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NSC発行「Safety + Health」2002年7月号

ニュース



最高裁、障害者は、有害な職務に就く資格を有さないと裁定

ワシントン― 最高裁判所は、9対0の全員一致で、アメリカ障害者法は、健康を損なうおそれのある職務に就く資格を与えるものではないと裁定した。これは、エカザバル対シェブロン社訴訟をめぐる下級裁判所の判決を覆すものである。(本誌2001年1月号24ページ、「安全な職場とはなにかを、だれが決めるのか。」を参照のこと。)
 マリオ・エカザバル氏は、化学物質で、持病の肝疾患を悪化させるおそれがあるにもかかわらず、精油所で働くというリスクを冒す決断は、自分自身で下すことができると主張したが、最高裁は、これを棄却した。最高裁は、再検討するよう、本件を下級裁判所に差し戻した。
 本件は、重い疾病を患う、または虚弱な人々を雇用するよう強要され、一方、これらの人々の健康問題が、職務により悪化する、ないしは死亡の一因となると、今度は、訴訟問題に直面せねばならないと主張する事業者にとっては、大勝利である。
 デイビッド・スーター判事は、「雇用機会均等法は、職場の温情主義の拒絶と、当の従業員に対する特定の、文書で証明されているリスクの無視との違いを区別して、たとえ、本人が、職を得るために機会を最大限利用しようとしていようとも、合理的な範囲で、間違いなく機能していた」と記した。
 シェブロン社は、健康診断で、エカザバル氏が、慢性的、進行性のC型肝炎を患い、肝硬変、肝不全、死亡に発展しかねない進行性の症状であることが判明したため、カリフォルニア州エルセグンド市の工場勤務の希望を、二度却下した。
 シェブロン社は、エカザバル氏が、工場で、化学物質や有毒物質に取り囲まれて働き続ければ、肝障害の悪化を招きかねないと主張していた。
 最高裁判事らは、エカザバル氏の弁護団が提示した論拠に困惑した。「あなたがたは、事業主に、完全に野蛮な立場をとってほしいのだ」と、アンソニー・ケネディ判事は、口頭弁論でこう述べた。


事実チェック
職場の暴力の危険がもっとも高い職業(1993〜1999年)


出所:司法統計局、全米犯罪被害者調査、2001年


事業主の健康保険給付負担、増加

 ワシントン― 最近発表された全米補償調査のデータによると、事業者は、昨年、被保険者である従業員一人あたり平均4,891ドルの健康保険給付を支払い、費用総額は、212億ドル強へと増加した。
 つまり、2001年度には10.5%増えたというわけで、健康保険給付が、年間5%未満の伸びにとどまっていた1990年代の大部分と逆行する傾向であると、資料は分析する。健康保険給付は、労働者補償総額の6%を占めるが、民間部門では、補償コストの増額分の19%を占める。労働者補償は、保険給付、賃金、給与などを含み、2001年度は、4兆4,500億ドルにのぼった。
 経済調査・教育機関である雇用政策基金は、労働統計局が4月25日に発表した資料を吟味した。調査は、7,300の事業場を対象としたものである。


