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NSC発行「Safety + Health」2000年12月号
時の人
GMとUAW、労働者に優しい工場を建設
長年、ゼネラル・モーター社(GM)は、同社のキャデラック車を究極の贅沢、快適、品格だと宣伝してきた。ミシガン州ランシング市に建設中のGM新工場も、労働者の快適と品格を強調している。
GMは、全米自動車労組(UAW)と共に、労働者の視点に立って、新しいグランド・リバー工場を設計している。すなわち、最新の正しいエルゴノミクスの知識を採用して、反復動作を最小限にとどめ、設計段階から労働者をの意見をインプットした、組み立てラインを構築するというのである。GMは、これにより、より効率的でより生産性の高い工場となるよう期待している。
「GMは、全施設共通の世界的製造戦略を採用する」と、GMスポークスマン、レニー・ラシドメレム氏は言った。「戦略の一部は、作業者に焦点を合わせている。作業は、全て、作業者に配慮して行う」。
工場設計者は、5億5千8百万ドルもの工場の起工前に、強力なコンピュ−ター・モデルを駆使して、仮想工場を建てた。設計者は、コンピュータ−・モデルを用いて、レイアウト、設計、労働者のライン配置によるエルゴノミクス要因を検討した。
工場は、従来の長方形でなくT字型とすることに決めた。T字型にすれば、下組み立てをした部品を、トラックで直接、使用する場所へ搬入できる。これにより、数多くの負傷をもたらすフォークリフトの使用を省く。この建物は、車体と塗装場を別棟にして、作業スペースにより柔軟性にもたせ、広さは、従来型GM工場の約半分となる、
工場には、高価な調節可能なラインを据え付け、労働者は、自分の作業場を自分の背丈や体格に合うように調節する。ライン労働者は、自動補助具を用いて、部品をつまみ上げ、正しい位置に配置する。これで、疲労と反復動作問題を軽減する。
同社は、報告によれば1千2百万ドルを訓練に消費、新人向けだけで400時間、熟練労働者の訓練にはもっと時間を割いており、合計2000時間を訓練にあてている。労働者に優しい工場のうわさは素晴らしく、求人数より配置転換を希望する者の方が多い。
もちろん、GMは、純粋に利他的な行いをしているのではない。労働市場がひっ迫している状態では、労働者を喜ばせ、その健康を維持しておくことが、競争力を維持する鍵である。低い労働災害補償、少ない病欠、快適な組み立てラインすべてが、収益に貢献する。
来年末、ランシング市でキャデラック・カテラスを組み立てはじめたら、労働者は、製造する新しい車の運転者同様に、大事にされていると感じるであろう。
OSHA,2000年度中にエルゴノミクス基準を約束
OSHA(労働安全衛生庁)は、今年のクリスマス・プレゼントとして、エルゴノミクス基準を公布する、そう約束したのは、労働省のR;・デイビス・レイン次官補。フロリダ州オーランド市で開催された、全国安全協会(NSC)の年次大会の「行動するOSHA」セッションでのことであった。レイン次官補は、当局は、全国で開催した公聴会で得た情報を、千件の発表で提起された7千以上ものコメントを含めて、再検討していると語った。
「基準は、11ページくらいの長さで、千ページの資料を付録したものとなるでしょう」と、同氏は述べた。「これは、当局にとって、難題でした。しかし、一度やり遂げると、ほかの課題やプログラムに取り組むことができます」。
当局は、新政権発足前までにエルゴノミクス基準を完成させたいと希望している。
「行動するOSHA」セッションでは、当局の職員数名が、発足以来、OSHAがどう変わり、発展してきたか討議した。パネル討論には、レイン次官補のほか、スティーブン・ウィット技術支援局長、パトリシア・クラーク地方行政官、H・バリエン・ゼットラー建設局次長、ポーラ・ホワイト連邦・州運営局長、リック・フェアファックス遵守局長が参加した。
レイン次官補は、強力な施行、産業界その他の関係団体との創造的なパートナーシップ、援助の拡大と訓練、規則作成の改善といった新しい運営手順で、当局は活動していると語った。また、1971年以来、OSHAの業務の照準がどう変わったか、話した。
