NSC発行「Safety + Health」2004年2月号
ニュース
OSHA、「悪質」事業者の指定をめぐり、安全衛生諮問委と意見対立
ワシントン - ブッシュ政権下で、組織労働者、民主党、労働者安全擁護者は、労働安全衛生庁(Occupational
Safety and Health Administration: OSHA)の監督行政は手ぬるいと批判してきた。この批判が当を得たものかどうかは別として、ヒューストン市の小企業事業者、エリック・K・ホウ(Eric
K. Ho)氏をめぐる事例では、OSHAは昨年、態度を硬化させた。
1998年9月、OSHAは、ホウ氏に対し、従業員をアスベストに暴露させたとして、多額の罰金を科した。しかし、2003年10月に、労働安全衛生再検討委員会(Occupational
Safety and Health Review Commission: OSHRC)は、OSHAのいわゆる「悪質」事業者に対する長年の取り組みは、1970年の労働安全衛生法(Occupational
Safety and Health Act)で定める権限を越えるものであると裁決し、罰金を大幅に減らした。
OSHRCは、OSHAの召喚への異議申し立てを再検討し、裁決する独立した行政機関である。2003年12月、OSHAは、ニューオーリンズ市の第5巡回裁判区控訴裁判所(U.S.
Court of Appeals for the Fifth Circuit)に控訴した。判決は、今年中に下る予定である。
はなはだしい違反を犯した事業者に対するOSHAの長年の対応は、違反行為毎に召喚するというものである。ホウ氏は、アスベストに暴露した従業員11人に対し、保護具や訓練を提供するのを怠ったため、OSHAは、従業員1人毎に同社を召喚した。これに対し、OSHRCは、違反行為は、単一の基準をめぐるものであるから、当該企業は、単一の違反で召喚されるべきであると裁決した。OSHAが先の方針を採用したのは、1990年である。
ホウ氏は、Ho Ho Ho Express Inc.およびHouston Fruitland Inc.を経営しており、閉鎖された病院を住宅に建て替えていた。ホウ氏は、アスベストを清掃する従業員に対し、防じんマスク以外、何も支給しなかった。
ヒューストン市の監督官が現場を閉鎖すると、ホウ氏は、発見されないように、夜間、建物を施錠した中で、従業員を働かせた。その後の爆発火災事故で、従業員3名が負傷、OSHAの出番となった。
OSHAは、故意および重大違反で同社を召喚し、148万ドルの罰金を科した。この金額は、行政手続きの最中に114万ドルに減額されたが、昨年10月には、OSHRCがさらに658,000ドルに減額した。OSHRCは、ホウ氏の行為は、罰せられるに値すると認めつつも、OSHAの救済策にも不備があったと判断を下した。
連邦裁判所での刑事裁判で、ホウ氏は、大気浄化法(Clean Air Act)の刑事違反で、懲役21ヶ月、罰金2万ドルを命じられた。
労働弁護士、組合幹部、及び安全衛生専門家らは、今回のOSHRCの裁定の意義を議論している。もし、これが成り立つとすれば、OSHAの基準の解釈のしかたは変わり、召喚にも影響すると考える者は多い。
エレイン・チャオ労働長官(Elaine Chao, Secretary of Labor)およびジョン・ヘンショーOSHA長官(John Henshaw, OSHA Administrator)は、監督行政をめぐるOSHAの権限の後退を、争わずして認めたくはない。OSHAは、産業界と積極的にパートナーシップを結び、事業者が自主的に労働安全に努めるよう導いているが、正しい行いをしない事業者に対する強力な監督権を手放したくはない。
OSHAは、控訴しなければ、自主的な法遵守を奨励しつつ、法規を公正かつ断固施行するという、ヘンショー長官の根本方針のひとつを断念せざるを得ない。
ヘンショー長官は、OSHAが控訴するのは、「労働者の安全衛生を守る(当局の)能力が損なわれる」からであると述べた。
「この訴訟でわれわれが擁護しようとしている、ホウ氏のように、労働者保護義務をあくどく無視し、故意に労働者を深刻なハザードにさらす無責任な事業者をとくに対象とした、悪質業者政策は、強力な監督政策を可能ならしめるものである」とヘンショー長官は述べている。
事実チェック
41.4% |
2001年における飲酒を含む死亡事故の割合 |
出 所:National Highway Traffic Safety Administration、2004 |
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リーヴィット長官、EPAの在任中は中道をめざす
ワシントン - 環境保護庁(Environment Protection Agency: EPA)のマイク・リーヴィット長官(Mike
