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NSC発行「Safety + Health」2001年8月号

OSHAの最新情報


チャオ労働長官主催討論会、エルゴノミクスの根本問題を探る

 エルゴノミクス的危険に関する行動方針に関しては、立場を留保しているものの、エレイン・チャオ労働長官は、エルゴノミクス的障害の本質や対処法など、根本的な問題に関して回答を得るべく、3回の討論会を開催した。同討論会は、7月、バージニア州アーリントン市ジョージ・メイソン大学、シカゴ大学、カリフォルニア州パロアルト市スタンフォード大学ロー・スクールで開催された。
 年初、共和党支配の議会で、エルゴノミクス基準を廃案されたOSHA(労働安全衛生庁)は、これまでにも、これらの問題を探求してきた。しかし、チャオ労働長官は、次の3点につき、さらに解答を求めた。
1. エルゴノミクス的傷害とは何か?
2. エルゴノミクス的傷害が業務関連かどうかを、関係者は、どう決定するか。原因が、労働関連要因、非労働関連要因の複合である場合は、どうするのか?
3. エルゴ問題については、規則作成、指導要綱、「最善の慣行」アドバイス、技術支援等、どのような政府の関与が最も有益か?
ワシントン市の使用者団体、全米エルゴノミクス同盟は、あらゆる法規制定の際には、既定の進路を採るのではなく、根本問題に立ち返るべきであるとする同同盟の主張を裏打ちしているとして、本討論会を、議論における「重要な第一歩」であると評価。しかし、米国商工会議所のピーター・エイド労働政策担当部長は、「これらの問題に解答があれば、論争など出ない」と、小誌に語った。
同討論会では、同会議所その他の使用者団体は、腰痛の場合、心理社会的影響を考慮せねばならないこと、また、一般的な筋骨格障害はひとつとして、業務関連因子のみに起因するわけではないとした、全米科学学会の調査の一部を引用した。長期間のコンピューター使用と手根管症候群との連関性はみられなかったとする、メイヨー・クリニックの調査も引用した。
一方、労働組合幹部らは、エルゴノミクス的問題は広く探求され、その深刻さは周知の事実だと述べた。討論会は、新しいエルゴノミクス対策を探るため、上院の圧力のもとで開催されたが、事業者側の質問に反映されているとおり「一方に極端に偏向した」ものであったと、在ワシントンのAFL-CIO、ペグ・セミナリオ安全衛生部長は述べた。
小誌印刷開始時点で、在ニューヨークの縫製・工業・繊維従業員組合、エリック・フルミン労働安全衛生部長は、聴聞会は「煙幕」であると非難する予定だと述べた。使用者団体は、全米科学学会の調査を誤って引用し、コンピューター使用による手根管症候群を取り上げた相当量の研究を、メイヨー・クリニックは無視している、と同氏は述べた。



労組、労働省主席法務官へのスカリア氏指名に激怒

労働弁護士で、保守的な最高裁判所判事アントニン・スカリア氏の子息、ユージーン・スカリア氏を、労働省の首席法務官に指名した件で、ブッシュ政権は、労組の怒りを買っている。
 労働省職員らは、在ロサンゼルスのギブソン、ダン&クラッチャ−法律事務所所属の弁護士として、37歳の同氏が、すでに廃案になったOSHAエルゴ基準に関し、産業界側の廃案闘争に深く関与していたことを特に懸念している。同氏は、在ワシントンの使用者団体、全米エルゴノミクス同盟や、エルゴ立法化に反対した法人の代理人を務めた。同氏はまた、OSHAエルゴ基準につき、徹底した批判を寄せ、州レベルのエルゴ規制に反対の立場を採ってきた。
 スカリア氏の「明白な業績…は、エルゴノミクスは、傷害防止に向けた合法手段であるとする、幅広い科学的コンセンサスを軽んじている」と、縫製・工業・繊維従業員組合のエリック・フルミン安全衛生部長は語った。また、スカリア氏は、労働安全問題について、会社側の立場に共鳴する姿勢をとるべく準備しているようだ、とも付け加えた。
組合幹部らは、労働省法務官として、スカリア氏が、特定のOSHA基準で規程されていない安全衛生危険を網羅した、一般義務条項のエルゴ関連違反の施行を、どれだけ精力的に推進するか、疑問視する。以前、労働省法務官の一人は、エルゴ基準がない場合でも、OSHAは、一般義務条項を活用して、もっと多くのエルゴ違反を追及できると提唱していた。
スカリア氏の同僚弁護士らは、法務官として、氏は、労働安全衛生の保護に向け、誠実に法律を施行すると主張。在ワシントンの米国商工会議所、ピーター・エイド労働政策部長は、「全米エルゴノミクス同盟の雇われ弁護士としては、OSHAのエルゴ基準に反対するのが仕事だったのだ」と語った。「氏は、非常に聡明な人物」で、法務官としての任務は、「労働省を誰が仕切ろうとも、同省に利益を確実にもたらす」だろうと述べた。