ワシントン州、2004年にエルゴノミクス規則施行を発動

 ワシントン州オリンピア― ワシントン州のゲイリー・ロック知事(民主党)は、先日、州労働・産業省に対し、同州の新しいエルゴノミクス規則を発効するよう、また、その施行は2004年7月に延期するよう、指示した。
 労働、産業、医療委員からなる小委員会は、公正かつ一貫した施行政策、わかりやすい要件、デモンストレーション・プロジェクトの成功、頒布可能かつ有効な教材などといった、特定の基準を満たしたと決定したが、ロック知事の指示は、これを受けたものである。
 ロック知事は、「こうした新しい規則で、新設備や、エルゴノミクス・コンサルタント、綿密な調査などへの高額な投資を迫られると懸念する産業がある」と言及した。こうした懸念は「根拠がない」としながらも、「(エルゴノミクス規制において)全米を先導する立場としては、慎重にことを進めねばならない」と付け加えた。
 産業界から訴訟をつきつけられている同州のエルゴノミクス規則は、事業者に対し、反復性ストレス危険要因を見いだし、それを是正することを義務付けるものである。カリフォルニア州は、傷害が発生した場合には、事業者にエルゴノミクス対策を義務付ける基準をすでに有しているが、これもやはり法廷で争われている。ミネソタ州、アラスカ州も、独自のエルゴノミクス規制を検討している。
 州政府は、より多くのデモンストレーション・プロジェクトの推進、教育プログラムや訓練の開発、事業者向け相談の革新的な手法の開発、労働・産業省エルゴノミクス・プログラム部長による召喚の処理など、小委員会の勧告を実践し、こうした活動の進捗状況を諮問委員会に報告する予定であると、ロック知事は語った。


AFL‐CIO(米国労働総同盟産業別会議)、労働安全の危機を指摘

 ワシントン― AFL-CIOの報告書は、アメリカ労働者の安全衛生は、「進歩の時代」を享受したのち、ブッシュ政権の政策下で、危機にさらされていると述べている。
 「業務上の死亡:怠慢の代償」と題した報告書は、労働統計局の最新データを基にしている。それによると、2000年度の死亡者数は、近年の傾向を引き継いで、若干減少しており、傷病率もやはり減少している。しかし、報告書は、労働者の安全確保は、「グラフでいう平坦部に達し、労働者によっては、減少している」とも指摘する。
 AFL-CIOによると、職場での殺人は、2000年には、過去6年で初めて増加した。ヒスパニック系労働者の死亡災害は、729人から815人へと急増した。統計を収集している29の州および準州では、州政府、地方政府職員の傷病率が4%増となっている。
 報告書は、1992〜2000年間で、休業を伴う傷病件数は、29%減ったが、同期間で、就業制限を伴うケースは、75%増えたと指摘。AFL-CIOは、これは、傷病者を自宅療養させる代わりに出勤させて、就業制限させる事業者が、増えてきているからだと主張する。
 報告書はまた、OSHAの現行の人員数と監督レベルでは、管轄下の各事業場を監督するのに119年かかるにもかかわらず、ブッシュ大統領の2003年度予算は、OSHA予算を9%、人員を83人削減する点を指摘した。
 報告書の全容は、www.aflcio.org.で閲覧可。


肥満は、喫煙や飲酒より深刻

 カリフォルニア州サンタモニカ― 新しい調査によれば、過度の肥満は、喫煙や大量飲酒よりも肉体的な負担は大きく、健康管理費用もかかる。調査は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のRAND精神障害管理医療センター(サンタモニカ市)の研究員、ローランド・スターム氏が執筆した。
 「肥満は、慢性疾患の発生、健康面での生活の質の低下や、健康管理・薬剤費の増加と、かなり高い関連性があるように見受けられる」と、調査は報告する。
 同様のダメージは、(30歳から50歳への)わずか20年の加齢で引き起こされることを、調査は発見した。また、米国では、常習の喫煙者や大量飲酒者よりも、肥満症が多いことが判明した。
 調査によると、健康管理面では、肥満は、健康管理費用を36%、薬剤費を77%引き上げる。喫煙や飲酒も健康問題を生起するとはいえ、喫煙の場合は、健康管理費用は2%、薬剤費は28%、飲酒の場合は、それより少ない割合で、増えるに過ぎない。
 調査は、「健康問題(Health Affairs)」誌(Vol.21, No.2)に掲載された。

金の行方
健康問題   健康管理費用の増加(平均)
肥満 年間395ドル
太りすぎ 年間125ドル
喫煙 年間230ドル
問題飲酒 年間150ドル
加齢 年間225ドル