Leavitt, administrator)は、2003年12月4日、当局の職員を前にした就任演説で、問題解決は、「感情的な両極ではなく、創作的な中心」で偶然生まれるものであると述べ、職員が彼の着任から期待しているものに関して何らかの見識を与えるものであった。
この演説で、リーヴィット長官は、彼自身の環境哲学を披露し、当局での計画と抱負を語り、米国の大気保全に向けた500日間行動計画を示した。
リーヴィット長官は、Enlibraという環境哲学に同意すると述べた。長官は、この用語は、「調和をめざす」という意味であると解釈し、その指導原理は「常識」であると述べた。
リーヴィット長官は、環境哲学のほかに、EPAの将来像を描いてみせた。EPAは、「基準ビジネスに身を置かねばならない」し、これらの基準は「簡単で、明快、法的強制力をもつもの」でなければならないと述べた。長官はまた、EPAの「第1目標に、法を遵守すること」であるべきだと述べた。監督行政は、基準を効果的に保つことが一番の方法であるとも述べた。
リーヴィット長官の500日間行動計画には、ブッシュ大統領の大気保全イニシアチブ(Clear
Skies initiative)の支持、8時間オゾン基準未達成に対する取り組み(acting
on eight-hour ozone non-attainment)、オゾンおよび微粒子基準の遵守徹底、発電所の水銀排出への対処、一般道路外走行用ディーゼルエンジンの厳重な取り締まりなどが盛り込まれている。リーヴィット長官は、この500日間行動計画で、「米国史上もっとも大気保全が進んだ時代」を築くであろうと誇った。
長官の演説原稿は、www.epa.govで閲覧できる。
ヒスパニック系労働者サミット、OSHAの優先課題リストで上位を占める
ワシントン - ヒスパニック系労働者の安全衛生問題を取り上げるサミットは、ワシントン市で5月または6月に開催される予定である。
全米労働安全衛生諮問委員会(National Advisory Committee on Occupational
Safety and Health: NACOSH)は、昨年、労働安全衛生庁(OSHA)および国立労働安全衛生研究所(National
Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)に対し、サミットの開催を勧告した。NACOSHのピーター・ディルカ委員長(Peter
Deluca, chairman)は、2日間のサミットでは、意思疎通、訓練やアウトリーチに焦点を当て、ヒスパニック系労働者を対象としたベストプラクティスの成功事例を取り上げる、と述べた。
NACOSHの二つの作業委員会である、情報普及作業委員会および評価・特定対象作業委員会は、12月の会合で最新情報を提供した。
- 情報普及作業委員会は、OSHAおよびNIOSHのアウトリーチ活動の効果を測定し、OSHAおよびNIOSHは、情報の重複を減らすための正式な共同プロセスに合意すべきであると勧告した。また、安全衛生情報を効果的に普及するためには、両当局は、同業者団体とよりよく協調していくのが望ましいとも指摘した。
- 評価・特定対象作業委員会は、OSHAおよびNIOSHに対し、労働安全衛生監督に関わるデータ動向を検討するため、労働統計局(Bureau
of Labor Statistics)との間に正式なプロセスを構築するよう、勧告している。また、OSHAに対し、監督対象の選択手法や手順に、別な方法を検討するよう勧告した。最善の方法について、OSHAは、2004年にコメントを一般公募する予定である。
NACOSHはまた、職場の暴力に関し精力的に調査してきたNIOSHから、この問題に関し、説明を受けた。労働統計局は、2001年には、労働死亡災害8,786人(9月11日の対米テロによる業務関連の死亡者数、2,886人を含む)のうち、639人は、職場での殺人によるものであったと報告している。
オレゴン州消費者・ビジネスサービス省(Oregon Department of Consumer and
Business Services)(セイラム市)の長官でもあるNACOSHのディルカ(Deluca)委員長は、職場の暴力をもっとよく検討するかどうかはまだ決定していないと述べた。
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速 報
2003年12月9日、上院は、リクシオ・メディナ(Rixio Medina)氏の化学物質安全性調査委員会(Chemical Safety and Hazard Investigation Board:
CSB)の委員への指名を全会一致で承認した。この任命で、定員5名のうちの欠員2名のひとつが埋まった。ブッシュ大統領は、残る1名に、メリーランド州のゲイリー・ヴィッシャー(Gary
Visscher)氏を指名している。
2003年12月11日の米国連邦議会で開催された民主党主導の公聴会で、ブッシュ政権の残業時間規則(overtime work rules)の改正案が取り上げられた。エレイン・チャオ労働長官は、冬期休暇による休会後に議会が取り上げる一括歳出法案に添付してあるが、残業時間規則の改正案は、混乱を招きがちな古い労働規則を明確化し、更新するものであると述べた。
