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電気回路のショートによるアークフラッシュの危険性
副編集長Markisan Naso

「Safety+Health」2004年3月号p.42
(仮訳 国際安全衛生センター)



記事内容早わかり
 アークフラッシュ(Arc flash 訳註12参照)は、多ければ1日に10件も発生する、死亡災害につながる電気的爆発(electrical explosion)である。遵守すべき政府の基準が最低限しか存在しないため、業界はNFPA(訳注:全国防火協会National Fire Protection Association) 70Eの改訂版を安全の指針としてきた。この自主基準の内容はどんなもので、アークフラッシュの危険性を防ぐために企業がどのように利用できるだろうか?

要点
  • 電気に対する安全を改善する努力は高まっている。NFPA 70E標準は、アークフラッシュの危険性及び適切な個人用保護具に対する意識の高まりに寄与している。
  • 一般的に使われている対アークフラッシュ保護具は不適切であることが多い。木綿が適切なプロテクターであると考えている人が多いがこれは間違っている。アークフラッシュから人間を保護できるのは不燃性(flame-resistant)の衣服だけである。
  • 不燃技術は大きく進歩した。不燃性の個人保護具のほとんどが従来の作業服と区別できないぐらいになっているので、快適さについて言われていた不平は過去のものとなっている。
  • NFPA 70Eのおかげで、企業は、電気作業に関する防護のタイプを決め、確実に法令を遵守することがずっと容易にできるようになった。
  • 保護具は最終の防御ラインである。工学的対策、保全及び教育訓練によって、より多くのことを達成することができる。
  • ベテラン労働者の作業服を変更することは難しいことである。
  • OSHAは将来NFPA 70E或いはその一部を基準として採用するかもしれない。専門家によれば、そうなると電気の安全は劇的に改善されるだろうということである。
詳細について
全国防火協会www.nfpa.org/Codes/index.asp参照


 太陽より熱いアークフラッシュ爆発が電気装置から噴き出ている。この過熱した短絡回路は、温度が14000度(訳注:華氏と思われる。摂氏では7760度)を越えることもある。これは十分金属を溶かし、労働者に重度の火傷を与える温度である。フラッシュの強度は、電気作業者の視力を損いかねず、放電による圧力波は鼓膜を破りかねないほどのものである。

 シカゴの研究・コンサルタント会社であるCapSchell Inc.社によると全米では1日に5〜10件のアークフラッシュ爆発が起こっている。報告されていない電気事故や間一髪で無事だったケースはもっと多い。このように頻発するのは、このハザードに関する知識及び適切な保護具が不足している状態が続いているからである。現時点ではOSHA(米国労働安全衛生庁)には、アークフラッシュよる重大な危険に対して適切に取り組むための基準がなく、それが労働者の保護を難しくしている。

 政府の基準として適当なものがないにもかかわらず、電気作業の安全性を改善し、また必要な防護に対する意識を高めようとする努力が進められている。企業はアークフラッシュに対する、より優れた安全対策にとりかかる必要性を認識しはじめている。産業界での意識が向上しているのは、主として2000年8月に全国防火協会(NFPA)が導入した自主基準70E「職場の電気安全のための要求事項(standard 70E for Erectrical Safety Requirements for Employee Workplaces)」改訂版によるところが大きい。この基準は、電気作業のおけるハザード、フラッシュ保護の境界線、機器の電源カットオフ方法、フラッシュ・ハザードの分析方法などの重要情報を詳しくのべた包括的なものである。

 NFPA基準は、労働者に対しても「電気的アークフラッシュに暴露される可能性がある時は常にフラッシュ火炎に対して抵抗力のある作業服を着用すること」を要求し、具体的なハザードに基づいて不燃性の個人用保護具を推奨している。

 不燃性繊維を販売しているシカゴWestex社の販売・マーケティング担当副社長であるMichael Enright氏は、「2000年に改訂されたNFPA 70Eは、アークフラッシュに暴露される防護服に必要な性能を規定した初めての基準でした」と語っている。

数ある布地のなかから

 Enright氏によれば「NFPA 70Eに規定された作業服基準は、アークフラッシュから労働者を保護することについて重要な影響を与えましたが、アークフラッシュ・ハザードに対して耐え得る素材の種類については多くの誤解があります」ということである。

 同氏によると、企業が選択した労働者保護は不十分であることがよくあり、それらの保護具は評価し直す必要がある。どの業種の作業場でもあるような普通の電気設備についての作業についても不適合のレベルは非常に高い。普通の木綿かポリエステル−木棉混紡の作業服を着ている人が多い。

 不燃性でないポリエステル/木綿混紡は熔けて皮膚に付着し、非常に重度の直接接触性火傷を引き起こす。木綿は優れた断熱体で、不燃性でない混紡と違って、熔けたり滴り落ちたりしないとEnright氏は語っている。

 「木綿の方がポリエステル/木綿混紡よりがよりいいと考える人が多いし、それは正しいかもしれません。ただ、言いたいのはもし着火した場合はどちらも良くないということです。着火するかどうかというのは賭けですが、もし着火した場合、結果は重大です」(Enright氏)。

