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労働安全衛生に関する情報の公開について
Going public on performance
リュー・ニューエン(イギリス王立災害防止協会労働安全部)

資料出所:The Royal Society for The Prevention of Accidents(RoSPA)発行
「The RoSPA Occupational Safety and Health Journal」 2002年7月号 p.52

(仮訳:国際安全衛生センター)



 イギリス王立災害防止協会(RoSPA)は、企業等がウェブ上に掲載している安全衛生情報について実績(performance)、目標、優良性の観点から分析評価している。この分析評価は安全衛生委員会(HSC)の優先課題である企業実績と目標の評価と報告につながるものである。

 政府とHSCは、安全衛生活動活性化戦略の一環としてトップ企業350社とすべての主要公共部門のを対象に、安全と衛生に関する実績を企業年報のなかで報告するよう要請した。これに呼応して安全衛生庁(HSE)はコンサルティング会社に依頼し、政府とHSCの要請に係わる企業や公共部門の反応を調査させた。

 この調査報告書によると、調査担当者たちは各企業の年報を読み込み、HSCの評価基準に基づき、企業の安全衛生に関する基本方針、実績、目標などの情報を分析した。

 対象となった企業350社中、回答があったのは227社で、安全と衛生に関する情報について記述があったのは半数以下の107社にとどまった。そして、その報告内容にはかなりの差があったが、あらましは以下の通りである。
  • 安全と衛生に関する基本方針---94社が基本方針に関する記述をしていたが、高評価を得たのはわずか11社だった。
  • 安全と衛生に関する実績(傷害者数、災害件数、死亡者数、傷害/災害による休業日数、安全オーディットの詳細な内容、安全と衛生に関する表彰経験の有無の観点から報告)---36社が情報を掲載していたが、高評価を得たのは1社のみだった。
  • 安全と衛生に関する目標---目標に関する記述があったのは14社で、高評価を得たものはいなかった。5社が中程度の評価で、残りの9社は低い評価だった。
 現在までのところ、上場企業に安全衛生情報を企業年報に掲載するよう命じている国は欧州連合には存在しないが、「いずれは情報を掲載することが当たり前になるだろうし、そうするべきだ」と調査担当者たちは結論づけている。

 また、RoSPA発行の『最良の経営をめざして(Towards Best Practice)』(www.rospa.comでアクセス可能)のなかで、企業は安全と衛生に関する主な実績についての情報をウェブ上で公開するべきだと説いている。ウェブ上で公開することにより情報が透明性を増す一方、他の利害関係者に他社の動向を知る機会をもたらし、判断の基準を与える。

 ウェブを利用した報告方式を確立するために、RoSPAは企業のウェブ上にある安全衛生情報の調査をはじめた。調査したウェブアドレスはすべてパブリックドメイン(イントラネットやパスワードでプロテクトがかかったものではない)のものであった。ウェブ・アドレスにアクセスして関連ページを開いた後、前述の調査報告書と同様の方法で安全衛生情報を分析評価した。

 企業のウェブページと安全衛生情報を検索するために、2種類のごく一般的なインターネットの検索方法を利用し、企業名のあとに「安全・衛生」というキーワードを打ち込んで検索してみた。企業のウェブページに検索機能があるような場合はそれも利用した。

 こうして、企業名、詳細な情報、ウェブサイトのURL、安全衛生情報とそれに対する寸評を掲載した新しいデータベースが完成した。さらに、各企業に直接電話をかけ、個別に掘り下げた内容の問い合わせをし、新たに得た情報をデータベースに打ち込めば、さらに充実したデータベースにグレードアップすることができる。

 ここではっきりしてきたのは、ウェブ上の安全衛生情報と企業の年次報告の情報には、いくぶん内容に違いがあるということだ。ウェブによる情報伝達方法は即時的で絶えず変化しつづけ、情報を提供するという同じ目的でも企業の年次報告とは性質が異なる。ウェブは新しい情報を思いのままに載せたり、消したりすることができる。それがウェブの特徴である。調査担当者はそのことに気づいてないのかもしれない。

 一方、ウェブは巨大なネットワークで、リンクのなかには判然としないものもあり、細かく検索しても情報を見つけだすことができない場合もある。もしRoSPAに関連するウェブページを発見することができないなら、ほかの利害関係者も同様に関連情報を捜すのに苦労していることが十分考えられる。

 「企業の安全衛生情報を年次報告書に掲載せよ」という要請に対して批判的な意見がでているのは、企業の年次報告書そのものが財務内容を判断する道具として限定的な価値しかもたないからである。年次報告書を主に見るのは、金融機関や金融を専門とする記者たちで、一般的なメディアに取りあげられることは少ない。また、より多くの人びととの直接的なコミュニケーションを可能にするインターネットは、一般大衆を含めた幅広い利害関係者と企業の対話を推進する強力な武器となる。

 RoSPAの当面の目標は、企業の経営に関する報告書を補足するかたちで現状報告のレポートを作成することである。そして長期的な目標としては、主な民間部門、公的部門、そしてボランティア団体などの組織に、安全と衛生に関する実績を公表する媒体として、ウェブを利用するように働きかけることである。RoSPAのビジョンは、安全と衛生に関する実績を公表する強力なホームページを同協会のサイト上につくり、重要なガイダンスを示したり、アクセスしてきた人を企業のサイト上の安全と衛生に関する関連ページへリンクさせることである。


安全衛生の活性化戦略(The Revitalising Health and Safety strategy)についてはこちらでご覧いただけます。