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NSC発行「Safety + Health」2001年1月号

特集 


エルゴノミクス、非難の的

エルゴノミクス最終基準については、大半の団体は歓迎していないが、チャールズ・ジェフレスOSHA(労働安全衛生庁)長官は、そのような事態は予想していたと語った。編集者ジョン・ディスリン著

ワシントンD.C.では、この2ヶ月は騒乱だった。訴訟や上訴で彩られた僅差の大統領選で、OSHAのエルゴノミクス基準の公表は、影が薄かった。未決着の大統領選で国中が気をとられている間、産業団体やその他の団体は、公表されるやいなや、エルゴノミクス基準に飛びかかり、裁判所に訴えると息巻いた。

 基準について、産業団体が反対し、労働団体が歓迎することは、初めからわかっていた。その証拠に、全国製造者協会(NAM)、米国商工会議所、人的資源管理協会(SHRM)全てが、エルゴノミクス基準を提訴した。一方、AFL-CIOは、同基準を支持する記者会見を行った。

 さらに、超党派は、さほど支持しているわけではない。事実、米国労働環境医学学会は、支持を取り止めた。以下、主な関係者の見解とその意味を総括する。



チャールズが担当


産業界はいつもどおり

労働界の支持

医学的見地

結 論

エルゴノミクス基準の特徴

  • 基準の賛成論

  • 基準の反対論

  • 基準に反対しているのはだれか

  • 基準に賛成しているのはだれか
広い視野でみよう



チャールズが担当

 OSHA(労働安全衛生庁)は、作成に10余年を経た「最終エルゴノミクス・プログラム基準」を大統領選後の11月13日に公表した。これで、大統領就任前に、60日間の検討期間を経て公式なものとなるのには十分な時間が確保され、次期政権が同基準を変更もしくは上訴するのは、より困難になる。エルゴノミクス基準の公表は、連邦当局にとって、おそらく最も論議を呼ぶ動きである。チャールズ・ジェフレス労働省副長官兼OSHA長官の置き土産ともなった。

 「エルゴノミクス・プログラムは、行うべきである」とジェフレス長官。「企業の多くは、プログラムを有しており、筋骨格障害について認識している企業も多い。一度、全てを実行すれば、何年か後には、多くの人が、『あのときの騒ぎは、いったい何だったのか』と思うだろう」。

 わかっているのは、産業団体は、大半の共和党員と同様、同基準をめぐり大騒ぎをしているということである。ジェフレス長官は、議会審議で同基準が検討され、議会が基準を覆そうと試みることができることも承知している。現下の政治情勢では、成り行きは予測しがたい。

 エルゴノミクス基準の公表をめぐる訴訟について、ジェフレス長官は、「OSHA基準は、概して、訴訟問題に直面するものである。エルゴノミクス基準も例外ではない。エルゴノミクス・プログラムがうまくいくということは、書面にしたためてある。書類にまとめたプログラムや基準の良し悪しの判断は、裁判所次第である」と認めている。


基準発表の時期について、ジェフレス長官は、当局は2000年末までに発表すると常々言ってきたし、作成と聴聞の作業に十分すぎる時間を与えてきた、と語った。

「以前は、仕事を完成させるのに、あまりにも時間をかけ過ぎてきた」と、ジェフレス長官は主張した。「OSHAは、労使のニーズにより鋭敏に対応すると約束した。基準案は、1999年11月に公表した。1年は、公聴会を開催して、基準に対するコメントを整理保管するのに、無理のない期間である。当局は、すると言ったことを実行したまでだ」。

エルゴ基準が、特定産業の労働者を無視したとの批判について、ジェフレス長官は、OSHAとしては、除外せざるを得なかったと語った。基準からは、建設、農業、海事、鉄道労働者がはずされている。「これらの産業のいくつかについては、筋骨格障害に対処する解決策リストを持ち合わせていなかった。また、鉄道労働者は、連邦鉄道安全局の所管である」。

しかし、現在除外されている労働者については、担当する基準を実施する第2段階があろうと、ジェフレス長官は述べた。NIOSH(アメリカ国立労働安全衛生研究所)は、これら除外産業のいくつかについて、エルゴノミクス的解決を見出そうと調査中であるとも、長官は語った。



