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安全教育における災害体験談の重要性
TELL ME A STORY
How experience and people help teach safety

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Safety+Health」2005年5月号
(仮訳 国際安全衛生センター)


 

文字が発明される以前に、また、最初の洞窟の絵が壁に描かれる以前に、人類は体験談から学んだ。これまでの何千年もの間、物語というものは、急速な技術開発及び世界中で情報が瞬時に伝わる今日においてさえも、文化的発見と相互理解の重要な役割を担っている。
 この点について職場の安全を見ると、体験談はいつもハザードの重大性を説明するのに重要なコミュニケーション手段となっている。体験談は、しばしば教育訓練で、仕事のやり方 を学んでいる新入社員及び若年労働者に対し、用心のための教訓としても活用されている。
 エライン・キューレン(ワシントン州NIOSHスポーケン調査研究所コミュニケーション課長)によると“体験談が大変効果を発揮する一つにはその経験を分かち合うことができることにある”という。更に“大変危険な環境で皆さんが作業している時、人々がよくないことを直接経験することは、皆さんは本当に望んでいないでしょう。そこで、皆さんが出来ることは人々を危険な目に遭わせることなく、その危険について人々に教えることである。”と語る。
 経験豊富な鉱夫で記録家でもあるキューレンは、次のように語った。作業者が新しい仕事を始める時には、いつも情報攻めにされ、そしていつも情報をうまく処理できないでいる。作業者は規則や手順を覚えるのが苦手で、そして特に文書化されたガイドライン、図表あるいは統計を忘れないで記憶することも苦手である。
 そのようなものを人々が理解するためには、語って聞かせることが大変有益である。一つの規則を破ったり、あるいは一つの規則を無視したりしたために、何が起こったかについて語る時、突如としてその情報が実感されるようになる。皆さんは、このようなことを良くはっきりと覚えているでしょう。もし、皆さんが多くの情報に圧倒されるような場合、大変危険と思われる事柄を無視してしまうことになりかねません。語って聞かせるということは、この点を補うことになるとキューレンは話している。

リスナーとの関係

 訓練中、作業者と意志の疎通をはかるためには、講師が聞き手に重要な情報を、いかに印象深く伝えるかということが求められている。このことの意味するところは、どんな題目で訓練を行い、誰に訓練を行うかということを知った上で、聞き手に最も適した心象を創りだすところにある。“多くの人々はありありと光景を目にうかべて学習する。”とジム・ソロモン(NSC災害防止運転コース計画開発訓練部長)は話す。続いて次のように語る。“皆さんが語って聞かせる時、脳が上手にやろうとする心象を描いているのである。
 ”ソロモンによると、体験談の出来事全ての詳細を人々に示す必要は無いとのことである。残念ながら、何人かの講師は善悪のみで考えているので、上手に体験談を語る方法について知らないのである。例えば、“我々は第7部所に一人の男を配属した。彼は自分のはしごを結わえなかった。それで、彼は死んでしまった。これだけしかない。これが体験談であるという。誰もこんなことは覚えていようとはしない。”とソロモンは語る。
 “人に体験談を語って聞かせることは、言葉を心象でとらえることである”… ‘我々は、トニーという名前の男と共に働いていた。トニーは長年第7部所で働いていた。かれはとても良いやつだった。彼には妻と3人の子供がいた。彼は野球のリトルリーグチームのコーチをしてて家族思いの男だった。ある日トニーは、漏電を修理するために派遣された。彼は今回の他に3度同じ様なことをやっていたので、今までと同様に、はしごを立て掛けた。誰かの助けが必要なことは解かっていたが、彼は1人で行わなければならなかった。彼は、はしごの基部に置かれているコーン(円錐形の標識)を用意しなかった。また彼はそこにすこしいるだけだと思ったので、はしごを結わえなかった。その結果、フォークリフト運転手が、はしごが目に入らずにバックしたため、はしごを引っ掛けて、トニーを落下させたため、トニーは、フォークリフトの一方のフォークに突き刺さってしまった。’
 “今度は心象でとらえることができる。このように体験談を語って聞かせることが大切である。
 ”体験談を語って聞かせる人は、話を装飾することは自由であり、また特に実際に出来事を身近に体験している人が疑問に思う情報については取り除くようにする、とソロモンはつけ加えた。講師は、トニーの名前や彼の部所を挙げる代わりに、聞き手に応じて、誰がどこでといった事を変更することが可能である。 “私は自分で心象を描くことができる。7フィート4インチの男も描けるし、彼を4フィート11インチにすることもできる。私は、憂うつそうにも、元気そうにも描くことが可能である。”と、ソロモンは語る。“体験談を人に語って聞かせる限り、特別なことがそこにある限り、そして適切な訓練である限り、それは良い体験談なのである。”
 ソロモンもキューレンも同意しているように、体験談が関連性がある限り、体験談は色々な方法で語られる。時にはユーモラスであったり、時には悲しいものであったりする。しかし体験談が成功するためには、講師と聞き手との間の障壁を取り払うものでなければならない。“皆さんは、話しを十分興味のあるものにしなければならない。そして聞き手は何が起こったのかを知ろうとすることである。皆さんは、聞き手が決して、しないような事について聞き手に教えるならば、相手は無視してしまうでしょう。”とキューレンは言う。

