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訓練は在宅勤務者のエルゴノミクス傷害の防止に役立つ
Training helps at-home workers avoid ergonomics injuries
アラン・ホスキン(Alan Hoskin)

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2004年5月号p.48-49
(仮訳 国際安全衛生センター)



 ホームオフィス環境でコンピューターを使用している労働者の知識、態度、作業慣行は、コンピューター・ベースのエルゴノミクス訓練によって大幅に改善できる。最近の研究でこんな結果が示された。
 この研究は、スーザン・S.ハリントン(Susan S. Harrington)とボニー・L.ウォーカー(Bonnie L. Walker)による「在宅勤務者の知識、態度、作業慣行に対するエルゴノミクス訓練の効果(The Effects of Ergonomics Training on the Knowledge, Attitudes, and Practices of Teleworkers)」で、NSC発行の「Journal of Safety Research」(Vol.35、No.1)に最近掲載されたもの。
 在宅勤務(telecommuting)とは、通勤する代わりに情報技術と各種通信手段を活用する労働形態のことである。在宅勤務では、従業員は自宅または地域の在宅勤務センターでフルタイムもしくはパートタイムで働く。2001年には推定で2,800万人のアメリカ人の労働者が週に1日以上在宅勤務をした。
 在宅勤務の急速な浸透は、従業員のホームオフィスに対する事業者の責任をめぐって、数々の社会的問題、法律上の問題を投げかけている。当初この対応につまづいた労働安全衛生庁(OSHA)は、遵守指令を公表して自宅労働に関する同庁の方針を明確にした。この新しい方針によれば、OSHAは安全衛生に関する連邦レベルの諸規則の違反がないかどうかホームオフィスを監督することはせず、事業者がホームオフィスの監督を実施することも想定されていない。この方針での唯一の例外は、自宅で工場型の製造を行っている場合だけである。
 ただし事業者は、在宅勤務に対する対価または報酬を従業員に支払っている限り、(自宅環境一般に関わる傷病ではなく)作業実績に直接関係した傷病をOSHA300記録に記録しなければならない。
 メリーランド州シルバースプリングにある国際テレワーク協会(International Telework Association and Council)の調査によると、在宅勤務作業で最も多いのはコンピューターの使用であるという。コンピューターの使用と筋骨格系障害(MSD)との関係については多くの資料がある。コンピューター関連性MSDのリスクを高める職場要因としては、モニター・マウスとキーボードの置き場所が不適切、姿勢が悪い、椅子の高さが不適切、照明が不適切、休憩なしの集中的な打鍵、などがある。
 ホームオフィスでは、これらのリスク要因の管理は必ずしも容易ではない。複数の調査結果が示すところでは、在宅勤務者は一般に自分一人でオフィスの準備を整える。在宅勤務者はコンピューターをコーヒーテーブルや旧式のデスクの上に置いたりするが、これは数多くのエルゴノミクス的ハザードを生む。訓練を受けていない在宅勤務者は、MSDのリスクを高める要因について無頓着である。
 技術系・事業系の大手企業幹部を対象に行われた質問調査の結果によると、自宅で労働する従業員のために安全性に関するガイドラインを定めていると答えたのはわずか9%、ガイドラインそのものがないと答えたのは80%、企業としてガイドラインを定めているかどうかわからないと答えたのは11%であった。
 エルゴノミクス訓練と環境面での対応によってMSDの発生率が低下することは、研究によって示されている。エルゴノミクス・プログラムを導入しているいくつかの企業の報告によれば、災害、傷病、およびヘルスケアのコストは時がたつにつれて大きく減っており、逆に生産性、仕事の質、労働者の勤労意欲は向上しているという。
 企業環境におけるエルゴノミクス面での対応の効果については資料が豊富にあるが、ホームオフィス環境でのエルゴノミクス訓練の効果について研究したものはほとんどない。今回発表された研究は、在宅勤務者の知識、態度、作業慣行にエルゴノミクス訓練プログラムが及ぼす短期的効果を評価することを目的としている。
 研究者らは、ホームオフィスでのエルゴノミクスに関する45分のコンピューター・ベースの訓練モジュールを開発した(図1を参照)。この「在宅勤務者のためのエルゴノミクス(Ergonomics for Teleworkers)」プログラムでは、テキスト、グラフィック、カラーイラスト、アニメーション、サウンドを組み合わせて、完全にインタラクティブな学習環境を用意している(図2を参照)。
 また研究者らは、訓練の前後にプログラム参加者の知識、態度、エルゴノミクス的安全に関係する作業慣行を評価するための事前テストと事後テストも用意した。さらに、プログラム参加者に対しては、訓練プログラム自体の評価も要請した。
 研究の方法は、2つのグループの比較であった。具体的には、事前テストを終えた在宅勤務者を無作為に2つのグループに分けた。ひとつは処置群(在宅勤務者28人)で、もうひとつは対照群(在宅勤務者22人)である。処置群の参加者は、事前テスト、エルゴノミクス訓練プログラム、事後テスト、およびコース評価を遂行した。対照群の参加者は、事前テストの後、エルゴノミクス訓練を行わずに4〜5週間経過後、事後テストを行った。
 参加者は月平均8日の在宅勤務を行っており、在宅勤務経験は平均3.5年であった。参加者のうち21人は、自宅に在宅勤務専用の部屋または区域を持っていた。年齢、性別、人種、教育程度、在宅勤務時間、およびそれまでの訓練に関して、処置群と対照群の違いは有意ではなかった。
 参加者のうち、43人は在宅勤務の訓練を受けたことがなく、40人はエルゴノミクス訓練を受けたことがなかった。参加者の在宅勤務時間のうち、コンピューターを使用している時間は平均で64%、コンピューター上以外の文書を読んでいる時間は16%、電話をしている時間は10%、ペンや鉛筆を使って報告などの文書を作成している時間は8%であった。
 この研究によって、在宅勤務者のエルゴノミクス訓練の必要性が証明された。85%を超える参加者は、それまでに在宅勤務の訓練を受けたことがなく、44%は在宅勤務中に苦痛や不快感を経験していた。今回訓練を受けた参加者では、知識、態度、作業慣行に関する得点は、事前テストと比べ、事後テストで大幅に改善されていた。
 対照群の事前テストと事後テストの得点には有意な差はなかった。
 参加者は追跡調査の中で、今回の訓練に基づいてそれぞれ自分のオフィスにエルゴノミクス的変更を加えたと回答している。変更の具体例として挙げられたのは、椅子やキーボードの高さの調整、日中従来よりも多く歩くようにしたこと、などであった。幾人もの参加者が、過去に経験した苦痛や不快感が、訓練の結果消失するか、または軽減されるようになったと答えた。

