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NSC発行「Safety + Health」2003年12月号

産業特集

 建設業 

ANSI、墜落・転落防止基準を再検討


 イリノイ州デプレーンズ(Des Plaines, IL) − 米国規格協会(American National Standards Institute: ANSI)のZ359墜落・転落防止委員会(Fall Protection Committee)は、先日、会議を開き、Z359.1-1992基準、「個人用墜落・転落防止システムの安全要件(Z359.1-1992 standard, Safety Requirement for Personal Fall Arrest Systems)」の改訂を検討した。改訂版には、墜落・転落防止訓練と防止能力に関する新しい章が設けられる。
 「Z359.1基準改訂版は、墜落・転落防止に関する初歩知識のすべてを労働者に伝授する必要性から、訓練や墜落・転落防止システムから救助作業にいたるまで、数多くの墜落・転落問題を扱っている」と、Z359委員会の委員長を務める米国安全技術者協会(American Society of Safety Engineers: ASSE)のジャック・H・ドブソン・ジュニア上席副会長(Jack H. Dobson Jr., Senior Vice President)は述べた。「この夏までに本基準を完了し、フックの取付位置、水平親綱やロープ・アクセスなど、いくつかの新しい墜落・転落関連の問題にとりかかりたい。というのも、これら未着手の問題で、毎日、多数の墜落・転落事故が発生しているからである」。
 本基準は、現在、委員会で再検討中であり、年内に、委員会本会議での承認を得た後、一般投票に付される。
 基準手続きは、ANSIの承認で最終段階を迎える。
 墜落・転落は、米国の労働死亡災害の原因の第3位。専門家らは、事故は、たいていの場合、墜落・転落防止装置やその手順に関する訓練不足が原因であると主張している。


事実チェック
運転手の年齢と死亡事故
2002年には、52,700件の自動車事故が発生した。運転者の年齢別で事故の発生をみると、以下のとおり。

19歳以下 · · · · · · · · · · · · 
11.6%
20〜24歳 · · · · · · · · · · · · 
11.2%
25〜34歳 · · · · · · · · · · · ·
19.5%
35〜44歳 · · · · · · · · · · · ·
19.5%
45〜54歳 · · · · · · · · · · · · 
15.7%
55〜64歳 · · · · · · · · · · · · 
10.1%
65〜74歳 · · · · · · · · · · · · 
5.3%
75歳以上 · · · · · · · · · · · · 
7.0%

出 所:全米安全評議会(NSC)、「Injury Facts」2003年


 鉱業 

会計検査院、MSHAの不行き届きを指摘

 ワシントン − 会計検査院(General Accounting Office: GAO)は、10月6日の報告書で、鉱山安全衛生庁(Mine Safety and Health Administration: MSHA)の業務に、いくつかの不行き届きを指摘した。報告書によれば、MSHA本庁は、6ケ月の技術的な臨検の完了を監視せず、また、鉱山事業者に計画要件を守らせるよう、徹底しなかった。また、MSHAは、いつも危険を迅速に是正していないと述べ、当局のデータ収集手法の信頼性に疑問を投げた。報告書によると、MSHAは、過去10年間、召喚件数の約半分について、定められた期日までに是正していなかった。
さらに、MSHAは、死亡災害率および死亡災害を除く傷害率の計算に必要な情報をすべて収集していないと指摘した。
報告書は、www.gao.gov/new.items/d03945.pdf で閲覧できる。


報告:ケンタッキーの鉱山での死亡災害は、大麻が原因

 ワシントン − 鉱山安全衛生庁(Mine Safety Health Administration: MSHA)の調査チームは、10月23日発表の報告書で、6月のケンタッキー州の地下炭鉱で労働者1名が死亡した事故を検証した結果、炭鉱内での大麻使用が死亡原因の一つであることを突き止めた。
 調査チームは、21歳の鉱山労働者が死亡、他の2名が負傷したケンタッキー州マックドウエル(McDowell, KY)近郊のコーディ・マイニング社(Cody Mining Co. Inc.)の第1炭鉱での爆発事故について、多数の違反を摘発した。調査チームは、連邦法遵守の「不当な不履行」と見なされる6件の違反を含む7件の重大違反が、事故の原因となったと指摘した。また、事故の原因ではないものの、64件の鉱山安全規則違反で、同社を召喚した。
 MSHAのデイブ・ローリスキー長官(Dave Lauriski, administrator)は、事故のあった炭鉱は、この道30年余で見てきたなかでも、「安全に関しては、もっともずさんに管理、操業された炭鉱」の一つであると述べた。ローリスキ−長官は、当該炭鉱を担当する当局の監督官の側にも「許しがたい不手際」があると判断し、目下適切な措置を講じていると述べた。
 報告書によれば、現場では、多量の大麻が発見された。9月の別件では、ケンタッキー州鉱山規制当局は、地下炭鉱への抜き打ち臨検で、鉱山労働者1名の大麻所持を発見したと述べた。連邦法、ケンタッキー州法とも、地下炭鉱での喫煙を禁じ、アルコールや薬物の使用も禁じているが、連邦監督官、州監督官とも、鉱山労働者に対する薬物テストの権限を持ってはいない。


