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NSC発行「Safety + Health」2002年7月号

ニュース

特別報告
グラウンド・ゼロ(爆心地)での作業にピリオド

 ニューヨーク − 2002年5月30日、世界貿易センター跡地での復旧・清掃作業は、最後の一鋤が降ろされて、終了した。
 この8ヶ月間プロジェクトは、延べ3百万労働時間を記録したと、エレイン・チャオ労働長官は、声明で述べた。現場の危険で異例な条件下にもかかわらず、負傷により休業したのは、わずか35人にとどまり、「数多くの罪のない人々がテロの犠牲になった現場で」、これ以上の犠牲は出さずに済んだと、チャオ長官は述べた。
 現場では、1千人以上の労働省、労働安全衛生庁(OSHA)職員が、安全衛生相談を提供、労働者6,100人に呼吸用保護具の密着性テストを行い、13万個の呼吸用保護具を支給し、6千もの有害物質サンプルを採取したと、長官は語った。

世界貿易センター跡地の教訓

 イリノイ州ローズモント − 第12回年次建設安全衛生会議では、爆心地で清掃・復旧作業に従事した数名を招いて、「世界貿易センターの惨事に学ぶ」と題するセッションが設けられた。最大の教訓:パートナーシップの構築により、救助隊員、復旧作業員の傷病率は、解体工事現場の一般的な傷病率に比べ、かなり低く抑えられた。もう一つの教訓:現場を何千人もの人々に掘り返させる代わりに、消防隊員やボランティアを即刻退去させるべきであった。
 OSHA第2地域事務所のエリック・マリナン氏は、世界貿易センター跡地では、法規施行というよりは、遵法支援を優先したと述べた。
 「われわれは、罹災地内や周辺の建物の清掃作業を監督するにあたり、現場重視プログラムを確立した」と、マリナン氏は語った。「われわれは、取り締まる姿勢ではなく、相談にのるために、現場に臨んだ」。
マリナン氏は、だからといって、OSHAが、労働者の安全をできるだけ確保しようとしなかったわけではない、と主張した。むしろ、警察的態度ではなく、パートナーシップ、教育、相談、その他安全な作業環境を確保する手段を用いるほうが、作業を安全かつ適切に進めるのに、より効果的だろうと、当局が判断したのである。
「現場での最大の懸念は、クレーンの巻き上げ装置、高圧ガスボンベ、個人用保護具の追跡、落下の危険であった」とマリナン氏。「当初は、クレーンの巻き上げ装置の80%は、基準未満であった。当局は、すぐにこれを是正、企業の多くは、率先してやってくれたので、正直なところ、感謝している。作業班のなかでは、合同クレーン監督チームと閉鎖空間チームの2班が、とくに成果を挙げた。また、OSHAは、第1日目から、適切な呼吸用保護具の使用を勧告した」。
作戦は、成功。事実、負傷率は2.3人で、これは、爆心地を分類するとすれば、もっとも近い解体現場での一般的な負傷率のおよそ半分である。また、現場の清掃作業は、予定より数ヶ月早く終了した。
非常事態管理局のブルース・ファフ氏は、あと知恵ながら「全員を即時退去させるべきだった。惨事直後は、現場をよくコントロールできなかった」と語った。
ファフ氏は、シカゴ勤務だが、東海岸の非常事態管理局が、ワシントンと国防省に出動したため、世界貿易センター跡地を担当することとなった。
「何千人もの建設労働者が、働いた。人々が、現場の作業に適格かどうかを確認するシステムがなかった。この件で、自分は、責任を感じる」とファフ氏。
「これは決して、ありきたりの作業ではなく、そのため、より一層危険で困難であった」と、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)のケネス・リンチ氏は述べた。
リンチ氏は、現場での空気標本採取にずいぶんと関わった。「アスベストは、ほとんど検出されず、どの空気標本も、OSHAの規制を超えるものではなかった。水銀は、標本のおよそ3分の1で検出された。建物内の蛍光灯管から出たものと思われる。一酸化炭素は、標本全部から検出された。硫化水素は、10標本中7標本で検出された。揮発性有機化合物は、76標本中14標本でみつかり、ベンゼンは、NIOSHの限度を上回っていた」。
国立環境衛生科学研究所(National Institutes of Environmental Health Sciences)のジョセフ・ヒューズ氏は、われわれが生活している新世界では、個人用保護具、作業慣行ガイダンスや訓練は、とくに大量破壊兵器に備えて、必要であると説いた。ヒューズ氏は、テロ後の清掃活動を調査している団体が、有害廃棄物作戦や緊急対応訓練は、必須であると勧告していること、また、テロ事件への29 CFR(連邦規則集) 1910.120の適用を検討すべきだとも勧告していることを述べ、政治的理由でそういうわけにはいかないかもしれないと語った。

労組、爆心地作業の長期的影響を調査

 ワシントン − 国際トラック運転手組合は、同労組と、ボルティモア市のジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部は、世界貿易センター跡地の清掃活動に関わった重機オペレーター全員の登録簿作成を計画している。
 この登録簿で、労働者の健康を長期間追跡できる。これは、爆心地作業での組合員の浮遊汚染物質への暴露を調査する、大規模プロジェクトの一環である。 
 プロジェクトではまた、労働者の身体的、精神的および社会的衛生を調査する。とくに、呼吸器官の問題に力点を置く。
 国立環境衛生科学研究所は、本プロジェクトの第2段階をなす登録簿作成に資金を提供している。