このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

職場における衛生:アレルギー

資料出所:RoSPA発行「OS&H」|2001年5月号 p.39〜42
(訳 国際安全衛生センター)



人々はアレルギーを軽視する傾向がある。だがエリザベス・ゲイツの調査では、アナフラキシー・ショックの日常的な恐怖が、アレルギー患者に忍び寄っている。そうした人々は職場や家庭で普通に見られる物質のあらゆる形態に過敏になっている。アレルギーの問題はエスカレートし、われわれの4人に1人は生活のどこかでアレルギーになる可能性がある。

ヘレン・サットンはアレルギーの悩みがどんなに人生をみじめにするか、よく知っている。「ラテックス(ゴム類)に過敏になってから、いつも細かい注意が必要でした。子どもを友達の誕生日パーティに連れて行くこともできません。ゴム風船がいけないのです。公共の場所では天然のゴム製品を避けるのはとても難しいことです」

毎日が選択を迫られる日々だった。サットンさんは市販の安い粘着テープも、反応を引き起こすので使えない。封筒は糊がついていない種類のものに限られ、ゴム製のコンドームもいけない。

「どんな問題を抱えていても、私たちは生活をそれに適応させる必要があります。ゴムを含んだものにちょっと触れるだけで危険なのです。もしペニシリン・アレルギーであっても、スーパーに行って買おうとする食品の周囲に、ペニシリンを見かけることはないでしょう。しかしアイスクリームを一口なめただけで、舌が腫れ、唇には水ぶくれができる始末です。それが何時間も続きます」とサットンさんは説明する。

アイスクリームや菓子類には、熱による密封ができない場合があるため、少量の糊が使われている。それが包装紙から洩れてアイスクリームに入っていることがある。「それだけのことですが、困るのはどれほど悪くなるのか、分からないことです」とサットンさんは言う。

アナフラキシー・ショックはアレルギー反応の極端な形で、生命への危険を伴うことも多い。一見無害に見える物質に接触しただけで、身体の免疫系統の働きで過剰なヒスタミンが体内に放出される。そのために筋肉が収縮し、腫れが起こり、しかも喉にそれが発生するために呼吸困難に陥る可能性がある。腹痛、おう吐、下痢などの症状も起きる。それを引き起こす抗体の免疫グロブリンEは血管を拡張し、血圧を低下させ、そのために気が遠くなったり、気を失ったりする。

医師は彼女がアナフラキシー・ショックを起こした時の用心に、アドレナリン・ホルモンを携帯するように勧めた。アドレナリンは心臓の鼓動を早め、肺への気管を拡張し、免疫グロビンによる血管の拡張を止める作用を持つ、いわば「打っては退く」タイプのホルモンである。

サットンさんは「私は看護師なのでいつも注射器を持って歩きます。夫も外科教室の看護人、友人も医療関係者が多いので、注射器を使うことに問題はありません。しかし、子供が産まれ、友人の範囲が広がってくると、人々は私が自分自身に注射するのを見ると驚くかもしれません。しかし私はハンドバッグにいつも自動注射器を入れています。なにしろ数秒を争うのですから。通りがかりの人に頼めるわけがありません。普通の救急法の経験を持つ人でもどうでしょうか。アナフラキシー・ショックとはどんなものか、理解している人も少ないかもしれません」と言う。

アレルギーの問題はエスカレートしている。遺伝学的な問題が環境問題と重なって、アレルギーは増え続けている。現在、われわれのうちの4人に1人が日常的に接触する物質に過敏に反応する危険性を抱えている。

毎年、ミツバチやスズメバチに刺されたため、アナフラキシー・ショックを起こして死ぬ人が4人から6人いる。200人から250人が食品関連のアナフラキシー・ショックを起こし、中には死亡するケースもある。アレルギー反応の種類も鼻水、吹き出物から年間1600人に達する喘息による死者まで、さまざまである。

アレルギー患者にとって危険な物質は予想もしない場所に潜んでいる。たとえば、1998年にペニシリンに対するアレルギーで、63歳のエイリーン・オリバーさんが死んだ。ロンドンのセントトーマス病院で、薬のオーグメンティンを誤って処方されたためであった。この薬にはペニシリンが含まれているが、明示されていなかった。

