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OSHAの違反項目トップテン−建設業に注目(2002年)

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety + Health」2002年12月号 P.26-30
(仮訳 国際安全衛生センター)



 安全に関する違反について米国の労働安全衛生庁(OSHA)が標的にした職場となると、2002年度はまず建設業がトップを占めた。それも十分理由のあることだ。

 建設業は、再び労働災害による死亡者数が全産業の中で最多となった。そしてその数は増加しつつある。労働統計局(BLS)によると、昨年は平均して1週にほぼ24名の建設労働者が労働災害で死亡した。2001年に死亡した建設労働者の数は1,225名で、2000年から6%増加している。

 OSHAが建設業における死傷者の増加を重大視しているのは間違いなさそうだ。「もちろん我々はその傾向を残念に思いながら注視している」と語るのは、建設工事が集中しているニューヨーク・マンハッタン地域事務所局長のRichard Mendelson氏である。Mendelson氏によれば、OSHAは全国で監督能力の半分近くを建設現場の監督に割いている。同氏の事務所では監督能力の70%を建設に向けている。

 OSHAは、自らの任務は、まず最も危険な職場を監督することだと表明しているが、そうしたアプローチが「違反摘発の多いOSHA基準上位10」の今年度版に反映されている。このリストは毎年Safety+Health誌に公表しているものだが、2001年10月1日から2002年9月30日までの2002年度を対象としたものである。

 2002年度にOSHAの監督官は、足場がOSHA建設安全基準に違反しているとして、7,953件の違反摘発を行ったが、これは基準中一番多いものである。この件数は2001年度の7,134件にくらべかなり多い。実際2001年度には、危険有害性周知基準徹底(hazard communication)違反にもっと多く(7,233件)の違反摘発を行ったのだ。しかし2002年度は、焦点を移行したことを反映して、危険・有害性の周知徹底基準についての件数は6,702件と大きく減少した。

 マンハッタンのように建設工事が多い地域では、OSHA監督官は二面性を持った「世界」に向き合っているとMendelson氏は語る。例えば高層ビル、橋、トンネルなどのような大規模で伝統的な、労働組合のある現場で監督を行う一方、主に日雇い労働者や移民を使っている小規模で免許を受けていない現場も急増しているのだ。このような現場で2001年10月24日に起こった足場崩壊の事故では、5人のラテンアメリカ系の労働者が死亡し、その会社の社長は故殺(manslaughter)罪で起訴されるという結果になった。

 「ここニューヨークで我々はそのことをよく知っている。ある時は違反のあるなしも含めすべてが記録を見ればわかるような現場に行くこともあるが、同時に隣の区画では仕事が終わったときに賃金の支払いも定かでない、日雇い労働者が働く無免許の現場があるかも知れない」とMendelson氏は述べている。

 昨年のトップテンから、足場と危険・有害性の周知徹底が入れ替わったが、他は概ね同じである。

以下に違反摘発の多かった基準を分析してみる:


最も違反摘発の多かったOSHA基準(2002年)

1 1926.451 足場/建設業 違反件数7,953件
  2001年度ランキング:2位(7,134件)

 この基準は、足場の設置、補修、使用における全般的な安全要求を規定したものである。基本的に事業主は、10フィート以上の高さの足場上で、あるいはその近傍で作業する場合、建設労働者を墜落と落下物から保護しなければならない。

 オハイオ州YoungstownにあるInternational Association of Bridge, Structural and Ornamental Iron Workers安全担当専務理事のFrank Migliaccio氏は、「業者はこの基準の要求事項を回避することがしばしばある」と、主張している。例えば、この基準のある条項は959件の違反摘発の根拠となったものだが、足場のどのレベルでも作業床は前部支持柱と手すり支持柱の間を完全に板で覆わなければならないとしている。Migliaccio氏によれば、死傷事故につながるような不安全な工事は、「長期的には高くつくことは業者も分かっている。ただこれは数字のゲームのようなもので、自分には起こらないだろうと考えてしまう」

 支持が不十分なままの掘削作業や安全帯をつけていない作業者もまた建設現場の労災発生を助長している。OSHAの監督官は2002年度には足場/建設業に関係して前年度より819件多い違反摘発を行った。これらの大多数は「重大な違反」であった。

 監督が厳しくなったと不満をもらすかもしれない業者に対し、Mendelson氏は「Tri-State Scaffolding & Equipment Supply社も関係した10月24日の5名の死亡事故はOSHAの決意を裏づけるものである。刑事訴訟とは決して粗さがしをするようなものではない。掲示訴訟では、犯罪を立証しなければならないのだ」と語っている。

違反摘発条文上位5
1926.451(g)(1) 墜落・転落防止措置を実施しなかった(1,270件)
1926.451(e)(1) 正しい通路を用意しなかった(1,051件)
1926.451(b)(1) 適切な作業床を構築しなかった(959件)
1926.451(g)(1)(vii) 個人用墜落防止器具、手すりの不備(562件)
1926.451(c)(2) 足場を正しく支持しなかった(531件)