産業界はいつもどおり

 OSHAがエルゴノミクス基準を発表する前に、いくつかの産業団体は、すでに訴訟を起こしていた。

 「当該基準は、業務に起因しないが、業務上悪化した負傷について、使用者の責任を問うという点で、職場の域を超えている。基準は、現行の労働者補償法と重複しており、エルゴノミクスに「特恵扱いを受ける負傷」の地位を与える。この基準の完成は、基準の実施阻止に票を投じた議会の超党多数派の意思を無視している」と、全国製造者協会(NAM)のマイク・バルーディ政策・報道・公共問題担当上級副社長は言った。

全国製造者協会は、OSHAがエルゴノミクス規制を急いだ結果、その規則はあまりにも広く、あいまいで、科学的な根拠に乏しいものになったとして、提訴した。

「OSHAは、作成に10年以上費やしたと主張するが、規則案は、1年足らず前に公表されたばかりだ。我々は、OSHA史上もっとも裾野が広く、経費のかかる規則について話しているのであり、11ヶ月は、有効なプログラムの開発に要する時間の何分の一でしかないと思う」と、バルーディ副社長は不満を述べる。「OSHAが、エルゴ基準を超特急で公表したので、明白になった。これは、安全衛生規則ではなく、政治の産物である。そして、スキャンダルだ」。

米国商工会議所も、同様に批判的である。ジャック・クラーク議会公共問題担当は、エルゴ基準は、不十分に立案されており、産業界からのインプットをほとんど考慮していないと言った。また、科学的な根拠にも欠ける、と同氏。

「あまり役に立たないのに、何十億ドルもかかる。基準は化け物だ」とクラーク氏は主張。「産業界以上に、業務上の負傷のコストを知っているものはいない。使用者は、労働者の健康に気を使っている。しかし、この基準は、エルゴノミクス的負傷を明確に定義しておらず、それをどう解決するか、どのような手段をとるか、明示していない。OSHAは、指針も現実的な解決方法も提供していない」。

クラーク氏は、基準は、負傷を招く可能性のある遺伝的な問題に取り組んでおらず、勤務中に悪化しうる業務外の負傷についても検討していない、と不満を述べた。また、業務上の負傷の削減手段は有効なのか、疑問を呈する。「手根管症候群を完全になくすキーボードを、だれか開発したというのだろうか」と同氏。「運動時間を休憩を取り入れたのは、現実味のある政策にはなろうが、それは、自主的なものであるべきだ」。

さほど強硬ではないものの、人的資源管理協会(SHRM)も、基準反対訴訟に加わった。デロン・ゼッペリン政府問題担当部長は、人的資源の専門家は、職場での安全衛生の重要性や、使用者がエルゴノミクス・プログラムを用意すべきだということを承知している、と述べた。しかし、基準の記述は、あまりにもあいまいである。

「考えはよいが、この計画には異議を唱える」とゼッペリン部長。「また、文言では、業務起因を明確にしておらず、職場を連邦化しているとしか思えない」。

人的資源管理協会も、エルゴ規則は、科学的に誤った根拠に基いており、年間48億ドルというOSHAの見積もりよりもっと多くの費用を産業界に負わせると、繰り返した。雇用政策基金は、年間1千256億ドル、全国エルゴノミクス同盟は、年間900億ドル、全国製造者協会は、年間180億ドルと、それぞれ試算している。

人的資源管理協会は、同基準は、他の法令と抵触するとも言っている。「エルゴノミクス・プログラムは、アメリカ労働関係法と抵触する」とゼッペリン部長。「また、商法や家族医療休業法、アメリカ障害者法、州の労働者補償法など、私に言わせると、法規のバミューダ三角地域で、入り混じっている」。

ジェフレス長官は、これらの問題は検討したと語った。長官は、基準には、遵守期間に幅を設けたと述べた。また、労働制限保護は、当初の6ヶ月ではなく、90日間としたと述べた。



労働界の支持

 組織労働者は、エルゴ基準を「OSHAがこれまでに行ったなかで、最重要な活動である」と歓迎している。基準は、久しく待望されたもので、労働安全にとって重要であると考えている。

 ジョン・スウィーニーAFL-CIO会長は、「新基準は、毎年何十万人もの反復的負荷傷害を防ぐことができる。家禽加工、食肉卸売、自動車組み立てで働く人々、コンピューター作業員、看護助手、レジ係、その他危険度の高い職種にとって、必要な保護がようやく得られる」と述べた。

