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NSC発行「Safety + Health」2001年3月号

特集 


OSHAエルゴノミクス基準は正当
米国科学アカデミーの新調査が反対論を否定


エリザベス・アンバル、アル・カー


米国科学アカデミー(NAS)は議会の命令に基づいて、最近問題になっている労働安全衛生(OSHA)に関連する新しいエルゴノミクス(人間工学)基準についての調査を行ってきたが、その報告書でこの基準を支持する見解を打ち出した。報告書は腰部や上肢の筋骨格系障害が特定の作業や労働条件と関係があることを示す科学的証拠があると述べている。

アカデミーの研究者は腰部傷害と重量物の持ち上げ作業の間には「明確な関連」があり、また手根管症候群のような障害にとって「反復、力、振動は特に重要な作業関連の要素」であると述べている。報告書は結論として、事業場で是正策を取れば、障害を減らすことができる」と述べている。さらに報告書は、事業者がこの種の外傷を減らすことに努力し、労働者もその活動に参加すれば、苦痛を軽減するための各種のアプローチも効果を上げることができる、と主張している。

ニューヨーク医学アカデミー理事長で報告書作成パネルの議長を務めたジェレミア・バロンデス氏は、パネルは2年間に約3000の事例を検証し、外部の専門家の意見を聞き、フォード自動車の工場2カ所を訪問したと述べている。

「適切な対策をとれば、傷害のリスクを減らすことができるという、確実な証拠がある」とバロンデス氏は言う。

しかし報告書は同時に、反復的なストレスに対する労働者の暴露をどう測定するか、等のより幅広い調査が必要なことも指摘し、労働統計局がエルゴノミクス関連の傷害に関するリスク要因、その他の具体的なデータを提供することを勧告している。

またパネルは、標準的なコード化方式を使って、作業関連性筋骨格系障害を包括的に監視することを統計局に求め、筋骨格系障害関連の研究、訓練を拡充することを国立労働安全衛生研究所に求めている。

チャールス・ジェフレス元OSHA局長はこの調査が「エルゴノミクス・プログラムがこれらの傷害の防止に持つ効果についての、これまでの疑問に終止符を打つものだ」と言っているが、規則に対する反対派はまだ納得するに至っていない。

両者の言い分はそのまま

OSHA基準の賛成、反対両派はこの報告書をそれぞれの立場の根拠として利用している。労働組合は、労働者を反復的ストレスから保護するためには、連邦政府による基準が必要なことをNASの報告書は立証していると主張し、事業者グループはさらに調査が必要であり、OSHA規則は「科学的に疑わしい」としている。

「われわれは議会または裁判所がこの規則を否定すべきだと主張してきた。今回の報告書は、筋骨格系障害の正確な原因を明確にすることができず、さらに議会が命じた調査の完了前に基準を決めた事実も裏書きされた」とワシントンの全米製造者協会の雇用政策部長、ジェニー・クレゼ氏は言う。

また米国商業会議所のピーター・エイデ氏も、報告書が取り上げた個人の特性、たとえば文化的価値観、年齢、性別、体重、ストレス、リクリエーション活動などを引用しながら、職場とこれらの障害の関連は非常に複雑であり、事業者※に防止の責任を負わせるのは無理だと言う。

「米国科学アカデミーの調査は確かに有益だった。裁判所での論議をまとめるのに利用できるだろう」とエイデスは言っている。しかし、バロンデス氏はエイデス氏の調査評価に反対して「データに基づけば、同意できない主張だ」と言う。

議会が調査を依頼した米国科学アカデミーは、国内で最もすぐれた科学研究機関であり、今回の報告書で議会の反対も収まるのではないかと見る向きもある。しかし場合によっては、火に油を注ぐ結果となる可能性もある。

下院教育労働委員会に属するカス・バレンジャー議員(ノースカロライナ州、共和党)は、ステートメントを出し、その中で基準に対する反対の姿勢を変えることは全体にないと述べている。

「OSHAエルゴノミクス基準はエルゴノミクス傷害の問題を解決できないことを、この報告書は示している。OSHAルールは事業者に貴重な資金をエルゴノミクス傷害の防止に使うことを強要している。傷害は労働によって生じるものではないのに、OSHAはそれをなお労働に関連があると考えている」

十年以上にわたってエルゴノミクス基準を支持してきた労働組合は、すぐに基準の実施に入る体制を整えている。

「保守的な共和党や産業界のOSHA案反対派は、この調査を要求した人々だ。調査はOSHA基準を基本的に支持し、確認し、拡張している」とAFL-CIOに属する労働衛生学者のビル・コジョラ氏は言う。

今回の調査報告書を作成したのは、科学アカデミーの全米研究審議会と医学研究所である。アカデミーは議会の認可を得た、民間の非営利法人である。詳細については下記を参照。
www.nationalacademies.org



※ 訳注:原文はemployeeだが、employerの間違いと思われる