2 1910.1200 危険・有害性の周知徹底 違反件数6,702件
  2001年度ランキング1位(7,233件)

 この基準は、危険有害化学物質(職場で製造されるもの、職場に持ち込まれるもの両方)を対象としたものである。またこれらの危険有害性を作業者に周知させることにも適用される。

 危険・有害性の周知徹底基準が事業主から嫌がられるのは、ペーパーワークが非常に多いという点である。確かに事業主が記録を作ることも基準に含まれていて、これに対する違反といえど重大な結果になることもあるが、Mendelson氏は次のように語っている。「我々は、危険有害性を問題にしたアプローチをとっている。もし危険有害性がないなら、違反があっても重大問題にはならないだろう。我々の目標は15人の監督官を動員して、彼らの時間を最大限に使うことであって、文書上の違反を追いかけることではない。」

 ワシントンにあるUnited Union of Roofers, Waterproofers and Allied Workersの安全衛生担当理事であるRobert Krul氏は、例えば建設業のような産業は、一般的な規則に縛られるよりも独自の危険有害性周知基準徹底を持つべきだと提案している。

 「建設業では、同時に全国の50の場所で同時に仕事が進んでいるということもあるだろう。その場合、だれも読みもしないし要求もしないMSDSの資料を50冊持っていなければならない。もしフォードの工場の組み立てラインで下塗り用塗料を吹き付けていて、その成分が何かを知りたいときは大いに役立つだろうが、建設業では役に立たない。」とKrul氏は語っている。

違反摘発条文上位5
1910.1200(e)(1) プログラムの策定・文書化をしていない(1,973件)
1910.1200(h)(1) 訓練を継続的に実施していない(859件)
1910.1200(h) 労働者の訓練を行っていない(750件)
1910.1200(g)(1) 個々の有害化学物質についてMSDSを備えていない(660件)
1910.1200(f)(5) 個々の容器に表示をしていない(599件)


3 1926. 501 墜落・転落防止/建設業 違反件数5,118件
  2001年度ランキング3位(4,421件)

 この基準は、墜落・転落防止が必要な場所、ある状況下でどの墜落・転落防止方法が適当か、正しい安全システムの構築と設置、労働者が墜落・転落しないようにするための適切な監督方法を労働者と事業主に教えてくれるものである。6フィートを超えた高さで作業する建設労働者の保護のために作られている。

 最も違反が多いのは側面と先端の防護に関する条文で、違反摘発の1/3以上を占める。基準によれば、こういう位置にいる労働者は「手すり、安全ネット、又は個人用落下防止器具で保護されなければならない。」

 屋根工事労働者を代表してOSHAの建設安全衛生諮問委員会のメンバーとなっているKrul氏は、1926.501 墜落・転落防止を考えると恐ろしくなる。「墜落・転落は脅威だ。我々が心配しているものだ。墜落・転落は、屋根の縁で、天井の開口部で、明かり採りの窓から、どこでも起こる。」

 労働統計局は、2001年の墜落・転落による死亡災害が、2000年に比べて10%増加し、808人になったと報告した。これは懸念される出来事だ。なぜなら、1992年に労働統計局が墜落・転落による死亡災害の統計を取り始めて以来2001年の数は一番多かったからである。2001年の墜落・転落による死亡災害のうち建設業がその半分を占めている。

違反摘発条文上位5
1926.501(b)(1) 手すり、安全ネット、又は個人用落下防止器具を使用せず(2,001件)
1926.501(b)(13) 住宅建築において保護策を実施せず(964件)
1926.501(b)(10) 傾斜のゆるい屋根での保護策不実施(595件)
1926.501(b)(11) 急傾斜の屋根での保護策不実施(305件)
1926.501(b)(14) かべの開口部での保護策不実施(251件)


4 1910.134 呼吸器の保護 違反件数4,075件
  2001年度ランキング4位(3,971件)

 この基準は、労働者を守るために事業主に対し呼吸器を保護するプログラムを策定し維持することを命じるものである。基準の要求事項としては、プログラムの管理、事業場ごとの手順、マスクの選択、労働者の教育、フィットテスト、健康診断、マスクの使用、及びマスクの清掃・メンテナンス・補修などである。


 OSHAの監督官は呼吸器の保護の必要性を理解しているが、これを他の多くの人に理解させたのは、ニューヨーク世界貿易センターの後処理であったろう。NIOSHによれば、消防士や、他の救助隊がはじめマスクを使用せずに作業し、何ヶ月もあとにその結果に苦しんだということだ。NIOSHの調査では、救助隊は、煙や、浮遊粒子、微細粉じんといった無数の環境汚染物質に直面した。

