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協力の力
POWER OF COOPERATION

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2005年1月号p.26
(仮訳 国際安全衛生センター)



新しい電気的ハザードに直面する救急救命士、電気工事者

 消防士、電気工事者及び救急救命機関(EMS)は、常に電気的ハザードに気を配らなければならない。車両衝突、建物火災、大災害及び洪水にいたるまで殆どの事故処理においては電気による危険を伴う。
 この危険は、垂れ下がった電線、車両のバッテリの配線、及び建物の中のむき出しになっている配線又は電気機器や架線の部品によるものである。
 救急隊員と電気工事者が協力することは現場の作業者を保護する上で基本である。


 NIOSHによると、電流での死傷災害には、電撃、火傷、電気エネルギーとの接触による墜落・転落及び感電の4つの型がある。
 電撃とは、電流が体内を通過することにより、傷害が発生することである。感電死とは、電撃による死亡災害である。
 NSCによると、2001年(これが、利用可能な最新のデータのである)、米国で409人の人々が、電気エネルギーとの接触で死亡している。

垂れ下がった電線

 電気災害で、最も頻繁で、最大の危険源の1つは、垂れ下がった電線である。国家登録救急医療士リチャード・パトリック(ペンシルベニア州ヨークのボランティア消防士補償サービス会社緊急サービスプログラム部長)によると、消防士は、車両衝突処理の間に、垂れ下がった電線に遭遇する機会が最も多いとのことである。
 パトリック(安全工学修士、公衆安全修士及び消防士、救急医療士及び所長として緊急サービス分野で27年以上もの経験を有している)によると、垂れ下がった電線に遭遇する確率は、車両衝突の場合が断然高い。
 垂れ下がった電線のある車両衝突事故の場合、消防署は、全てのハザード対策を実施しなればならない。 “救急救命士は、まず立ち止まって、全体の状況を判断し、情報に基づいて判断し、視野が狭くなって興奮したまま突入をしないようにしなければならない”とパトリックは指摘している。消防士は、適切な状況判断を行わずに、危険の中に突入しようとする傾向にある。
 事故命令系統での重要な約束事としては、現場で秩序を保ち、ハザードを評価し、対応を計画するということが重要である。全ての電線は、何らかの方法で確かめられるまでは、活線であると考えなければならない。
 “心配する必要のあるのは、電線だけであると思うことは、消防署の一部の人々における、重大な誤りである。”とパトリックは語る。“緊急対応を行う者の中に、ある電線とその次の電線が違うことを知らないものもいるかもしれない。ケーブル線も電話線も全て、電気エネルギー源である。この種の電線にも、火災を起こしたり、あるいは電撃の原因となったりする十分な電気エネルギーが存在する可能性がある。そして、もし車両の衝突現場に遭遇した場合には、ケーブル線だけを心配するのではなく、そのケーブル線は裸線で、ガソリンの滴りの中に浸っていないか−あるいはガソリン蒸気が周囲に漂っていないか−発火や爆発の可能性はどうか等を考える必要がある。”
 まず第一にやることは、現場の安全確保であるとパトリックは言う。消防士は活線処理に当たってはいけない。消防士は、そのようなことをする訓練を受けていないし、電気工事者が電線取扱いの際に使用する絶縁棒(ホット・ステッキ)のような適切な機器も持ち合わせていないのである。消防用器具は、例えばパイクポール(pike poles)は、木製あるいはガラス繊維製のもので、絶縁されたホット・ステッキとは同種のものではない。このパイクポールは、湿気が十分に含まれていたり、伝導体となり得るように汚れていたりする場合があると、ミルウォーキーに本拠を置くウィ・エナジー社(We Energies)は話している。
 同じく、標準的な消防士集団は、適切な感電防止対策を取っていない。‘消防士は、ゴム長靴を履くな’と言う人さえいる。消防士は、多くの場所でゴム長靴ではなく、革靴を履いているようである。ある程度アースされているかもしれないが、多くの人々は、消防士の靴に多くの金属が使用されている点を認識していない。土踏まずの部分が金属で、靴先も金属製になっている。従って通電し易く危険であるとパトリックは語る。
 それでは、消防署はどうすれば良いのか。もし電線が現場に垂れ下がっているとしたら、事故現場指揮者は直ちに電力会社に通告し、電線を除去するか、通電停止をするようにしなければならない。消防士は、専門家でないとパトリックは語った。消防士は毎日どこが活線で、どこが活線でないか、どのような電流が電線内を流れているのかについての知識がなく、種々の状況に対応できないと彼は話す。
 パトリックによると、いくつかの所轄署では、911緊急係は、消防隊を派遣すると同時に、自動的に電力会社に通報するようになっている。
 パトリックによると、多くの地域では、電力会社は、この種の事故に迅早に対応するようになっている。
 国家海洋大気局(Oceanic and Atmospheric Administration)によると、送電線は、50万ボルトもの電圧で送電しており、消防士は電線だけを心配していればよいという問題ではない。電線が車に接触している場合、電気を帯び、車に触れることで、電気傷害の原因となる恐れがある。同様に、湿っている、あるいは雪で覆われている地面は、電気を帯びる可能性がある。そして電流は数フィート離れた物体、−例えば車であったり、人間であったりするが−に通電する可能性がある。
 もし車に居る人に意識がある場合には、電力会社がその付近が電気を帯びていないことを確認するまで、車の内部にとどまるように車中の人に伝える。車が火災を起こした場合だけは、車を離れるべき唯一の状況である。このような状況の場合、車中の人はドアを開けなければならないが、外に出てはいけない。車から両足を揃えてジャンプして、完全に離れるように車中の人に伝え、電気を帯びている車両及び地面に同時に接触しないようにする。その後、車中からジャンプして車外に出た人は、両足を揃えてピョンピョンと飛びながら、できる限り遠くに離れなければならない。
 消防士は常に注意を怠ってはならない。なぜなら、別の電線や導体が落下してくるおそれが常にあるからである。