 産業界は、科学的根拠を問うが、労働側は、証拠はたくさんあると考えている。スウィーニー会長は、9週間の公聴会で、何十人もの科学者や何百人もの労働者の証言により、職場での暴露が多くの負傷を生じさせていること、また、有効な対策があることが確認されていると語った。

 「業務上の深刻な負傷の3分の1は、エルゴ関連で、反復動作障害の70%は、女性が患っている」と、AFL-CIOのペグ・セミナリオ安全衛生部長は言った。「9週間の公聴会で、筋骨格障害は、労使に対し、年間200億ドルもの負担を強いることが判明した」。

 労働側は、基準を支持する一方、まだ十全ではないと考えている。基準を全労働者に適用し、現行の文言より、より予防的なものであってほしいと願っている。

 「基準は、労働者に、問題提起の責任を負わせており、負傷を予防するというより、負傷が生じてから、発動される」とセミナリオ部長。「しかも、それは、負傷現場だけに適用され、会社の全事業所に適用されるわけではない。例えば、家禽加工会社が新しく工場を建てても、他の工場で実施されているエルゴノミクス・プログラムは、新工場に適用されない。負傷が生じて、はじめて適用されるのである」。

 強硬派の産業団体は、基準に反対しており、みたところ、いかなるエルゴ基準も労働者の立場をかく乱しているだけである。「産業団体は、規則などいらないのだ。問題はないというが、なんの科学的根拠もない」。

 人的資源管理協会(SHRM)のゼッペリン部長は、労使がこの問題で合意できるよう希望しているが、まず、そのようなことはありえないと思っている。「OSHAと産業界との協力関係は、よりよくなってはいるものの、現在の政治不安とエルゴノミクスをめぐる労使の立場をみると、どう合意をとりまとめられるのだか、わからない」。



医学的見地

 驚くことに、いくつかの医療団体は、基準反対の立場をとる。米国労働環境医学学会(ACOEM)は、当初、基準を支持していたが、しっかりとした医学的根拠に欠けるとして、現在は、基準に反対している。

 「現行の文言では、最終規則を支持するわけにはいかない」と同大学の学長で、カリフォルニア・サンフランシスコ大学のエルゴ大学付属カレッジ部長兼臨床助教授でもあるロバート・ゴールドバーグ医学博士は言った。博士によれば、OSHAは、基準の欠陥を検討しなかったために、同基準を法的な危険にさらしていると、大学は危惧している。

 「過去2年間の規則作成過程で、米国労働環境医学学会は、信頼できる科学的根拠に基く業務関連の障害にかぎり、基準を実施するよう、たえずOSHAに主張しつづけてきた。しかし、最終規則は、医学的診断や因果評価も求めていないようである。残念なことに、OSHAは、基準に確固とした医学的根拠を持たせなかったため、同基準の発効阻止派が起こした裁判で、議論の余地を与えることとなった。不要な筋骨格障害の予防策もないまま、わが国の労働者を放っておくとは、痛ましいことだ」とゴールドバーグ博士。

 米国労働環境医学学会の主な論点は、プロセスで、労働衛生の経験を有する保健医療専門職の関与を求めていないということである。プログラムでは、労使は、各々が選んだ保健医療専門職に診てもらう。双方の診断が食い違えば、第3者の医師が折り合いをつける。このいずれも、労働医学者である必要はない。

 「我々は、OSHAと共に仕事をしてきたし、エルゴノミクス基準の作成を支持するが、我々の勧告が採りいれられなかったため、支持できない」と、米国労働環境医学学会のグレッグ・バランコ官庁関係部長は言った。

 同大学の一員で、ジョンズ・ホプキンス大学の助教授で労働医学部長でもあるエド・バーニキ医学博士は、エルゴ基準は、科学的、医学的に不完全であると述べた。基準は、筋骨格系障害(MSD)および筋骨格系障害の状態について、定義づけていないと同氏。

 「OSHA基準のもとでは、なんでもありとなる」とバーニキ博士。{これらの問題のうち、いくつかについては、腱炎とか障害を起こす動作とか、用語を定義することで、克服することができ、皆、なんのことを話しているのかわかるようになる}。