物語を通して文化を創ること

 安全について的を射るために、しばしば体験談を使うのは、講師だけではない。例えば鉱業、建設業、製造業といった多くの危険な職業においては、労働者の間に口述の伝承がある。ベテランの労働者は本当に良い仕事をした人々、あるいは悲劇的にも死んでしまった人々について十分語って聞かせることにより、新入社員を自分達の文化の中に導かなければならないということを信じている。キューレンは硬岩の鉱山でビデオを取っている最中、直接このようないくつかの物語を体験した。ある時、新入社員がミスをしたのを彼女が目撃した時のことだった。その時は、しわがれ声の年配の鉱夫が同じ誤りをした人のことについて語って聞かせるため、彼を脇へ引っ張って行った。この体験談は、鉱夫自身に関するものではなかったが、“そうすることで、鉱夫は、ニッパーと呼ばれる鉱山のアシスタントである新入社員が自分の行動が正しくないことを分からせた。話はケガをした他の人についてのものであった。この新入社員は、緊張したり、自尊心を傷つけられたりすることなく、明確にこのメッセージを受け止めた。”と彼女は話す。
 皆さんがどのような業種で働いていたとしても、体験談は、人々に共感をもたらすものであるとキューレンは言う。もし作業者が体験談を語ることによって事故再発防止ができるならば、作業者は、喜んでそうするだろう。教室で全てが教えられるわけではない。多くの作業者は、自分の技能を、知識を持った人から学び、その知識を受け継ごうと望んでいる。このような人々は良き助言者、指導者であり、体験談を語ることのできる人である。
 しかし、過去の出来事についての知識を経験の無い作業者に受け渡すことは容易なことではない。体験談の中には、語ることが難しい点のあるものもある。というのは、体験談は極めて個人的なものであり、体験談が労働者の生活にとって通常でないトラウマとなる場合があるからである。キューレンの2002年のドキュメンタリー、“君は私の太陽”は、1972年5月2日、アイダホ州シルバー・バレーで発生した、忌まわしいサンシャイン鉱山火災の生存者とのいくつかの大変感動的なインタビューであった。
 その日、173名の鉱夫のうち、91名が死んだ。幾人かの生存者が、発生した事故について語るまで、既に30年の歳月が経過していた。
 キューレンは自分の映画を完成させた時、アイダホ州ウォレス(シルバー・バレーにある町の中の1つで、コールドアレン鉱山地区として知られる所)でそれを初上映した。彼女はこのドキュメンタリーに対する鉱夫達の反応に驚かされた。“彼らはノロノロ歩かず、物を落としたり、互いに小声で話もしたりもしなかった。聞こえてきた唯一の声、それは私にとってショックだったが、人々が泣いている声であった。今となってはこの人々は頑丈な人達であるが、彼らが見た物が彼らの心に影響を与えた。私は、この人達がこのことを決して忘れないと確信している。”

経験を集めて、それを尊敬すること

 全ての作業場でサンシャイン鉱山災害のように悲しい体験談を語る訳では無い。しかし全ての作業場が安全を教えるのに役立つ可能性のある体験談を持っている。ソロモンとキューレンは共に言う。経営者側が作業者の言うことに耳を傾け、作業者の経験を尊敬することが重要であると。
 もし監督者が座って労働者に語りかけるならば、従業者はいつも必ず自分達の体験談を共有するでしょう。“皆さんがしなければならないことは、体験談を集めることに意味を見出し、そして、前向きであるということだと私は思う。”とキューレンは言う。 “私は鉱山で人々に話し掛け、何か良い体験談を聞いていないかどうかについて彼らに尋ねる。時折彼らが私の所にやって来て、このように言う。“今日は私に起こったことについてあなたに話したい”。体験談をより効果的に活用するためには、ソロモンは次のように語る。経営者側は、講師が誰であるかを見て、その講師を助けることができる相談相手を紹介しなければならない。“皆さんは彼らと共にほんの少しのことをするだけである。それを彼らが飲み込んで実施する。”と。“詩は歌に作りかえられる。もし皆さんが詩を書くことができる人を持っていれば、その人は歌を書くことができる。多くの講師にとって、そうすることを学びだしたところである。”
 体験談を語ることは何千年も続いている伝承である。今回の安全文化においては、体験談は、力強い精神的イメージを描かせることで、危険に対する意識を高揚させる。このようなイメージは作業者と共に存在し、作業者が安全について認識を新たにし仕事を遂行させることにある。 “もし皆さんが作業者の心を掴み、作業者が実施する方法に自発的な変化を促すようにすれば、作業者の行動を変えることができる。”とキューレンは言う。“安全訓練が全てであるということがここにある。”