ハイブリッド車両のユニークなハザード

 救急救命士が衝突現場に到着し、電線が垂れ下がっていない場合、感電リスクを考慮しなくても良いということにはならない。車両のバッテリーによる電気や火花により、救急救命士は、電撃を受けたり、着火したりする可能性がある。
 “救助隊員が現場に到着した時に最初に行うことのひとつに、バッテリーを取り外すということがある。救助及び脱出作業中には、バッテリー端子を取り外す。もし燃料漏れや、あるいはタンクに亀裂がある場合には、着火ハザードを取り除くようにする。”とパトリックは語る。
 最近増えているハイブリッド車両の流行により、消防士及びEMSは電気的ハザードを緩和するため、新しい犠牲者救出技術を身につける必要がある。
 ハイブリッド車両は、多くの場合、電気及びガソリンの組み合わせにより、走行する。又、多くのハイブリッド車両は多くのバッテリーを持ち、感電あるいは着火のリスクを増加させているとパトリックは語った。消防士は、全てのバッテリーが取り外されていることを確認しなければならない。
 ハイブリッド車両は、時には38モジュールから成る高圧バッテリーパックを持ち、メーカーにもよるが、合計で275ボルトにもなる。
 この車両は通常、更に補助バッテリーを有し、その多くは、典型的な自動車用12ボルト鉛蓄電池である。時には、この補助用バッテリーは、トランクの中に据え置かれている。
 電流はバッテリーパックが切られた後も5分間は高圧電気系統に残ったままになっている。パトリックによると、消防士は、車両設計変更に対応した新しい救助技術特別訓練を受けなければならない。
 全国にある多くの消防学校は、このコースを提供するか他の施設との連携を行っている。個々の消防署は、定期刊行物を読んだり、オンライン教育を受講したり、消防署に指導員が来署したりすることにより、この学校施設以外の利用が可能となっている。ノース・ダコタ州の小さな地方都市から、フィラデルフィアの市内まで、この種の訓練が容易に利用可能であるとパトリックは語った。

火災現場における電気ハザード

 救急救命士が電気的ハザードに対応する事故が車両衝突だけとは限らない。
電気リスクは、建築物火災の場合に多く見受けられる。消防署が現場に到着した際に一番初めに行うことは、建築物の電源遮断を確実に行うことである。これは特に、電気火災の場合に重要であるとパトリックは語る。
 火災が電気により勢いを増す場合、火災消火のためには電源をまず、遮断しなければならないとも言う。
 家庭内及び商業ビル内の通常電流でも消防士を死に至らしめることもあり得る。消防士は、隠れた火の気を探したり、通気をよくしたりするために、時には壁、床、あるいは天井を壊さなければならない。金属製の器具を使用することで、これらの構造物の中にある電線と接触して、重大な感電死というハザードを引き起こすことになる。又、爆発及び構造物の倒壊により、通電した電線にばく露されることがある。
 更に消防士は、金属製のはしごのような機器、装置を立て掛けたり、据え付けたりする時には、電線から安全な距離を確実に保つよう、十分注意しなければならない。消防士は、濃い煙が立ち込めている箇所では、できる限り、作業を避けるべきである。というのは、煙自体が帯電し、電気導体となり得るからであると国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は説明している。更に、消防士は、通電している電線や機器付近では、強い水流をかけないようにしなければならないとも説明している。
 事前の事故対策の作成時に地方の電力会社を入れることは賢明な動きであり、消防士が、損害を受けた電線のある建物や区域に入る前に電気的ハザードが確実に取り除かれることとなる。現場における全ての組織は、事故命令系統に従い、おのおのの役割、責任及び手順をしっかりと理解することが必要である。