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NSC発行「Safety + Health」2002年4月号

ニュース

ビバリー社エルゴノミクス訴訟は、一般産業の前例となるか?
エリザベス・アンバル、キャレン・ガスパース

 アーカンザス州フォートスミス市のビバリー・エンタープライジズ社とOSHA(労働安全衛生庁)の間で成立したばかりの和解(本誌2002年3月号25ページ「産業特集」参照)について、本件が保健衛生産業にもたらす影響を、業界の消息通が憶測した。
 シカゴ市に本社を置くエルゴノミクス・コンサルティング会社、MSIC鰍フローレン・ウルフ社長は、本訴訟は、保健衛生産業の前例となると述べた。ウルフ社長は、ANSI(アメリカ規格協会)の上半身蓄積外傷に関するZ365委員会の委員を務める。同社長は、「OSHAは、本件を和解するにあたり、患者を持ち上げる行為は、ナーシングホーム(高齢者などの看護を行う主に個人施設)における危害として認定されることを証明した」と述べた。
 同氏はまた、本件は、リフトその他の機材を求めて闘う人々に「より多くの攻撃材料」を与えることとなったと付け加えた。
 本訴訟は、1991年、OSHAが、患者を持ち上げる行為の反復により、従業員を腰部傷害に曝したとして、ビバリー社を召喚したのが発端である。ビバリー社は、腰痛は、職場に起因させるにはあまりに一般的な症状であるとして、召喚に異議を唱えた。同社はまた、患者を持ち上げるテクニックについては、個人により異なってくるため、教授できなかったと主張した。
 本訴訟は、労働安全衛生再検討委員会に持ち込まれ、同委員会は、同社の休業件数の多さは、持ち上げる行為が従業員にとって危害性があることを示していると述べた。同委員会は、本問題の是正は、技術的かつ経済的に可能かどうかを見極めるよう、別の行政法審判官に送り返した。ビバリー社は、対立を続けるより和解を選んだ。
 ワシントン市のケラー・アンド・ヘックマン社の代理人、ラリー・ハルプリン氏は、10年前にOSHAがビバリー社に採用を求めた対策の多くは、現在、職場に広く行き渡っていると述べた。
 「法的な見地から、ビバリー社は、最終的にはOSHAが勝訴するだろうと見てとったのだろう」と同氏。同社は、「追加の訴訟費用に出費するより、エルゴノミクスを改善させたほうが、効率的だった」と認識したのである。

一般産業への影響
 しかし、エルゴノミクス訴訟という意味で、ビバリー社訴訟事件は、一般産業に対し、なにか意味があるだろうか。ウルフ社長は、懐疑的である。エルゴノミクス問題について、「保健医療では、解決策がわかっている」と、同氏は指摘する。しかし、エルゴノミクス問題への対処は、産業により異なる。保健医療産業ですら、病院は、ナーシングホームと異なると、ウルフ社長。たとえば、ナーシングホームには、長期間の患者の集団があるが、病院では、患者は、毎日変わるといってよい。
 復員軍人省の産業安全衛生プログラム・マネジャー、フランク・デニー氏は、OSHAが、ビバリー社訴訟事件を保健医療産業以外に適用することはないだろうが、事業者は、エルゴノミクス問題を先取りしておくのが賢明であると警告する。
 同氏は、OSHAの罰金刑を受けないまでも、労働者災害補償費用など他の費用がかかると指摘。その意味では、ビバリー社のケースは、「一般産業全体に適用される」と述べた。
 しかし、この問題に関し、保健医療産業は、目を離せない産業である。
 労働安全衛生法の一般義務条項でもって、エルゴノミクス違反を召喚するとすれば、その対象は、保健医療産業であり、とくにナーシングホームが狙われるだろうと、ウルフ氏。OSHAにとって、「簡単な仕事」だからである。
 ハルプリン氏は、重量物を持ち上げる行為を通常の作業とする産業では、OSHAが、一般義務条項を用いて、エルゴノミクスの分野での法規施行活動を展開するよう期待すると述べた。
 「このようなケースでは、提訴し、実行可能な排除対策を打ち出すという点で、OSHAは優勢となるだろう。これは、専門家同士の戦いとなる」。
 しかし、デニー氏は、エレイン・チャオ労働長官が、同省の計画を発表するまでは、同省のやり方を推測するのは難しいと述べた。チャオ長官は、3月14日、上院衛生・教育・労働・年金委員会で、これらの計画について証言する予定。
 OSHAは、同庁の法規施行活動にとって、あるいはエルゴノミクス問題への一般義務条項の適用にあたり、ビバリー社訴訟がどのような意味を持つかについては、明言を避けた。