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NSC発行「Safety + Health」2000年9月号
OSHAの最新情報
労働省に対する議会の予算案に、クリントン政権は渋面
2001年度労働省予算を含む議会の新しい歳出予算案は、労働安全衛生庁(OSHA)のエルゴノミクス基準を頓挫させる条項をはじめ、数多くの点でクリントン大統領の拒否権発動を招くおそれがある。
下院および上院は、2001年9月30日を末日とする会計年度中、反復ストレス外傷からの労働者保護対策を使用者に義務づける、OSHAの最終基準案の推進を禁ずる条項を含む予算案を通過させた。このエルゴノミクス条項が、大統領の拒否権発動を招く主な理由である。
法案の他の欠点に加え、クリントン大統領は、「全国の労働者をエルゴノミクス的負傷から守る労働省基準を阻もうとする下院の軽率な行為に、上院も追随するとは、全く残念なことだ。10年余にわたる経験と科学的調査、そして何百万もの不要な傷害を積み重ねた今こそ、基準を完成させる時である」と語った。問題の条項は、「業務上のエルゴノミクス障害から何千人もの労働者を保護することを」労働省に止めさせるものである、とアレクシス ハーマン労働省長官は述べた。
下院の予算案では、2001年度OSHA予算は、2000年度の3億8千2百万ドルを維持、うち1億3千9百万ドルは、連邦レベルでの職場の安全衛生基準の執行に、5千4百万ドルは、OSHA規則遵守のための使用者支援に充てられる。一方、上院は、2001会計年度予算として、クリントン政権が要求していた4億2千6百万ドルを承認、これには、基準執行予算1億5千3百万ドル、規則遵守支援6千7百万ドルが含まれている。両院は、予算法案の差異につき、妥協を計らねばならない。
使用者団体は、エルゴノミクス阻止条項を求めてきた。ワシントンD.C.にある使用者団体のひとりの言葉を借りれば、エルゴノミクスは、OSHAにとって「大ごと」であると考えているからである。組合は、OSHAのエルゴノミクス基準の推進は、遅過ぎると主張している。
組合側は、また、OSHAが安全衛生規則をより良く執行するには、もっと多くの費用と監督官が必要であると語った。しかし、使用者側は、安全衛生法遵守のための使用者支援に、OSHA予算の増額分4千4百4十万万ドルの半分を充てるよう指示する文言を、上院歳出予算案に盛り込むことで、両党の同意を得た、上院雇用安全訓練小委員会のマイク エンジ委員長(共和党、ワイオミング州)に賛意を示している。残る2千2百2十万ドルは、OSHAが「悪者を標的に罰金を科す」のに活用しうると、エンジ上院議員は述べた。
もし、OSHAが、より多くの予算を規則遵守のための労使支援に充てていたならば、一日あたり16件の業務上の死亡および18,600件の負傷を防止できたろうと、エンジ議員は語った。しかし、OSHAは、相談、教育に比べ、法規執行に約4倍もの予算を割り当てていると、同氏は述べた。
OSHAの監督業務、急増
OSHAの労働監督および連邦安全衛生規則違反による召喚は、6月30日を末日とする2000年度第3四半期中、増加し続けた。
6月30日までの9ヶ月間、OSHAの連邦レベルでの労働監督は、計26,996件で、1999年6月30日に終わる同じ9ヶ月間の24,566件より10%増加した。後者の数字は、1998年の同期の25,999件より減少している。直近9ヶ月間の召喚違反は、昨年同期の54,789件から60,736件に増加し、課金または要求された罰金額は、5千4百8十万ドルから6千5百万ドルに上昇した。
OSHAの監督活動は、近年の低水準から、1996年度には著しく跳ね上がったが、1999年度では水平を維持。危険度の高い職場の監督を強化する新しい遵守プログラムで、法的なトラブルが生じたからである。しかし、2000年度は、OSHAが、新しい重点的監督プログラムで、危険性の高い使用者により専念するようになったため、重大な違反のみならず、全般的な監督、召喚件数が、再び増加している。
「会員から聞こえてくる騒音(OSHAの監督について)は、引き続き高水準である。彼らは、『取り締まり屋』で、これが上手なのである」と、全米製造者協会のパトリック クリアリ人的資源政策担当副会長は語った。しかし、米国製鋼労働連盟のマイケル ライト安全衛生担当部長は、「一般に、監督をすればするほど、よりよく遵守されると思う」と述べた。同氏は、使用者は、労働監督があると思うと、その職場をより安全にしようとするだろうと言った。
一方、OSHAは、2001年度中に、年次傷病率調査で、これまでは除外されていた建設会社を包含しようと計画している。これにより、当局は、傷病率の最も高い事業場リストを拡充し、重点的監督プログラムに、より多くの危険度の高い事業場を追加するだろう。OSHAは、2001年度内に、13万6千人の使用者から傷病データを収集しようと提案している。これは、現行の調査対象者8万人の70%増である。
