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職業性皮膚炎に関する保健実践活動

資料出所:ROSPA発行「OS&H」|2000年2月号 p.39-41
(訳 国際安全衛生センター)

職業性皮膚炎について好んで考えたいと思う人はいない。そして、こうした態度は、労働衛生専門家が労働者の皮膚炎を根絶しようとする際の大きな障害のひとつとなっている。エリザベス・ゲイツが美容業から沖合作業に至る多種多様な産業において、こうした労働衛生専門家を妨げるような状況を防止するために何をなし得るか、また何をなすべきかを検討する。

業務関連皮膚炎には、他の皮膚病と同様に、事実とはほとんど無縁なタブーや偏見がつきまとっている。事実は、就業中にある感作性物質が皮膚に触れると、職業性皮膚炎になる場合があるということにすぎない。多くの場合、手や前腕が接触個所となる可能性が最も高いことから、これらの部位が皮膚炎に冒される。しかし、粉じん、液体、ヒュームが顔や首など、皮膚の他の接触個所に感作性物質を運ぶ場合がある。また、感作性物質に汚染された衣服が胸などの身体の他の部位に運ぶ場合もある。


事例研究1

ドーン・ミッチェルはかつて20代初めに美容師だった。彼女は1996年、HSEの情報ビデオ「性急な決断」のためのインタビューで、新しい仕事に就いた数ヵ月後、指の間に現れた発赤に対して当初いかに無関心であったかを振り返る。しかし、それがやがて指から前腕、頭、肩、そして最後には全身にまで広がっていった。彼女は他人がいつも彼女のことを見つめていると感じていたので、もうきれいな半袖の洋服など着ることができないと述べている。

ビデオが先へ進むと、ドーンはこの疾患が最後にはとても痛みを伴うものとなったので、ボーイフレンドに食べ物を切り刻んでもらい、食べさせてもらう必要があったと説明する。彼女は仕事をやめなければならなかった。彼女の生活に対する影響が甚大なものであったことは明らかだ。ビデオ撮影後、インタビューが終わると、彼女は泣き崩れた。


事例研究2

チェシャー州議会環境衛生担当官のロジャー・ウェストネッジは、美容院を視察する。彼はドーン・ミッチェルのような若い女性が毛染め薬やパーマネントウェーブ溶液や漂白液を使用する場合、手袋を使うことになろうと言っている。「でも、彼女たちはシャンプーする場合に手袋をはめようとしない。彼女たちは、『お客様のためにお湯の温度を手で確かめる必要があるし、手袋をしていては、お客様の頭をちゃんとマッサージできないの』と言う。こうしたことが問題となるのだが、それは他の方法でも解決できる。しかし、使用者の中には、これが従業員のほんの一部に影響を与えているだけで、心配するほど深刻なものではないという態度を取っているところがある。これらの使用者がこう考えているのは、若い女性たちが訴訟せず、転職するだけだからだ」

チェスターのチームは、美容院のオーナーを訴追したりしない。彼らは事態がそこまでいかないうちに、オーナーを教育し、こうした態度を取ることをやめさせてきた。「私たちは美容院のオーナーに安全衛生に関する情報パッケージを提供しており、そこにはこの業界向けに特別に作成した助言シートが含まれています。少し前にこの活動を徹底した後、実際に彼らがどうしているかふたたび見に行くと、大多数のオーナーが私たちの助言を受け入れていることが分かりました。これで、改善通知や訴追といったことをやらずに済みました」


囲み記事1:リスクの評価(チェスター市議会EHD助言シートに基づいて)

  • 職場で誰かが皮膚炎になる可能性はどのくらいか?
  • 従業員は感作性物質を常時使用しているのか、たびたび使用しているのか、または偶然それに接触するにすぎないのか?
  • 従業員は感作性物質を飛散させる可能性のあるやり方で混合しているのか(この場合、眼もリスクの対象になる場合がある)?
  • 従業員は飲食の準備――お客様のためにコーヒーを入れるなど――に携わっているか? この場合、リスクには食器洗いが含まれる。
  • 従業員はステンレススチール製の流しと化学洗浄剤を使用した場合のような、激しい反応に接触する機会があるか?
  • 職場の換気はどのように行なわれているか? 蒸気、エアゾル、粉じん(粉末を使用した準備作業から発生するもの)は常に換気されているか?