サービス業

NIST、火災時にも利用できるエレベーターの技術を研究

 メリーランド州ゲイザーズバーグ(Gaithersburg, MD)− 米国の火災専門家は、高層ビルの火災時におけるエレベーターの利用を提唱し始めている。消防士を火災現場に搬送するためと、(階段吹き抜けに続く)第2の手段として入居者を避難させるためである。国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)は、協力機関とともに「保護装置付き」エレベーターの建造方法を研究する。
 国立標準技術研は、エレベーター産業と共同で、信頼度の高いエレベーター専用の非常時対応電力システムや、防水加工を施したエレベーター部品の開発・試験を行なっている。標準技術研は、変化する噴煙・熱条件に対応可能で、安全かつ信頼性の高い運転を維持でき、火災時に停止しないソフトウェアや検知システムを研究中である。このような改造により、火災時には、1階からの遠隔操作でエレベーターを運転できるようになり、エレベーター操作の手間から忙しい消防士を解放する。
 国立標準技術研は、その専門性を駆使して、消火活動や、エレベーターによる脱出、階段からの避難を組み合わせたシナリオを試験する、仮想現実シミュレーションを実施する。火災研究者らは、世界中の専門家と、非常用エレベーターの運転基準で協力したいと望んでいる。国際標準化で、人々は、確信を持って避難することができ、混乱を避けることができる。


 運輸業 

時間帯横断飛行は、体内時計を狂わせる

 ワシントン − 女性の客室乗務員は、頻繁に飛行しない女性の対照群に比べ、概日リズム(体内時計)が狂いやすく、これは、複数の時間帯を横断する飛行に関連していると、国立労働安全衛生研究所(National Insitute for Occupational Safety and Health: NIOSH)の新しい調査は指摘する。
 調査は、乗務員45名と年齢、生活様式や出産歴が類似する教師26名とを比較した。NIOSHは、概日リズムの混乱を、身体の睡眠‐覚醒サイクル調節に関わるホルモンの一種、メラトニンのレベル変化で測定した。本調査は、乗務員が、教師で構成された対照群に比べ、睡眠障害に悩まされることが多いことが判明した、NIOSHの前回の調査を下敷きにしている。
 昼間に働き、睡眠時間が一定している人々では、メラトニンは、夜間生成され、日変動はほとんど見られない。客室乗務員は、教師に比べ、メラトニンの生成に日変動が見られた。
 メラトニン生成に最高25%もの日変動が見られた統計値を調べて、調査チームは、客室乗務員の場合は、値が2倍になりがちなことに気づいた。客室乗務員のなかで、メラトニン生成に最大量の変動が見られたのは、複数の時間帯を横断する飛行日程をもっとも頻繁にこなしている乗務員であった。
 調査では、このような睡眠障害が長期的に健康に影響を及ぼすかどうか、結論を出してはいない。業務関連要因が、客室乗務員に予想を上回る生殖障害リスクを及ぼすかどうか、これを見極めるには、NIOSHの今後の調査が待たれる。
 調査報告書、「女性客室乗務員の概日リズム障害に関する大規模測定規準の測定及び特定(Measuring and Identifying Large-Scale Metrics for Circadian Rhythm Disruption in Female Flight Attendants)」は、スカンディナビア労働環境健康ジャーナル(Scandinavian Journal of Work, Environment, and Health)(Vol. 29, No. 5)に発表された。詳細については、www.cdc.gov/nioshを閲覧されたい。


OSHA、タンデムリフトに関する基準改正案を作成

 ワシントン― 労働安全衛生庁(OSHA)は、コンテナのタンデムリフト(vertical tandem lift)を取り扱う労働者の安全を改善するため、港湾労働基準(Longshoring Standard)、海運ターミナル基準(Marine Terminals Standards)の2基準の改正を計画している。9月15日に発表されたOSHAの改正案は、コンテナと貨物の重量の総和が20トン以下の2個のコンテナを縦に積み重ねて吊り上げる問題に対応するものである。
 タンデムリフトを用いれば、船積み、荷降ろしに要する時間が、推定5 〜10%短縮できる。OSHAの港湾労働基準や海運ターミナル基準の関連項は、1997年に公布されており、タンデムリフトについても論じているが、規定してはいない。
 改正案は、全重量20トンまでの空の、あるいは貨物を積載した2個のコンテナの吊り上げに関し、技術面での安全な作業手順や労働慣行、管理について規定している。改正案はまた、リフトの安全装置の認定や年次検査、クレーンへの荷重表示器の設置の義務付け、縦列式による有害物質の吊り上げ制限や、ターミナルでのたて型コンテナの輸送計画に関し、要件を提示している。
 コメントの募集は、9月16日付の官報(Federal Register)で発表された。規則案に対するコメント、公聴会への参加申し込みは、12月15日までに提出すること。


