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安全の達成

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2002年3月号
(訳 国際安全衛生センター)


ジョン・ディスリン

UPSは安全対策で長足の進歩をとげた。イリノイ州ホドキンスの施設での取り組みは、その格好の例だ。

どんな道路設計者もうらやむ150万平方フィートの施設に設置された「運送システム」を、1時間当たり約16万個の小包が通過してゆく。ここはイリノイ州シカゴの南西、ホドキンスにあるユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の配送センターだ。小包の数は1日当たり130万個から140万個に達する。

小包は、コンベアベルトや荷降しスロープ、荷積みスロープの迷路でできたスパゲッティ・ボウルのようなハイウェイシステムの中を、高速でくぐりぬけていく。そしてコンピューターが読み込んだ同社独自のバーコード・システムに基づいて「振り分け扉」で行先別に区分され、最終的に送り先に向けて発送されるのである。

UPSの全システムで見ると、毎日約1,360万個の小包がつねに輸送途上にあることになるが、これは米国の国内総生産の約7%に相当する。さまざまな大きさで大量に流れ込む小包をうまく処理できるかどうかは、この精密な配送システムと、これを運用する経営陣と労働者にかかっており、同時に安全への配慮を犠牲にしないことが不可欠となる。

UPSは労働条件の簡素化と改善に多大な努力を払ってきたが、それでも現場での労働は肉体的にきびしい。おどろくほど精密な小包運送システムでさえ、小包を積んだり降ろしたり、またスキャナーがバーコードを読み取れるようにベルトの上に適切に置くためには人手が必要だ。

「システムの設計に際して、小包が移動する高さを、人の力を楽に発揮できる大腿部の中頃から胸部の中頃までの範囲に設定できるようにした」と説明するのは、UPS(ホドキンス)のコミュニティ・リレーションズ・マネジャー、ミカエル・ジョール氏である。たとえば動力式の荷積み・荷降ろし機が貨物トレーラーまで伸びて、トレーラーの最上部と床とを連結できるようになっており、担当者は小包をトレーラーに積み込んだり、降ろしたりするためのコンベアの高さを調整できる。おかげで担当者は、荷積みや荷降しのために、それほど腰を曲げなくてもよく、また小包の運搬作業量も少なくなっている。

UPSは、小包の持ち上げや移動の労力を少なくするようにシステムを設計すると同時に、労働者と協力して安全な作業慣行と行動に取り組んでいる。「われわれの安全対策は、さまざまな形をとっている」とジョール氏はいう。「毎月の安全会議を記録して問題点の一覧表を作る。これに基づいて安全上の諸問題を安全委員会のメンバーに割り当て、一定の期日までに必ず解決するようにし、労働者には小包を持ち上げたり移動したりするときの正しい身体の使い方を教育している」

運転手も長時間の訓練を受ける。鍛え上げた運転技術を会社主催の「ロデオ」大会で披露することもある。オレンジ・コーンの間をジグザグ運転したり、荷積みスロープに後方進行するなど、さまざまな課題に挑むのである。

労働者が責任を引き受ける

1995年、UPSの経営陣は、効果的な安全プログラムの立案と実行を通して、OSHAに報告する傷害発生率を業界標準以下に減らすという目標を立てた。それが「総合安全衛生プロセス」の策定につながった。その柱は経営陣の姿勢と労働者の参加にあった。それ以来、UPSの労働損失日を伴なう傷病発生率は50%近くも減少した。

経営陣は、このプログラムが成功したのは労働者の参加があったからだという。おどろかされるのは、同社の1,746カ所の施設で働く労働者のうち、約60%はパートタイマーだということだ。ホドキンスの施設には約1万人の労働者がいる。そのうち約400人が、総合安全衛生プロセスに基づく各種の安全委員会に所属している。

この3年間、ホドキンスの施設ではOSHAに報告する傷害が68%、労働損失時間は38%、自動車部門の労働損失時間は36%、それぞれ減少した。

「総合安全衛生プロセスによって、労働者はわが社の安全対策に主体的に参加するようになった」と語るのは、地域安全管理者のマーティー・マッケンナ氏である。「わが社の安全対策では、労働者が一般的に責任を引き受けている」

労働者が基本的に安全会議を運営し、管理者はこれに参加して主に補佐役に回り、労働者の懸念を聞く。安全委員会には労働組合の職場代表も参加するが、マッケンナ氏によると、彼らは総合安全衛生プロセスが労働者のための価値ある手段になっていることを認めている。

あらゆる種類の会議が定期的に開かれている。マッケンナ氏によると、日常的な作業前の意思疎通会議があり、安全のためのヒントが話し合われる。情報会議では、その日の目標、地域対策、道路状況が話し合われる。たとえば運転手は交通渋滞や道路建設工事の場所、シカゴ都市圏の天候などを知ることができる。