小規模事業規制緩和法案

クリストファー・“キット”・ボンド上院議員(共和党、ミズーリ州)は、小規模企業にしわ寄せの出る新法規をなぜ推進するのか、小規模企業によく説明するよう、OSHA等規制当局に義務付ける法案を提案した。
 同法案では、小規模企業は、小事業委員会による規則作成検討に先んじて、当局の決定に関し、裁判所の再審理を求めることができるようになる。
 ボンド議員は、上院が民主党優勢となる前、上院小規模事業委員会の委員長職にあった折、政府機関説明責任法を提案した。同議員は、新しい連邦法規で、企業によっては廃業したり、環境その他の理由で禁じられた技術に代わる、新技術の導入を阻止した例を引用した。議会は、ボンド議員の小規模事業法規施行公正法を1996年に成立させたが、「連邦政府機関は、義務を怠るのを繰り返している」と同議員。
 ボンド議員のスポークスマンは、民主党支配の上院で、共和党が、そのような産業有利の法案を持ち出すのは困難であると認めた。
 ボンド議員から、上院小規模事業委員会委員長職を引き継いだ、マサチューセッツ州選出のジョン・ケリー民主党議員は、規制当局による小規模事業法規施行公正法および規制弾力法の遵守徹底に向け、ボンド議員と協力したい意向だと、ケリー議員のスポークスウ−マンは述べた。スポークスウーマンによれば、事実、ケリー議員は、前回の議会で、ボンド議員と同法案を共同提案した。しかし、新ボンド法案は、小規模企業に対する政府当局の説明責任の「無差別拡大」を要求しており、ケリー議員は、それは時期尚早であると考えていると、同スポークスウーマン。


チャオ労働長官、OSHA記録保持規則を推進

エレイン・チャオ労働長官は、労働災害記録保持に関するOSHA規則を、2002年 1月1日付けで正式に施行すると発表した。新規則は、労働者の関与を増し、簡単な書式を作成、OSHA規則の要件を満たすのに、コンピューター利用を認め、使用者により柔軟性を持たせている。
 「本規則は、労働者のための職場の安全に向けた、大きな一歩である」とチャオ長官。「平易な言葉を用いており、使用者の意思決定過程を簡略化している」。
 しかし、労働省は、本規則の記録保持要件について2件の修正を提案しており、これに対するコメントを求めている。同省は、「深刻な」健康状態として記録すべき聴力損失レベルについて、さらに調査するまでの1年間、業務関連聴力損失の記録基準の実施を延期するよう提案する。医療関係者と州労働者災害補償制度は、現行規則の聴力損失基準を支持しないとコメントした。さらに、同省は、記録保持規則上の「筋骨格系障害」の定義と、OSHA記録書の筋骨格系障害欄についての使用者の点検義務を、1年間延期すると提案。全米各地で7月に3回開催された、エルゴノミクス討論会で決定した課題は、「エルゴノミクス的傷害」および「筋骨格系障害」の定義付けに活用される。

JICOSH註)
新しいOSHA記録保持規則についての紹介ページ
http://www.osha-slc.gov/recordkeeping/index.html

新しい記録保持規則
http://www.osha-slc.gov/FedReg_osha_data/FED20011012.htm


OSHA、化学工程規則の改訂を検討

 ブッシュ政権下での労働省の法制最優先課題は、化学物質の取り扱い安全の改善に向けた規則案のほか、OSHA化学工場工程安全管理基準の改訂作業に正式に着手するよう、求めている。
 OSHAは、11月末までに、工程安全規則の改訂に向け、どのような規制措置を講ずればよいか、コメントを募る目的で、改訂案を事前通知する。規則の改訂は、ニュージャージー州ロディの爆発事故で噴出した、数多の反応性化学物質を扱っていないとする批判を契機に、この5年間、検討されてきた。
 同省のアジェンダ書によれば、化学工程に関わる空中タンク貯蔵の可燃性液体を適用対象にしようとするOSHAの意図を明確にするため、規則改訂の必要性を事前通知書に記す。当局は、基準の高度有害化学物質表には元来含まれてないが、EPA(環境保護局)の危険管理プログラム規則に含まれている化学物質の追加を検討する。
また、OSHAは、11月までに、二硫化炭素、グルタルアルデヒド、ヒドラジン、トリメリト酸無水物の4有毒化学物質への業務上の暴露規制を強化する法案を提案しようと予定。これらは、1971年のOSHA創設時に設定された、何百種類もの化学物質の暴露限界値のうち、その引き上げを予定された最初の4品目である。
また、この新アジェンダによると、テトラクロルエチレン、結晶性シリカ,六価クロムに対するエージングリミットを下げる法制作業も、11月に始まる。




労組、OSHA設置法の微修正を要求

 上院が民主党優勢となった現在、労働組合は、OSHA設置法の微修正を要求しようと計画。これは、共和党支配の態勢ではなし難かったに違いない。在ワシントンのAFL-CIOのペグ・セミナリオ安全衛生部長は、修正内容は、職場での不安全な慣行を使用者やOSHAに知らせる内部告発者の保護の改善や、OSHAの長年の懸案である有毒化学物質の最大暴露限界値の法定基準の引き下げが含まれる。
 OSHA法の大改訂は、分裂した議会が妨げとなるため、労働組合は、比較的穏当な修正に的を絞る必要がある、とセミナリオ部長は述べた。