NSC発行「Safety + Health」2000年9月号
時の人
旅客機内で、除細動器が救命
ニューイングランド ジャーナル オブ メディソンへの掲載が許可された調査によると、旅客機内に搭載したポータブル除細動器が、生命を救っている。テキサス サウスウエスタン大学の研究者グループは、アメリカン航空の機内で、自動体外式除細動器(AED)の初期利用について調査し、その結果、利用した患者の40%が生きながらえたことが判明した。機内にAEDが搭載されていなかったならば、彼らは間違いなく死亡していたであろう。
突然の心拍停止を起こした人々には、正常な拍動リズムを取り戻すため、心臓に衝撃を与えねばならない。AEDは、ラップトップコンピュターの大きさで、心拍動を読み取り、患者に衝撃を与えるべきかどうかを知らせる器具である。心拍数の異常で衝撃を受けないと、心肺蘇生術を施しても、数分以内に死亡する可能性がある。航空機の着陸には、最低でも20分を要する。
アメリカン航空は、1997年より、航空機にAEDを搭載しており、乗務員2万4千人にその取り扱い方を訓練した。
テキサス サウスウエスタン大学の臨床心臓電子生理学部長で、本調査を主筆したリチャード ペイジ氏は、その装置が役立ったか、また、それが適切に用いられたか、その両方を調査したかったと語った。AEDは、正常な拍動を刻む心臓に衝撃を与えた場合、心拍が異常となり、患者を死亡させる恐れがある。
AEDは、意図されたとおり正確に作動したと、ペイジ氏は語った。AEDが衝撃を与えるよう指示したのは、全て、患者の心拍が異常の場合であった。乗務員は、乗客が意識を失ったのち、AEDを使用するよう訓練を受けているが、フライトによっては医師が搭乗していることもあり、AEDを病気になった乗客の心臓モニターとして使用した。本調査では、余病は、引き起こされなかった。最も重要なのは、衝撃で、乗客14名の生命を助けられたということである。
ペイジ氏は、本調査は、航空機内同様、他の職場に対しても意味があると述べた。
同氏は、フットボールスタヂアム、ショッピングモール、空港や規模の大きい職場など、これら全ての場所にAEDを備えるべきだと語った。突発的な心拍停止は、米国における死亡原因の弟一位を占め、毎年35万人が死亡している。緊急救助隊は、往々にして10分以上離れており、来るのが遅すぎる。北米心臓調整電子生理学会(North
American Society of Pacing amd Electrophysiology)によると、病院外で、突発性の心拍停止を経験した人のうち、わずか5%が生存しているのみである。
「私の考えでは、AEDは消火器のようでなくてはならない。めったに利用することはないけれども、なくては困る」とペイジ氏。「AEDは、生命を救うのだから」。
障害者は、業務上の自己の危険を判断できるとの判決
カリフォルニア州シェブロン社の元従業員が起こした訴訟で、障害者は、自身の安全を危険にさらすかもしれないとの理由で、雇用を否定されてはならないと、連邦控訴院は、判決を下した。
この判決に関し、国内最大手の使用者の一部から、自身の健康を危険にさらすかもしれない職につく労働者を保護するのは困難であるとして、抗議が出た。従来、裁判所は、アメリカ障害者法(ADA)について、使用者は、自分自身や他人の安全を危険にさらす恐れのある求職者の採用を拒否できる、と解釈してきた。
米国第9巡回控訴院は、障害者が、他人の安全を危険にさらす恐れがある場合のみ、使用者は、その雇用を拒否しうると語った。
「障害者は、どのようなリスクを冒すか、自分自身について決定する機会を与えられなければならないとの結論を、議会は出した」と、ステファン ラインハート判事は、満場一致の陪審団に代わり記した。また、障害者法は、幾分、「温情主義の形をとる障害者への差別を禁止」しようとして、設計されたと書いている。
この判決により、雇用機会均等委員会は、自分自身に危険を招く恐れのある求職者の採用を、使用者は拒否しうるとした、現行のガイドラインを変更せねばならなくなるだろう。
「この問題については、我々は、更なる検討を加えると言うにとどめる」と、同委員会のペギー マストリオアニ副法務委員は言った。「この分野での大きな問題は、いつも、人は、月並みな仮説をたてるということである。障害があるから仕事ができないと決めつけてはいけない」。
使用者代表団は、今回の判決に困惑していると語った。
「仕事を安全に遂行するということは、仕事の重要な目的であると主張した」と、大会社300社余りを代表する訴訟を提出した雇用平等諮問委員会のアン リーズマン一般弁護士は語った。「使用者は、安全性に基いた資格基準を持ちうる。障害者法は、明確にそう規定していると、我々は信ずる」。仮に、裁判所の判決が有効であるとすると、使用者は、同法違反のリスク、または、労働者の負傷、死亡のリスクの間で、バランスを取らなければならなくなると、同氏は述べた。