出所:健康問題、2002年



2000年度の休業災害、引き続き減少

 ワシントン― 労働統計局の報告によれば、休業を伴う傷病は、近年、減少傾向が、実質上減速してきたが、2000年度もどうにか、この減少傾向を維持した。
 労働統計局によると、2000年度の休業を伴う傷病は、1,664,000人で、1999年度の1,703,000人から2.3%減少した。
 これは、1999年度の対前年比1.6%減に比べ、大きい減少となった。しかし、減少幅は、過去4年間のうち、1997年、1999年、2000年の3年では、いずれも2%前後にとどまった。1995年、1996年、1998年の減少幅は、8%台である。
 トラック運転手は、休業を伴う負傷がもっとも多い。2000年度は136,000人で、1999年度の141,000人を下回ったが、近年、事業者が報告した最低水準を塗り替えるものではない。
 筋骨格系障害は、1992年度の784,000人から2000年度の578,000人へと、ひきつづき減少してきたが、それでも休業を伴う傷病者総数のおよそ35%を占める。


ウィスコンシン州、水銀排出削減の義務化へ動く

 ウィスコンシン州マディソン― 他の州政府が見守るなか、ウィスコンシン州は、石炭発電所やその他の発電所に対し、大気中への水銀排出を制限するよう、義務付ける可能性がでてきた。
 規則案は、州内の4つの電力公社の水銀排出を、5年間に30%、10年間に50%、15年間に90%削減しようとするものである。
 公社側は、全体で40%の削減は可能であると述べており、2グループは、妥協点を探っている。全般的な削減の代わりに、個々に低公害施設を設計すると提案している。
 決定に至るまでは、水銀排出量に上限を設ける一方で、発電所には、水銀排出権取引を認める、連邦政府の大気保全イニシアチブ(Clear Skies Initiative)が適用されるであろう。
 ウィスコンシン州は、長らく水銀問題に悩まされてきた。同州の天然資源省は、水銀水準を根拠に、妊婦および15歳未満の子供は、ある種の魚を週1回以上食べないよう勧告する、魚介類の年間消費量勧告を発表していた。ウィスコンシン公益調査団体の報告書は、旧式の石炭発電所から30マイル内に居住する児童は、喘息を発病しやすいことを見いだした。


換気装置へのテロの脅威に関するガイドライン

 ワシントン― 保健社会福祉省は、商業建物、政府機関建物の換気装置を生物、化学、放射線攻撃から守るための、新しいガイドラインを発表した。
 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が作成したこのガイドは、換気装置の物理的安全、気流・ろ過、装置の保守、プログラム管理、保守担当者の訓練を取り扱う。同省によれば、このガイドは、より総合的なガイダンスの開発をめざした第一歩である。
 ガイドは、建物の所有者に対し、空気の出入口の格子に安全対策を施し、建物のオペレーション(操作)システムや設計情報については、アクセスを制限するよう、勧告している。また、システム操作管理の緊急対応能力の把握、フィルターの効率性の評価、建物の非常事態計画の更新、予防的保守手続きの採択を勧告する。
 ガイドは、オンライン、www.cdc.gov/nioshで入手できる。


吸入性結晶シリカに関するNIOSH報告書 

 ワシントン― 吸入性結晶シリカについて、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が勧告する暴露限界を下回る暴露の場合、いつの時点で、あるいは、はたして健康が危険にさらされるかどうか。これについては、既存のサンプリング・分析手法では見極められないと、NIOSH報告書は結論した。
 NIOSHが勧告する吸入性結晶シリカ、いわゆるシリカ粉じんの暴露限界は、空気1立方メートルあたり0.05ミリグラムである。これ未満の場合、暴露の影響を正確に把握する科学的手段はない。
 報告書は、より正確な手法が開発されるまでは、NIOSHは、引き続き0.05mg/m3を暴露限界として適用するとしている。しかし、可能であれば、有害性の低い代替物質へ切り替えるよう、また、適切な呼吸用保護具を使用するよう勧告している。
 報告書によれば、米国内では、建設業、サンドブラスト業、鉱業など、数多くの産業や職業にわたり、少なくとも170万人の労働者が、シリカ粉じんに暴露している。シリカ粉じんへの職業性暴露にもっとも深く関わってくるのは、不可逆性だが予防可能な珪肺である。最近のデータは、NIOSHの勧告する現行の暴露限界でも、職業生活の期間に、珪肺を発症する危険性があることを示している。
 報告書は、シリカ粉じんへの職業性暴露に関連する健康へのリスク、疾病を検討、最近の調査結果を吟味し、今後調査すべき分野を勧告している。
 報告書は、オンライン、www.cdc.gov/niosh/02-129A、または電話800-356-4674で入手可。