 ジェフレス長官は、違った見方をする。「使用者は、現在実施されているエルゴノミクス・プログラムについて証言している。エルゴ問題を特定しうる専門家がいたということだ。医者は、診断する人間のことが気になるというのはわかる。しかし、プログラムを立ち上げ、反復ストレス障害の症状を特定できる労働専門家は大勢いる」。

 アメリカ労働衛生看護師協会(AAOHN)も同基準を支持するが、懸念もしている。大勢の労働者が保護されずに放置されている、基準は予防に重きをおいていない、労働者に適切な保健医療手順を踏むよう義務づけていない、こうした懸念は、他の団体にもみられるものである。同協会はまた、基準が訴訟に対応できるかどうか疑問視している。

 アメリカ労働衛生看護師協会は、同基準は、州労働者補償法と直接抵触し、ほかの労働関連障害に対し、差別的な取り扱いを生起するかもしれないとみている。同協会は、基準は労働者保護を規定しているが、その実施は、事業者が担うのが妥当であるとのコメントを提出した。

 同協会は、基準の適用が及ばない労働者について、また、筋骨格障害(MSD)が生じたのかどうか決定する際に、保健医療専門職への協議を欠いている点を、もっとも危惧している。

 「使用者の多くは、現場で保健医療士へのアクセスをもたない」と、同協会のケイ・リブシー公益・市民活動部長は語る。「基準の文言だと、保健医療専門職が決定すべきことを、資格のない人に決定を委ねてしまう余地がある」。

 同協会は、保健医療士への協議を義務づけていないことに批判的ではあるものの、OSHAが、基準で、保健医療専門職を広義に定義づけている点を歓迎している。この条項は、米国労働環境医学学会が憤慨している箇所である。しかし、看護師協会に言わせると、幅を持たせたことばは、異種の専門をもつ保健医療専門職が貴重な貢献をなしうるということを認めたものである。

 さらに、看護師協会は、基準が、使用者を補助するために設計された手段を取り入れた点を歓迎している。フロー・チャート、職務分析、基本的な選別ツールなどの手段は、基準遵守の際、使用者の役に立つであろう。



結 論

 だれも、基準を大歓迎しているわけではない。産業界は、あまりにも干渉的で、広域にわたり、経費がかかるとみている。労働側は、もっとも歓迎しているが、それでも、基準にもっと強制力があってほしいと考えている。医療団体は、支持してはいるものの、基準は、医療専門職の役割を軽視していると考えている。

 ジェフレスOSHA長官はといえば、基準の完成に満足しており、10年以上も前に当時のエルザベス・ドール労働長官が掲げた目標を達成したと考えている。

 「基準では、訓練、職務危険分析、危険因子の理解について考慮してある」と同長官。「基準は、過去50年間に行われてきたことを変えるわけではない。選別ツールを使うと、使用者は、ある職務には生起しない負傷をふるい落とすこができる。しかし、労働者から負傷報告があれば、使用者は、負傷原因を調査し、再発防止のためにどのようなプログラムが必要か検討するプロセスを経なければならない。




ワシントン・レビュー

エルゴノミクス基準の実際の費用

最終基準は公表されたばかりだが、OSHAにかかったコストに見合うだけの価値はあるだろうか。 パトリック・R・タイソン著。氏は、アトランタのコンスタンジー・ブルックス&スミス法律事務所の共同経営者で、以前は、OSHA長官代理であった。



さて、チャールズ・ジェフレスOSHA長官は、すると言っていたことを成し遂げた。エルゴノミクス最終基準を公表した。2000年11月13日付のフェデラル・レジスターに掲載された。2001年1月16日に発効するが、条項の大半は、数年間適用されない。

大勢の人が、公表されることはないだろうと言ってきたし、公表阻止運動は、OSHAの30年の歴史で、もっとも激烈な苦戦のひとつを代表するものである。

ごく最近、連邦議会で展開された論争は、その激しさを物語っている。議会は、新会計年度が始まる10月1日までに、省庁の予算配分に要する歳出予算法案をできるだけ多く処理しようとしていた。しかし、労働省、厚生・人的サービス省歳出予算法案が停滞したのは、エルゴノミクスが原因だった。問題を解決するため、交渉が重ねられた。10月1日までに法案が通過しなかったため、一連の短い「継続決議」が実施された。