「1971年には、5産業に照準を定めたが、これにはわけも理由もなかった。全て、国家プログラムでした」と同氏。「現在は、もっと地域に根ざし、地方分権化しています。インターネットも、我々の業務や管理に役立っています」。
当局は、また、企業や労働力のグローバル化にあわせた合意と基準の開発に努めている。ウィット技術支援局長は、これもまた、当局にとって難題であると述べた。なぜなら、各国は、独自の規制基準やアイデアを有するからである。
「我々は、有害化学物質に関するコミュニケーションについて、国際的な調和を図ろうと努めています。また、EUとともに、電気安全基準の開発も行っています」と同氏。「アメリカとEU間の合意により、EUの試験所は、アメリカ向けの製品を検定することになります」。
また、レイン次官補は、自主的保護プログラムに関し、数か国と協力していると述べた。昨年だけでも、86の積極的パートナーシップがあり、これは、前年度を83%上回る改善ぶりだと、同氏は述べた。「政労使は、協力すればより一層の成果を得られ、企業にとっても収益の改善となろうし、労働者にとってもよりよい安全衛生が保障されます」と同氏。
OSHAは、教育についても一層の注意を払っている。レイン次官補は、地域や産業界と協力するよう、遵守支援担当官をOSHAの地域事務所に配置させていると語った。同氏は、当局は、50万人以上の受講者に安全衛生訓練を実施したと述べた。一方で、はやりのインターネットを利用して、ウェブや、テクノロジー利用の訓練も提供している。
また、OSHAの本来の役割である施行も、他の安全衛生分野で、おろそかにされているわけではない。フェアファックス遵守局長は、1996/97年には、8千の使用者からデータを収集しはじめ、海運業、ハズマット(危険物質)シート、建設業に重きを置く、と語った。
ゼットラ−建設局次長は、建設現場での事故については、ゼネコンも責任を負うとの当局の考えを述べた。「皆、いくばくかの責任を負っています」と同氏は警告した。「ゼネコンは、下請け業者のせいにしてはなりません。作業現場の全ての企業が、責任を負わねばなりません」。
NSC年次大会・博覧会、2000年度の記録
フロリダ州オーランド市で、10月16日〜18日に開かれた、第88回NSC年次大会&博覧会では、いくつかの記録が更新された。
スーザン・キャッツ会議企画部長によれば、同大会の参加者は、過去最多の19,800人で、うち11,000人は、安全衛生専門官であった。海外からの参加も1,500人で、これも過去最多である。
出展者・展示スペースも、過去最多を記録した。正味17万7千平方フィートのスペースに、826の出展者が最新の製品・サービスを展示、1999年の出展者796名を超えた。また、NSC安全ストアは、4万ドルと、予想を上回る売上げを記録した。
弟89回NSC年次大会&博覧会は、アトランタ市で、9月24日〜26日の開催予定である。
労働者は、無意識に毒物を持ち帰る
何年もの間、科学者は、毒物を取り扱う労働者が、仕事を終えると、危険な化学物質やその他の物質を家に持ち帰る可能性があると知っていた。しかし、政府や産業界の努力にもかかわらず、調査の結果、全国の子供、配偶者、家族構成員は、生殖機能障害、発育障害や病気を引き起こす可能性があるほどの毒性レベルにさらされていることが判明した。
おそらく最も驚くべきことは、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)によれば、この分野での調査はほとんどなされておらず、だれが危険にさらされるのか、毒物は、どこに、または、いつ家庭に持ち込まれるのか、また、毒物への暴露は、どのような病気を引き起こす可能性があるのか、科学者は把握していないということである。
「これは、氷山の一角である」とNIOSHの疫病学者、エリザベス・ウェラン氏は言った。同氏は、議会に提出予定の、家庭への持ち帰り汚染に関する報告書の著者の一人である。
持ち帰り危険の典型例には、鉛中毒やベリリウム中毒、アスベスト暴露などがある。労働者は、また、PCB、グリコールエーテル、殺虫剤、ヒ素、放射線物質や水銀を持ち帰っている。NIOSH研究員は、生殖機能に悪影響を与える未確認の毒物もあるだろうと語っている。