吸入性結晶シリカの暴露限界

機関 物質 ガイドライン(mg/m3)
国立労働安全衛生研究所(NIOSH) 結晶性シリカ:石英、クリストバライト、鱗珪石といった吸入性粉じん 暴露限界=0.05を勧告(週40時間労働で、一日10時間労働まで)
労働安全衛生庁(OSHA) 吸入性結晶シリカ、石英 許容暴露限界=10÷石英%+2(8時間加重平均)
吸入性結晶シリカ、クリストバライト 許容暴露限界=上記石英の計算式で得た値の半分
吸入性結晶シリカ、鱗珪石 許容暴露限界=上記石英の計算式で得た値の半分
鉱山安全衛生庁(MSHA) 地下、地表面の金属性、非金属性鉱床の吸入性クオーツ 許容暴露限界=10÷石英%+2(8時間加重平均)
地表、地下の炭鉱で、濃度5%未満の吸入性結晶シリカ 吸入性粉じん基準=10÷石英%+2(8時間加重平均)
米国産業衛生専門家会議(ACGIH) 吸入性結晶シリカ、石英 閾値(TLV)=0.05(8時間加重平均)
吸入性結晶シリカ、クリストバライト 閾値(TLV)=0.05(8時間加重平均)
吸入性結晶シリカ、鱗珪石 閾値(TLV)=0.05(8時間加重平均)


頻繁な出張は、家庭を犠牲にする

 ロンドン― 昨年9月11日以来、空路を行く出張者は増えたが、新しい調査では、出張の多い労働者の配偶者は、ストレスが大きく、子供の行動にもマイナスの影響がでることが判明した。
 これまでの調査では、出張のある職員は、出張のない職員に比べ、健康保険給付支払い請求がかなり多いことがわかっている。この度、労働環境医学ジャーナル(Occupational and Environmental Medicine)(Vol.59: 309-322)に発表された調査によると、家庭の祝賀行事をふいにする、出張が長期間に及ぶ、出張の合間の在宅期間が短いなどは、家庭内ストレスを増やし、家族関係の緊張が高まることが判明した。
 世界銀行グループの人的資源団体の調査員らは、世界銀行の行員533名とその配偶者に対し、出張の生活面への影響を尋ねた。
 回答者の半数は、職員の出張の際には、ストレスがもっとも高いと評定した。
 調査では、子供のいない配偶者に比べ、子供のいる配偶者は、ストレスが高いことが判明した。また、行員が、出張日程をほとんど自身でコントロールできない場合、配偶者のストレスは、一般に高い。
 「配偶者は、自分自身や子供の不安に対処し、パートナーの援助なしで家事を切り盛りせねばならない」と、調査員らは述べている。「回数の多い、長期の出張は、とくに日程が予想できず、家庭内の予定や祝賀行事にぶつかるときにはなおさら、損失をもたらしうる」。
 子供の行動の変化についても、まとわりつく、眠りにくい、親や仲間と言い争うなどから、学校の勉強に集中できない、家庭や学校の規則を破るなどにわたる。
 調査は、出張の多い職員については、出張日程をコントロールできるようにし、従業員一人当たりが年間に出張してよい日数について、方針を実施するべきだと勧告している。


2000年度有害物質排出量一覧
 ワシントン― 環境保護局(EPA)は、先日、全米各地から届出のあった化学物質の排出量について、最新データを公表した。この資料によると、大気、河川、土壌に71億ポンドの化学物質が排出された。これは、1999年度に届け出のあった78億ポンドを下回る値である。EPAによれば、化学物質の排出量は、1998年から約48%減少した。


