の開発
  • 現在実施中の様々な各国の監督方法の知識向上及び相互理解の促進
  • 加盟国間における労働監督官の交流促進及び労働監督官の訓練プログラムの開発
  • 補助的であるEU法令の監督実施を監視し、各国労働監督実施機関の経験交流の促進及び発展
  • 労働監督官が活動し易いようにするための文書の作成発行
  • 労働安全衛生分野に関わるEU法令実施についての問題点について、労働監督官同士が迅速に情報交換できるシステムの開発
  • EUがこの領域で行ってきた監督業務を第三国の労働監督官と共有し、各国を越えた問題解決の一助とすること
  • 労働安全衛生問題に関わるEU法令の影響の検討
 建築業界における最近の監督キャンペーンやアスベスト対策会議はSLICの指導のもとで行われている。

 これらのキャンペーンや会議は、SLIC決議(2002年11月)の中で設定された目的に対応している。この決議は、2002〜6年EU労働災害防止計画(Community strategy on health and safety at work)におけるSLICの役割を考えて作成された。

 さらに、SLICの建設業界のキャンペーンやアスベスト対策会議は、SLICの伝統に基づいている。その起源は、1982年にさかのぼる。

 SLICはすでにいくつかのキャンペーンや会議、講座を開催しており、(例えば欧州農業監督キャンペーン(1999))、それらは大きな成功を収め、今日の建設業界で行われるキャンペーンに役立つ経験をもたらした。

 建設キャンペーンは、SLIC内の特別作業グループの綿密な準備を経て開催された。EU加盟国が監督に完全に協力したのはこれが初めてだった。

 キャンペーンでは、タイムテーブル、建設業界に注意を促すためのマスメディアを使用した情報キャンペーン、調査方法、対処すべき問題を共有することが決められた。

 調査には標準的なアンケート(チェックリスト)が使われ、主に二つの目的のもとで実施された。
  • 建設業での重大死亡災害の数を減らすために、高所からの墜落リスクを防止すること
  • 現場責任者の選任状況及びその責任者が実際に果たしている役割をモニターすること
 このキャンペーンの結果は、設置された作業グループによって評価される予定だが、ほとんどのEU加盟国で2004年に繰り返し実施されることになっている。

 繊維産業(1998)や自動車産業(1996)関連また、アスベストセミナー(2000、フランス、スウェーデン、スペイン、イギリスにて開催)などのSLICが組織したヨーロッパ会議やセミナーは、労働者にとっては優れた実践ガイドとなり、アスベスト除去現場の監督を行う監督官にとっては優れたトレーニング材料となった。

 2003年9月3〜6日にドイツのドレスデンで開催されたアスベスト関連のヨーロッパ会議は、ある意味ではこの分野におけるSLICが行ってきた仕事の積み重ねの結果ともいえるものだ。近々EC官報でアスベストに関する指示書2003/18/ECが発行されることを考えると、これは非常にタイミングが良い。

 会議に参加した人々は、この会議が大成功だったと述べており、会議はドレスデンアスベスト宣言を持って終了した。

 この宣言を出すことで、最も危険性の高い発がん物質であるアスベストが引き起こす職業関連の疾病を防止するにあたって、委員会とSLICが果たすべき中心的役割が会議で確認された。

 この宣言ではSLICが引き続き以下の対策を講じることが求められている。
  • ガイドラインの設定
    - 法的能力を持った機関によるまとまった法令の整備と分かりやすい形での監督。これにはEU非加盟国からのアスベスト入り素材の輸入制限も含まれる。
    - 工場設備や建築物、装置の使用、維持、補修の際に、アスベストとアスベスト使用製品の存在を特定し、その存在に注意を促すこと
    - アスベストの除去方法(特に粉じんの抑制、密閉及びPPE使用)とアスベストセメント製品とその廃棄物の処理方法に関する優良事例を記述すること
    - PPEと防護服の使用を奨励していくこと。その際、ヒューマンファクター及び個人差を考慮すること。
  • 経験を共有し、医学的調査をより整合させていくこと(その際、EU加盟国既存の対策を考慮に入れること)。特にアスベストばく露後の医学的調査と国の登録制度の創設をすすめていくこと。欧州の職業性疾病リストをよりよくしていくために、アスベスト関連の疾病の認識を深めるようなガイダンスを行うべきである。
  • 委員会の作業グループが準備した既存のアスベスト取扱いと労働監督官の教育訓練に関するガイドラインを普及させ、2006年までにその勧告を実施すること。
  • アスベスト除去の経済性だけを考慮して、効果的な防止対策を行わないで、危険手当の支払いで済まさないこと。
  • 2006年の欧州キャンペーンを社会的パートナーと共に先導し、指令の実行をサポートしていくこと。
  • アスベストで汚染された廃棄物が、第三国に輸出されることを防ぐこと。
 このような会議の動きは、科学関係の団体や社会的なパートナー、国家の政策立案者たちが、これまで行われてきた委員会の業績を評価しており、将来的に委員会の役割が強化されるだろうと希望、期待していることを示している。実際、ヨーロッパの法律が全EU加盟国に適用され、その法律が守られているかを調べる責任が各国に化せられた場合には、監督方法や手順の基準を調整していくことが必要になるだろう。

 経験の共有、自発的な試みの結果の比較、SLICが検討中の質と性能の指標を近日中に利用することによって、欧州は設定した目標を実現することができるだろう。その目標とは、全欧州の労働者たちが最高水準の安全衛生上の保護をうけることができることである。