総合安全衛生プロセスには、この他に問題点一覧表、四半期ごとの負傷および疾病データの分析、進展状況の報告、労働者評価プログラムなどがあり、また年2回の施設監査を実施して建物内のあらゆる業務箇所を検査している。さらに各種の労働者作業グループによる部門を越えた参加、負傷と疾病の傾向を探るための検証も行われている。その結果、安全委員会はより積極的に事前の行動をとれるようになっているとジョール氏は語る。

マッケンナ氏は「現場分析の際の施設監査には、50人から70人が参加している」と説明する。「負傷データ分析によって傾向をつかむことで、負傷減少のための活動を検討できる。また職務別のハザード解析も行っている。各職務をその構成部分に分解し、正しい行動とリスクのある行動を把握できるようにしている」

マッケンナ氏は、労働者の参加と訓練の改善で施設の改革が可能になったと付け加える。たとえば貨物トレーラーの運転手グループは、腰痛の増加に気がついた。そこで安全委員会が、腰に関する健康相談所を開設し、その結果、腰痛は40%近くも減少した。UPSは、荷積み・荷降し担当者のために可変式の高さ「調節器」を設置した。労働者は自分の都合に合わせて機械の高さを調節できるようになった。小包の持ち上げと移動の作業がなくなったわけではないが、高さ調節器のおかげでトレーラーに荷物を上げ下げする際の作業量を減らすことができた。

ホドキンスの施設には4つの区分け勤務、つまり4交替の勤務体制があり、これによって区分け業務を行っている。各勤務種別ごとに5つの安全委員会があり、内訳は本委員会が1つと小委員会が4つである。

「小委員会は直面する課題に取り組み、本委員会は全委員会の進捗状況を点検し、ブレーンストーミングを実施し、全般的な進行を検証し、安全上の新たな問題を討議する」とマッケンナ氏はいう。「その目的は、すべての労働者同士で、また管理者との間で、現場に即した直接の意見交換を行うことにある。プログラムは労働者の参加によって支えられている。自分の考えが実行に移されるのをみると、労働者はますます積極的になる」

貨物トレーラーの運転手、プラント・エンジニア、自動車担当者のための安全委員会もある。どの安全委員会にも、管理者が共同議長として参加し、補佐している。マッケンナ氏は、安全委員会の全メンバーが、同社の総合安全衛生プロセスについて8時間の研修プログラムを受けているとも述べた。

労働者のやる気

あらゆる面からみて、UPSの労働者は同社の安全プログラムに主体的に参加しているといえる。「労働者は、自分たちの声が受け止められ、実行に移されることを知っている」とマッケンナ氏はいう。

24時間操業の体制では、労働者の参加は決定的に重要になる。安全問題は夜間と日中で異なる場合があるからである。地域管理者を含めた管理者も、異なった勤務種別のもとで働いているため、労働者の実態をよく知り、勤務種別ごとにどのような問題が発生するかをよく理解している。

「総合安全衛生プロセスが機能しているのは、協力があるからだ」と、同社の貨物トレーラー運転手のボブ・キンメー氏はいう。「道理に適った範囲で、労働者は安全委員会では自分の意志に基づいて行動できるし、そのためにいっそう主体的になれる。また建物内の他の部門とも協力できるので、仲間同士の関係が強まる」

別の運転手、クリフォード・ジョンソンも同じ意見だ。「安全委員会によって管理者の説明責任を明確にできるし、その結果、労働者はさらなる責任感をもって安全手順を実行するようになる」という。

労働者評価プログラムは、とくに人気が高い。「安全な行為が評価されると、お互いの利益になる」とジョンソン氏はいう。「安全慣行を改善したり、同僚が安全に作業できるよう手助けしたり、管理者に施設や設備や工程などの潜在的問題点を通知すると、報償として自動販売機の利用ポイントなどがもらえる。それが主体的な参加につながるのは間違いないが、なによりもすべての労働者が安全について考えるようになる。総合安全衛生プロセスに参加する前は安全慣行を無視するときもあった。今はそんなことはない」

UPSの安全には家族も関わってくる。キンメー氏の場合、妻もUPSに勤務し安全委員会に参加していたため、これを見習うようになった。キンメー氏は「彼女がプログラムに参加して区分エリアでやっていることをみて、自分も問題解決に役立てるし、必要だと考えていた安全対策に参加できると思った」と振り返る。

労働者の積極的なフィードバックは、すべての関係者に影響していった。「昔は、運転手は安全について後ろ向きだった」とジョンソン氏はいう。「われわれは障害となるものを取り除き、彼らの姿勢を変える必要があった。たとえば、われわれの委員会は心配事を抱えている運転手が気軽に参加できるようにした。そして状況を改善するために委員会や経営陣が決めたことを彼らに知らせた。いまでは運転手たちは、問題改善の取り組みが行われていることで安心できるようになった」