労働安全衛生庁(OSHA)は、港湾労働基準(Longshoring Standard)の改正案に対するコメント募集期間を2月13日まで延長した。改正案は、コンテナおよび積荷の総重量20トンまでの2つのコンテナの縦の積み重ね、吊り上げを認めるものである。
アラバマ、アラスカ、アーカンソー、カンザス、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスダコタ、バージニア、ユタの9州は、ブッシュ政権の新公害発生源の検討(New Source Review)条項の改正が、予定通り実施されるよう、法的手段に訴えた。これは、改正を阻止しようとする14州が提出した動議に対応したものである。9州は、改正が遅れると、施行費用がかさみ、施行の選択肢が減り、大きな経済問題を招くと考えている。改正条項は、2003年12月26日に発効した。
「グローバル化における予防 - パートナーシップによる成功(Prevention in a
Globalized World - Success Through Partnerships)」は、2005年9月18~22日、オーランド市で開催予定の第17回世界労働安全衛生会議(XVIIth World Congress on Safety and Health at Work)のテーマである。論文は、オンラインでwww.safety2005.orgまで提出のこと。締め切りは、2004年3月31日。詳細は、www.safety2005.orgまたは電話:(800)621‐7619で照会されたい。
欧州各国の厚生大臣は、米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)と同様の欧州疾病対策予防センター(European Centers for Disease Prevention and Control)を創設することで、原則合意した。各国の閣僚は、ブリュッセル市での12月1~2日の閣僚級会議で、センターの創設に向けたガイドラインを承認した。サイエンティスト(The Scientist)誌によれば、センターは、早ければ2005年に事業を開始する。
会計検査院(General Accounting Office)は、2003年12月1日、初めての大規模な米国生物テロ防衛計画である、全米天然痘ワクチン接種計画(National
Smallpox Vaccination Program)を再検討した報告書を発行した。天然痘ワクチン接種計画は、一般市民へのワクチン接種と、軍人へのワクチン接種の2本立てである。
2月は、米国心臓月間(American Heart Month)である。心臓疾患は、死亡原因の首位です。心肺蘇生法(CPR)や応急手当てを学び、人命救助を行うパワーを持ちましょう。詳細は、www.nsc.orgを参照のこと。
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調査報告:紫外線で、オフィスの病気を減少
ロンドン - ランセット誌(The Lancet)Vol. 362、No. 9398)に掲載された調査報告によれば、紫外線で、換気装置内の細菌やカビを死滅させると、オフィスビル内の業務関連疾病を予防できる。
紫外線殺菌照射は、全疾患を20%、呼吸器疾患を40%、粘膜疾患を30%減らした。アレルギー体質の労働者や喫煙歴のない人にもっとも効果がみられた。
マクギル大学モントリオール胸部研究所(Montreal Chest Institute, McGill
University)は、モントリオール市内のオフィスビル3棟を調査し、771人からデータを収集した。
米国聴覚医学会、職業性難聴予防に関し、見解を発表
バージニア州レストン(Reston, VA) - 米国聴覚医学会(American Academy
of Audiology)が発表した職業性の騒音性難聴の予防に関する見解声明では、難聴の予防における聴覚学者の役割について、概略を述べている。また、騒音性難聴予防に関する優良事例も挙げている。
8千人強にのぼる聴覚学者は、職業性難聴予防プログラムを開発するにあたり、この文書を活用するよう求められている。米国聴覚医学会の見解声明は、オンライン、www.audiology.org/professional/positions/niohlprevention.pdfで閲覧できる。
OSHA、結核およびグリコールエーテル規則作成を打ち切る
ワシントン - 労働安全衛生庁(OSHA)は、1997年の結核規則案を先へ進めるよりは、一般産業における呼吸用保護基準(general
industry standard on respiratory protection)の適用を、結核菌に暴露する労働者に拡張する予定であると、2003年12月31日付けの官報(Federal
