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墜落・転落防止について理解する
企業も労働者も、なぜ死亡災害の最大原因である墜落・転落にもっと注意を払わないのだろうか

Getting a grip on fall protection
Why companies and workers don't pay more attention to a leading workplace killer

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2004年12月号p.30-34
(仮訳 国際安全衛生センター)



記事内容早わかり

 墜落・転落は依然として職場の問題であるが、ほんのわずかな改善は見られる。

要点
  • 墜落・転落は、大企業よりも小企業にとっての問題である。大企業では墜落・転落防止プログラムを完備しているだけでなく、それを実際に運用している場合が多いことがその理由のひとつである。
  • 企業は墜落・転落に対する積極的な対策を講じていない場合が非常に多い。
  • 事前に救助(レスキュー)方法を計画する必要があることを"理解"している企業が増えている。これが、より高機能のレスキュー用具の必要性を生み出す可能性がある。
  • 近々出されるANSI Z359の改訂版は、より包括的になり適用対象も広がる。改訂版ではまた、今後処理されるべき問題についても示唆している。
詳細について
 ANSI Z359の改訂状況については、www.asse.org の「Publications and Standards」で確認されたい。


 墜落・転落は、労働現場での主な死亡原因のひとつであり、労働省統計局(Bureau of Labor Statistics)の最近の「労働死亡災害調査(National Census of Fatal Occupational Injuries)」によると、2003年の全死亡災害中12%を占めている。墜落・転落はまた、全労働災害においても大きな割合を占め、全米安全評議会(National Safety Council: NSC)発行の「Injury Fact」2004年版によると、2002年には低所への墜落・転落による非死亡災害は86,946件に及んでいる。
 このような統計に見られるように、死亡災害の大きなリスクがあるにもかかわらず、墜落・転落防止措置(Fall Protection)は、最も違反が多いOSHA規則のひとつである。違反が多い規則の第1位は足場(Scaffolding、1926.451条)であり、墜落・転落防止措置(1926.501条)は第3位となっている。この2つの項目で、2004年にOSHAは、墜落防止システムや手すりの不備や、開口部における労働者保護措置の不備等により、14,362件の是正勧告を行った。
 では、この問題に対処するために何がおこなわれているのだろうか。建設業では(一般産業の場合も)、墜落・転落関連の死傷災害を減少させるためにどのようなことに取り組んでいるのか。「Safety+Health」誌は、墜落・転落防止の分野における何人かの専門家に、現状について語ってもらった。


墜落防止プログラムは増加しているが、実施は不十分

 建設業においては、現場におけるすぐれた総合的な墜落防止プログラムを作成する企業が増えている、Fall Safety Solution社(デラウェア州ウィルミントン所在)CEOであるナイジェル・エリス(Nigel Ellis)氏は語る。しかし、これらのプログラムが実施されている企業にはめったにお目にかかれないという。
 「総合的なプログラムは立派でも、現場に特化されたプログラムは存在しない。そして、総合的なものであれ現場に特化されたものであれ、それは守られていない。企業レベルでは良いことをしているのだが、現場レベルで見ると全く役立っていない」
 エリス氏いわく、この理由の1つとして、一般的に管理者も労働者も、墜落・転落災害を完全に防止することは不可能だと信じていることがある。さらに、墜落・転落の危険について、そして墜落・転落防止器具を使用するための適切な教育を受ける必要性について、事業者が労働者に適切な教育訓練を実施していないこともある。「墜落・転落防止の重要性を、まだ理解していないのだ」と彼は話す。
 さらにエリス氏は、墜落・転落は大企業にとってはさほど問題ではないという。「最大手企業は適切に対応しており、すでにこの問題を克服しているように思う。問題は、一段下のレベルの企業である」
 大企業は、墜落・転落防止手段、方法を模索するなどの対策を実施している。そして設計段階から、建築家とゼネコンと連携をとって作業している。最大手企業はまた、下請企業のモニタリングをしっかりと実施している。「多くのゼネコンでは、下請企業のモニタリングは大変手薄である。監督者の多くは、安全順守は下請企業の責任だと確信している。ところが、契約上では安全責任はゼネコンに課される」とエリスは語る。それには、墜落・転落防止措置も含まれている。


