業務中の傷害率は十代の若者のほうが大人より高い。
次のケガ人はあなたの職場か。 |
カレン・ギャスパース:アソシエィト・エディター
軽食や買い物で店に立ち寄ると、歯に矯正器具をつけたり、にきび顔だったりする十代(ティーン)の従業員が笑顔でレジ係を務めているのをよく見かける。2004年に、16歳から19歳までの十代労働者のうち仕事をして金銭を稼いだ者は590万人にのぼった。多くは小売店やサービス業での仕事だった。
雇用主にとっては、さまざまな面で十代の若者に優る労働力は得られそうもない。十代労働者たちはエネルギッシュで忍耐力があり、人を助けようという意欲を兼ねそなえている。クリスピー・クリーム・ドーナッツ社では、ドライブスルー部門とサービスカウンター部門の週末業務に、十代の従業員を応援部隊として配置している。同社は、米国ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムを本拠地としている。その安全環境サービス担当ディレクター、ラリー・ロスカーナ氏によると「十代の労働力は非常に優れた人材」だそうだ。「一般に、十代の若者は熱心で、人と協力して仕事ができる点が優れている。当社では、十代労働者のトレーニングをきちんと行い、彼らが特殊な任務につく場合には、安全に楽しく仕事の経験を積めるよう配慮している」とのことだ。
また十代は、一度規則をたたきこめば「たちまち物事の仕組みの中にハマってくれる」と同氏はつけ加えている。
一方、専門家からはこんな指摘もある。十代労働者の業務上傷害の発生率は大人より高い。だが、十代にできる職種や操作できる器具を厳格に制限し、最も危険な仕事から遠ざけているのだから、こんなことがあるはずないのだが。2003年に米国における、外傷や疾病により仕事を数日間休んだ十代の者の人数は、422,100人であった。米国労働安全衛生庁(OSHA)では、業務中の外傷が原因で若年労働者が救急治療室に運び込まれる割合は、10分間に1人と見積もっている。
カルフォルニア大学バークレー校と教育開発センター(Educational Development Center Inc. (EDC))(マサチューセッツ州ニュートン)では、共同で「全米若年労働者安全リソースセンター(National Young Worker Safety Resource Center)」プロジェクトを立ち上げている。このプロジェクトのコーディネータの一人で、EDCに勤めるクリスティン・ミアラ氏によると、若者に外傷が多いことにはいくつか複合した原因がある。第一の要因として経験不足があげられる。同氏によると「十代の若者が未経験労働者であることが主な原因だ。新人はけがをするリスクが高い。しかも転職を繰返して、いつまでたっても新人の状態にあるから、なおさらのことだ」。
第二の要因として、十代がいかにも仕事を求めそうな場所、つまり小売店やサービス業には、滑る、転ぶ、切る、やけどする、化学物質のばく露などのハザードが現実にごろごろしている点を、ミアラ氏はあげている。
またこれと相まって、十代の労働者には、訓練を受ける機会があまりない。ミアラ氏の指摘によれば、高校生を対象とした調査の結果として、採用時に安全訓練を受ける十代の若者は50%しかいないという。これ以外に実証されたこととして、人の体は十代の数年間に急激に成長するので、若年労働者は化学物質や筋骨格系の傷害を受けやすい。だが、十代労働者は然るべき監督を受けず、自分でも被雇用者としての権利について無知である場合が多いという。
十代の若者の外傷発生率が高いことが一つの理由となって、OSHAでは十代の労働者の安全を優先課題としてきた。同機関の産業保健看護学室と科学、技術、医学を管掌するディレクターを兼任するエリーズ・ハンデルマン氏は「十代の若者は特別なニーズを持った労働力だととらえている。彼らを、次世代の労働者として保護したい」と語る。
OSHAでは、支援計画の中に、十代労働者に権利の知識と責任の自覚を促すことを織り込んでいる。というのは、若年層の多くは、特に初仕事に着くときに自己啓発の意識が欠けているからだ。ハンデルマン氏の説明によると、「若年層は、現場監督や雇用主という大人だけでなく、経験を積んだ先輩の若年労働者に対しても、面と向かって意見が言えない。業務の前にハザードがあると思っても、遠慮して表現できないということが分かってきた。自分が、要領が悪い、あるいは役立たずだと思われるのを嫌がるためだ」。
車の運転
十代の若者が、業務で運転をしなければならない場合には、さらに特別な配慮が必要である。統計によると、18歳以下の業務上の死亡事故のうち、第1位が幹線道路での事故である。
全米安全協議会(National Safety Council (NSC))運輸安全グループ担当ディレクターであるジョン・ユルージキ(John Ulczycki)氏は「十代の労働者に、仕事の一環として車の運転をさせる場合には、自分の車であっても、雇用主は慎重な配慮を払わなければならない」と語る。
その理由の一つに、十代労働者の運転の経験、特にフルサイズバンやスポーツユーティリティ車両の運転経験の不足があげられる。ユルージキ氏は、これらの車両は「普通の乗用車と運転方法が違う。この難しさは、年齢に関係ない。然し運転経験の不足は特に十代労働者にとって問題である。」と言う。
