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NSC発行「Safety + Health」2001年1月号

ニュース 

組合、エルゴノミクス基準に挑戦

労働組合は、新しいエルゴノミクス基準を総論として賛成しているが、いくつかの労組は、同基準の「弱点」を検討するよう、連邦裁判所に請願書を出している。

労組が問題にしているのは、OSHA(労働安全衛生庁)基準は、労働者が現に障害を受けるするまで、発動されないという点である。しかも、労働者の障害発生時から、使用者が恒久的な危険管理を設けるまでに、ずいぶんと時間がかかるだろうと懸念している。また、建設業、海運業、農業、鉄道業は、同基準から除外されている点も、不満である。

同基準の再検討を要請している労組は、AFL-CIO、トラック運転手国際組合、鉄鋼労働者連合、縫製職組合、工業・繊維労働者である。

エルゴノミクス基準の詳細については、「エルゴノミクス、非難の的」参照のこと。

 

連邦政府の請負業者の記録、精査の対象となる

連邦政府との取引に関心がある業者は、これまで以上に安全衛生環境基準が問われることとなる。連邦政府調達規則審議会は、連邦政府が請負契約を結ぶ前に、当該企業について、労働、環境、税法、消費者保護、独占禁止法の違反がないか、契約担当官に吟味するよう義務づける最終規則を出すばかりとなっている。

完成間近のこの規則は、「健全性と事業倫理に望ましくない記録のある」企業との契約を禁ずる現行法を、より鮮明にしようとのねらいである。同規則は、前政権のゴア副大統領が、契約会社にはより高い基準を守らせるべきだと発言したことが発端となって、作成され始めた。

産業団体は、契約担当官の権力は強大になりすぎるであろうし、判定基準はあまりにも主観的で、時間のかかる現行システムをより複雑化させるだろうとして、同規則に反対している。

「政府のブラックリスト規則は、恣意的で不明瞭である」と、米国商工会議所のランデル・ジョンソン副会頭(労働・福祉担当)は言った。「改正規則も、基準や指針に欠けている」。

政府調達政策室のラルフ・デ・ステファノ政府調達調査官は、契約担当官は、悪質な違反パターンをチェックすると述べた。

「一度の違反では、通常、問題とならない。再三繰り返される、全体に浸透した行為であることを示す必要がある」と同氏。

しかし、「契約業者の責任」規則については、政府内でも批判の声が出ている。

一般サービス庁は、EPA(環境保護庁)同様、「契約担当官各々の決定が、首尾一貫しない可能性が強い」と懸念している。

労働組合は、同規則は、常識的な規制であるとして、支持している。

「企業が法律違反を犯していないか、政府がチェックするのは、全くリ理にかなっている」と、AFL-CIOのリン・ラインハート一般顧問補は、言った。

同氏は、新規則は、連邦政府からの受注を希望する企業に対し、より安全で、環境にやさしい職場づくりを促すだろうと述べた。

 

事実チェック:1997〜98年の労災補償請求額

全米安全評議会(NSC)の「Injury Facts」2000年版掲載の全国補償保険会議の統計によると、労働者補償請求額で最も高かったのは、自動車衝突事故であった。


災害原因区分 請求費用(千ドル)
火傷 13,361
機械などにはさまれる等 9,222
累積外傷 10,310
切り傷、打ち身、すり傷 6,624
落下、滑り 11,670
その他の原因 10,500
自動車事故 21,613
疲労 9,121
ぶつかる 7,613
衝突される 8,984


 

最高裁、大気浄化法をめぐり審理

大気浄化法の解釈に関し、EPA(環境保護庁)は どれだけの権限を有するのか。これは、最高裁判所が、アメリカ・トラック協会とEPAの論争を検討するにあたり、答えを見出そうとしている基本的な問題である。

産業団体は、最高裁判事に対し、大気環境基準を設ける際には、排気規制の経済的費用を秤にかけるよう、大気浄化法でEPAは義務づけられていると裁定するよう、求めていた。同時に、政府は、1997年にEPAが、微粒子およびオゾンに関する新基準を設定した際、同庁の権限を逸脱したとする裁定を訴えていた。

両者は、昨年のコロンビア特別区控訴院の裁定について、上訴している。控訴院は、EPAは、1990年大気浄化法修正条項の解釈で、法で定められた権限を逸脱したと裁定を下し、EPAは、大気環境基準を設ける際には、遵守費用を検討すべきだとする、産業界側の主張を退けた。