違反摘発条文上位5
1910.134(c)(1) プログラムを文書化・実施していない(626件)
1910.134(e)(1) 健康診断をしていない(614件)
1910.134(c)(2)(i) 自発的使用が許容される場合に、付属書Dを労働者に提示していない(339件)
1910.134(f)(2) フィットテストを行っていない(301件)
1910.134(k)(1) 労働者が知識を示せるようにしていない(206件)


5 1910.147 ロックアウト/タグアウト 違反件数3,796件
  2001年度ランキング5位(3,875件)

 この基準は、機械の補修や一時点検時に、危険なエネルギーを管理するために最低必要な措置を定めたものである。基準はロックアウトはその機能のある機械に対して使うべきことを要求している。保全や修理の作業中、電源が確実にオフになるよう、また他の作業者が誤ってスイッチを入れないよう、タグで明確に識別できるよう、ロックアウト/タグアウトの手順を守らなければならない。また、装置をロックアウトするための効果的なプログラムを策定するための基準も書かれている。

違反摘発条文上位5
1910.147(c)(1) プログラムを策定していない(718件)
1910.147(c)(4)(i) エネルギー管理の手順を作っていない(670件)
1910.147(c)(7)(i) 労働者の訓練を行っていない(545件)
1910.147(c)(6)(i) 定期的な検査を行っていない(393件)
1910.147(c)(4)(ii) 不適切な手順(331件)


6 1910.305 電気配線 違反件数3,106件
  2001年度ランキング6位(3,125件)

 この基準は、電気設備の接地、配線、絶縁を対象とするものである。一時的な配線や接続、照明の取り付け具やスイッチのような構成部品、コードやケーブルのような機材も含まれる。

違反摘発条文上位5
1910.305(b)(1) 導線の入るボックス、キャビネット、取付部品を保護していない(719件)
1910.305(b)(2) カバーなし(532件)
1910.305(g)(2)(iii) コードを取付部品又は他の器具に固定していない(424件)
1910.305(g)(1)(iii) 禁止された状況でコードを使用(413件)
1910.305(g)(2)(ii) 途中で接続又はテープを巻いたコードを使用(142件)


7 1910.212 機械の安全ガード 違反件数2,747件
  2001年度ランキング7位(2,797件)

 この基準は、どのようにして、またいつ機械の安全ガードを使うかということを対象にしている。労働者の保護のため、基本的に事業主は機械の可動部分の上部又は前面に防護カバーを置かなければならない。

違反摘発条文上位5
1910.212(a)(1) 機会の安全ガードを用意していない(1,498件)
1910.212(a)(3) (ii) 加工を行っている部分をガードしていない(835件)
1910.212(b) 固定機械のアンカーがない(196件)
1910.212(a)(5) 露出した刃のガードがない(141件)
11910.212(a)(2) ガードを固定していない(48件)


8 1910. 178 産業用動力駆動運搬車 違反件数2,421件
  2001年度ランキング8位(2,334件)

 この基準は、フォークリフトから電動台車にいたるすべての動力駆動の産業用運搬車の設計、保全、運用を対象としたものである。

違反摘発条文上位5
1910.178(l)(1)(i) 技能が十分でない者に運転させている(371件)
1910.178(l)(6) 運転者の検定を行っていない(307件)
1910.178(p)(1) 不安全な運搬車を使っている(287件)
1910.178(l) 運転者の訓練ができていない(273件)
1910.178(q)(7) 運搬車の検査をしていない(171件)


9 1910.303 電気システム 違反件数2,219件
  2001年度ランキング9位(2,223件)

 この基準は電気システムの設計について一般的な安全要求事項を対象としたものである。

違反摘発条文上位5
1910.303(g)(2)(i) 電気機器のガードがない(519件)
1910.303(f) 切断手段、回路の表示がない(404件)
1910.303(b)(2) 取扱説明書どおりに設置・使用されていない(335件)
1910.303(b)(1) 危険を承知しながら電気機器を使用(240件)
1910.303(g)(1)(ii) 物を置くなどして作業スペースをふさいでいる(229件)


10 1910.219 機械式動力伝達装置 違反件数2,026件
  2001年度ランキング10位(2,191件)

 この基準は、ギア、チェーン、ベルト、プーリ及び駆動軸などの機械式動力伝達装置に労働者が巻き込まれるのを防ぐため、これらにガードをつけることを要求するものである。

違反摘発条文上位5
1910.219(d)(1) プーリをガードしていない(572件)
1910.219(e)(3)(i) 垂直又は斜めのベルトをガードしていない(315件)
1910.219(f)(3) スプロケットやチェーンをガードしていない(294件)
1910.219(e)(1)(i) 水平のベルトやロープをガードしていない(244件)
1910.219(c)(2)(i) 水平の軸をガードしていない(176件)