「持ち帰り物質への暴露が、公衆衛生を脅かす度合いを推定するのは、現在、不可能であり、持ち帰った毒物が、将来、引き起こすであろう危険を予言することも、不可能である」と、議会へ提出予定の報告書案は述べている。
問題のひとつは、毒物は、見てわかるものではないという点である。鉛とかアスベストのように、既知の持ち帰り毒物をより注意深く調査し、これに加えて、研究員は、C型肝炎、風疹、エイズなどといった、血液感染性の病気の持ち帰りについても考察せねばならない、とウェラン氏は語る。労働者は、また、子供たちの間で急増中の喘息を引き起こす、アレルギー誘発物質を家庭に持ち帰っている可能性もある。
一例として、1980年代の中頃、インディアナポリスの化学工場から、労働者がゼラノール(zeranol)を持ち帰り、子供たちのホルモンに影響を及ぼしたことがあった。男児のなかには、胸が発達しはじめた者もいた。
物質の危険がわかり、汚染除去の手順を文書にしても、それが守られるとは限らない。ウェラン氏によれば、NIOSHの調査によれば、橋梁から鉛塗料をサンドブラスト(sandblasting砂吹き)していた建設労働者のうち、50%のみが、鉛毒について訓練を受けていた。労働者は、職場から鉛分子を持ち帰っていた。鉛は少量でも、子供に害を及ぼす。
この問題に取り組むため、NIOSHは、これらの「認識格差」を縮める、国の調査事項を勧告している。また、職場での暴露が日常的である分野に的を絞る、国家的な監視体制の必要性を主張している。しかし、当面は、鉛、ベリリリウムや殺虫剤のような、毒性明らかな物質について、少しの努力を払うだけでも大差をもたらす、と言っている。
「ささやかな資本の投資で、なによりもまず、危険の認識を高め、安全作業と物質の取り扱い手順を受け入れるよう、労使の訓練努力を高めることにより、物質の持ち帰リを防止できる」。
水銀問題、ニコール・ガス社を悩まし、他のガス会社にも波及
シカゴ郊外の一家は、7月、自宅の地下室に銀色の液体を見つけ、地元で天然ガスを供給しているニコール・ガス社を呼び、パンドラの箱を開けた。
その物質は、ニコール・ガス社の下請が、旧式の水銀入りレギュレーターを撤去する時にこぼした水銀と判明。動揺した近所からさらに数本の電話があり、イリノイ州のジム・ライアン法務長官は、調査チームを編成し、EPA((環境保護庁)が調査した結果、ニコール・ガス社は、シカゴ地区の約25万世帯を再点検するという、気の遠くなるような作業に直面している。
2年前、ニコール社は、ペンシルバニアを拠点とする請負会社、ヘンケル・マコイ社を雇い、1961年以前のガス・メーターとレギュレーターを、各家庭の地下室から除去し、新しいレギュレーターを屋外に設置することにした。機器の移動中、何軒かの家庭で、下請会社やニコール社の従業員が少量の水銀をこぼした。水銀は、高水準だと、とくに成長過程にある子供の神経系に悪影響を及ぼす。
現在、ニコール社は、およそ20万戸の再点検を済ませた。点検を正しく行うよう、ニコール社は、家庭訪問する全職員を再訓練した。EPAも、無作為抽出による検査を行っている。
ニコール社のスポークスマン、クレーグ・ホワイト氏は、現時点では、点検済みの世帯の1%未満が汚染されていたと述べた。ホワイト氏は、過去数年間に旧式の機器を交換して、水銀がこぼれた可能性が最も高い家庭から、点検を始めたと言っている。10月末までに、ニコール社は、およそ700戸で、水銀を発見した。
ニコール社は、水銀検査と清掃の支援を得るため、ITグループを採用した。高水準の水銀を見つけた家庭では、作業チームは、水銀の痕跡のあるじゅうたん、寝具やソファーを除去する。水銀分子は、粉じんと結合するため、チームは、換気装置をも清掃する。
この問題は、ニコール社だけにとどまらない。シカゴを拠点とする他の二社、ピープルズ・エナジーとノース・ショア・ガスもまた、両社あわせた80万世帯で、水銀汚染がないか、調査している。さらに、ミシガン州の会社も、同様に点検する必要がありそうである。