トラック運転手の労働時間規則に各団体から批判

 ワシントン − 安全団体、消費者団体は、連邦自動車運輸安全局(Federal Motor Carrier Safety Agency: FMCSA)の新しい労働時間規則は、トラックの安全を改善しないと抗議した。
 新しい労働時間規則(hours-of-service rule)は、2004年1月から発効する。21時間の運転‐休憩サイクルを採用し、運転手が連続運転できる時間を10時間から11時間に増やす。現在、運転手は、運転10時間、睡眠8時間の一サイクル18時間で働くことができる。当局は、新規則は、身体の自然な睡眠リズムに馴染みやすく、年間24〜75人の運転手を死から救うと主張する。
 新規則反対派は、新規則は、運転手の週労働時間を60時間から77時間に増やすと指摘する。公共利益団体、パブリック・シティズン(Public Citizen、ワシントン市)は、当局が、走行時間を追跡する監視装置をトラックに取り付けるよう雇用主に義務付けている点を批判した。新規則に異議を申し立てる訴訟が起されている。
 労働統計局(Bureau of Labor Statistics)によれば、2002年には、労働者10万人あたり25人が死亡した。2002年のトラック運転による死亡件数は 808件、前年に比べて増加した。


公益事業

自治体連合、大気浄化法改正をめぐり、EPAを提訴


 ワシントン − 環境保護局(EPA)は、公益企業が、新しい排出制御装置を設置することなく旧式の石炭発電所や精油所を改良できるよう、大気浄化法(Clean Air Act)を緩和したが、これを受けて、12州、コロンビア特別区および東部の2市からなる連合体は、EPAを提訴した。
 訴訟の争点は、大気浄化法へのいわゆる「全面的変更」を行う権限は、議会だけが有するかどうかである。自治体連合は、コネチカット(Conneticut)、メイン(Maine)、メリーランド(Maryland)、マサチュ−セッツ(Massachusetts)、ニューハンプシャー(New Hampshire)、ニューメキシコ(New Mexico)、ニュージャージー(New Jersey)、ニューヨーク(New York)、ペンシルバニア(Pennsylvania)、ロードアイランド(Rhode Island)、バーモント(Vermont)、ウィスコンシン(Wisconsin)の諸州およびワシントン(Washington)、ニューヨーク(New York)、ニューヘイブン(New Haven、コネチカット州)の3市からなる。これらの大半は、自州・都市が、他州の石炭発電所からの汚染物質が風で運ばれて被害を被っており、大気浄化法規則が緩和されると、大気保全基準の達成努力をそがれると主張する。
 同規則は、8月27日に署名されたが、10月27日付けの官報(Federal Register)に公示されて最終規則となった。EPAは、「この規則が、排気に際立った変化をもたらすとは思わない」と述べ、最終規則は「大気浄化法の規定する公衆衛生の保護を堅持するものである」と述べた。
 今回の改正は、公益企業に対し、旧式の設備を拡張または改良する際には、高価な最新技術の汚染防止装置への投資と検査を受けることを義務付ける、大気浄化法の「新公害発生源の検討(New Source Review)」条項を修正するものである。


EPA、下水汚泥の再利用を無規制

 ワシントン − 環境保護局(EPA)は、土壌に再利用する下水汚泥中のダイオキシンを規制しないと、最終決定を下した。外部の専門家による検討も含めた5年間に及ぶ調査の結果、当局は、下水汚泥からのダイオキシンは人の健康や環境をあまり脅かさないと判断。理論的に最も暴露されるのは、汚泥を穀物や家畜の飼料の肥料として用い、生涯にわたり、その穀物や肉製品を消費する人びとである。
 EPAの分析では、この理論上の集団の場合でも、ガンの発生は、年あたり0.003件、または、70年間で0.22件と予想。ダイオキシンを含有する下水汚泥による一般人集団へのガン発生リスクは、EPAがモデルとした高暴露の農家に比べると、土壌へ再利用した汚泥に含まれるダイオキシンへの暴露が少ないため、さらに小さい。
 EPAの「2001年全米下水汚泥調査、ダイオキシン最新情報(2001 Dioxins Update to the National Sewage Sludge Survey)」は、前回の1988年の調査に比べ、処理済の下水汚泥中のダイオキシン濃度は減少していることを示している。この減少傾向は、環境におけるその他のダイオキシン源を規制していることから、継続すると考えられている。
 ダイオキシンは、ある種の燃焼や化学製造工程の副産物で、毒性の強い分解されにくい化合物の一群である。下水汚泥は、地域水路へ放水する前の、下水の浄化過程で発生する副産物である。