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古くて新しい話
高年齢労働者向け新しい安全衛生戦略


NOT THE SAME OLD STORY
Aging workforce drives new safety and health strategies

(NSC編集次長:マービン・V・グリーン)

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2004年10月号p.36-39

(仮訳 国際安全衛生センター)



 ベビー・ブーマー世代がピークを迎えつつある。アメリカが高年齢化社会に向うという予想は、少なくとも1970年代以降、熱い社会的問題となっており、今や、通過点に入りつつある。労働力と労働者の安全との係わり合いは、ドラマチックである。
  ベビー・ブーマーとは、第二次大戦後、1946年から1964年に誕生した人々と定義されており、米国内で、7,500万人の子供が誕生した。この他、他国からの移民として200万人がおり、トータルで16才以上の全人口の37%以上を占めている。
 “ベビー・ブーマーは年を経るが、働き続けようとしている。これは非常に大きな問題である。彼らは働き続けようとしている。既に知っている通り、年を経れば経る程、傷害を受けやすくなる。”とウィリアム・シスコ(ミシガン州アレンデール、グランド・ハーレー州立大学職業療法プログラム科助教授)は語った。
 政府の統計によると、2008年には、米国労働者の40%以上にあたる6,200万人が、45才以上となる。
  2008年には、55才以上の米国労働者は、1,700万人から、2,500万人で、48%に増加する。
 “高年齢者の傷害発生率は高いものではないが、その傷害程度は重度となっている。その結果、治療期間は長くなる。” “従って、彼らが22才の労働者が傷害を受けた場合と同じ傷害を被った時には、治療に長期間を要し、職場復帰にも長い期間が必要になる。” ともシスコは語っている。
 労働省労働統計局の報告によると、民間企業での労働災害(負傷、疾病、死亡)総数は、最近減少したが、高年齢者間での労働損失日数は、1992年以降、徐々に増加している。例えば、この統計によると、45才以上の労働者は、労働損失日数の30%以上を占めているとのことである。
 ワシントンにある国立調査協議会(National Research Council)の委員会2001年政策報告書“高年齢化社会への準備:全国調査事例”によると、20世紀中の出生率の劇的な変化により、21世紀中も急速に社会が高年齢化することが確実となっている。出生率は多くの国で下落しつつあり、死亡率は又、公衆衛生、医療技術及び生活基準の進歩につれて減少しつつある。
  調査によると高年齢化する社会の最終的要因は、第2次世界大戦後のベビーブームである。数百万人のベビーブーマーは、50才代、及び60才代に到達しつつあり、この数字に、若年層が対応できない状況となっている。

年をとっても健康である

  2001年に発表された長期的高年齢化研究協会(Long-term National Institute on Aging study)の報告によると、米国高年齢者の就業不能者は、加速度的ペースで減少している。全国長期医療調査分析(National Long Term Care Survey)によると、1994年から1999年迄、65才以上の就業不能者率は、年率2.6%減少した。
  “大体、社会は、年を経るにつれて、より健康的となっている。45才が年寄りと思われていたのは、そんな昔ではなかった。人生長生きと、出生率の低下により、ベビーブーマーは歴史上最も大きな集団となった。多くの人々は、過去には退職年齢だった時点でも、現在働いている。”とアルマ・ガイザー(グランド・ジャンクソン会社(Grand Junction, CO)のコンサルタント、コロラド安全会社社長兼看護師)は語った。
 年を経るにつれ、運動能力、感覚力、及び心肺呼吸機能の低下を初めとする通常の生理的変化により、慢性的な健康障害が発生すると、ガイザーは話している。このことは、高年齢者の活動に影響を及ぼしている。
 “高年齢労働者は滑り、つまずき、よじ登り、ねじれや体の自由な動きにまつわる類似の事故を起こしやすく、それは減ることはない。”とガイザーは話している。
  高年齢者と若年者の違いを調べてみると、仕事で傷害をうけた高年齢者と彼らの安全リスクとの間には明白な関係があるということが、2004年の国家調査協議会の調査“高年齢者の安全衛生ニーズ”により報告された。

調査結果内容:
  • “高年齢労働者は、肉体的/生物学的、心理学的/精神的、そして社会的次元で、若年労働者と違いがある。これらは、高年齢化に伴う正常の変化である場合もあるが、冠状動脈疾患のような、様々な異常状況が年齢により、発生しやすくなるというようなことがある。”
  • “年齢に伴う相違:高年齢労働者の作業遂行が、若年労働者に比べて減少していくか、又は環境ハザードの影響を受けやすくなるために、高年齢労働者にとって年齢の違いが不利になる可能性が生じる。”
  • “高年齢労働者の間での作業ばく露及び作業経験にとって最も重要と思われる年齢に関係する変化が、次の器官系に発生する:筋骨格、骨、視覚、聴覚、肺機能、皮膚、代謝及び免疫。一般的には、器官及び系統の年齢に関係する変化傾斜は年を経るにつれて、より大きな割合で低下していく。