この増加は、20人以上の従業員を雇用する建設会社を追加したからである。OSHAは、今年度、1999年に調査した8万の使用者のうち、約4千社を監督する予定である。
ゼネコン協会のキャロリン ガグリエルモ安全衛生担当部長は、どの建設会社を監督対象とするのか、安全問題の大半を占める多数の小規模住宅建設会社はどうするのか、どの建設会社が危険度の高い仕事をしているかどうかを見極める情報を、いかにして収集するのか、と質問を挙げた。同協会の会員の大半は、大規模な建設会社で、安全プログラムを開発する資力があるが、OSHAは、これらの大会社に監督を集中させがちであると、同氏は言った。
有償証人問題で、OSHA批判
使用者団体は、エルゴノミクス基準案の公聴会で証人を務めた28名に、一人当り1万ドルを支払ったとして、OSHAをとがめた。
全国製造者協会のパトリック クリアリ副会長は、先日、OSHAのチャールズ ジェフレス長官に対し、支払いは「前例がなく、また弁明の余地がない」と書き送った。同氏は、公聴会で有償の証人を用いるのは、「政府内では常軌を逸したこと」という意味の他省庁の発言を取り上げたニュース記事を引用した。
同氏は、エルゴノミクスに関し、OSHAの見解に同意する証人にのみ、「祝儀」を配られたことは明白である、と述べ、「一般公衆および秩序ある社会から、偏見のない見解を取りこむべきプロセスで、好意的な証人に報酬を与えるのは、悪くはないまでも不適切である」と語った。
皮肉をこめて、全国製造者協会のひとりは、ジェフレス長官宛に書簡と1万ドルの請求書を送り、自身の証言代を支払うよう請求した。同氏の証言内容は、規則案は、業務に起因していなくても、それにより悪化した負傷について、使用者の責任を問うものであり、1件の負傷事故が発生しただけで、エルゴノミクス・プログラムを実施するよう、使用者に義務づけているとの主張を含んだものであった。クリアリ副会長は、全国製造者協会は、公聴会で証言した会員に、同様に請求をするよう奨励していると述べた。
ジェフレス長官は、この問題について照会してきたデイビッド・マキントッシュ下院議員(共和党、インディアナ州)に対する長い書簡で、有償による専門家の証人としての活用は、議会で承認されており、連邦裁判所も公認するところであり、20年間の4政権下でのOSHAおよび他省庁の慣行と一貫性を持つものである、と述べている。証人は、複雑な安全衛生基準の開発に必要としている専門性をOSHAに提供した、と同氏は述べた。
その他の認可のなかでも、コロンビア区の控訴院は、鉛基準の開発の際、OSHAは、契約した専門家やコンサルタントを適切に活用しているとの結論を1980年に下しており、また、連邦購入規則は、有償の専門家の利用を承認している、とジュフレス長官は述べた。会計検査院は、1974年から1988年の間、OSHAが、規則作成の際に、4千ドルから1万ドルの範囲で証人に報酬を支払ってきたことを把握しているが、問題視することはなかったと、長官は語った。
法律専門家も、OSHAの証人としての専門家の活用は、規則案作成の「根拠をより良く説明するため」として認めており、環境保護庁(EPA)、食品医薬品庁(FDA)、運輸省などの他省庁でも、証人やコンサルタントとして、専門家と個人契約を結んでいる、と長官は語った。
基準設定の合理化をOSHAに要求
国家労働安全衛生諮問委員会は、新基準起草の長く煩雑な仕事を合理化するよう、OSHAに強く要請した。
同諮問委員会の報告書はまた、議会は法律を変更して、現行の6ヶ月ではなく、2年間有効とする、緊急臨時基準をOSHAが公表できるようにすべきであると勧告している。
使用者もまた、緊急基準を「忘却」させる法的手段を講じることができたし、また重要な臨時規則は、もっと簡単にOSHAが採択できるようにすべきだ、と同諮問委員会の委員を務める、全米製鋼労働組合のマイケル・ライト安全衛生部長は語った。同委員会は、「現在の(反OSHA的な)政治情勢でも実行しうる」手段を勧告しようと努めていると、同氏は述べた。
国家労働安全衛生諮問委員会は、OSHA内部での検討段階毎に、基準に価値と責任を付与するなど、規則作成の過程管理により効果的なシステムを考案すべきであると語った。厳格な期限を設け、期限を守らない管理者には責任を取らせるべきである。規則案作成事前通告(ANPR)は、情報収集が必要な場合、もしくは、OSHAが規則作成の開始を発表する場合にのみ用いることとし、OSHAは、ANPRコメント期間終了後1年以内に、基準が不要もしくは不可能である場合を
除いて、基準案を発行することとせねばならない、とも同委員会は述べた。
同委員会のその他の勧告は、以下のとおり。