条件反射的な墜落・転落防止対策

 ITAC Fall Protection Services社(バージニア州チェスター所在)のプログラム責任者であるジョン・ホイッティ(John Whitty)氏にとって最も困った動向は、先を見越した墜落・転落防止対策に取り組まない企業があまりにも多いことである。「いまだに多くの企業が、条件反射的な墜落・転落防止対策から抜けられないでいる。災害や死亡事故、OSHAの是正勧告に直面してはじめて、墜落・転落防止に目を向けるのだ」
 ホイッティ氏は、墜落・転落ハザードアセスメントに関する彼の会社の経験をもとに、見解を説明した。
 ITAC社は、毎年およそ75〜100件の墜落・転落防止プロジェクトを実施しており、その各々に墜落・転落ハザードアセスメントが含まれている。この中で、およそ3分の1は、日常の安全プロトコル――積極的な安全文化の一部分――として、ITACに業務を委託している。3分の1は、完全に法の遵守のためという理由で委託している。残りの3分の1は、最近死傷災害が発生したため、アセスメントを実施するよう言われて委託している。
 このように、墜落・転落防止に重点的に取り組んでいないことが、墜落・転落に関する死亡災害が依然として高い傾向を示している一つの理由である、とホイッティ氏は語る。おろそかになっている積極的な墜落・転落防止対策の中で、多くの事業者が見過ごしている大変重要なもの――それは教育訓練(トレーニング)である。「OSHAの基準に完全に従った墜落・転落防止システムを使っていながら、墜落・転落し、傷害を負い、あるいは死亡する多くの労働者がいる。彼らはただ、墜落・転落防止システムのデザインや設置方法、使い方について適切な教育訓練を受けていなかっただけなのだ」とホイッティ氏は主張する。
 墜落・転落対策を軌道に乗せるためには、よりきめ細かな教育訓練とともに、墜落・転落ハザードの軽減に重点を置くことが必要だ、とホイッティ氏はいう。多くの企業が、墜落・転落防止のための方針と用具だけでは不十分であることを認識し始めている、と彼はいう。


救助(レスキュー)への認識の高まり

 Safety Through Engineering社(オハイオ州ニューカーライル所在)の社長であるマイケル・ライト(Michael Wright)氏によると、全般的に、救助(レスキュー)、そして墜落・転落防止におけるその重要性についての認識が高まっている。「人々は、このことを真剣に考えはじめたようだ」と、彼はいう。というのも、「誰かを救助するためには、どんなレベルの教育訓練が必要か。どんな機器が必要か。脚立、リフト、レスキュー用ロープが必要」といった質問を受けるようになったからである。
 事前に計画された救助対策を「墜落・転落防止計画の中で、最も見過ごされていた要素」と呼ぶライト氏は、救助対策は、墜落・転落防止計画の中に記述されていながら、一般産業においても建設業においても、ほとんど考慮されていなかった部分である、という。救助といえば、通常は緊急サービスに頼ることを意味する、と彼はいう。
 「全ての人々にとって、救助というのは予期せぬ出来事であった。したがって、誰かが墜落・転落すると、他の人々ははしごを見つけようとして走り回ったり、救急車(911)に電話するなどして、2時間後にようやく被災者を地上に降ろすことになる。さて、この被災者は助かっただろうか。どうだろう?」と、ライト氏は説明した。
 今や一般産業においても建設業においても、救助とは、労働者が高所で作業を開始する前に事前に計画された迅速な救助であると定義づけられなければならないと"理解"し始めている、と氏はいう。
 事前の救助計画は、エンドユーザーに影響を与えることはない。しかし製造会社には大きなインパクトを与えるものである。事前の救助計画を重要視することは、「より優れた墜落・転落防止装置の必要性を生み出すことになる。産業界は進歩しなければならない」