EPAのスポークマン、ミック・ハンズ氏は、この問題は、5大湖地域の全てのガス会社を巻きこむ可能性があると語っている。EPAは、100社以上のガス会社に対し、契約世帯に水銀痕がないか点検する必要があるとの警告文書を発送している。ハンズ氏は、工業用地も恐らく汚染していると語っている。
「私の理解する限りでは、水銀レギュレーターは、産業界では一般的であるので、交換する際、または高性能のものと取り替える際には、このような暴露の可能性がある」と、ハンズ氏は語った。
ベートーベンは、鉛を免れなかった
職業上の暴露ではないかもしれないが、ルートヴィッヒ・バン・ベートベンの頭髪を調べていた科学者は、鉛への暴露が、この作曲家の仕事に影響を及ぼしたのではないかと推察した。没後150年以上を経て、ベートーベンの頭髪の研究に4年間費やした結果、研究者は、標準値の100倍以上にあたる、60ppmの鉛濃度を発見した。
研究者は、イリノイ州にあるアルゴン国立研究所の巨大な電子加速器を用いて、解析し、トリノ市の経かたびらの調査で著名なウオルター・マクロン氏も、その頭髪を調査した。
鉛の暴露レベルは、ベートーベンの腹痛、うつ病、短気、また、56歳での死亡も説明できそうである。プロジェクト責任者で、イリノイ州衛生調査研究所の主席研究員、ウイリアム・ウオルシュ氏は、鉛中毒は、ベートーベンが、30才台前半から悩まされてきた聴覚障害には、おそらく関係はないだろう、と語った。
研究者は 鉛を含んだ温泉でミネラル水を飲んだことは考えられるが、ベートーベンが、なぜ、高水準の鉛にさらされたのか、わからないとしている。また、ベートーベンの頭蓋骨も調査したいとしているが、誰がその頭蓋骨を所持しているか明かさなかった。
クリントン大統領、新しい全国飲酒運転基準に署名
クリントン大統領は、全国飲酒運転基準を血中アルコール濃度(BAC)0.08と定める法案に署名、法律は成立した。この新しい法定基準により、年間500人の命が救われ、国民は、飲んで運転する前に気をつけるようになるとして 大統領は、この立法化は、全国飲酒年齢制定以来、飲酒運転法規を強化する最大の一歩であると述べた。
「科学は、かなり以前に明らかにしていた」と、クリントン大統領は、ホワイトハウスのローズガーデンで語った。「血中アルコール濃度がこのレベルだと、安全運転するには、酔っ払いすぎている。判断力、反応時間やその他の重要な運転技術は、ほとんど後退している。血中濃度0.08の人が、エンジン・キーを回せば、車は、法律上、凶器となる」。
ローズガーデンでの式典で、大統領は、この法律に猛烈に反対してきたアルコール・レストラン業界と戦ったMADDや他の草の根レベルの活動を称え、立法化に向け、5年間尽力したフランク・ローテンバーグ氏民主党、ニュージャージ−州)上院議員、ニタ・ロウイ(民主党、ニューヨーク州)下院議員を称えた。
この法案の署名により、議会における3年間の戦いは終わった。ホワイトハウスと運輸省は、580億ドルもの連邦運輸歳出予算案の本条項のために、強力にロビー活動を行ってきた。
NSC(全米安全評議会)からは、チャック・ハーレイ、レオ・ケアリー、デイビッド・ケリーとトッド・ブリグが、式典に参加した。NSCおよびその職員は、MADDや他のグループとともに、法案を通過させるため、ロビー活動を行ってきた。全国飲酒基準の設定は、NSCの「国家安全議題」のひとつである。
「法定濃度を、血中アルコール濃度0.08とする法律の採択を支持することは、NSCの長年の方針であった」と、NSCのレオ・ケアリー政府サービス部長は語る。「この歴史的な法案の通過により、毎年、何百もの生命が救われ、無数の負傷が予防されよう」。
本法案の通過は、NSCの「国家安全議題」の手段であると、ジェリー・スキャネルNSC会長兼CEO(最高経営責任者)は、声明文で述べている。「これは、国家安全議題の主要部分であり、あってはならない死傷者の増加傾向をせき止める一助となる。これは、血中アルコール濃度0.08を連邦基準とする最良の機会であった」。 エリザベス・アンバル
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