Register)で発表した。
結核規則案を撤回するにあたり、OSHAは、アメリカ合衆国に於て過去10年間に結核症例が40%減ったことを指摘した。この成功は、疾病対策予防センター(CDC、アトランタ市)のガイドラインによるものであるとしている。「こうした効果を考慮すると、CDCには、この順調な仕事を継続してもらい、われわれは、まだ取り組まれていない職場のハザードの削減に向け、資源を集中させたい」と、OSHAのジョン・ヘンショー長官は述べた。
OSHAは、1997年10月、結核菌への職業性暴露を管理する基準案を発表し、これで、およそ530万人の労働者を保護できると推計していた。1998年に一般産業における呼吸用保護基準を公布した際、OSHAは、結核規則作成プロセスが完了するのを待って、当該呼吸用基準を結核に暴露する労働者にも適用するかどうか、決断を下すと述べていた。
呼吸用保護基準については、適用対象の事業者が遵守できるよう、段階的に施行すると、当局は述べた。
OSHAはまた、グリコールエーテルの許容暴露限界を下げる規則作成を終了すると発表した。当局は、過去10年間に、グリコールエーテルの使用量や生産量が激減したことを指摘している。従来は、自動車の再塗装に一般的に使われていたが、現在は大幅に減ってきたと、当局は説明した。
職場の暴力、兆候を見過ごしがち
アトランタ - 全米労働衛生看護師協会(American Association of Occupational
Health Nurses: AAOHN)の新しい調査によれば、アメリカの労働者の大半は、職場の暴力の重大な兆候に気づかないことが多い。
調査では、「危険信号」行動のリストを見せたが、典型的な危険信号のいくつかを特定できたのは、調査対象の4%未満に過ぎなかった。大半は、アルコールや薬物の使用、攻撃的な性格を職場の暴力の潜在指標として特定できたが、消極的な性格や協調性に欠ける行動、ことばによる脅迫といった特徴に気づくものは、ほとんどいなかった。
また、アメリカ人の多くは、自分の労働環境は、職場の暴力といった脅威からは安全であると考えていた。職場の暴力の経験について、懸念を示したのは、わずかに12%である。協会は、これは、働く人々の間に偽りの安全感をもたらすと述べた。労働統計局(Bureau
of Labor Statistics: BLS)が、労働死亡災害の原因の第2位として、殺人を挙げていることを指摘している。
本調査は、連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation: FBI)国立暴力犯罪分析センター(National
Center for Analysis and Violent Crime)の支援を得て行われた。協会によれば、今回の調査結果は、職場の暴力に関する従業員教育・訓練の必要性を示している。
見過ごしやすい暴力の兆候
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職場で暴力をふるう人の特徴 |
特徴を認識できた回答者の割合 |
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出 所:AAOHN(全米労働衛生看護師協会)、2003年
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労働統計局発表:労働傷病率、5.3%
ワシントン - 労働統計局(BLS)によれば、2002年に事業者から報告のあった死亡災害を除く労働傷病は、およそ470万件であった。これは、常勤労働者100人あたり5.3件である。
2001年の5.7件より減ったとはいえ、労働統計局は、2002年のデータを過去のデータと比較することはできないという。というのも、労働安全衛生庁(OSHA)が、2002年に記録保持要件を改正しており、労働統計局は、事業者の傷病記録に基づいて、統計報告書を作成しているからである。
製造産業部門の傷病率は、鉱業の100人あたり4.0件から、製造業の7.2件までの範囲にある。サービス部門では、金融・保険・不動産業の100人あたり1.7件から、運輸・公益事業の6.1%までの範囲に及ぶ。
今回の労働統計局調査のその他の特徴を挙げる。
- 傷病率は、中規模事業場(従業員50~249人)のほうが、小規模あるいは大規模事業場に比べ、一般的に高い。
- 報告された470万件のうち約250万件は、休業、配置転換、就業制限、またはこれらの組み合わせによる健康の回復を必要とするものであった。
- 報告された470万件のうち294,500件は、職業性疾病として新たに報告されたものであった。このうち、製造業は、44.5%を占める。
- 傷害総件数のうち、サービス、商業部門はそれぞれ27%で首位で、ついで製造業が23.3%となっている。
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