改訂版ANSI Z359.1

 ホイッティ氏もライト氏も、標準分野での活動――特に墜落・転落防止規格であるANSI Z359.1-1992の改訂作業について――楽観的見通しを示した。Z359委員会委員であるライト氏は、次のように発言している。「規格が一般産業界にとって、強力かつ積極的な墜落・転落防止計画を設定する際のマニュアルとなることを願っている。さらに、近い将来に起きる事態を予測するための大きな助けとなってくれることを願う」
ホイッティ氏は、改訂版の規格が、ほかのどこでも得られなかった「待ち望まれたガイダンス」を提供してくれるだろうと言う。
 従うかどうかは任意だが、この規格は大きな影響を及ぼすものである、とライト氏はいう。彼自身の会社も、裁判の時に訴訟援助サービスを提供している。「産業界のスタンダードはANSI規格でなければならない。いざ訴訟となれば、ANSI規格にもとづく説明責任が問われることになるだろう」と、彼は警告する。
 現在おこなわれている改訂は、1999年に最終確認され、もともとのZ359.1-1992を全面的に見直ししたものである。
 Z359委員会議長のランディ・ウィングフォールド(Randy Wingfield)氏によると、全面改訂をするという決定は漸進的なものであった。もともと委員会は、通例「.0」、「.1」、「.2」などと表されるように、別の規格として追加しようと思っていた。しかし改訂作業が進むにつれ、委員達は各々の新しい規格案は「他の姉妹文書がないと、どうも役に立たない」ということを認識し始めた、とウィングフィールド氏はいう。現実に役立つものであるためには、その他の部分と調和のとれたものになるように、情報は1つの文書でなければならない。その結果、「製造業者であれ、エンドユーザーであれ、あるいは高所作業を実施する労働者の監督者や管理者であれ、今や全ての関係規格を1つのパッケージあるいはバインダーとしてまとまった形で手にすることができる。もはや、「.0」、「.2」、「.3」を参照せよといったことはなくなり、Z359.1シリーズの規格として知られるようになり、将来的にセクションを追加することもできる。したがって、皆さんがそれをセクションの集まりとして考えるようになれば、より使いやすいものになるだろう」と、ウィングフィールド氏は語った。
 この規格は今や高所作業を実施する、あるいは、高所作業者に責任を有している全ての人々に適用される。「この標準が影響を及ぼす可能性のある人々の多さに、我々は胸をワクワクさせている」と、ウィングフィールドは語る。労働者保護のための方法やベスト・プラクティスを模索している多くの積極的な企業は、もはや苦労して独自の方法を考え出す必要はない。しかし規格は、「自社のプログラムを推進・策定する資力を持っていない小規模企業のことも忘れてはいない。今や、小規模企業でも購入して実施することができるものがある」と、彼は語った。
 ウィングフィールド氏は、策定された墜落・転落防止プログラムについてのサブセクションがもっとも興味深いと考えている。この部分は、現在約85ページから成る文書であり、最終的に完成した時には250ページになるものと思われる。
 「我々は、かつて触れたことのない分野に飛び込みつつある。OSHAの法令ではあまりに漠然としているので、教育訓練、再訓練、プログラム管理者や有資格者などといった人の特定について、我々はその隙間を埋めようとしている。このことは管理対策についての新しい考え方であり、解釈である」と、彼は語った。
 委員会ではまた、ごく簡単に触れられただけではあるが、規格に将来の方向性を与えるような多くの新規項目についても検討する機会を得た。
 「われわれは、たとえば命綱について、技術界向けの設計基準作りを模索している。現在の改訂作業の負荷から解放されたら、そのほかの種々のプロジェクトについても議論される予定である」と、彼は語った。
 ウィングフィールド氏は、規格案がスムーズな投票により決定されることを期待していると語った。委員会レベルで言えば、「じつにワクワクすることだ。新しい規格が、これまで規格などなかった業界の人々に浸透し、とりわけ管理された墜落・転落防止対策に取りいれられる。規格は、墜落・転落防止プログラムの策定方法の概略を示すもので、我々皆にとって興味深いものである。それは、これまでの産業界に全く欠けていたものであった」
 規格化の事務局である米国安全技術者協会(American Society of Safety Engineers: ASSE)によると、新規格は2006年1月に公表予定である。

墜落・転落事故の発生場所
低所への墜落・転落による死亡者数(業種別、1993年〜2002年)


出所:National Safety Council, "Injury Facts, 2004