2000年には、ダンディー州裁判所でコリン・スレイン(28歳)が前妻のヒザー・ブラウンさん(33歳)に暴行を加えた罪で有罪となった。ブラウンさんは香水や食品添加物の一部にアレルギーを持ち、1995年に発症してから10回もアナフラキシー・ショックの発作を経験していた。スレインは彼女のアレルギーを知りながら、シャンプーを彼女の家のドア取っ手に塗りつけたことが、暴行に当たると判事は判断したのである。

2001年にはバーミンガム在住の、3人の子どもの母であるナリンダ・デビさん(38歳)が毛染め剤でアナフラキシー反応と心臓ショックを起こして死亡した。

英国の職場では、ホコリダニ、花粉、カビ、動物の毛、ラテックス、化学品などがさまざまな形のアレルギーを引き起こしている。たとえば、ロンドンの地下鉄のある運転手が、地下鉄電車の暖かい環境で繁殖したネコのノミに咬まれ、アレルギー反応を起こしたとして、500ポンドの補償金を得た。経営者も最初は信じられない様子だった。しかし他の運転手も非衛生的な条件を実証するためにネコ狩りをやってそのノミを調べ、同じような請求を行っている。

2000年9月に発行された雑誌「環境科学技術(Environmental Science and Technology)」のある研究では、ある種類の有機燐酸エステルから作られた難燃剤が、コンピュータの外箱のプラスチックに含まれていることを明らかにした。新しいディスプレイが熱を帯びると、この化学物質が煙を出し、アレルギーを引き起こすのである。この物質に触れると、皮膚炎を起こすことが分かっている。

全米喘息防止運動協会のパンフレット「労働と喘息(Asthma at work)」の中で、ヘレン・サットンは看護師としてラテックスに過敏になっていった過程をこう振り返っている。「私は病棟にいる時、息が苦しくなり、帰宅すると呼吸が楽になりました。ある日、衣服を着替えていて、いつものようにパウダーを振ったゴム手袋をつけていると、手や上腕に炎症を起こしているのに気づきました。皮膚科に行って見てもらうと、ゴムに対するアレルギーだと言われたのです。発疹ができ、呼吸が苦しくなったのはそのためだったのです」

サットンさんは後になって、喘息の傾向を持っていたと語っている。「私は女性で、看護師であり、アトピー性でもあったので、花粉症や湿疹のようなアレルギー反応を起こしやすく、実際にとても苦しみました」と言う。

彼女は1982年からクローリーのNHS病院労働衛生部に勤務したが、労働衛生部でもアレルギーについて十分な知識を持っていなかった、と彼女は言う。「以前はラテックスにこんな反応を起こしたことはなかったので、息苦しさや皮膚の反応がアレルギーと関連があるとは容易に分からなかったのです」

1983年から訓練が始まり、その後10年にわたってラテックス製品を使ったが、彼女がアレルギー反応を起こすようになった原因は、いったい何であったのか。「恐らく、ラテックスの手袋をいつも使用するようになり、接触の機会が増えたからだと思います」と彼女は指摘する。

アレルギーに関する条件は国の経済においても、処理と対応に多くのコストがかかっている。事業者は病気欠勤に悩み、再訓練の費用や、場合によっては補償費もかさむ。喘息だけでも英国は年間10億ポンドのコストを負担している。アレルギー物質から労働者を保護するのは事業者の法的な義務でもある。

職業的アレルギーの専門家、サザンプトン大学医学部のトニー・フリュー博士はこう説明する。「身体が異物を認識すると、その中のタンパク質と戦うために抗体を作ります。ある期間にわたって高いレベルの接触が続くと、それが過敏症の原因になるのです」

人によっては遺伝的な傾向を持ち、そのために特定の物質に対して過敏になることがある。すべての要素が正しくなければならない。遺伝的な傾向を持つ一卵性双生児が二人とも喘息を起こすとは限らない。「たとえばイソシアン酸塩の場合、遺伝子が果たす役割は小さく、接触した人はみなアレルギーを起こします」とフリュー博士は言う。

職業生活の場合には、アレルギーを持っている人は危険な職種を避けることができる。しかし博士は「もっともそれで困ることもある。たとえば、動物に関連する仕事をしたいと思う女性が馬に対してアレルギーを持っていたら、その仕事はできませんからね」と言う。

問題が自然に解決されてしまうこともある。「たとえば、ランカシャーの紡績工場の労働者は木綿にかこまれて働いていたのですが、紡績産業の低落によって、アレルギーの発生が減ってしまった、といったこともあります」