 「木綿の威力」神話だけがまだ広く信じられているわけではない。多くの企業が、不燃性作業服に関してNFPA 70E基準が推奨しているものは快適性に問題があるか又は高価すぎると考えて、この基準を守らなかった。Enright氏は「時代は変わったのです」と言っている。

 「不燃性繊維の技術及び不燃性繊維の加工技術は非常に進歩したので不燃性の衣服とそうでないものを判断するのは難しくなっています。電気作業者のための個人用保護具にはアークフラッシュ防護のための不燃性衣服が含まれるべきですし、またそうなるでしょう」(Enright氏)。

 NFPA 70Eによって、企業が電気作業で必要な防護対策を決めることだけでなく安全な作業を行うことも容易になった。「NFPA 70Eは電気作業者、保全作業者が行う種々の仕事をリストアップし、電圧ごとに分類しています。そしてそれぞれの場合の『ハザード/リスクカテゴリー(HRC)』を挙げています。このHRCとこれに対応するアーク熱性能値(arc thermal performance value)と相互参照を行って、作業服が満足するべき性能を決めることができます」(Enright氏)。

 アーク熱性能値は、第2度の火傷を起こすカロリー値を決めるために電気アークを用いるパネルテスト(ASTM 1959)である。「他にもたくさんの基準や試験方法がありますが、適切なものを使うことが大切です。そのハザードが電気アークである場合はATPV(arc thermal performance value、アーク熱性能値)を使うべきです」(Enright氏)。

 適切な保護具を探すことについては他のやり方もある。Duke熱流計算法(Duke Heat Flux Calculator)やArc-Proといったコンピュータソフトでは、使用者が具体的な仕事のパラメータを入力することができる。この情報が入力されるとプログラムが必要な防護のレベル(対象とする装置が発生させる可能性のある潜在的エネルギーであり、通常cal/cm2で表される。)を計算する。「3番目の方法がNFPA 70E基準のE-1表にリストアップされている、『簡易2分類法』です。選択肢をいくつか用意して、遵守することを容易にしようとしたものです」(Enright氏)。

防御ライン

 NFPA 70Eは、アークフラッシュに対する適切な防護衣の必要性を労働者に教育したが、Enright氏は、安全保護具は防御の最終ラインであるべきだと強調している。「最初の装置設計から装置の保全、オペレータの教育訓練に至るまで、その前にできることはたくさんあります」。

 ペンシルベニア州RenfrewにあるCornerstone Safety GroupのMike Wright副社長も同意見である。「NFPA 70Eが生命を救う唯一の方法は、それをお蔵入りにせずにすべての作業に適用することです」(Wright氏)。同氏によれば、「アークフラッシュ事故を減らすためにはNFPA 70Eの基準を恒常的に使わなければなりません。一番難しいのは、30年の経験をもつ電気作業者の習慣を変えさせ、個人用保護具を使うメリットであれ、会社の新しい安全計画であれ、これらを受け入れさせることです」。

 「鎖は一番弱い環と同じ強度しかないことを思い出して下さい。作業着が一番重要だという人もいるでしょうし、絶縁工具が一番重要だという人もいるでしょう。貴方は私に『教育訓練が一番重要だ』と言って欲しいのでしょうが、私の答えはその全部が重要だということです」(Wright氏)。

 「絶縁された工具を使えば、例えば工具が滑って電位差のある二つの点に接触したときに問題が発生することが防止できます。保護衣はもし事故が発生しても損傷の程度を軽減します。また教育訓練によって、仕事でどのようなハザードがあるかを特定する方法がわかり、そのハザードから身を守る方法がわかります」(Wright氏)。

 Wright氏が提案する教育訓練は、ここ数年でもっと受けやすくなるかもしれない。というのはNFPA 70Eは単に自主基準であるが、Wright氏もEnright氏も、OSHAがこの基準又は少なくともその一部を採用しようとしていると言っているからだ。現在OSHAは、NFPA 70Eが「産業界で認められたやり方」だと考えている。 OSHAはいくつかの災害報告の中でNFPA 70Eを引用しており、また現場の監督官は、アークフラッシュに対する安全の監督指導にこの基準を持参している。

 OSHAがNFPA 70Eをこのように受け入れているとはいえ、残念ながらこれはOSHA基準として採用したことと同じではない。Wright氏によれば現在のOSHA規則は、事業者に対し変更を強制するものではない。「OSHA規則は最低基準なので、私の以前の雇い主はOSHAを脅威とは思っていませんでした。最低レベルの労働者保護しかしていないということであれば、あまりよい仕事をしているとはいえません。もしOSHAがNFPA 70Eを取り入れれば、現在、『労働者保護は政府が強制するまで様子を見ていよう』としている企業をその気にさせることができるでしょう」(Wright氏)。