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総力を結集し、目標達成を確実にする、基準開発管理センターの設置。
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安全衛生プログラム基準をできるだけ速やかに発行し、引き続いて医学的監視や職場での暴露モニタリングを含む「積み木」基準を出す。新しい衛生基準毎に、これらの問題を別々に考慮しないで済むようにするのである。 |
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国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、コメントを提出したり、公聴会で証言するにとどまらず、OSHAの規則作成を積極的に支援する役割を果たさねばならない。 |
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OSHAは、優秀な技術スタッフの採用、支持、雇用の維持に関し、より良い方法を考案すべきである。 |
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利害関係者委員会の委員少数のみの利用も含め、基準作成諮問委員会、交渉委員会をもっと有効に活用する。OSHAは、委員会から勧告、もしくは、コンセンサスを得なかったとの回答を受けたのちは、可能な限り早く規則を提案すべきである。 |
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コンセンサス基準設定団体との有効的なパートナーシップおよび専門家団体連絡事務室の再設置により、基準起草プロセスの強化を図る。 |
同委員会は、過去7年間に、重要な基準は起案または完成されていないことに留意。同委員会で、具体的な基準の開発シナリオを討議中、自動車労働組合のランディ ラビノウィッツ氏は、OSHAは法的な挑戦を免れる基準の設定を試みてきたが、それは不可能だと思うと語った。大企業団体のひとつ、団体資本顧問のフランク ホワイト副会長は、利害関係者会議は、「利害関係者を喜ばす」以上のものにせねばならない、そうすれば、終盤で番狂わせもないだろう、また、基準の提案、完成をより速やかにせねばならない、と語った。
MSHA、粉炭採集の専管を提案
鉱山安全衛生庁(Mine Safety and Health Administration : MSHA)は、坑内労働者を有害な粉炭から保護するため、規則の改正を提案した。これには、30年間、炭鉱操業者に義務付けていた空気採集、試験を同庁の所管業務とすることも含まれている。
ダビット・マカティア鉱山安全衛生担当労働副長官(Davitt McAteer, assistant
secretary of labor for mine safety and health)によると、これらの変更は、黒肺病(black
lung disease)や珪肺(silicosis)を防止するための再構築システムの要である。同庁によれば、粉じん採集をMSHA監督官の職務に組み込むとする提案は、不正サンプリングや吸入性粉炭を不当に低く報告する例が多発したことに、幾分、端を発する。
当局は、また、炭鉱の換気計画を承認する前に、より現実的な生産レベルで、炭鉱操業者による粉じん管理対策の効果を検証する。監督官は、複数シフトでのサンプルの粉じん濃度の平均をとるのではなく、単シフトの粉じん濃度が、許容濃度を超えただけでも召喚状を発行することができるようになる。
最後に、可能な全ての工学的管理でも衛生基準を十分に満たさない場合は、長い坑道での操業においては、工学的管理を補完するため、顔にぴったりと装置しないですむ、電動ファン付き呼吸用保護具の利用および交替制勤務を、暫定的に許可される。
「規則改正案については、いくつかの点が、掘り下げ不足であると懸念している」と、米国鉱業労働者連盟(United
Mine Workers of America : UMWA)のジョー メイン安全衛生部長は言った。「もっと採集」する必要がある、MSHAは、操業者が実施している年間30シフトの採集を取り消す一方、同庁は、現行の年間6シフトと同じ、最小限の回数だけ採集を行うとしている、と同氏。最大許容粉じん濃度は倍になる、とも付け加えた。
米国瀝青炭鉱操業者団体(Bituminous Coal Operators of America)のスポークスマン、モリー フエイブッシュ氏は、MSHAが粉じん採集の責任を負おうとも、「全く問題なし」と語った。さもなければ、同団体は、規則改正案を分析しなければならないところだが、「我々は、全ての点で賛成することはないと請け合う」と語った。 アル カー
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