出所:環境保護局、2002年


職場におけるAIDSガイド、医師の役割を規定

 イリノイ州アーリントンハイツ― 米国労働環境医学学会が開発した新しいガイドは、労働環境医は、職場におけるエイズに関し、労使の相談相手となるべきであると提案している。
「職場におけるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)、AIDS(後天性免疫不全症候群)に関するガイドライン」は、多数のエイズ関連問題について、労働環境医は、指導的役割を取るよう、勧告している。本ガイドは、医師に対し、アメリカ障害者法や家族医療休暇法など、HIVまたはAIDSに感染している労働者に関わる法規やガイドラインについて、使用者に最新の情報を提供するよう、勧告する。
 医師は、このような個人に関する職場の方針の開発や、従業員を対象としたエイズ教育・相談に関し、支援すべきである。また、感染予防、疾病者の優先順位付けや治療に関し、十分な訓練が、確実に提供されるようにせねばならない。
 本ガイドはまた、慎重を要する医療情報の取り扱いや、エイズ感染した労働者への便宜の図り方も、扱っている。
 労働環境医学ジャーナル(Journal of Occupational and Environmental Medicine)(Vol. 44, No. 6)に発表された本ガイドは、米国労働環境医学学会のウエブサイト、www.acoem.orgに掲載されている。


EPA、モンタナ州でアスベスト撤去を計画

モンタナ州へレナ― 環境保護局(EPA)は、モンタナ州リビー市清掃計画に、家庭や事業場のアスベストを含有するバーミキュライト断熱材の撤去を盛り込み、本計画の規模を拡大した。
EPAは、リビー市民の長年にわたるアスベスト暴露にかんがみ、この異例の手段をとると語った。
リビー市の住民の多くは、メリーランド州コロンビア市を拠点とするW.R.グレース社所有のバーミキュライト鉱山で働いており、未使用の鉱物を、校庭や庭園に用いた。
「何十年間にわたる高水準のアスベストへの絶え間ない暴露により、多くのリビー市民が、健康を害したと、EPAは確信している」と、当局は、声明文で発表した。
リビー市では、アスベストによる死亡率は、期待値の40~60倍にのぼる。珍しいガン、中皮腫は、アスベスト暴露が深く関連しているが、この発症率は、平均値の1千倍である。
同地域でアスベスト断熱材を利用している家屋は、約3千万戸と推定されており、EPAは、修理の際にじゃまにならないよう、除去する必要がある場合を除き、断熱材はそのままにしておくように、引き続き勧告している。


特別報告
グラウンド・ゼロ(爆心地)での作業にピリオド


 ニューヨーク― 2002年5月30日、世界貿易センター跡地での復旧・清掃作業は、最後の一鋤が降ろされて、終了した。
 この8ヶ月間プロジェクトは、延べ3百万労働時間を記録したと、エレイン・チャオ労働長官は、声明で述べた。現場の危険で異例な条件下にもかかわらず、負傷により休業したのは、わずか35人にとどまり、「数多くの罪のない人々がテロの犠牲になった現場で」、これ以上の犠牲は出さずに済んだと、チャオ長官は述べた。
 現場では、1千人以上の労働省、労働安全衛生庁(OSHA)職員が、安全衛生相談を提供、労働者6,100人に呼吸用保護具の密着性テストを行い、13万個の呼吸用保護具を支給し、6千もの有害物質サンプルを採取したと、長官は語った。