 多くの事業者が労働者を保護するために、電気作業を安全に改善する手段としてNFPA 70Eを取り入れているとWright氏は語っている。「事業者に、電気的爆発は労働者に重傷を負わせることがあることを説明するために法律が必要な訳ではありません。そうではなくて、事業者は、電気安全プログラムを策定する過程で遭遇する難しい問題の助けとなるような基準を非常に欲しがっているのです」(Wright氏)。

 NFPA 70E基準が採用されれば、電気作業者の年間の火傷件数は劇的に減少するだろうとEnright氏は述べている。「通電された設備又はその近くで働く労働者には非耐火性の作業服に替えて不燃性作業服を着用させる企業が増えるでしょう」(Enright氏)。

 今のところは企業がイニシアチブを取らなければならない。正しく使えば、NFPA 70E基準は、適切な保護具を決定し、アークフラッシュのハザードを評価するのに効果的なツールとなり得る。そうでなければ、アークフラッシュは依然として重大な問題として残ることになる。

 25年以上の間、電気作業の安全について働いたものとして、Wright氏は、アークフラッシュに対して無防備であった場合に電気作業者が遭遇する結果がはっきりわかると語る。同氏は、死亡したか第2度、第3度の火傷を受けた人の名前を100人暗誦することができる。Wright氏は、罰金、医療費、設備の修理費として使われたお金が、労働者の教育訓練、適切な保護具、工具、正しい作業手順の指示に使われていたらどのぐらい効果があったことだろうと考えることがある。「これらの電気作業者にどのぐらいのお金と時間を投資したか考えて下さい。30年の経験、セミナー、休暇、病欠、聞かせてもらった趣味の話、これらをみんな投げ捨てるのは残念なことではないでしょうか。これらはそもそも防止可能なのです。先延ばしするのはやめましょう。行動を起こすべき時は今なのです」。



(JICOSH訳註1)
この文献で紹介されているアークフラッシュについては日本でも災害事例が報告されているが、事故の型は「高温の物との接触」に分類されていて、アークフラッシュという分類がないため日本では馴染みが薄いと考えられる。なお、
http://www.mt-online.com/articles/0204arcflash.cfm
に掲載されているアークフラッシュについての解説は以下の通りである。
(仮訳 国際安全衛生センター)

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アークフラッシュとは何ですか?

アークフラッシュとは、空気を通じての短絡です。
充電された導体間の絶縁が破壊されるか、負荷電圧に耐えることができない時にアークフラッシュが起こります。
労働者が充電部又はその近傍で働いているとき、機器の近くを移動したり接触したりするとき、又は機器が故障したとき相−接地間又は相−相間で障害が起こります。

アークの温度は華氏5000度以上となり、まばゆい閃光と騒音が発生します。巨大な量の放射エネルギーが集中的に機器から外部に噴出し、高温ガスをまき散らし、金属を溶かし、死亡災害又は重度の火傷を引き起こします。また、脳障害や聴力障害をもたらす圧力波や、視力を損う閃光を起こします。急速に伝わる圧力波は、近く機器、金属工具、他の物体など固定されていないものを吹き飛ばし、近くにいる者を負傷させます。


規則などでは、「フラッシュ防護境界」を計算するよう求めています。この中では適切に保護された有資格の労働者のみが働くことができます。



(JICOSH訳註2)文中で頻繁に引用されているNFPA 70E基準は、それ自体が商品であるため内容はネットでは参照できないが、目次はhttp://www.nfpa.org/Catalog/TOC/70E-04-toc.htmlで公開されている。その内容は次のようなものである。(仮訳 国際安全衛生センター)

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職場の電気安全のためのNFPA 70E基準2004版

第90条 序論
第1章 安全に関する作業方法
第100条 定義
第110条 電気安全に関連した作業方法−全般要求事項
第120条 電気的に安全な作業環境の確立
第130条 充電部分又はその付近での作業

第2章 安全に関連したメンテナンスの要求事項
第200条 序論入門
第205条 メンテナンスに関する一般要求事項
第210条 変電室、開閉器(スイッチギア)、配電盤、モーター中央制御室、切断器
第215条 構内配線
第220条 制御機器
第225条 ヒューズと回路遮断器
第230条 回転機器
第235条 危険位置(分類されている)
第240条 バッテリーとバッテリー室
第245条 ポータブル電動工具・機器
第250条 個人防護と保護具

第3章 特別な機器に対する安全要求事項
第300条 序論
第310条 電解セルの安全作業
第320条 バッテリーとバッテリー室に関する安全要求事項
第330条 レーザー使用に関する安全作業
第340条 動力付き電子機器の安全作業

第4章 据え付けに関する安全要求事項
第400条 据え付けにおける電気関係の一般要求事項
第410条 配線の設計及び防護
第430条 特定目的の機器及び据え付け
第440条 危険位置(分類されている)、クラスI、II、III 区分1,2、クラスI、ゾーン 0,1,2
第450条 特別システム

ASTM 1959 −−ASTM(American Society for Testing and Materials)F1959/F1959M-99 Standard Test Method for Determining the Arc Thermal Performance Value of Materials for Clothing