労働力縮少計画(リスケーリング)の見直し

 ワシントンを本拠地とした全米退職者協会(American Association of Retired Person(AARP))は、事業者は、高年齢労働力が業務遂行能力を有しているという事実を理解する点で遅れていると警告しており、事業者は、段階的な退職制度、パートタイム労働及び季節労働という雇用機会の採用を考慮することを忠告している。そして既に多くの事業者が、そのようにしているということである。
  シスコは、このことを労働力の“リスケーリング”と呼んでいる。職場は、劇的に大幅な変化は望めないが、シフトの長さや、労働日数について考慮しなければならない。例えば、70才で週4回の、1日12時間労働を行うことはできないとシスコは話している。
 リスケーリングは、2020年に向かって明確に動いていくものとなろうとシスコは語った。ベビーブーマーは、大部分は白人男性であると彼は説明している。この先15年ないし、20年間でベビーブーマーは、退職により労働力から離れていくので、今後は女性及び少数民族がこれに取って代わるだろう。既に女性は、労働力の半数近くを構成している。
 “変化に対応した準備をしなければならない。世の中では、劇的な変化が起こりつつある。事業者は、今後、平均身長5フィート9インチ(≒175cm)、体重160ポンド(≒60s)の男性労働力に合わせて職場を設計することはできないのである。事業者は、女性及び他の文化を持つ人々を考慮して職場を設計しなければならないのである。”と彼は語った。
 高年齢化する人口については、同様に多くの他の方面でも、職場に影響を与えていると調査研究員達は語っている。ベビーブーマーが60才を過ぎて働く一方、彼らは概して70才代、80才代にも働こうとしているわけでは無い。2020年迄、多くのベビーブーマーは、ポストブーマーが代わりになるよりも早く退職するので、労働力不足となる。シスコによると、4人のベビーブーマーの退職を2.5人のポストブーマーの比率で置き換えることになるとのことである。
 フレッド・ドレンマン(カリフォルニア州オジャイ、安全衛生プログラムにより事業者のコンサルティングを行っているコンサルティング企業チーム・セイフティ社(Team Safety Inc.)社長)によると、事業者は、高年齢労働力のニーズ対応を積極的に行わなければならないと話している。
  肥満、運動不足及び栄養不足は、全米で問題となっているので、事業者にとって、この点は、高年齢化に取り組む良い出発点となるとドレンマンは語った。さらに、職場適応プログラムを設定している事業者は、投資に関し重要なリターンを認識していると付け加えた。
 “より良く適応した人々は、欠勤が少なく、生産的で、精神的ミスが殆どなく、筋骨格系傷害も起こしそうにもない”とドレンマンは話している。さらに彼らは、積極的な心理社会的な風土を職場で創る。事業者が労働者の安全衛生に一日10〜15分間、注意を払うだけで、そこで働く労働者は、奮い立たされるのである。これによりモラールが高まり、気分が良くなる”と語った。
 時には労働者は、OJT適応活動に参加することを躊躇しがちであるが、幹部であるスーパーバイザーが参加することで、解決可能である。“もしスーパーバイザーが不参加の場合は、労働者は参加をためらうだろう。鍵となるものは、事業主が労働者集団、あるいはチームをこの演習に参加させる方法をスーパーバイザーに教育訓練しなければならないことである。これこそが鍵である。”とドレンマンは語った。

必要な知識

  ジェームズ・グロシュ(シンシナティ、NIOSH心理学研究者)は、調査のペースを加速する必要性を語った。ヨーロッパでは、米国よりも明白な高年齢化する労働力問題があり、国の研究機関の労働調査項目の一部として、介入計画による研究が進められていると話した。
  米国では特別の業種に対して、この問題に取り組み始めたばかりである。例えば鉱業は、若年鉱夫が移動するので、高年齢で退職する鉱夫の職場知識にどのように取って代わるかという重大問題に取り組んでいるとグロシュは語った。建設業でも又、教育同様、同じ様な問題を抱えている。
  “高年齢化が仕事としてどのように影響を及ぼすかについて学ばなければならない多くのことがある”とグロシュは話す。“例えば、高年齢労働者は、若年労働者に比べて、より環境ばく露に影響を受けやすいという、この種の多くの研究は、すべての労働者と一緒に成されてはいないが、70才代、80才代、90才代の人々に対して行われている。職場ばく露と感受性の問題について我々は殆ど知らない。
  ”グロシュによると、高年齢労働者は、将来長い間、職場に定着することになるだろうとのことである。
 この先25年ないし30年間、我々と一緒に仕事しようとしていると彼は語る。“多くの労働者は、退職時点で選択肢を有している。長く働こうとする人は、家計の問題、労働から得られる本質的な生き甲斐、労働安全衛生など多種多様な要因に影響されるということを発言する人々が多い”とグロシュは語っている。

 
高年齢化する労働力
1980年代半ばから米国労働力は高年齢化しつつある。これは、政府統計による1962年から2008年迄の予想される米国労働力の平均年齢である。


資料出所:労働省労働統計局2004
(Bureau of Labour Statistics, 2004)