新規採用の労働者

UPSには、きわめて多数のパートタイム労働者がいるため、入れ替わりも頻繁で、常に訓練を実施していなければならない。マッケンナ氏の説明では、新規採用者は全員、HABITSと呼ばれる1日研修を受けることになっている。HABITSとは、衛生(Health)、運動能力(Athleticism)、身体力学(Body mechanics)、検査(Inspection)、道具/設備(Tools/equipment)、安全順守(Safety compliance)の頭文字をとったものだ。その目的は、労働者が、より激しくではなく、より賢明に作業できるよう手助けすることにある。それでもUPSの労働者は、70ポンドの重量を自分で上げ下げできなければならないが、重い小包はお互いに助け合うという会社方針がある。

初期の訓練が終了すると、新規採用者は安全委員会と「SWEEP」のメンバーに紹介される。SWEEPとは、ある種の指導者になる人たちのことで、安全(Safety)を確保しつつ、教育(Educating)し、評価(Evaluating)し、予防(Preventing)するという意味である。SWEEPのメンバーは、その一員であることを表したTシャツを着ている。

「二人組のようなシステムだ。その意図は、労働者同士がなるべく気楽に話し合えるようにすることにある」とマッケンナ氏はいう。

UPSの新規採用者訓練の大きな利点は、ほとんどの管理者がたたき上げだということだ。彼らは自分が管理している部署の多くで働いたことがあるため、その経験と技術を新規採用の労働者に伝えることができる。UPSでは、45歳の労働者で勤続25年という例もめずらしくはない。

「管理者の勤続年数が長いため、新人労働者へのメッセージを絶えず強化するのは容易だ。新人労働者は、必ずしも安全とはいえない行動をとったり、とろうとすることが多い」と語るのは、ホドキンスの施設の地区管理者、トニー・ポズレンズニー氏である。

さらにUPSの施設の多くは、現場開催の講座をもっている。ホドキンスの施設では、近くのナショナル・ルイス大学による講座を開設しており、UPSでの勤務を続ける労働者には会社が費用の大部分を補助している。この制度は、UPSの多数の外国人労働者にも役立っている。

「ここでは第2外国語としての英語クラスを開設している」とポズレンズニー氏はいう。「しかしスペイン語かポーランド語を話せる管理者も多い。これらは英語以外でもっとも多く話されている言葉だ。彼らが訓練資料を翻訳し、同じ外国語を話せる労働者や管理者同士の絆をはぐくんでいる」

まずトップから

労働者が、労働条件を自分たちで改善できるのだと実感するためには、幹部管理者がその条件を整えなければならない。ポズレンズニー氏の場合、同施設のCEOに例えられているが、1万人の労働者の全員が、自分の実行すべき役割を理解できるようにしている。そして管理者と労働者を含めた全員が、責任を引き受けている。

ポズレンズニー氏の説明によると、地区管理者は4つの区分け業務、つまり4交替勤務のすべてに責任を負っている。総合安全衛生プロセス担当の管理者も、すべての業務にかかわっており、すべての新採労働者とパートタイム労働者を対象に、安全プロセスに関する試験、訓練、監査を行っている。

「安全管理者と各委員会は、つねに基礎的な情報を検証しながら、訓練を行っている。その結果、全員がつねに安全第一を考えるようになる」とポズレンズニー氏はいう。「小包より人間の方が大切だ。安全でない作業には手をつけないようにすべきだ」

ポズレンズニー氏は、管理者が目標を設定し、それを実現する力を労働者に与えることが重要だという。その成果として、UPSの労働者はバトンを受け取り、それを持って走ってきたのだという。

「安全衛生のための努力を支援していることを労働者に理解してもらえれば、彼らはいっそうそれに力を入れるようになる」とポズレンズニー氏はいう。「労働者の安全衛生を確保することは、十分に企業利益に合致している。労働者が傷ついて喜ぶ管理者はいない。個人対個人で仕事をしていようと、何百人もの部下をもって仕事をしていようと、彼らが負傷するのを望む人などいないはずだ」

【記事内容早わかり】

UPSが総合安全衛生プロセスを開始してから、労働者は同社の安全対策に直接参加できるようになった。

要点

  • UPSのシステム中には、毎日1,300万個を越える小包が流れており、これは米国の国内総生産の約7%に相当する。
  • 1995年に総合安全衛生プロセスを開始してから、UPSの傷病発生率は50%近く減った。
  • ホドキンス(イリノイ州)の施設では、OSHAに報告する傷害件数が68%、労働損失時間が38%減少した。
  • ホドキンスの施設では各勤務種別ごとに5つの安全委員会があり、内訳は本委員会が1つ、小委員会が4つである。
  • 安全委員会のメンバー全員が、8時間の訓練を受ける。

詳細については

UPSのウェブサイト「www.ups.com」に同社の安全対策が詳しく掲載されている。

ジョン・ディスリン(『Safety + Health』誌記者)