最高裁判事らは、EPAは、衛生基準の設定の際には、経済的費用を検討すべきだとの考えには、懐疑的なように見受けられた。

ジョン・ポール・スティーブンス判事は、産業団体側のエドワード・ウォレン弁護士に対し、「費用があまりかからないならば、公衆衛生を守る」裁定を求めているのか、聞いた。

その後、サンドラ・デイ・オコナー判事は、ウォレン弁護士に対し、「あなたからは、あいまいなことばをたくさん耳にしたが、何をおっしゃっているのかわからなかった」と言った。

最終裁定は、7月に下される予定で、産業界にとっては、多くを意味することとなろう。もし、EPAは、大気浄化規則の設定の際、越権したとの裁定が下れば、これは、EPAのみならず、幅広い立法権限を有する他省庁の規則作成にも、影響を及ぼしかねない。

 

最終規則、化学産業16規則を統合

現行16の大気浄化規則を統合するEPAの最終規則では、化成・有機化学製造業者は、モニタリング、記録保持義務を軽減される。記録保持義務の軽減は、規則を遵守し、遵守内容を改善し、環境保護を維持する企業には、すぐ適用される。

 新規則では、遵守オプションを選べるようになっている。事業主または経営者は、これらのオプションを選ぶか、もしくは、現行の16規則の遵守しつづけるか、どれかを選べる。新たなオプションは、現行規則の条項を統合しているため、新たに管理要件を求めるものではない。

 新規則の条項には、貯蔵容器、高低のガス抜き孔、移送作業の設計、作業、労働慣行、保守要件、機器からの漏れの監督と修理要件、循環式ガス抜きシステム及び制御装置の性能要件が含まれている。新規則では、文言を平易にし、類似の要件を合併、遵守行為の重複を取り除いた。
 詳しくは、www.epa.gov/tn/oarpg/t3/fact_sheets/factfina.pdfまで。



EPA、スモッグ基準達成期限を延期

 2001年度最終EPA(環境保護庁)予算の一部として、同庁は、より厳しい新大気浄化基準を満たさない市町村の公表計画を、6月に延期する。スモッグ・ばい煙排出許容量を減らした新基準を満たさない市町村は、多数にのぼる。

 新大気浄化基準をめぐる訴訟は、判決、上訴を繰り返し、現在、米国最高裁判所で係争中である。EPAは、最高裁の判決が出るまでは、新基準を施行できない。

 議会は、この夏予定の最高裁の裁定が出るまでは、EPAは、新基準をめぐるいかなる活動も行ってはならないとして、新基準不履行の市町村の公表には、反対である。

 米国商工会議所など産業界はといえば、公表の延期を支持している。公表される市町村には、新たな資本の投入がなくなるのではないかと、懸念している。

 

管理医療機関、負傷労働者の職場復帰を急ぐ、との調査結果

労働統計局のジョン・ルーザー氏とボストン大学のレスリー・ボーデン氏は、負傷した労働者が、使用者の契約医師の受診を義務づけられると、労働災害補償費に影響するかどうか、調査した。その結果、医師の選択いかんで、負傷報告数に影響はないものの、使用者の契約医師を選択すると、労働者の職場復帰が早まることがわかった。

1980年代から1990年代初頭の間、いくつかの州では、負傷した労働者は、管理医療機関で受診するよう義務づける法律を可決した。

ルーザー、ボーデン両氏は、医師の選択を限定している州とそうでない州とで、負傷者数、休業日数を比較した。

「管理医療では、休業日数、就業制限日数とも、大幅に減少している」と筆者。「労働者の自由選択による医師の場合に比べ、管理医療機関は、労働者の職場復帰を早めに設定し、就業制限事項についてもあまり勧告しないと仮説する」。

 

OSHA、移民訓練で、死亡率を削減

OSHA(労働安全衛生庁)は、テキサス北部で、ヒスパニック系労働者に対する一連の対策を講じた結果、建設業における死亡率を削減した。同地域では、建設労働者の大半をヒスパニック系が占める。

1999年のダラス、フォートワース地区での建設労働者35名の死亡を受けて、OSHAーン・ウインゴ所長によると、死亡事故、安全違反の大半は、小規模建設業者によるものであり、これらの業者は、事業年数も浅く、安全訓練を行う手段もなく、英語をほとんど、あるいは全く話せないヒスパニック系移民を主体とした、低技能労働者を雇っている。テキサス北部では、組合組織のない小規模建設業者、下請け業者、請負人が、建設の大半を請け負っている。

ヒスパニック系移民の多くは、安全法規がほとんど施行されていない国々から来ており、標準的な米国の慣行も知らない。しかも、役人不信の文化背景を有する移民にいたっては、OSHA監督官が職場に現れると、逃げることもしばしばである。

