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NSC発行「Safety + Health」2005年10月号

ニュース


調査報告:健康増進プログラムは、10年間で引き合う

  ワシントン − 労働環境医学ジャーナル(Journal of Occupational and Environmental Medicine, Vol. 47, No. 8)に先日掲載された調査によれば、企業の健康増進プログラムは、従業員の健康リスク要因をわずかでも削減させることができれば、10年のうちには、プログラム費用を回収しうる、あるいは、節約した費用の純益と引き合うようになる。
  コーネル大学衛生・生産性調査研究所(Institute for Health and Productivity Studies, Cornell University)の調査は、ダウ・ケミカル社(在ミシガン州ミッドランド)の衛生・人的生産力(Health and Human Performance: H&HP)イニシアチブを財務分析した。調査チームは、ダウ社の従業員の10年間の健康リスクと保健衛生費用を見積もった。そして、医療費の節約分が、H&HPイニチアチブ自体の費用と引き合うには、当該プログラムの効果はいかほどであるべきか、投資収益率(ROI)のテクニックで算出した。
  ダウ社のH&HPイニシアチブの10年間の費用は、およそ1,540万ドルであった。同期間の保健衛生費用の増加は、およそ1,710万ドルと見積もられた。
  調査チームによれば、損益分岐点は、10大健康リスク要因が年間0.17%減る時点となった。このシナリオだと、H&HPイニシアチブは、10年間で投下した1,540万ドルを回収できると見積もられる。H&HPイニシアチブが、健康リスクを年間1%減らせば、10年間で節約できる費用は4,950万ドルとなり、労働衛生に対する投資1ドルあたり3ドル21セントの利潤が上がると、調査チームは述べた。
  本調査では、労働者の健康増進による生産性の向上は、考慮しなかった。
  調査チームは、健康リスクのわずかな削減ですら、医療費の有意な縮小をもたらすということを企業の意思決定者が理解するのに、投資収益率の予測は役に立つと勧告する。
  健康・生産性管理に関する総合的なビジネス論の一端として、投資収益率の予測手法は、保健衛生を考えるにあたり、費用としてではなく、「人的資本への投資」と捉える「パラダイムシフト(paradigm shift)」を起こしうると、調査チームは述べた。



事実チェック
慢性的な敵意で、病気になることもある

  カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkley)の研究者らによると、慢性的な怒りは、おそらくは、喫煙や飲酒といった悪い習慣を引き起こしたり、ストレス・ホルモンを増やして、免疫性に影響を及ぼすのであろう、免疫システムを弱め、ほかの健康問題を引き起こすことがある。
 

出 所:カリフォルニア大バークレー健康通信(U.C. Berkley Wellness Letter 2005)



OSHA、2005年度特定事業場監督計画を発表

 ワシントン − 労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration: OSHA)は、この8月、2005年度特定事業場監督計画(2005 Site Specific Targeting plan)を発表した。これは、およそ4,400の高いハザードが存在する事業場を対象に、来年実施する総合的な抜き打ち臨検を中心に据えたものである。
  OSHAによれば、2005年度のプログラムは、2003年の傷病件数を収集する目的で、およそ8万人の事業者を対象に調査した2004年度データ・イニシアチブ(Data Initiative)を下敷きにしている。監督計画ではまず、休業、就業制限または配転に至った傷病(いわゆるDART率)を常勤労働者100人あたり12件以上報告してきた、およそ4,400の事業場を取り上げる。



調査報告:業務上の啓蒙で、労働者の健康を増進

  ボストン − ボストンがん研究所(Boston's Cancer Institute)が先日行った調査によると、職場で喫煙を禁じ、運動を奨励する標語を掲げ、集会では健康志向の食事をふるまうと、民族もさまざまな低所得層の労働者に対し、健康的な生活様式への転換を促すようである。
  調査では、職場で啓蒙活動を採用すると、労働者は、運動するようになり、野菜や果物をよく食べ、畜肉を減らすようになったことが判明した。
  本調査は、アメリカ公衆衛生ジャーナル(American Journal of Public Health, Vol. 95, No. 8)に掲載された。



OSHA、聴覚障害のある労働者向けに、会報を公布

 ワシントン − 労働安全衛生庁(OSHA)によれば、聴覚障害のある労働者は、緊急事態への対応や、機械周辺で安全に作業をすること、同僚らとの意思伝達や訓練の際に苦労する。
  これに対応すべく、当局は先日、「聴覚障害のある労働者に配慮した革新的な労働安全(Innovative Workplace Safety Accommodations for Hearing-Impaired Workers)」と題した安全衛生会報を刊行した。この新しい会報は、www.osha.gov/dts/shib/shib072205.htmlで閲覧できる。



調査報告:傷病は、長時間労働と関連

 マサチューセッツ州アマースト(Amherst) − マサチューセッツ大学衛生政策・調査センター(Center for Health Policy and Research, University of Massachusetts)の調査によれば、長時間労働に携わる、または残業する人々は、職種に関係なく、傷病のリスクが高くなる可能性がある。本調査は先日、労働環境医学ジャーナル(Occupational and Environmental Medicine, Vol. 62, No. 9)に発表された。
  日常的に残業している労働者は、高血圧、心臓疾患、うつ、糖尿病など、さまざまな疾病のリスクが高まる可能性があると、調査チームは述べた。