ユルージキ氏は、雇用主に向かって、業務の一環として車両の運転をする十代の従業員について特別な制限を設けるよう、また、そうした制限は、一般の十代の新米運転者に推奨される制限と同種のものにするよう、提言している。同評議会によると、十代が衝突事故に巻き込まれるリスクは、運転経験1〜2年の頃が一生のうちで最も高いという。中でも最も心配なのが、夜間の運転と人を乗せた運転の2つだ。
ユルージキ氏は、「たとえば、(全米安全評議会から)16歳は夜間運転をしないよう、あるいは、特定の場合の運転だけに限定するようにとの提言を発すれば、雇用主の方では、夜間のピザ配達をはじめ、ホームセンター(hardware store)への夜間の納品回りや、郵便局や顧客などへの配達回りという業務に、16歳の若者を雇うことができなくなる。時間の節約だけを考えて、単純だと思える作業を十代の従業員に機械的にあてがうのではなく、十代に適している作業なのかどうかよく自問自答してみるべきだ」と述べている。
一目でわかる要点 |
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十代は、労働戦力の中で少数ながら強力な部分を占めている。十代が良い仕事経験を得られるような、安全で健康的な環境を創れるかどうかは、雇用主次第だ。
キーポイント
- 十代労働者が業務上の傷病を受ける率が大人より大きい原因は、主に経験不足。
- 十代労働者の権利と義務についての教育が大事。十代は、大人に異議を唱えることをためらう場合が多い。
- 十代労働者を雇用する者は、業務上の運転に特別な配慮をすべきだ。
- 十代にふさわしい安全訓練を行って時間や努力を投資しても、その後、優れた大人の労働力に成長してくれるなら、十分取り返すことができる。
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子どもたちを安全に
経験不足や冒険志向の強いことが十代労働者の安全性に関わる要因であるが、OSHAの十代労働者に関するウェブサイトには、業務上傷病の原因について、監督不十分、訓練不足、危険な器具、ストレスの多い状況、年齢不相応な業務などの要因が掲載されている。つまり、十代の労働者自身と直接関係のない原因ばかりである。ミアラ氏によれば、EDCが十代の特性のほうを強調しない理由は「子どもたちを責めることにつながるからだ」。安全な職場を作り出しトレーニングや監督を行うことは、むしろ雇用主の責務としている。「そうなれば若者の方でも、どうやれば安全に仕事をすることができるか分かってくるはず。若者たちに、安全確保について役割がないということではない」とミアラ氏は述べた。
さらにミアラ氏は、「十代労働者の安全のためのトレーニングに時間や労力を注ぐことが、将来利益を生むことになる」とさえ言う。同氏は、「大人が仕事で人生の中の長い時間を過ごすのだから、危険要因を見極める力、危険要因があることが認識する力、危険を防ぐ対策を模索する力を得ることが、きわめて大事なスキルになる。しかもこれは、必ずしも学校で教わるものでも、仕事のついでに学べることでもない。若者のためにこのような事項を重要視することは、つまり、今より優秀な未来の労働力を育てているのと同じことだ」と述べる。
雇用主が十代労働者に手を差し伸べ、安全に保つためのステップをいくつかあげてみることにしよう。
トレーニング
OSHAのハンデルマン氏は、「年齢にふさわしい訓練教材を確保するべきである」と語っている。デザイン、色、内容で違いが出る。「若者の集中力持続時間は短い。色やデザインの違いによって、若者の反応も違ってくる」そうだ。ハンデルマン氏は、OSHA制作の十代労働者を表現したポスターを例にとり、同庁が十代にアピールするような色彩を用いた点を指摘した。「大人としての自分にアピールするものという発想を捨てさり、そんなものでは十代の若者は全く違うように受取るのではないかと考えることが第一歩だ」と同氏は語っている。
ミアラ氏は、実際にトレーニングを行う段になったら、実践参加型のアプローチをとり、相互交流のあるプレゼンテーションを行うよう、トレーナーたちに提言する。同氏は、「反復練習をたくさん行う必要がある。若者にトレーニングを行い、それから若者が課題に取り組むところを観察し、適切にやっているかどうかを確認する。その次に、また基本に立ち返ること。一度しゃべったからといって、分かってもらえたと思い込んではならない」と説明する。
また第一線の仕事の監督者には、必ず適切な訓練を受けた人、児童労働法を理解し、十代労働者の訓練法を心得ている人を置くことが重要だ。ミアラ氏によると、このことが特に重要となるのは、監督者自身が青年期を脱したばかりの年齢の場合だという。ファーストフードレストランや食料雑貨品店など、十代の典型的な職場によくあるケースだ。
関連記事
職場における十代労働者についての関連記事については、全米安全評議会図書館にお申し込みください。Tel: (630)775-2199)
Kidd, P., Reed, D. et al. “Transtheoretical Model of Change in Adolescents: Implications for Injury Prevention.” Journal of Safety Research, Vol. 34, No. 3: page 281-288 (2003).