雇用前の健康診断がアレルギーの可能性を持つ人々の発見に果たす役割はよく知られている、とフリュー博士は認める。しかし労働衛生に従事する者が雇用前の健康診断を「求職者の過敏症にかかる可能性を見分ける」ために使うことは許されないと、博士は指摘する。「たとえば喘息の傾向を持つ人を雇用しないように、事業者に勧告するべきではない。そうすると、人口の30%は除外され、それは差別につながる」

「パン焼き職人や塗装工などの雇用前健康診断の目的は、呼吸器に障害を持っているかどうかを見ることにある。しかし問題を持っている人でも、個人用の保護具を使えばよい。もちろん、器具は使用に耐えるもので、定期的に検査、点検しなければならない」

フリュー博士は、個人用保護具は面倒なものではあるが、「使い方が適正であれば、ほとんどの製品が十分に機能する」と言う。

個人用保護具、その選択、維持、使い方などについて、金属加工、プラスチック、下水、染色、印刷、農業、建設など、多くの産業のために、HSEが事業者や従業員に対するアドバイスをだしている。コーティング・パウダーなどの物質、またはハンダづけのヒュームなどのガス状物質については、特別のパンフレットがある。個人用保護具を選定する場合の相談と労働者の訓練も繰り返し提案している。

ヘレン・サットンの場合、病院は保護手袋に代えて無殺菌法を使用するというOHDの要件を受け入れた。彼女の労働環境は変わり、同僚たちも代替的な個人用保護具を使用できるようになった。彼女はこう説明する。「最初は非常に心配していましたが、正しい情報が与えられてから、気持ちが正常に戻りました。知識は力を与えてくれます。自分で行動し、もう安全だと思えるようになったのです。自分がどの物質に反応するかが分かっているので、自信をもって仕事に集中できます。病院でウィリアム、ベリティと2人の子どもを生みましたし、大きな問題はありませんでした」

病院での既存の保護方法も十分に役に立つ。「幸いなことに、私は率直な人間で必要なことははっきり言います。病院で自分のシフト時間中に使うゴム製ではない手袋が足りないと思えば、それを要求します。生き残るための戦術です」

OHDの健康監視についても、彼女は雇用前の健康診断または日常的な職場での点検に同意し、「もしアレルギーを起こす可能性がある状況だったら、それについてアドバイスを受けるのは非常に有益です。早めの診断は発作を防ぐことができます」と言う。

HSEではアレルギーのリスクについて多くの出版物で情報を提供している。たとえば、金属加工に使用する液体についてのパンフレットでは、子どもの時に湿疹を患ったことのある労働者は、金属加工用液体の化学的成分または混入物質に接触すると、接触皮膚炎を起こす率が高いと強調している。液体の霧は喘息を起こす危険がある。

1995年負傷・疾病・危険事態報告規則(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrences Regulations 1995 : RIDDOR)では、こうした病気はいずれも報告が義務づけられている。1999年有害物質管理規則(Control of Substances Hazardous to Health : COSHH)、1999年労働安全衛生管理規則(Management of Health Safety At Work Regulations 1999)では、リスクを評価し、それを除去または軽減する措置を取ることを求めている。事業者はさらに必要な個人用保護具を提供し、金属加工のような場合には、汚れた作業衣の洗濯代を出すことも規定されている。

しかし、労災補償の請求において実際に争われる問題は、労働が障害の原因であったかどうか、という点である。フリュー博士はこう説明する。「悪化させたというだけではなく、原因になったかどうか、が問題になる。もし誰かが就労したその日に発作を起こした場合には、それは以前から持っていた問題が原因だった可能性がある。民事裁判の場では、責任を事業者の過失に帰すことができるか否かが問題になる。ほとんどの事業者はあらゆるリスクの軽減に努力するが、事業者がCOSHH規則を守っていなかった場合、裁判所は労働者が過敏症になるまでに原因物質に接触した期間、その程度を調べるだろう」

フリュー博士は「いつものことだが、ポイントはリスクを回避することだ」と言う。過敏症防止運動協会などの圧力団体の声に押されて、大手菓子メーカーのマースは、包装紙に新しい表示をすることにした。「当社は関係企業と協力して、改善されたスケーリング特性を持ち、ラテックス・アレルギーの人々にも問題を起こさない合成原料を研究しています。当社はこの研究を続け、業界各社とこの問題と協議して行きます」というものである。