これに対処するため、OSHAは、通訳を雇って移民に会うこととし、労働者、小規模建設業者を対象に、英語、スペイン語の両方で、10時間の無料安全教室を開催した。

当局によれば、労働監督の開始以来、建設業の月平均死亡者数は、30%減少した。

 

議会、NHTSAの監視権限を拡大

8月のファイアストン騒動で、運輸省のロドニー・スレイター長官は、全米幹線道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration : NHTSA)の権限を拡大する議会の改革を歓迎した。スレイター長官は、予期する以上のものを手にしたかもしれない。当局は、NHTSAの権限を強化する法律で、議会の設定した期限に間に合うよう、奮闘中である。

ファイアストン騒動をめぐる世論の高まりを受け、議会は、運輸リコールの促進、説明義務、証拠書類の提出法(TREAD : Transportation Recall Enhancement, Accountability and Documentation Act)を可決した。この法律は、そうと知りつつ欠陥製品を販売した企業に対する、NHTSAの懲罰権を拡大する。また、当局に、仕事を課している。

当局は、タイヤ基準を更新し、製造業者に対する早期警告・報告義務を設け、転覆試験および規則作成を促進し、子供用安全シートベルトの試験方法の変更を検討せねばならない。

議会は、広域にわたる指示を出し、NHTSA予算4億4百万ドルに9百万ドルを上乗せしたが、当局は、使途を細かく決めねばならない。250万ドルについては、調査・消費者データベースのグレードアップと、当局の定員620名の30名増員にあてる。

11月末、NHTSAは、子供用シートベルト安全計画案を刊行した。同案では、衝突試験車に安全シートを設け、大きい子供用シートを評価するため、10才の子供のダミーを開発し、NHTSAチャイルド・シート基準の試験手順を再検討する、と提案している。

これに加え、グッドイヤー・ラングラー製のタイヤにも欠陥がないか、調査することもありうる。

大統領選の長期化で、歯車にハトメが追加されたかたちとなり、NHTSAは、多忙な1月を迎えているようだ。

「向こう2年間は、我々は忙しい」と、NHTSAのエリー・マーティン広報官は言った。「小規模の機関だが、やらねばなるぬことがたくさんある」。

 

インデアナ州爆発事故評価報告書

EPA(環境保護庁)の化学事故調査チームは、先日、1997年、インディアナ州のアクラ・パック・グループの施設で起こった爆発事故の原因を特定、同施設および類似施設に対し、同種の事故を予防するよう勧告した。爆発事故では、労働者1名が死亡、59名が負傷し、施設はひどく破壊された。

EPAの報告書によると、エチレンオキサイド供給システムの停止手順が不適切だったこと、また、爆発現場と主要な製造施設との間に十分な防護壁がなかったことから、爆発が起きたという。爆発事故のあったガス製造所の一角には、再生タンクが置かれていたが、これは、業界常識に背くものであった。その他の原因としては、ドアの不適切な設計、圧力を逃がす爆発放散口が不十分であったことなどを挙げている。

報告書は、アクラ・パック・グループに対し、これらの不備、違反行為を改め、空気呼吸システムの信頼性を最大限保証し、有害物質の加工を始める前に、工程危険分析を実施するよう、勧告している。徹底した危険分析で、爆発を誘引した条件を特定できたはずだと、報告書は述べている。

アクラ・パック報告書は、www.epa.gov/ceppo/pubs/accrapac.pdf.で入手可能。

 

職場の暴力、世界規模で関心が高まる

いじめなど 職場の暴力が、世界の労働者を悩ます問題となってきている。

オーストラリアの労働者を対象とした最近の調査では、回答した3千人の半数以上が、罵声、命令、けなすなどの威嚇行為で、不愉快な、抑圧された職場を報告している。

オーストラリア労組協議会の実施した調査では、このほか、以下の事実が判明した。

     回答者の10%は、身体的な脅威を経験した。

     5%は、職場で暴行を受けた。

     70%は、管理職または監督者がいじめをしたと報告。

     44%は、職場でのこうした行為について、もしくは、労働条件、安全衛生について、報告するのを恐れていると回答した。

回答者は、いじめで、ストレス、怒り、無力感、恐怖、抑うつ感、睡眠障害、頭痛、胃のトラブルなど、広範囲の症状を訴えている。

職場で、いじめを阻止するためになんらかの措置をとっていると回答したのは、わずかに18%であった。

ヨーロッパ連合でも、いじめ、差別が、解決を要する分野だとする報告書が出た。

化学物質の取り扱いや騒音など、身体的な危険が、今後とも職場の最重要課題であるが、職場の暴力は、もっと予防措置を要する、と報告書は述べている。また、ストレスなど、「よりソフトな」危険も、保健、セールス、顧客サービスなどのホワイトカラーの間で広まっていると、報告している。