Mardis, A.L., Pratt, S.G. “Nonfatal Injuries to Young Workers in the Retail Trades and Services Industries in 1998.” Journal of Occupational and Environmental Medicine, Vol. 45, No. 3: page 316-323 (March 2003).
Miara, C., Gallagher, S. et al. “Developing an Effective Tool for Teaching Teens About Workplace Safety.” American Journal of Health Education, Vol. 34, No. 5: page S30-S34 (September/October Supplement 2003).
Suruda, A., Philips, P. et al. “Fatal Injuries to Teenage Construction Workers in the U.S.” American Journal of Industrial Medicine, Vol. 44, No. 5: page 510-514 (November 2003)
子どもたちの「安全」に重点をおくことは、未来の優秀な労働力を生み出していることにほかならない。
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--- クリスティン・ミアラ
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ラベル
18歳未満の従業員に使用が禁じられている器具には、はっきりとそのラベル表示をする。ミアラ氏は、フォークリフトであれミート・スライサーであれ、「18歳未満は操作禁止」というステッカーを物理的に貼り付けることを推奨している。
また、大型食品店チェーンを例にあげ、従業員の“ラベル表示”に効果があることを指摘している。ミアラ氏は、「この店では、18歳未満の従業員はバッジの色を変えることにした。そうすれば、その従業員が18歳未満であること、ペーパー・ベイラー(スクラップペーパーの圧縮機)やミート・スライサーの操作をさせるべきでないことを、業務監督者がはっきりと認識するようになる」と語った。
関与すること
十代の従業員には、親身になった助言者の役目も果たせるような年長の経験者をつける。ミアラ氏によると、「狙いは、十代の従業員が質問しづらいという悩みや、自分の権利を知りたいという要求の解決にある。訓練を受けた年長者と組み合わせるのは、十代の従業員を徐々に仕事に慣らす方法として、なかなか良い」という。
もう一つの戦略としては、十代の従業員を会社の安全衛生委員会に参加させることだ。ミアラ氏は、「若者を安全対策に組み込むための一法だ」と語る。
思い込み
体の大きさや体格だけをたよりに、若い従業員のできる仕事を決めつけてはいけない。たとえば体格だけを見て、若者が重いものを持ち上げさせられたり、はしごを昇らされたりするようなことが多い。
ところがハンデルマン氏は、「十分大人のように見えるからといって、本当に大人なのではない」と警鐘を鳴らす。同氏は、「こうした若い従業員の中には、体だけ成熟して心や社会性が未成熟な者もいる。そういう者には経験や判断力が不足しているので、リスク・アセスメント(危険性評価)の判断ができない可能性がある」と言う。
雇用主は、その逆のケースにも留意しなくてはならない。つまりミアラ氏によると、業務をやり遂げる肉体的な強靭さや体格を持ち合わせない十代の従業員に、かえって仕事を頼む場合があるという。これも、十代が大人に異を唱えづらいことや、辞退を表現しづらいという問題に戻る問題だ。仕事をあてがわれれば、若者は、やってみたくなってしまうものだから。
ハンデルマン氏は、「こうした状況を回避するには、雇用主は、十代の若者にも一般の新人の正規従業員に接するように接し、目標を定めた具体的なトレーニングを施すことだ。(雇い主は)特別な注意を払って十代の若者を支援し、危険を識別できるよう、自分の身を守る情報を見つけられるよう、仕向けることが必要だ」と提言している。
管理
勤務シフトを組む。クリスピー・クリーム・ドーナッツ社では、十代の従業員のために、極めて綿密な時間割を作っている。ロスカーナ氏によると、「十代の若者は大変熱心で、仕事をうまくやりとげようとする。時には熱心なあまり、能力以上のことや許可できないことまでやろうとする」と言う。また、飽きるのも早い。これらの理由から、同氏によれば「若者は、忙しくしておく必要がある」という。
監督者が常に控えていて、十代からの質問に答えたり、適切な業務の割当てを行っている。ロスカーナ氏は、「十代の従業員には、質問をしなさいとけしかけるようにしている。とにかく、若者には問題解決のオーソリティが必要なのだ」と言う。十代の従業員には、休憩も必ず取るよう働きかけているとのこと。
同社ではこの他、店内での十代の従業員の動きを、できるだけカウンターのみに限定するように務め、「注文に応じる、コーヒーを入れる、レジ業務、掃除」などの業務をさせているという。ロスカーナ氏が強調していたのは、十代の従業員に調理業務を認めていない点だ。十代の従業員がコーヒーを入れることはあるので、会社は店内のコーヒーサービスカウンターのレイアウトを特殊な設計にし、こぼしたり火傷をする可能性を最小限に抑える工夫をしたとのことだ。
関連セッション:全米安全評議会 第93回年次会議&展示会
セッション172:働く十代に手を差し伸べる
9月23日金曜日午後1時〜2時半
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