1992年、シェブロン社の元従業員は、コークス部門の仕事に応募、同社は、身体検査に合格した当人を採用した。その後、従業員が、無症状の慢性C型肝炎と診断されてから、コークス部門の特定の化学物質を扱うと、肝臓を損ねる恐れがあるとして、採用を取り消した。従業員のかかりつけの医者は、いずれも、当人の健康状態を理由に精製所で働くのを止めるよう勧告してはいなかった。
かつて米国労働省の弁護士を務めたこともある、デンバーの労働雇用担当弁護士ジム アブラムズ氏は、これは1裁判所の判決にすぎないが、第9巡回地域の使用者は留意せねばならない、と語った。
判決により、使用者は、難しい立場に立たされうる、と同氏は述べた。なぜなら、労働安全衛生法では、使用者は、労働者を労働者自身から保護するよう求めていながら、判決では、労働者は、自分自身について決定することができると、障害者法を解釈したからである。
同氏は、使用者は、求職者に対し、仕事の潜在的な危険を知らせるよう注意せねばならない、と付け加えた。
幸い、大半の労働者は、正しい判断を下す、と同氏。
「実際、大抵の人は、危険な方へ身を置かない」とアブラムズ氏、「保護の第一線は、労働者自身にある」。
放送キャスター組合、安全基準を要請
放送キャスター、カメラマンを代表するロサンゼルスの組合は、現場でのレポーターに対する安全基準を採用するよう、ラジオ、テレビ局に強く働き掛けている。組合の基準採用要求は、TVニュース放送車から出ているマイクロ波アンテナが、34,500ボルトの動力線に触れ、TVニュースレポーターのエイドリアン アルパート氏が4度の火傷を負ったことがきっかけで、始まった。
「我々が、再発防止に努めなければ、事故の悲劇は繰り返されるだろう」と、全米放送労働者技術者連合-全米通信労働者(NABET-CWA)地域57のギナ スティネット会長は語った。「市全体で、全ての電子ニュース-収集業務のための安全基準を開発する時期が来ていると思う」。
全米テレビ・ラジオアーティスト連合も、NABET-CWA地域57の安全基準要請に加わった。労働安全衛生庁(OSHA)は、放送メディアに対する指導要綱を持っておらず、放送局毎に安全指針は異なる。
NABET-CWA地域57の勧告は、以下の点を含む。
・車両にEMF(起電力)検出器を搭載する。
・火災報道時には、取材陣、レポーターに保護服を支給する。
・非常事態に備え、救助を求めることができるよう、車両に非常ボタンを設ける。
・電子ニュース取材陣のため、安全手順のチエックリストを作成する。
・生中継の場合は、常に2名で対応する。
・警報球を使用して、車両まわりの安全を確保する。
・現場の全ての労働者に対し、火災安全コース、安全訓練を義務づける。
エネルギー省、罹病労働者に補償
エネルギー省のビル リチャードソン長官は、同省の核兵器工場の労働者3千人余に対する補償案を発表した。これで、核兵器工場の労働者からの労働災害補償要求に反対してきた政府慣例は、覆された。
労働者は、ベリリウム分子の吸入による肺疾患や放射線によるガンなど、広範囲の疾病に悩まされてきた。核兵器工場労働者の暴露に関するエネルギー省の一連の報告書によれば、監督者が呼吸用保護具の着用を求めなかったため、労働者は、ウラン粉じん、ヒ素その他の毒物を長年にわたり、日常的に吸入していたことが判明した。
リチャードソン長官の発表は、最近になって、危険な化学物質や放射線への暴露で罹病した労働者に補償するとした、クリントン政権の一連の対策の頂点を極めるものである。
「政府は、何十年もの間、国の防衛に貢献する労働者が危険にさらされていることを示す、山ほどの証拠に目をつぶってきた」と、アル ゴア副大統領は語った。「彼らの苦しみを取り除くことはできないが、政府は、過ちを認め、彼らの疾病に対する補償手順を設計し、エネルギー省核兵器工場労働者の代弁者となることで、癒すよう、今日より努めたい」。
労働者の大半は、第2次世界大戦中および冷戦中に核兵器工場で働いた時に罹病した。職場は、ケンタッキー州パドウカやオハイオ州ポーツマスにあるガス拡散工場など、全国の核兵器工場にわたる。
議会が補償案を可決すれば、政府は、罹病労働者の大半に計10万ドルの給付金、または、損失賃金、医療費および職業再訓練を含む支援パッケージを支給する。補償プログラムの総費用は、最初の3年間で年間1億2千万ドル、その後は年間8千万ドルになると見積もられている。
全国の核兵器工場における慣行を調査するため、安全、衛生、環境の専門家28名からなるチームが、200件以上もの管理職、労働者面談を実施し、施設計画を点検し、作業状況を視察した。同チームは、放射線学的調査を実施し、何百もの書類にあたり、地下水、地表水、堆積物や土壌のサンプルを分析した。
チームの報告では、核兵器工場は、現在、労働者や公衆を危険にさらしてはいないと結論づけたものの、過去の慣行には、許容しがたい安全基準があったとしている。最も危険な作業のひとつは、ポーツマスの酸化物転換工場で行われており、これにより、労働者は、1957~1978年間に、空気中および地表面上の放射性汚染にさらされ続けていた。エリザベス アンバル
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