このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

ヒューマンファクター

資料出所:「OS&H」|2000年11月号 p.12
(訳 国際安全衛生センター)


消費者製品や職場で使用する製品の事故では、人為的ミスによるものが大きな割合を占めている。この意味で、HSEが実施した調査は、あらゆる種類の製品の設計、製造、販売、供給、使用、保守にかかわる読者にとって有益である。

HSEの調査によると、職場の事故、小事故に占めるヒューマンファクターは、最大80%に達する。これは保守の際のミスが増え、その他のミスが減ったことによる結果と思われる。

読者は、事故の大半は当事者の不注意が原因とする従前の理論を、HSEが復活させようとしていると疑うかもしれない。または、因果関係の連鎖のどこかに人間の不注意や能力不足が介在しているとの現実を、安全衛生当局が産業界に認識させようとしているのではと考えるかもしれない。

一例として、ネジの緩みが原因でスポーツセンターのシャワーの加熱装置が爆発し、二人の労働者と多数の一般人が死亡した保守にまつわる事故をみてみよう。この事故は、信じられないことにプールからあがった利用者がシャワーの栓を回しただけで起きた。この事故の因果関係では、あらゆる場面にヒューマンファクターが介在しうる。たとえば次のような可能性が指摘できる。

  • 保守要員が不注意または能力不足だったため、ネジを十分に締めつけず、または締めるつもりで逆に緩めた可能性。
  • 研修指導者または技術責任者が不注意または能力不足だったため、保守要員が十分な背景知識をもっていると信じ込んだか、またはネジの重要性を強調しなかった可能性。
  • 保守要員直属のせっかちな上司が不注意または能力不足だったため、ネジは十分に締められており、これ以上締めつけるのは時間の無駄だと指示した可能性。
  • 経営幹部が不注意または能力不足だったため、「JIT」の原則を予防的な保守プログラムに適用してしまい、よくある「JTL」のシナリオどおりになった可能性。
  • 認証担当者が不注意または能力不足だったため、設計と製造上の欠陥から本来、安全でない部品を、安全と認定した可能性。
  • 設備の据付担当者が不注意または能力不足だったため、据付の際にネジを間違った方向に挿入した結果、保守要員からその頭部が見えず、作業できなかった可能性。
  • 工場の技術者が不注意または能力不足だったため、組立後の外見を考慮して、ネジの頭部が見えない仕様にした可能性。
  • 設計者が不注意または能力不足だったため、2本以上のネジで支えるべき部分を1本のネジにする仕様にした可能性。

以上のヒューマンファクターはすべて、個人が作業中に犯すミスの典型例である。保守業務、保守業務の監督、保守要員の研修、保守マニュアルの作成、保守システムや手続きの決定、安全認証のための据付の監督、設備の据付、設備据付の仕様作成、設備部品の設計など、業務内容はさまざまだが、すべて個人の作業にまつわる側面である。読者は、これらすべての作業が労働安全衛生法の規定の対象になっていることを知るだろう。労働安全衛生法の主たる目的は、個人の作業による、またはこれと関連して生じるリスクから、労働者と一般の人々を保護することにある。

研修担当者、設計者、または取締役によるものを問わず、HSEが人為的ミスの問題に積極的に取り組んでいることはふまえておくべきだろう。そのためにヒューマンファクターに関する独自のガイダンスを作成し、専門知識を蓄え、これを監督と指導業務に直接に適用していく。しかし、HSEの担当者が研修段階でのヒューマンファクターしか評価できない状態は、今後も続くのだろうか。

また、労働の現場(学校、鉄道、水泳プール、店舗など)で、消費者(生徒、乗客、スイマー、顧客など)が使用する製品は、労働安全衛生法第6条と消費者製品安全規則の両方が適用されることも、読者は知っておくべきだろう。