アラン・ホスキンは、全米安全評議会(NSC)調査統計局(Research and Statistics Group)統計課(Statistics Department)課長。


図1「在宅勤務者のためのエルゴノミクス(Ergonomics for Teleworkers)」のカリキュラム概要
1. エルゴノミクスについて
参加者は次のことができるようになる:
・エルゴノミクスとは何かがわかる。
・エルゴノミクス訓練のメリットがわかる。
主なトピック:
a. エルゴノミクスとは何か。
b. なぜエルゴノミクスが重要なのか。

2. MSDを理解する
参加者は次のことができるようになる:
・筋骨格系障害(MSD)とは何かがわかる。
・MSDの徴候がわかる。
・MSDの発症につながるリスク要因がわかる。
・MSDの早期発見と報告の重要性がわかる。
主なトピック:
a. 筋骨格系障害(MSD)とは何か。
b. MSDの種類。
c. MSDの徴候。
d. リスク要因。
e. 医学的評価。
f. MSDの早期発見と報告。
g. MSDの予防

3. エルゴノミクスの原則
参加者は次のことができるようになる:
・エルゴノミクスの6つの原則がわかる。
主なトピック:
a. 姿勢を正しくする。
b. 体を動かし、運動し、手足を伸ばし、休憩する。
c. 適切な照明を用意する。
d. 圧迫される部分を減らす。
e. 過度に力のかかる動作を減らす。
f. 作業に使うものを手近に置く。

4. 自分のホームオフィスを評価する
参加者は次のことができるようになる:
・不快感を軽減して生産性を上げるためにオフィスの作業区域をどのようにセッティングすればよいかわかる。
・オフィス備品のエルゴノミクス的特徴がわかる。
主なトピック:
a. デスクの設定。
b. 椅子の調整。
c. モニターの調整。
d. ドキュメントホルダーの使用。
e. 電話の使用。
f. ラップトップコンピューターの使用。

5. ストレッチ運動
参加者は次のことができるようになる:
・ストレッチと体を動かすことの重要性がわかる。
・MSD発症のリスクを減らすためにどのような運動をすればよいかわかる。
主なトピック:
a. 休憩、ストレッチ、体を動かすことの重要性。
b. リスクを軽減するための運動。

図2:「在宅勤務者のためのエルゴノミクス(Ergonomics for Teleworkers)」の画面の1つ
資料出所:NSC、「Journal of Safety Research」、2004年