「ヨーロッパ連合における労働安全衛生の現状」報告書は、ヨーロッパ安全衛生庁(European Agency of Safety and Health)が取りまとめた。これは、今日現在、EUの労働条件を最もよく包括した調査である。

 

ILOも介入

国際労働機関(ILO)は、職場の暴力を許さない政策を世界規模で採択するよう勧告した。

「職場の暴力」と題した報告書で、ILOは、問題の重きさは、今明らかになろうとしていると述べている。しかし、失職も含めた報復を恐れ、暴力の大半は報告されないままである。

女性は、危険度の高い職種、低い賃金、低い地位に集中しており、その分、暴力の犠牲となりやすい。若年労働者も、暴力の発生しかねない状況にどう対処してよいか、経験に乏しいことから、やはり暴力の対象となりやすい。

具体的に「危険な」状況は、一人で働いている、公衆と働いている、貴重品を取り扱っている、疲労している人々と働いている、教育現場で働いているなどである。予防戦略、早期対処は、暴力的行為を抑制・鎮静させるのに、最も有効であるとの認識が高まっている。しかし、場当たり的な対応があまりにも一般的である。

企業は、対応に遅れ

オランダ政府が行った、職場の暴力とセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)に関する調査では、使用者は、対応が遅いことが判明した。

1994年以来、オランダの法令では、使用者は、職場の暴力と嫌がらせに関し、その危険度を測り、予防措置を採るよう義務づけられている。しかし、前掲の調査では、企業の3分の2は、苦情処理担当職員の任命すらしていなかった。

オランダ社会問題・雇用省のレックス・フォン・デル・スライス職場の暴力専門官は、政府は、この問題について、より強力な法令で臨もうとは考えていないと語った。その代わりに、労働監督官が、他の安全衛生問題と同様、職場の嫌がらせについて調査し、苦情を取り調べることになる。 S+H

 

経済のグローバル化で労働者のストレス増------ILO報告

国際労働機関(ILO)の新しい調査によると、経済のグローバル化は、職業上のストレスその他の精神衛生問題を引き起こす可能性があるらしい。「精神衛生と職場」と題した報告書は、フィンランド、ドイツ、ポーランド、イギリス、アメリカにおいて、この問題とその影響を分析した。

調査対象国全てに、ストレス、燃えつき症候群、うつ病の有病率と近年の労働市場の変化との間に、連関がみられた。例えばフィンランドでは、失業増、雇用不安、時間的圧力と、精神衛生障害、とくにうつ病の報告件数の急増とが、符号する。

そして、どこでも、とくにアメリカ、イギリスで、情報技術(IT)革命は、うつ病や職業性ストレスなど、慢性的な症状の増加をもたらしている。

精神衛生問題の社会経済的費用についての認識が高まるにつれ、この種の発病報告件数も増加している。現在、ILOは、成人人口の20%が、精神衛生問題を抱えていると推計している。

 

TVA訴訟

テネシー・バリー・オーソリティは、連邦政府および民間環境団体の双方から、大気浄化法違反で告発されている。

EPA(環境保護庁)の環境上訴委員会は、TVAが、正式な許可なく、公害管理装置も備えず、石炭発電所のいくつかに大規模な改造を加えたのは、大気浄化法違反であるとした、1999年11月の政府行政命令を支持した。TVAは、改造ではなく保守であるとして、争っている。

しかし、上訴委員会は、「プロジェクトは全て、日常的な保守、修理、交換であるとする、TVAの主要弁論を却下する」と記した。

これとは別に、国立公園保護協会は、テネシー州グレート・スモーキー・マウンテン国立公園近郊のTVAの発電所2基が、大気浄化法に違反しているとして、訴えている。

南アフリカ、週労働時間の短縮は前途多難

 南アフリカ労働省は、週労働時間を40時間に短縮するのは可能だが、それは特定の条件下の労働者のみが利することとなる、と述べた。

所得格差と貧困があるかぎり、低所得者層は、収入増のため、残業や副業を求めるという結果になりやすいからである。

これを避けるには、労働時間の短縮は、所得格差と貧困の是正、技能水準の向上、全労働者のための雇用の安定化、犯罪の減少、公共交通機関の改善を伴わねばならない。

これらの所見は、10月17日に発表された労働省の調査報告書に詳述されている。調査によれば、労働時間短縮への成功の鍵は、企業レベルでの勤務協定の変更と、使用者に対する、より革新的なアプローチの励行である。報告書は、週労働時間の短縮が国民のための雇用増に転ずるよう、政労使三者が、恒常化している残業の短縮を約束するよう呼びかけている。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州、落下防止策を強化

