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NSC発行「Safety + Health」2005年3月号

ニュース


ISTD(設計段階からの安全研究所)、閉所間近ながら影響力大

 10年前、ISTD(Institute for Safety Through Design: 設計段階からの安全研究所)は、全米安全評議会(NSC)内に設立された。ISTDの設立許可状は、今年失効するが、「人間の使用に供するシステムの設計・開発に、安全衛生・環境配慮を組み入れる」未来をめざすと規定した目標へと、産業界を前進させたISTDの功績は、注目に値する。
 ISTDは、設計段階からの安全(safety through design)を「ハザード分析やリスクアセスメント手法を設計・工学管理の初期段階に取り込んで、必要な対策を講じ、傷害や損害のリスクを許容水準に抑える」と定義した。
 この概念は、施設、ハードウェア、機器、製品、工作機械器具、資材、エネルギー管理、レイアウトや配置を包含する。ISTDの任務は、「設計の全段階にわたり、安全衛生や環境に影響する判断を組みいれることにより、傷病や環境破壊のリスクを減らす」ことであった。
 任務を達成するため、ISTDは、三つの戦略を採用した。
  • 設計段階からの安全の知識や概念を拡充する。
  • 卒業して技術者となる学生の安全衛生や環境問題に関する知識を高めるため、工学課程コースの教材を開発する。
  • 学校、社会、産業や労働組合との連携を確立して、啓発する。
 ISTDは、任務をさらに追求しようと、これら対象グループ別のツール・教材開発に注力した。これらの分野を調査した結果、ISTDの所員らは、設計段階からの安全に関しては、もっと多くの情報を安全業界や工学業界と分かち合うべきであるとの意見で一致した。これを達成しようと、ISTDは、NSCと米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers)が提案した「設計段階からの安全(Safety Through Design)」を著述した。この本は、設計段階からの安全について、一般的な概念や、これを事業プロセスにどう組み込めばいいか、また、これらの概念を実地にどう応用したか、6産業における設計段階からの安全の実践例を盛り込むなどして、紹介している。「設計段階からの安全」は、現在、NSCのwww.nsc.orgで入手できる。
 ISTDはまた、NSCの年次会議&展示会や多数の企業の現場で、「設計段階からの安全の原理と実践」について一連のセミナ−を開き、知識を共有した。セミナ−では、次の事項に焦点をあてた。
  • 設計段階からの安全の概念と手法
  • 設計段階の初期に安全の概念を組み込む利点
  • 設計段階からの安全について、基準点を設定する原則
  • 職務別危険分析やリスクアセスメントプロセスの原則
  • 設計段階からの安全計画の開発と実施
 ISTDは、過去10年間、さまざまな方法で、産業、工学、教育、安全の各界に奉仕してきた。  ISTDは、多数の団体が、既存プロセスの「後づけ方式」から、安全衛生・環境配慮型の新しいプロセス設計へ移行するのを支援し、また、次世代の技術者らが、こうした安全・環境配慮は、各自の設計や各自が勤める企業全体や社会に「価値を付加する」のだと認識するよう、大学が指導していくのを支援した。
 設計段階からの安全は、産業に重大な影響を与えている。実業家や産業界は、未来の競争課題に対応するため、設計段階からの安全をより良く、より効率的に活用している。これにより、製品やプロセスへの許容しがたく、割高な後づけ方式を排除していく。「迅速に、より良く、そして安く」をめざす産業界の要請に応えるには、無駄のない製造を設計しつつ、リスク軽減を図ることが、鍵となろう。 


今後のISTDの使命は?


 ISTDは閉所するが、主要メンバー、ブルース・W・メイン(Bruce W. Main)、ウェイン・C・クリステンセン(Wayne C. Christensen)、フレッド・A・マニュエル(Fred A. Manuele)、マイケル・トービッツ(Michael Taubitz)、とジム・ハウ(Jim Howe)は、ISTDが提起した課題に、どう光を当て続ければよいか、次のように提案した。
  • ISTDは、過去の功績を生かし、主要な専門家団体や産業団体の合作の力を取り込んだイニシアチブを再編すべきである。関係者らは、ISTDの設置期間中に培われた勢いを増進せねばならない。産業界、労働界、専門家団体、官界、学界などの利害関係者らを協調させるよう、努力を払わねばならない。
  • 設計段階からの安全について、米国規格協会(American National Standards Institute: ANSI)基準化を検討すべきである。今後の活動の第一歩となるよう、近い将来にANSI基準を開発すべきである。これは、産学双方のニーズに資する大きな一歩となり、設計段階からの安全を支持する人々の間の意思疎通を存続させる。
  • 活動はすでに始まってはいるとはいえ、工学課程に安全を組み入れることは、いまも、明日の技術者を成功させるための主要な優先課題である。
  • 安全は、無駄のない製造の設計に組み入れられなければならない。安全が設計に十分組み込まれていないと、産業界は、無駄のない製造(廃棄物を最小化する)に到達することはない。後づけ方式の安全対策は、無駄を排す概念の対極に位置する。
  • 得た教訓や、設計段階からの安全を推進する「ツール」は、このプロセスを前進させる一助とするために、また、本概念は初めてという人々と解決策を分かち合うためにも、伝達・拡散されねばならない。設計段階からの安全の概念については、現在、技術者や安全専門家を対象とした教育は行われていない。
  • 設計段階からの安全の概念は、安全問題を設計段階で把握、分析して、これに対処できるよう、CADのような工学設計ツールに定着させる必要がある。