事例研究3:職業性皮膚炎の効果的管理

ある石油掘削請負業者は、従業員から、身体の接触部分だけでなく、特に首や肩の周辺の皮膚の炎症について苦情を受けた。当初、最近導入された「油性泥(OBM)」――泥ではなく、むしろ化学物質(一部は腐食性物質として知られている)を混合したもの――が疑わしいとされた。しかし、掘削に従事しない従業員からも苦情が発生した。これを契機にさらに調査が行なわれ、従業員の作業服からOBMを取り除くために使用されている洗剤が問題の原因であることが分かった。

問題のもとを交換した。OBMに汚染された作業服をより適切に区別する手順が導入された。この結果、皮膚の炎症が減少した。


事例研究4:石油産業の皮膚炎リスク管理

アモコ社東部海溝地区プラットフォーム(訳注:海底油田、ガス田の掘削装置が設けられている構造物)に勤務する労働衛生看護師(OHN)のローナ・ミリガンは1994年以来、業務関連皮膚炎の事例を1件も目にしておらず、さらに彼女の語ったところでは、それはBP社のプラットフォーム上でのことではなかった。ミリガン看護師は皮膚炎リスク管理システムを開発し、それが現在、BP Amoco社のすべてプラットフォームと掘削装置の上で採用されている。彼女が開発の経緯を説明している。

「ポスターを貼り、パンフレットを若干置いておくだけでは効果がありません。1995年にハーディング・プラットフォームが設置された時、まったく新しいプラットフォームで、さかんに掘削作業が行なわれており、私は皮膚炎に対処するための最善の方法を確立するように予算が与えられました。私はリスク評価をしたことがあったので、多種多様な要求事項がどのようなものであるか分かっていました」

「例えば、掘削担当者は私が看護師として必要とするものよりもはるかに強力な洗浄剤を必要とするようになります。しかし、1日のうちに手を洗う回数が異常に多いことから、ともに何らかのコンディショナーが必要になります。手を何度も洗うことで、皮膚から自然の油分が奪われるので(脱脂作用)、これについて何か処置をしないと、皮膚炎を発症しかねません」

「そこで、私は緊急予防措置として、ストックハウゼン社のスキンケア製品群――バリヤー、クレンジング、リコンディショニング・クリーム――を使用することにしました。現在、BP社の全据付設備上のすべての共用部分には、これらの製品が在庫に備え付けられ、定期的に補充されるとともに目立つところに置かれています」

こうした措置は、衛生監視スキームや教育プログラムにより、しっかりと支えられている。

ローナは続けて言う。「COSHH規則では、私たちが衛生監視作業を定期的に実施することを義務づけています。職務により頻度が決まり、例えば、塗装工には6ヵ月毎に面談することになります。ある職務に初めて応募してきた際に実際に応募者を選考することになりますが、もっとも、医療スタッフにとっては見れば明らかなことなので、皮膚炎について尋ねる必要はありません。手の皮膚上の変化、すなわち赤みを見てとることができるのです。私たちは患者が自分の手を洗浄剤にさらに晒すことにより悪化させることを望んではいません。また、一度皮膚炎に罹ると、今のような状況では雇用リスクともなります」

「こうしたシステムで非常に重要な部分が教育です。石油業界で働く人々は、皮膚炎について悩んでいます。彼らは皮膚炎に罹ると、職を失うことになりかねないということが分かっているのです。彼らは情報を求めています。ただし、微妙にバランスを取らなければなりません。彼らに命令することもできませんが、あまり妥協的な態度でもいけません。気軽に考え、彼らのところへ出掛けて行って話しかけることにしています。私は医療関係者が扉を閉め、部屋に座ったままでいるのを見てきましたが、私は診療室の扉を開放しています。内密の話をしたいということで扉を閉じることを望む人があれば、部屋に入った後で扉を閉めてもらいます」

「また、私たちは年に一度、情報提供ビデオを上映します。従業員が15分の時間を割いて見に来てくれた場合、見返りに無料のサンプルを提供しています。彼らはこれらのサンプルを自宅に持ち帰り、奥さんと話し合いをすることさえあります。彼らには美容師と結婚している人が多く、同じ心配を抱えています。この教育プログラムは問題を明るみに出してくれます。そして、その結果として、沖合いで働く比較的気の荒い人々でも、モイスチャライザーをつけることを嫌がらなくなります」


この記事の出典「OS&H」は国際安全衛生センターの図書館が閉鎖となりましたのでご覧いただけません。