ブリティッシュコロンビア州労働保険委員会は、落下防止システムの利用について、態度を根本的に変えるよう、呼びかけている。同委員会によると、同州で9月、10月に課された安全衛生制裁措置の50%が、落下事故を防げなかったものであると判明した。

同委員会のダン・ネルソン建設サービス部長は、この問題は、過去のシートベルト・キャンペーンになぞらえて国民の認識を変える必要ありと言った。しかし、目標は明確でも、到達方法となると、そう明確ではない。

「関係者を動かすのが、最大の課題だ」とネルソン部長。米国と同様、屋根ふき、足場業者は、建設現場には、一日にも満たないほどの短時間しかいない。労働者は、大抵、組織化されておらず、移動労働者である場合が多い。

法の施行は、違反行為をチェックする監督官に限られている。ネルソン部長は、この夏中実施した週末の査察で、高い違反率を改善させたと評価した。

違反行為に気がつくと、監督官は、可能な落下防止策について説明する。、労働者と話す。しかし、しばしば、労働者は英語を話さず、英語を解する監督者が現場にいないこともある、とネルソン部長。場合によっては、繰り返し違反については、罰金というメッセージを送りつけるのが最善である。

 

イギリスでは、安全データシートが不評

イギリスの最新の調査によると、小規模企業は、書面による化学物質の危険情報については、供給会社や梱包ラベルを参照する。

法律では、より総合的な安全データシート(SDS)を利用するよう義務づけているが、マリオン・エバンス調査員によれば、安全データシートは「かなり人気がない」。安全データシートは、過度に技術的な用語を駆使し、防護対策の具体的な情報に欠け、情報が不要に重複していたり、フォーマットが統一されていないため混乱を招きやすく、現場の経験とは相反する情報を掲載していることもある。安全データシートの35%は、重大な誤りがある、とエバンス調査員は言った。

危険情報の認識は、読解能力とも関係している。調査対象の労働者の3分の2は、12才以下の読解能力しかなかった。書面によるよりは、口頭でのコミュニケーションが望ましい。

労使とも、長期的、短期的な化学物質の有害性についてはあまり知識がないにもかかわらず、面接した者の大半は、危険から身を守るすべを知っていた。調査対象者は、美容院、ドライクリーニング、電気めっき、木工場、自動車修理場で働く人々であった。

調査に資金を拠出した政府の安全衛生庁(HSE)は、労働者の理解を得るため、単純な説明と現場での口頭による質疑応答セッションを検討中である、とエバンス部長は言った。安全データシートの質についても、再検討が望ましい。

 

安全監督官不在で、メキシコ労働者は危険と隣り合わせ

メキシコの産業災害は、より多くの有資格安全監督官の必要性を際立たせた。

8月、メキシコのグアダラハラにある電子組み立て工場で発生した事故では、103名が負傷した。労働者は、イソプロピルアルコールや腐食性の洗浄液蒸気で、頭痛や吐き気を訴えた。このうち、71名が入院。雇い主は、マザーボードやコンピューターを製造する台湾出資メーカー、ユニバーサル・サイエンティフィック社である。

メキシコには、OSHA監督官のように、日常的に監督を行う労働監督官が存在しない。その代わり、企業は、法律により、労働安全衛生を所管する労働社会福祉省(Secretaria de Travajo y Prevision Social: STPS)の認可する民間の第3者「検定機関」を雇うよう、定められている。

また、安全法規は、いつも施行されているわけではない。「職場の安全を保障する規則はあり、監督官もいるが、労働社会福祉省による監督は、確実とはいえない」とハリスコ州厚生省社会コニュニケーション部のオリビア・ゴンザレス氏は言った。

グアダラハラのあるハリスコ州は、同国第2位の工業地域で、6万4千もの工場が集中している。しかし、労働社会福祉省によれば、監督を認可されているのは、わずかに3民間団体しかない。

グアダラハラ事故の重大性にかんがみ、厚生省が介入。同省は、事故原因は、換気ミスにあると指摘。「厚生省が、工場を検証し、生産の再開には、連邦裁判所の裁定が必要だと指摘した」とゴンザレス氏。同社は、生産ラインを改良すると述べた。