「ニュース」欄は、オードリー・アームズ編集次長(Audrie Armes, associate editor)が担当した。



ジョンソン・アンド・ジョンソン社、第2回キャンベル賞を受賞

世界的に有名なメーカー、ジョンソン・アンド・ジョンソン社(Johnson & Johnson)は、9月21日、全米安全評議会(National Safety Council: NSC)のオーランド市(Orlando)での第93回年次会議&展示会(93rd Annual Congress & Expo)で、安全衛生・環境管理を通じた事業の卓越性を認められ、第2回ロバート・W・キャンベル賞(Robert W. Campbell Award)を受賞した。キャンベル賞は、NSCやエクソン・モービル社(Exxon Mobil Corp.)をはじめとする世界各国の協賛者ネットワークが後援している。
  同社(本社:ニュージャージー州ニュー・ブランズウィック)は、受賞候補の10社のひとつであった。候補各社は、事業、教育、安全衛生、環境分野の専門家で構成する委員会で審査された。審査員らは、世界各国の官学労使の出身である。この国際的な委員会は、徹底した評価作業と実地見学を実施して、次の項目で最高の評価を得た企業を、最終選考に絞り込んだ。

  • 安全衛生・環境管理システムの集大成と、その実践面、事業の生産性における好結果を立証する。
  • 安全衛生・環境管理での最低5年間の持続的な向上あるいは第1級の達成ぶりを、計量化する。
  • 最低でも5年間連続の収益性や、投資格付けがある場合はこれも含めて、収益性と健全な財務管理を維持する。

「法令遵守を超える(beyond compliance)」戦略を掲げて、賞を勝ち得たジョンソン・アンド・ジョンソン社の安全衛生・環境活動には、設計の初期段階から安全を組み込む「設計段階からの安全(Safety Through Design)」、従業員のための衛生健康プログラム、「2005年度みんなの健康 (Healthy People 2005)」、環境要素の変遷を早くから評価する「環境にやさしい設計(Design for Environment)」や、職場や家庭での手の安全と墜落・転落防止をめざす啓蒙プログラム「人命優先の安全決定(Safe Decision for Life)」といったイニシアチブも含まれている。
  これらの活動は、ジョンソン・アンド・ジョンソン社の技術資源・法令遵守グループ(Technical Resources & Compliance Group)が組織して、消費者や、製薬、医療機器、診断市場向けの保健衛生製品を製造する57ヶ国200の事業場を支えている。同グループの指示のもと、ジョンソン・アンド・ジョンソン社はまた、安全衛生・環境法令の遵守、法定義務を超える活動や、リスク低減を徹底する「経営陣の認識および行動評価システム(Management Awareness and Action Review System)を実施した。1998年に開発されたこのシステムは、各事業場に対し、目標達成度の評価ツールを示し、持続的な改善を推進している。
  ジョンソン・アンド・ジョンソン社は、労働安全衛生への取り組みにとどまらず、子供を自転車やオートバイ事故から守ろうとアジア・太平洋地域で開発された安全活動、「子供にヘルメットを(Helmets for Kids)」といったプログラムなど、地域社会や団体に援助の手を差し伸べる意欲を示した。同社はまた、労働安全衛生庁(OSHA)と3年間のパートナーシップを結び、社内のエルゴノミクス・プログラムについて、実地で体得した知識を当局に提供する。
  これらの活動は、安全衛生・環境面でのその他多数の実績とも併せて、2004年以来、200万ドル以上もの節約・費用回避を同社にもたらした。
  「安全衛生・環境管理における偉業を表彰する2005年度ロバート・W・キャンベル賞は、ジョンソン・アンド・ジョンソン社が受賞されたことを発表します」と、NSCのキャンベル賞の責任者であるメイリ・リン調査・統計サービス担当常務理事(Mei-li Lin, executive director of research and statistical services)は述べた。「キャンベル賞理事会は、国際審査委員会の報告や、理事会による徹底した実地評価や議論をもとに、ジョンソン・アンド・ジョンソン社を選びました。この栄誉は、労働安全衛生に対する同社の深い思い入れを映すものです」。
  ロバート・W・キャンベル賞は、NSCで運営している。同賞には、エクソン・モービル社が、傘下の慈善基金を通じて、資金を拠出している。同基金は、教育や衛生・環境に力点をおいて選んだテーマでの調査やその普及を支援している。ロバート・W・キャンベル賞への応募は、毎年4月に締め切る。受賞者は、9月に発表される。キャンベル賞の詳細は、www.campbellaward.org を参照されたい。

マーキサン・ネイソー編集次長からのお知らせ:2005年度のロバート・W・キャンベル賞を受賞したジョンソン・アンド・ジョンソン社については、詳細を本誌11月号に掲載します。