すべての事業者はアレルギー抗原の制御について、専門家の意見を求めるべきである。フリュー博士は「事業者は、専門家の助言を聞かない限り、職場にどんなアレルギー抗原があるのか、分からないはずだ。分からなければ、推測しかできないし、労災補償の請求と訴訟の波に沈むしかないだろう」と警告している。

職場自体もアレルギー抗原の出所になる可能性がある。国際ビルディング衛生サービス社のビル内の衛生に関するデータベースを使って、研究者のクレア・ビテルは(MSC資格要件の一部として)6年間に183のビルについてのデータを研究した。彼女の研究から次のことが分かった。

  • 最適環境条件に適合するビルは15%しかなかった
  • 半分以上のビルが建物への外気の取り入れが行われていない
  • すべてのろ過システムの3分の1以上が作業にとって不十分か、取り付け方が悪く、埃がたまっていた。
  • 調査したシステムの半分弱(空気取扱設備、凝縮液トレー、ダクトなど)が汚染されていた
  • 健康に最も大きなリスクを与える細菌類による汚染は、調査したビルの約半分弱に及んでいた

HBI社のデービッド・ハンドレイはこう言う。「英国では、専用の換気装置を持たない古いビルがまだ使われている。こうした調査が示すように、メンテナンスが非常に重要になる」。

外気を取り入れる換気装置は、汚染物の蓄積を防止する。微粒子のレベルが高くなると、アレルギー反応が起こりやすくなる。またろ過システムの効率も重要である。換気システムの中に湿気の高い領域があると、「アレルギー抗原、病原体となる可能性の高い、黴が増える」と彼は指摘する。効率的な衛生システムはビルの汚染を防ぐことができる。

フリュー博士はまた、アレルギーという言葉がルーズな形で使用され、そのために裁判所が責任を明確にしようとする際に問題になると懸念している。「アレルギー反応を引き起こしたものが何であれ、反応は身体の免疫反応によって起きる。この定義は厳格に維持する必要がある。医療関係者でさえも、最近はこの辺があいまいになっている」

職場での10の工程が関与している可能性がある場合、専門的な調査が必要になる。HSEは2000年11月に出したパンフレット「COSHH(The Control of Substances Hazardous to Health Regulations)-規則案内」でこう述べている。

「事業者や従業員は職場で起きていることをよく知っている。だが複雑なリスクを評価する専門知識が社内にない場合、専門資格を持つ労働衛生士、安全衛生専門家、組合などの支援を求める必要がある。このような専門家の調査結果を基に、HSEの毎年改訂される職業暴露限界値に規定された、労働暴露水準に合わせて基準を決める。こうした結果の解釈も労働衛生士の専門的知識を必要とする。労働衛生士はまた、実施した規制基準の維持のために継続的な監視を行う。たとえば穀粉などの、自然に発生する呼吸器のアレルギー源のさまざまな比率は定量化が難しいが、それでも暴露に影響を及ぼす。従って、規制基準を監視するプログラムでは、暴露のピークだけでなく、長期的な暴露も測定し、総粉じんのレベルを計算する。HSEがその本「職場での喘息の防止(Preventing asthma at work)」に述べているように、「監視は十分な規制の代わりとなるものではないが、規制を十分に行うためには、監視が必要である」。

フリュー博士はまた、事業者は職場の実状をよく理解し、なにもかも労働衛生サービス企業に任せきりにしないようにすべきだ、と警告している。HSEもそう考えているだろう。

ある会社の46歳の女性従業員は車のドア部品の製造に従事していたが、組み立てラインで働いている間に車のドアハンドルの裏側にゴムシールを接着剤で貼る作業を行った。彼女はそこで喘息を起こした。

HSEによると、会社のマネジャーは十分なCOSHH評価を行っていなかったし、使っていた安全性データシートは古いもので、接着剤を呼吸器のアレルギー源に指定していなかった。女性の作業が喘息の原因になったことを知った会社は非常に驚き、HSEのアドバイスを受けて、会社は接着剤の蒸気を抑制する効果的な方法を導入した。その女性は別の職場に配転され、給与も従来と変わっていない(他の患者たちとは違って)という。

ヘルプライン

  • HSEインフォライン:08701-545500
  • 英国アレルギー財団:0208-303-8525
  • 過敏症防止運動協会:01252-542029
  • 全国喘息防止運動協会:0207-226-2260
  • 公認ビルディング・サービス技術者協会:0208-675-5211
  • 労働衛生研究所:01332-298087



この記事のオリジナル本は国際安全衛生センターの図書館が閉鎖となりましたのでご覧いただけません。