世界貿易センター跡地の教訓

 イリノイ州ローズモント― 第12回年次建設安全衛生会議では、爆心地で清掃・復旧作業に従事した数名を招いて、「世界貿易センターの惨事に学ぶ」と題するセッションが設けられた。最大の教訓:パートナーシップの構築により、救助隊員、復旧作業員の傷病率は、解体工事現場の一般的な傷病率に比べ、かなり低く抑えられた。もう一つの教訓:現場を何千人もの人々に掘り返させる代わりに、消防隊員やボランティアを即刻退去させるべきであった。
 OSHA第2地域事務所のエリック・マリナン氏は、世界貿易センター跡地では、法規施行というよりは、遵法支援を優先したと述べた。
 「われわれは、罹災地内や周辺の建物の清掃作業を監督するにあたり、現場重視プログラムを確立した」と、マリナン氏は語った。「われわれは、取り締まる姿勢ではなく、相談にのるために、現場に臨んだ」。
マリナン氏は、だからといって、OSHAが、労働者の安全をできるだけ確保しようとしなかったわけではない、と主張した。むしろ、警察的態度ではなく、パートナーシップ、教育、相談、その他安全な作業環境を確保する手段を用いるほうが、作業を安全かつ適切に進めるのに、より効果的だろうと、当局が判断したのである。
「現場での最大の懸念は、クレーンの巻き上げ装置、高圧ガスボンベ、個人用保護具の追跡、落下の危険であった」とマリナン氏。「当初は、クレーンの巻き上げ装置の80%は、基準未満であった。当局は、すぐにこれを是正、企業の多くは、率先してやってくれたので、正直なところ、感謝している。作業班のなかでは、合同クレーン監督チームと閉鎖空間チームの2班が、とくに成果を挙げた。また、OSHAは、第1日目から、適切な呼吸用保護具の使用を勧告した」。
作戦は、成功。事実、負傷率は2.3人で、これは、爆心地を分類するとすれば、もっとも近い解体現場での一般的な負傷率のおよそ半分である。また、現場の清掃作業は、予定より数ヶ月早く終了した。
非常事態管理局のブルース・ファフ氏は、あと知恵ながら「全員を即時退去させるべきだった。惨事直後は、現場をよくコントロールできなかった」と語った。
ファフ氏は、シカゴ勤務だが、東海岸の非常事態管理局が、ワシントンと国防省に出動したため、世界貿易センター跡地を担当することとなった。
「何千人もの建設労働者が、働いた。人々が、現場の作業に適格かどうかを確認するシステムがなかった。この件で、自分は、責任を感じる」とファフ氏。
「これは決して、ありきたりの作業ではなく、そのため、より一層危険で困難であった」と、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)のケネス・リンチ氏は述べた。
リンチ氏は、現場での空気標本採取にずいぶんと関わった。「アスベストは、ほとんど検出されず、どの空気標本も、OSHAの規制を超えるものではなかった。水銀は、標本のおよそ3分の1で検出された。建物内の蛍光灯管から出たものと思われる。一酸化炭素は、標本全部から検出された。硫化水素は、10標本中7標本で検出された。揮発性有機化合物は、76標本中14標本でみつかり、ベンゼンは、NIOSHの限度を上回っていた」。
国立環境衛生科学研究所(National Institutes of Environmental Health Sciences)のジョセフ・ヒューズ氏は、われわれが生活している新世界では、個人用保護具、作業慣行ガイダンスや訓練は、とくに大量破壊兵器に備えて、必要であると説いた。ヒューズ氏は、テロ後の清掃活動を調査している団体が、有害廃棄物作戦や緊急対応訓練は、必須であると勧告していること、また、テロ事件への29 CFR(連邦規則集) 1910.120の適用を検討すべきだとも勧告していることを述べ、政治的理由でそういうわけにはいかないかもしれないと語った。


労組、爆心地作業の長期的影響を調査

 ワシントン― 国際トラック運転手組合は、同労組と、ボルティモア市のジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部は、世界貿易センター跡地の清掃活動に関わった重機オペレーター全員の登録簿作成を計画している。
 この登録簿で、労働者の健康を長期間追跡できる。これは、爆心地作業での組合員の浮遊汚染物質への暴露を調査する、大規模プロジェクトの一環である。 
 プロジェクトではまた、労働者の身体的、精神的および社会的衛生を調査する。とくに、呼吸器官の問題に力点を置く。
 国立環境衛生科学研究所は、本プロジェクトの第2段階をなす登録簿作成に資金を提供している。