(法案が可決しなければ、省庁は、閉業せねばならない。数年前、これで政治的な損害を被った共和党は、同様の事態を回避したかった。)

ようやく、エルゴノミクス最終基準を公表するということで交渉はまとまったが、新大統領に規則を見直す時間を与えるため、基準の施行は、2001年6月まで延期することとなった。交渉は、失敗に終わった。別の継続決議が出され、合意された。これは、11月14日までに、予算を労働省および厚生・人的サービス省に配分するというものであった。これまでには、次期大統領は選出されているだろうと考えてのことだ。しかし、ご承知のとおり、このような運びとはならなかった。

しかし、基準の実際のコストは、議会での政争などではない。また、使用者が基準を遵守する際の、ほんとうに遵守するならばだがが、費用を指すのでもない。そうではなくて、OSHA当局が被るコストについて、述べたい。

最初の代償は、OSHA人員の疲労困憊と失望である。エルゴノミクス規則作成を完了するために、実質的に他の法制化は保留された。規則作成に関しては、幹部の時間とエネルギーはすべて、エルゴノミクスに投じられた。

彼らは、消耗しきっている。短気になり、OSHA内部では互いに腹を立てている。大半の人々は、他のすべてのプロジェクトを犠牲にしてまでエルゴノミクスに注力するのは、間違いだと思っている。また、加速的スケジュールであったため、規則が間違いだらけで、乏しい政策決定に満ちたものとなったのではないかと懸念している。

当局にとって、政治的なコストがある。議会の継続決議は、11月14日で期限切れとなる一方、基準の公表は11月13日であったことは、ご記憶のとおり。OSHAが最終基準を先に進めたので、議会共和党が、ひどく憤慨しているのは間違いない。基準が公表されたからといって、単純に忘れてやろうとはしないだろう。

従来、OSHAがなすことについて、両党の支持といえるものが少なくともあった。しかし、エルゴノミクス以前にあった支持は、なくなったようだ。議会は、まだ、OSHA予算法案を通過させねばならない。今年度、当局にとって有利な予算法案が通過したからといっても、いつも次がある。OSHAを改変したり、権限を縮小する直接的な立法措置の可能性もある。

公衆の目に映る当局の評判というコストがある。これまで、OSHAは、とくに高い評判を得たことはない。エルゴノミクス基準や、これは妥当かどうか、家内労働についても、多くの批評に耐えてきた。もし、公衆の目に、エルゴノミクス最終基準はできそこない、もしくは、支持できないものと映れば------どう受けとめられるか判明するのは、時期尚早だが------、当局の評判は悪くなるばかりである。

最後に、OSHAと産業界との関係に対する代償がある。規制をめぐり、政使が、実際に協力した時期もあった。「相思相愛」ではないが、少なくとも相互に尊敬の念と信頼があった。これらのいく分かは失われたし、再構築するにはどのくらいかかるか、わからない。

OSHA自身にコストがかかるのは良いことだ、と考える人もいるだろう。どうしてそう考えるのか、私にはわかる。しかし、OSHAは、社会で重要な役割を担っている。この役割を担うのであれば、信用に足る、プロのやり方で担わねばならない。

エルゴノミクス最終基準が、このような役割を演じるのかどうか、私にはわからない。エルゴノミクス関連の負傷は職場の深刻な問題であり、基準が必要だとは思う。私が問うのは、エルゴ基準のコストは、最終的に出来上がった形とここに到達するまでの方法で、それに見合うだけの価値があったのだろうか、ということである。



エルゴノミクス基準の特徴


 OSHAのエルゴノミクス基準は、産業界、保険業界、一部の医療団体などさまざまな団体の反対に直面している。労働組合は、同基準がようやく公表されたことを歓迎しているものの、十分に強力ではないとして、やはり不満である。

基準の賛成論

・ 労働者が業務で負傷した場合、たよりとする拠り所ができた。

・ 事業者は、労働者が業務上の負傷を申し立てた場合、対処せねばならない。

・ 労働者保護のため、より多くのプログラムが導入される。

・ 業務上の負傷を被る者が減る。

基準の反対論

・ 建設業、海事、農業従事者は、適用から除外されている。

・ エルゴノミクス・プログラムは、労働者が負傷報告をするまで、発動されない。

・ 同基準の費用が、論争中である。

・ 同基準の効果も、論争されている。

・ 一部の医療団体は、適正な保健医療専門職の参加について、疑問を投げている。

基準に反対しているのはだれか

 当初から、産業団体は、基準に反対してきた。11月13日の基準公表を受け、大半の団体は、間髪をいれず提訴した。一方、産業界以外にも、同基準に反対する団体がある。ここに、その一部を列挙する。

・ 米国商工会議所

・ 全国製造者協会

・ 米国空調業者

・ ユナイテッド・パーセル・サービス(小口貨物輸送会社)

・ フェデラル・エキスプレス社(宅配便会社)

・ 自動車オイル交換協会

・ 全国トルコ連盟

・ アンホイザー・ブッシュ社(ビール会社)

・ 米国宝飾品製造・納入業者団体

・ 米国労働環境医学学会

・ 全国エルゴノミクス同盟



基準に賛成しているのはだれか

 さまざまな理由で、多くの団体がエルゴノミクス基準に反対する一方、支持する団体も多い。しかし、負傷が発生するまで基準が発動されないことには、多くの団体が憤慨している。また、現在、適用除外となっている建設、海事、農産物取引に従事する労働者にも、エルゴ基準を適用するよう求めている。エルゴ基準の支持者は、以下のとおり。

・ AFL-CIO

・ 米国食品商業労働者組合

・ 米国自動車労働組合

・ アメリカ労働衛生看護師協会

・ 縫製・工業・繊維従業員組合




広い視野でみよう

サザン・イリノイ大学で学生衛生プログラムの環境安全衛生コーディネーターを務めるジョー・ベイカー氏は、効果的なエルゴノミクス・プログラムには、個人の責任が問われると考えている。同氏は、職場の評価だけでなく、労働者が、職場の外でどのような行動をとっているのか観察するのも、重要であると考えている。

「家庭での活動は、間違いなく業務上の行動に影響する」とベイカー氏は主張する。「したがって、労働者の全体像の評価が重要である。職業生活を、非職業生活から分離するのは不可能である」。

同氏によると、弟1段階は、職場での問題を特定すること。弟1になすべきは、仕事への影響を少なくし、労働者個人にあわせて職場を調整する。次に、当人のライフスタイルを評価する。ベイカー氏が勧告する観察項目は、次のとおり。

・ 余暇活動

・ ストレス管理

・ 運動の頻度

・ 血圧

・ その他の医学的条件

ベイカー氏は、労働者の休憩時間に、計画を盛り込むことが重要であると述べ、職場での運動プログラムを実施するよう提案する。使用者は、労働者に、地元のヘルス・クラブの会員になるよう奨励し、もしくは会員権を提供して、施設を利用するよう動機づけるべきである。

 「使用者は、職場をよく観察し、強制参加の運動時間や、例えば、持ち上げる、座るなどの正しい方法についての指導プログラムを提供せねばならない。これらのプログラムは、定期的に行わねばならない。でなければ、人はみな、学んだことをすぐ忘れてしまう」と、ベイカー氏は説明する。

 同氏は、使用者は、労働者がよい食事習慣を身につけるよう、手助けすべきだとまで言う。体型をよく保っていれば、生産性は向上し、負傷も減少するというのだ。

 「調査によると、体重超過の人は、たとえば手根管症候群にかかりやすい」とベイカー氏。

 職場の適切な間取りも、重要である。人は、適切な機材を使用すれば、問題は解決すると考え、エルゴノミクス・カタログから製品を注文する、と同氏。しかし、世界中のあらゆる機材をもってしても、きちんと配置されていなければ、エルゴノミクス負傷を防止することはできない。

 「コンピューターの部署では、ディスプレー、キーボード、原稿や前腕支えをどこに置くか、また、どのような姿勢で座るか、これら全てが問題となってくる」と、ベイカー氏は指摘する。

 労働者は、職場外での生活を使用者が評価するという考えを拒否するだろう。米国商工会議所のジャック・クラーク氏も、そのような役割をはたせるのか、疑問視している。「使用者が、人にどう生活するよう、とくに私生活にいたっては、どうのこうのと勧告できるとは、とても思えない」とクラーク氏。

 しかし、ベイカ−氏は、全体像を評価しないかぎり、筋骨格障害は解消しないと信じている。